第213話 アルゴル x 祭り①
そこには深い緑色をした塊が鎮座していた。俺のコアや理力石に似た八面体をしている。透明感はなくクリーミーな色をした緑色と黒っぽい深緑色がマーブル状に細かく入り組んでいる。
魔石… ではないよな?
第一印象では何故かそう思えたが決定的に違うところがある。それは……
「魔力を不思議なほど感じないな・・・ まるでそこだけ空間がぽっかりと抜け落ちているようにも感じる 」
「流石レイン殿だな、一目でそこまで解るか、、、」
「これは一体何なんだろうか? 」
ルシウスは一呼吸置いた後、続く会話を疑問から始めた。
「レイン殿はアルゴルという魔物を存じているだろうか? 」
アルゴル… 魂を喰らうもの?
「いや、知らないな。聞いたことはない 」
「そうであるか。然もありなんと言ったところだな。このトリオス王国やレイゼルト王国に現れた記録はない。帝国や帝国に近い国には記録があるが帝国が情報を秘匿しているとも言われているな。その記録の量は少ない。非常に珍しい魔物と言っていい。吾輩も詳細を知ったのはつい最近だ 」
「つまりこれはそのアルゴルの魔石と言うことか? 」
「いかにも。レイン殿が察したように非常に特殊な魔物だ。魔物と呼んでいいかも解らぬ。むしろ人間も含めて魔物と対極を成す存在と言っていい 」
「対極か・・・確かに通常の魔石であれば魔力がにじみ出てくるような感覚を受けるがこれは逆に魔力が吸い込まれていくようだ・・・ 」
「うむ、、、それも特徴であるがもっとも特徴的でもっとも厄介な性質は別に有る 」
ルシウスはそこで一旦切ると俺の反応をうかがってくる。当てて見ろと言うことかな?
ううむ、、、アルゴル、、、魔力を感じないが魔力と関係する、、、
「、、、こちらの魔力を吸い上げてくるとかか? 」
「ふむ、、、、、、的外れではないが少し遠いかも知れぬな 」
なんとも微妙な解答だったようだ。テレビ番組とかだと芸人とかが一番叩かれるヤツ、、、まあ、ここは学問の世界だ。そこはいい
「アルゴルは魔力構成そのものに干渉して破壊してくる。魔術はおろか身体強化や物性強化まで無効化してくると言う。遭遇することがあればこちらの攻撃は通用しないかもしれん。逆に相手は魔力を普通に使える。その攻撃はすべて致命傷になり得る 」
まじかよ、、、こちらは魔力で対抗出来ないが相手は魔力で普通に攻めてくると言うことか。どうやったら倒せるんだろうな?
、、、ん?
「ここにアルゴルの魔石があるということは倒したということだな。魔力の効かない相手をどうやって倒したんだ? 」
「そこが気になるか、まあ、当然であるな。このアルゴルを仕留めた者は魔力を極限まで武器に込めて対抗したらしい。超高圧の魔力なら分解されずにアルゴルの攻撃に対抗することが出来たという 」
高圧の魔力なら抵抗出来る、、、魔力の圧と密度で防げる、、、ならばアルゴルは特殊な魔力を相手の魔力に浸食させて分解してくると言うことかな? 断定は出来ないが可能性はありそうだ。
「さらに厄介なことにその特性をさらに強化したような攻撃をしかけてくるそうだ。その攻撃を受けると魔力で治癒出来なくなると言う。これを仕留めたのは狩人の討伐隊だったようだが何人もの犠牲者を出し生き残った者も治らない傷を負って引退を余儀なくされたらしい 」
回復不能な攻撃、、、致命傷でなくとも厄介だな、、、ひょっとするとそういうことか?
「魔石に刻まれた情報に対する攻撃と言うことか、、、魔石が記憶を失ったことでその部分を自分の体であると認識出来なくなりそこに魔力を上手く通せなくなると、、、」
「流石レイン殿、吾輩にこの事を伝えてくれたのはウィリアム教授という帝国の学者なのだがその方も同じように考えておられた 」
今度はそれなりに正鵠を射たということかな? しかし、アルゴル自体が非常に珍しいものだと言うからあくまで仮説の域をでないんだろう。確証を得るにはデータ不足であることは否めない。
「このアルゴルの魔石を送ってくれたのがウィリアム教授なのだがそのことがレイン殿に依頼をすることと関係してくる 」
そう言えばそんな話だったな… すっかり忘れていた
「どういうことだろうか? 」
「吾輩にこれを送った数日後に何者かに殺されたのだ 」
「殺された、、、? 」
穏やかな話じゃないな、、、だがそれ以前にこの世界での犯罪というものにピンときていない。レイゼルト王国ではこの手の話は聞いたことがなかった。そもそも犯罪率は驚くほど低い。魔力の感覚で怪しい人物はなんとなくわかってしまうし追い詰められた人も周囲の人間は察知するから誰かしら手を差し伸べる人がいるものだ。
帝国なんてもっとしっかりとしてそうだから殺人なんてホントに起きるのか疑わしくなる程だがルシウスがそう言うならそうなんだろうな、、、
「そのこととこのアルゴルの魔石が何か関係しているのではないかと考えている。実際、ウィリアム教授の手紙には不穏なことが書かれていた。魔石がここにあることをその何者かが知る術はないとは思うのだが警戒するに越したことはないと思っている 」
「、、、何者かが何かを仕掛けてくるとしたら環境調査の時が一番やりやすそうだな。それで俺に依頼をしたいと、、、」
「その通りだ。今は吾輩が不規則に場所を変えて保管している。この学院の警備もなかなかのものだ。そう簡単に手出しはできまい。そして、準備が整えばより厳重な施設に移せる。手続きは既に進めてあるのでそう遠くないうちに実現出来るだろう。あと少し凌げればどうにかなりそうなのだ。引き受けてくれないだろうか? 」
次の日曜日というと三日後か、、、そこまでサーブルにいるつもりはなかったのだがどうしようか? 断ってしまってもいいのだが、、、
まあ、ここまで聞いておいて断るのもよくないか。ずいぶんと貴重な情報を教えてもらった気がする。ファムの父親でもあるしルシウスのことは別に嫌いでもない。
味方を作るんだ・・・ そういったセリアの言葉が頭に浮かんでくる。この出会いも出来るだけ大切にしておこう。
「わかった、引き受けよう。ただ依頼は狩猟ギルドを通して受けることにするからギルドに話を通しておいてくれ 」
「そうか、感謝する。これで安心して調査に行くことが出来る 」
俺達は調査について話し合ってどのように護衛をしていくのかを決めていく。それが終わると学院を後にしてサーブルにある狩猟ギルドにいきルシウスからの依頼が来たら引き受けると伝えておく。ついでに貯金を下ろしてここら辺の魔境や魔物について情報を集める。
特に目を引くものはなかったのでさっさと引き上げるといい時間になったので再び漁港に向けて出発する。これからイルガムロを狩り取った本格的な宴が始まる。どんなものか知らないがなんとなく胸が躍るような感覚がある。
楽しみだ…
漁港の近くにトライクを駐めて昨日と同じ広場に向かっていく。途中で沢山の人間が集まっている気配が感じられる。もう人はすべて揃っているのかも知れない。人数的には漁村の村民全員が集まっているのだろう。船団の関係者だけではないようだ。共同体全体で分かち合う文化があると言うことか、、、
広場に着くと昨日とは異なり本格的に祭りをするような準備がされていた。机や椅子が増設されバーベキュー用のコンロだけじゃなく机の上に様々な調理器具が並ぶ。
広場の奥の方には祭壇のような台が設けられその上にイルガムロの骨格標本が飾られている。他にもささやかながら貝殻とか魔物の鱗で飾り付けがされていて漁村の祭りの雰囲気を醸し出している。
もう祭りは始まっているようで人々は飲んだり食べたり、おしゃべりに花を咲かせている。老若男女いろいろな世代の人達が一堂に会して楽しそうにしているのはこちらに来てからは初めて見る光景だ。
地球の時はどうだっただろう?
祭りというものは有名で大きな祭りぐらいしか行ったことがない。それも数えるほどだ。地方に行けばまだ残っていたのかも知れないが小さな祭りはかなりの数が消えていっているという話だった。
一番記憶に残っていて近しいのはジャックスの競技会場だろうか?
多少年齢層に偏りがあったがいろいろな人が観戦に来て盛り上がっていたように記憶している。ほんの少しだがその時の感覚を思い出せたような気がする。
俺は広場の外で少し固まっていたらしい。後ろから声をかけられて初めて接近に気がつく。
「レイン、なんで突っ立っているんだ? 早く入れよ 」
声をかけてきたのはアニスだった。振り返ってみるとその外見に若干面食らう。バンダナで後ろにまとめたライオンヘアーは今はすべて下ろされて女性的な髪型になっている。服装は南国風のテイストを取り入れたような露出が多めのゆったりしたドレスを着ている。腕や肩は完全に出ていて今の季節だと寒そうに思えるがアニスの魔力ならなんともないのだろう。
「あ、ああ、、、そうだな 」
「あたしが案内してやるよ 」
アニスに腕を取られて連れられていく。胸が、、、胸が当たっている。




