第211話 勝利の宴
港に着くと護岸のところで水揚げが行われる。船員総出で持ち上げて運んでいき倉庫みたいな作業場に持って行かれる。
作業場の光に照らされて床に寝そべるその姿はやはりでかい。横幅は俺の身長よりある。戦っているときも大きさは感じていたが間近で全身をくまなく見られるようになるとその異様さが実感出来る。
全員に見守られながら解体が始まる。一番最初に取り出されるのはもちろん魔石だ。胸の辺りが巨大な包丁で切り開かれると中から大きな魔石が取り出される。
デカい…
俺が今までに見た魔石の中ではレザンを除けば一、二を争う大きさだ。海のの魔物は体も魔石も大きくなる傾向にあるんだろうか?
場内はその大きさと輝きにどよめきが上がり自然とそこかしこから拍手が巻き起こる。このサイズの魔物を仕留めるのはみな初めてなんだろうか? どこか熱に浮かされたような現実味のない感じで眺めている人が多々いる。
狩猟ギルドと繋がりがあるようで取りだした魔石はこの後直ぐギルドに持っていって保管され、後日査定を行うらしい。
魔石が取り出し終わると一部の肉を切り出していく。本格的な解体は明日以降行われるようだが今日これから宴が始まるのでそのために切り出しているのだそう。
これほどの大物は扱ったことがないから確実なことは言えないが半分は仲間内で食べてもう半分は市場に卸すことになるとのこと。
野外の開けた場所に案内されると木製のテーブルや椅子が並べられていた。宴会の場所は整備されているらしい。大きなバーベキュー用のコンロみたいなのもあり既に火が燃えさかっている。
俺はグラスと向かい合う形で座る。飲み物が配られていき場所場所で適当に宴会が始まっていく。俺のいるテーブルに飲み物が配られるとそれを飲みながらグラスと話をしていく。酒以外の飲み物もあったので俺とジュジュはそれにした。
「レイン、お前が引き受けてくれたお陰で誰も死なずに済んだ。礼を言う。ありがとう 」
「受け取った 」
俺達は取っ手の付いたガラス製のビールジョッキの様な容器をぶつけ合うと中の液体を勢いよく飲み下していく。これは地球と似たような感じだな。
「あれぐらいの大きさのガムロはやはり珍しいようだな、、、」
「ああ、大きさは個体によって様々だがあれほどのものは経験したことがない… 」
グラスが言うには普通は五メートルから八メートルぐらいの大きさで大きくても十メートルぐらいだそうだ。あれは一七、八メートルぐらいだったからそれだけで異常性が分かるな。いつもなら数匹を一度に相手にする漁をするそうだ。
「まさか俺の代であれと遭遇することになるとはな、、、」
「、、、記録にはあるのか? 」
「ああ、俺のじいさんが若かった頃にあのぐらいの大きさのヤツに遭遇したらしい。相当に苦戦したという話だ 」
「グラスのじいさんか、、、船も装備も今とは違うんだろう? どうやって仕留めたんだ? 」
「当時は中型船しかなかったそうだ。一隻に五、六人を乗せて十隻で向かってあれと遭遇した。船の上に乗ったままでは歯が立たなかったそうだ、、、
最終的に全員で海に飛び込んで接近戦を挑んだらしい。次々ヤツに取り付いていって銛を突き刺すことを繰り返していったという。最終的に半数しか生き残れなかったそうだ 」
、、、マジか
水術が使えるからと言って海に飛び込んでいったというのか? あんな魚がいるところに、、、相当に追い詰められていたんだろうけど覚悟が決まりすぎだろう。多数の犠牲を出しながらも何とか狩れたとして傷跡は深いな、、、
「なんとも、、、壮絶だな 」
想像すると気分が暗くなる。俺ならそんな状況では立ち向かえない。気持ちの面ではこの世界の人間に勝てないだろうな。
「お前がいなかったらどうなっていたかわからん。最悪全滅もありえた。改めて礼を言う。ありがとう 」
「ああ、、、」
俺達はあらためてジョッキを打ち付けると最後まで飲み干す。無言の時間がながれると俺は周囲を見回して場の雰囲気を味わう。みんな思い思い誰かと飲み交わしている。楽しそうな笑顔で仲間と言葉を交わしている。
再び飲み物を調達する間にも会場を見回して場の雰囲気を味わう。食べるものもついでに調達した。その間に何度か声をかけられてそれに応えつつ席に戻り、改めて周囲を観察する。
こう言うのも悪くない、、、
ふと隣を見るとジュジュがおっさんに絡まれていた。絡んでいるおっさんはフリッツ号の観測手だ。確かルーニーという名前だったか、、、
「ジュジュちゃ~んっ、ありがとなぁ~ 」
死にそうなところを助けられて感謝をしたいらしい。だいぶ酔っ払ってもいるようで多少たがが外れている。抱きついて顔をスリスリしようとしていたがジュジュのお手々で顔を押さえつけられている。嫌がっているジュジュを見るのは初めてのような気がする。
《・・・・・ 》
どうやらアルコールのにおいが嫌みたいだな。俺も酒を飲むようになったら気をつけないといけない。
ルーニーはジュジュから俺に標的を変えるとこちらに近づいてくる。
なにかな?
「レインっ、ありがとうっ! 助かったっ! 」
ルーニーははっきりと感謝を口にする。どうやら回復術で酔いを覚ましたようだ。、、、それは酔った意味があるんだろうか?
「そうか、受け取っておこう 」
「それにしてもあんた、いろいろな魔術が使えるんだな。空を飛んだときは度肝を抜かれたぜっ! 本当に人間か? 」
一瞬ドキッとした。不意に言われるとどう反応して良いかわからなくなる。どうしたもんかね? 本人にそのつもりはないんだろうけど、、、
「なんつってな、、はははっ 」
こちらの無反応をどう受け取ったのかわからないが笑ってやり過ごすことに決めたようだ。一瞬殴ってやろうかとも思ったが別に悪気があるわけじゃない。殴っちゃいけない…
「あんたも良い腕をしているな。ヤツの位置を正確に把握していた。音響魔術か? 」
「わかるのかい? 流石だな。目と耳は人より良くってね 」
「あんた達観測手がいなかったら危ないところもあった。感謝する 」
「そうかい? へへっ、あんたほどの男にそう言って貰えると嬉しくなるな、はははっ 」
ルーニーは豪快に笑うと手に持っていたジョッキを煽る。再び酔うことに決めたようだ。俺はルーニーとジョッキをぶつけ合うと飲み下していく。そんな俺達に横から声がかかる。
「レインっ、アタシともいいかい? 」
副船団長のアニスだ。戦闘中はヘルムを被っていたから良くわからなかったが赤毛に赤眼をしている。魔力変異だろう。少しクセのある長めの髪をヘアバンドで後ろに流していてライオンみたいな髪型になっている。大きな目は目尻がつり上がり三白眼もあって獰猛そうな印象を受ける。だが、今はにこやかな表情を浮かべているので恐いという印象は受けない。
「ああ、いいぞ 」
いつの間にかグラスはどこかに行っていたので空いている席、俺の目の前に座る。
「まだ、あんまり食べてないだろ? 持ってきたから遠慮無く食べろよ。いくらでもあるし 」
「ああ、そうしよう 」
そう言えばまだ食べていなかった。アニスも持ってきてくれたので食べるとしよう。
イルガムロの肉を大きめのサイコロ状に切り出して串に刺して焼いたものから食べる。表面が良く焼けていて芳ばしく中が半生になっている感じだ。魔力が詰まっていて歯ごたえがある。顎に魔力を込めて噛み切っていく。
マグロのような牛肉のような噛み応えだ。味も同じようなイメージだな。油の乗りはやや少なめと言った印象だがダメージを与えたり魔力変異をしたからだろうか? 表面には塩が振ってあって味が適度に引き締まっている。
うまいな… 苦労して自分で仕留めたと思うとなおのことだ
ああ、そうだ。ジュジュが食べるときに串があると食べにくいか、、、串を取ってやろうかとジュジュの方を見ると器用に肉球で串を挟んで食べている。しっかりと串を固定して牙で肉を挟み引き抜いてからあむあむと咀嚼して飲み下す。余計なお世話だったか。
ある程度食べていくと落ち着いてくる。自然と目の前にいるアニスに気が向いていく。そろそろ何か話すとしようか。彼女も話したいことがある用に思える。アニスは俺達が食べている間、自分もつまみつつ飲みつつ俺のことを見ていた。
俺の方は正直アニスの方に視線を向けにくい。彼女はウエットスーツの上半身をはだけていて良く日に焼けた肌が灯りを反射して艶めかしい。ビキニしか着ていなくて露出がなかなかに大きい。目のやり場には困窮している。
そちらから意識を逸らすためにも何を話そうかと考えるが共通の話題と言えば今日の漁のことぐらいか。
「なかなか厳しい漁だったな、、、お互いに生き残れて良かった 」
「ああ、そうだね 」
どちらともなくジョッキをぶつけ合って乾杯をする。そこからアニスとの会話が始まる。今日の漁についての話から始まり漁の基本的な方法についての話とかこの海についていろいろ聞いてみた。いままでの漁であったことなんかを聞くと彼女は楽しそうにいろいろなエピソードを語ってくれた。
俺についても当然過去の話とかは聞かれる。地球の話は出来ないから嘘話でお茶を濁しつつレイゼルト王国で経験してきたことを中心に話していく。アニスはいちいち驚いて話の続きを促してくる。大いに楽しんでくれているようだ。俺も話していて自分のやってきたことの特異性を再確認出来て面白かった。だが、換装して戦ったことや遺跡調査に関連したことなんかは言えない。そこら辺は言わないか嘘で固めて語らざるを得ないのが心苦しい。
「なあ、、、レインは漁師に興味がないか? 」
お互いに話すことがなくなってきたときアニスはそんなことを切り出してきた。ちょっと真剣な眼差しだ。言わんとするところは理解しているので対応は真剣にやらないといけないな、、、
「やってみて面白い仕事だと思う。場所が違うだけで狩人とやっていることは一緒だし俺に向いてはいる。だが、俺は流れの狩人だ。帝国にいってやらなければならないこともある。今は生きる場所を固定しようとは思えないな 」
「、、、そうか、帝国に行くのか。そのやらなければならないことはいつまでかかるんだ? それが終わったらどうする? 」
なかなか難しい質問が来たな、、、それは俺にも分からない。確定していないからこその未来だ。どう答えようか、、、
「どうなるか分からないが十年ぐらいで見切りを付けてレイゼルト王国に戻ろうと考えている。そこから先は分からないな、、、どこかに定住するのかまた流れてみるのか、、、」
「へぇ、十年か。そこまで長くないな。気が向いたらまたここに来てみてくれよ 」
「ああ、次もまた大物が来るかも知れないからな。イルガムロよりももっと上を狙ってみよう 」
釣り人の中にはこういった心境で釣り糸を垂らす人間も少なくないんだろうな、、、
「レインはここにはいつまでいるんだ? 」
「ここには魚を食いに来ただけだからな、、、あまり長くいるつもりはないんだがまだ決めてないな。あと二日三日と言ったところか 」
「ふ~ん、そうか、、、まあ、いる内はまた来てくれよ。明日は今日より盛大に宴会をやるだろうし来てくれるなら歓迎するよ 」
アニスは少しがっかりした様な顔をしたが直ぐに気を取り直して笑顔を作ると宴会に誘ってくれる。
「ああ、明日も必ず来ることにする 」
魚を食べに来ている以上は誘いに乗らない手はない。自分で仕留めたものだしな。明日なら今日よりも凝った料理がでるだろう。
その後、しばらくアニスと雑談を交わしながら飲み食いしてホテルに戻る。時刻は十時過ぎと言ったところか、、、若干の疲労感もあるしすぐにベッドの中に入る。
目を閉じて暗闇の中で今日のことを考える。
アニスの露出過多な恰好に最初は戸惑っていたが何とか自然な形で真っ直ぐに目を見て会話が出来るようになっていた。
しかし、ときどきどうしても胸元に目が行ってしまう瞬間があった。たわわに実った果実がぷるんと存在をアピールしてくる。あまりにもチラ見の回数が多いと失礼になりかねない。俺の株が下がってしまう。さらにそのまま収穫時期が来たら大変だ。
危惧した俺は魔力強化を駆使して高速で眼球を動かす技術を編み出した。人間の反射速度ではおそらく捉えることは出来ないはずだ。さらに瞬きと組み合わせることでより察知されにくくした。アニスが俺に分からないように視覚強化していたなら話は別だがその兆候も無かった。
記憶を探って今一度確認してみたが気付かれていた兆候は無い。安心すると眠気が襲ってくるので完全な眠りに就くことにする。
この夜、俺はπの夢を見た。




