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機鋼神エイジャックス ー石に転生して異世界に行った俺、わからないことだらけだが何とかやっていくー  作者: 井上 斐呂


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第209話 X イルガムロ②

つかず離れずの距離を保って空射加速で飛んでいるがなかなかの迫力だ。ヤツは時折海中から飛び出て俺に噛みつこうとしてくる。海洋恐怖症ではないはずだが本能が水の中の脅威を畏れている。


だが、救いの手はやってくるものだ。フリッツ号がイルガムロの真っ正面から突撃を仕掛けて来ている。速い、最大船速を出しているようだ。


船首にはグラスがいて巨大な銛を構えている。魔術の構築も既に完了している。銛には大量の海水が巻き付いていて解放の時を待ちわびている。


船と俺がすれ違うとき、イルガムロの頭部目がけて銛が打ち出される。船の速度に相手の速度、すべてを足し合わせて加速していく銛は俺でも目で追えない速度に達している。複数人で放つ強化術式だ。


これで決まったか…


と思ったが銛はヤツの背中に当たる。深く突き刺さるものの致命傷ではないようだ。船の下に潜り込むような形で頭部への直撃を回避したらしい。


銛に結びつけられたロープがイルガムロに引かれるとやがて伸びきって船体に衝撃が走る。ロープにはグラスや他の甲板衆が取り付いて魔力を流し、切断されないように強化しているが時間の問題だ。


船底衆は船体を操ってロープにかかる負担を軽減しようとヤツの動きに合わせるが船体は引きずられていく。


船尾の方に着地していた俺はどうするか迷っていた。ロープの強化に回るかヤツを攻撃する魔術を構築するか。


そんな時、ライカン号がヤツに向けて突っ込んでいく。船首には人がいてグラスと同じように巨大な銛を構えている。船団の副長でライカン号の船長、グラスの妹だ。同じ構成の魔術を構築している。


射程距離に入ったのだろう。即座に銛を放つと衝撃で海面に水柱が立つ。命中して突き刺さったのか白い水泡が少し赤みを帯びている。


ライカン号は銛を放った直後に回頭してイルガムロの進行方向を変えようとする。二隻で連携して動きを止めようとしているのだろう。


ここでなるべく魔力や体力を消耗させておきたい。銛が抜けないようにして出血を狙っていきたいところだ。だが、回復術で刺さっている銛を抜くことは可能だ。俺もロープに取り付いて魔力を流していくが相手に押されている感覚がある。


そう長くは持たないか…


ロープを短くしていって魔力を流したいところだがロープを引くのは難しいな。相手の方が力が強く速い。船を動かすとその分相手も動いてたるませることも出来ない。


しばらく状態を維持しているとロープ越しに抜けそうな感覚が伝わってくる。その直後、ブツッとした振動が手に伝わりロープからの張力が消失する。それに伴い船が急激に動き出すが船底衆の制御によって柔らかく受け止められる。


結構なダメージを与えたと思うがどうなんだろうな? まだ戦う力は十分に残っているはず。警戒しながら辺りをうかがうが背びれは見えない。とても静かだ。


身を潜めて回復をしているのか? 、、、まさか逃げたってことはないよな?


「グラス、このままアイツが逃げるってことはあるのか? 」


「ないだろうな、、、一度狙いを定めたらしつこく追ってくる。そういう習性だ。留目を刺すまで気は抜けん、、、」


どうやら最後までやらなければ納まりがつかないようだ。今晩の肴はアイツで決まりだな。酒は飲まないが、、、


甲板の上ではロープが巻き取られ次の準備が整っている。一撃食らわせて士気は上がっているようで雰囲気は明るい。このままいけるかと思った矢先、観測手の悲鳴にも似た警告が響く。


「頭ぁっ! 下だっ! ヤツはこの船の真下だっ! 距離100! 」


それを聞いて全体に緊張が走る。真下からぶち当てて沈める気だ。もう船の構造を理解したらしい。船底を破られれば浸水して沈む。船を失えばこちらが不利になると考えたと言うことか、、、


「衝突に備えろっ! 」


グラスの号令で船底衆は船体に海水の幕を張って防御を試みる。だが、ヤツの全力の突進を受けるには心許ない。ならば…


―大規模術式、精密制御


俺は魔力を練り上げていく。それに気付いたグラスが声を掛けてくる。

「レインっ、何をする気だ? 」


―操鉄硬化靱性術式、


ワイヤーを伸ばして船体に接触させていく。


「鉄術で船体を強化する… 」


それを聞いてグラスは驚いているが詳しい説明をしている時間はない。観測手が事態の変化を伝えてくる。


「来るぞっ! 」


来いよ…


一番いいのは攻撃が当たる瞬間に魔術を発動させることだが当たる瞬間が分からない。船底衆の魔術を阻害しないようにしなければならない。他人の魔術が通る穴を開けつつその魔術の様子をモニタリングしていく。イルガムロが水の障壁に接触した瞬間を目安にして俺も魔術を発動させよう。


船底衆と呼吸を合わせて全体の動きに集中する。目を閉じて魔力感覚を研ぎ澄ませてその時を待つ。時間が何倍にも感じられた。



・・・・・・!


剛靱鉄苛甲ごうじんてっかこう


イルガムロの先端が水壁に触れてから一瞬遅らせて魔術を発動させる。

―ズンッッッッ……


下腹に響き渡るような振動が伝わってくる。下から突き上げられる衝撃によりフリッツ号は浮き上がり甲板に体が押しつけられる。船底が海面から出るまではいかないが大きな船体が二メートル近く上昇させられている。


重力に引かれると浮遊感に襲われるが直ぐに船体が海面に叩きつけられる衝撃を感じる。それでも船体は無事にやり過ごすことが出来た。衝突箇所は結構凹まされたが亀裂が入る事はなく航行に問題はない。


急いでワイヤーを巻き戻すと次の攻撃に備える。衝突はイルガムロにも少なくない打撃を与えたはずだが、それを押してたたみ掛けてきそうな予感がする。グラスを含めた甲板衆は今の衝撃で体勢を崩している。甲板の海水も少なくなっている。


立て直しを始める前に左舷の方に突如として水飛沫が上がる。イルガムロが海中から飛び出てきて頭をこちらに向けている。体には大量の海水が纏わり付いていて高出力の水術を放ってくるのが一目で分かった。全身のひれを体に密着させるようにたたんでいる。前方に向けて一本に集中させた高圧水流を打ち出して来るつもりのようだ。


―操雷術式、雷撃


俺は即席で雷術を構築し手から雷撃を放って牽制するがヤツには効いていない。先ほどの大規模魔術の影響で魔力が練りにくい。出力が足りてない。


駄目かと思ったその時、横から俺に合わせて強力な雷撃が飛んでくる。合流した雷撃はイルガムロの体内に入り込んだようでビクビクッと大きめの痙攣をさせた後、相手の魔術構成を霧散させる。ヤツは大量の海水と共に海中へと沈んでいった。


ジュジュの放った雷撃が押し通った形だ。タイミングを見計らって溜めていたらしい。かなりの威力だ。


ジュジュはしてやったりといった風でふんすと胸を張っている。相当フラストレーションが溜まっていたのかも知れない。誇らしい気持ちを感じているようだが陸に早く戻りたいとも思っているな、、、ごめんね


しかし、狩りは継続中だ。大量の海水に散らされて雷は効果があまりなかった。通ったのは二割ぐらいと言ったところだ。ヤツはまた仕掛けてくるだろう。


雷術を使うのは効率が悪いか、、、使うとしても直接体内に打ち込むぐらいじゃないと駄目だ。近距離で使うにしても大量の魔力を込めるか制御を精密にしなければならない。身も傷めそうだ。使い処は限られるな。


考えつつも警戒していると観測手がイルガムロの動向を掴んだようで情報を伝えてくれる。


「右舷120! ライカン号に向かっているっ! 」

「回頭右30、全速前進! 救援に向かうぞっ! 」


グラスは救援に向かうことを選択したようだが間に合わないだろう。俺が飛んでいくしかない。そう決めると魔術を構築していく。


―操空圧縮術式、


甲板を蹴って空に飛び上がると発動させてライカン号に向かう。


―空射加速


ライカン号が沈められたら降りる場所がないな。船員達を救助しなければならないしあの魚相手に水中戦を挑むことになるのか、、、不可能じゃないが御免被りたい。


まにあってくれ…


「距離300っ! こちらに来ますっ! 」


「迎撃準備っ! 回頭左40、全速前進っ! 距離を取りつつフリッツ号を待つっ! 」


イルガムロが迫りつつあるライカン号の上ではグラスの妹のアニスが指揮を執っていた。彼女はフリッツ号がいた場所に回りながら近づいていく進路を取り、魚を牽制しつつ時間を稼いで挟み撃ちにする作戦を思い描いていた。


相手は徐々に近づいてくる。傷を与えて多少は速度を減らしたもののまだまだ最高速度は相手が上だ。やがて後ろに追いつかれそうになると甲板衆は牽制のために次々と銛を放っていく。投げては回収を繰り返す。目や口の周りなどの鱗の無い部分に当たれば多少は通る。それを嫌がって回避行動を取るなら時間も稼げる。


そう考えて攻撃を続けていくが突如としてイルガムロが海中に消える。危険な兆候であると認識して甲板衆は船縁に散らばり全員で索敵を開始しようとする。


その矢先、観測手が何かを叫んだ。


「~~~~~ 」


その声は爆発音によってかき消される。突然、船の真横、左舷側の海面が爆発する。その中からイルガムロが空中に躍り出る。巨体が完全に海中から飛び出ると放物線を描いて落下してくる。それは全速力で走るライカン号の上に直撃する軌道を描いていた。


ライカン号の船員達はこの攻撃を予想出来なかった。まさか、魚が自ら船上に上がってくる危険を冒すなどと考えられなかった。


フリッツ号での経験から船底は破れなくても上からなら破っていけると判断したのだろうか? 十分に海中へ戻れると言う算段を図った上での行動に見える。本能的に陸に上がることへの恐怖はあるのだろうがそれを克服したのかも知れない。それが怒りによるものなのか冷静な判断によるものなのか分からないが戦いの中での成長にも受け取れる。人間との戦いに順応しつつあった。


アニスは落下してくるイルガムロの牙を見つめながら戦慄する。この一撃は確実に船体を破壊するだろう。死人が出てもおかしくない。甲板を破壊した後、船内で暴れ回って船底衆も甲板衆にも被害が出るだろう。危機感に突き動かされて手に持った銛に魔力を込める。全身の隅々に魔力を循環させ圧を限界まで上げる。魔術を使う時間はない。刺し違えるつもりで銛を強く握りしめ、落下してくるイルガムロに向かって甲板を蹴る。


そのつもりだったのだが直前に大きな爆発が起きる。爆発は落下してくるイルガムロの体から起こったようにアニスには見えた。爆発の勢いに押されて落下軌道が変わる。そのまま右舷側の海中に落下して消えていった。


(何が起こった? )


起こった出来事に理解が追いつかなかった。魔術による爆発であると思い至ったとき穴埋めで入ってきたあの狩人のことが頭によぎりかけた。そんな折後ろから声を掛けられる。


「大丈夫か? 」


当人から不意に後ろから声を駆けられて一瞬ドキッとしたが表に出さないようにして応える。


「あ、、、ああ、大丈夫だ。あんたは確か、、レインだったか、、、? 」

「そうだ。ヤツはこちらに狙いを定めたようだ。また来るだろう。迎え撃つぞ 」

「そ、そうだな、、、よろしく頼む 」

「ああ 」


普段だったら自分を差し置いて先行する者に反発を返していただろう。船団長の兄にすら反発をすることはしばしばある。ライカン号の船長を預かる手前決断に責任を持たねばならない。当然と言えば当然のことだ。


素直に頷いたこと、あまつさえよろしく頼むなどと口に出したことに周囲の甲板衆達は驚いていたが一番驚いていたのは他ならぬアニス自身だった。自分にこのような一面があったことに信じられない気持ちでいるがそこに不快感はなかった。


レインを見るとなんとなく胸の奥にもやもやしたものが生じる。それは空を自在に駆け回る姿に目を奪われたときからだったのかも知れない。


アニスは胸のもやもやを振り払うように甲板衆に檄を飛ばす。


「また来るよっ! 気合い入れていきなっ! 」



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