第206話 ファム x 会話
俺達とファムは砂浜から移動すると石畳で舗装された場所にやってくる。サーブルの街は白壁の建物でほぼ統一されていて青空と白い家のコントラストがとてもはえる。
そんな町並みを眺めながら石畳の道を歩いていく。俺がよそから来たことを察したのか途中途中で少女は街についての知識を披露してくれる。家が白いのはそういう石が近くで取れるからだそうだ。
目的の店に着く。そこは街の中心を走る大通りに面しているオープンテラスのカフェと言った感じの店だった。少女は再びお礼を言って別れようとするが俺はそれを引き留める。
「それじゃあ、わたしはこれで 」
「ちょっと待ってくれ。一緒に食べていかないか? 朝食はまだなんだろう? 」
「ええっと、、、でも 」
「ジュジュが驚かせた詫びもかねておごらせてくれ。何でも頼んでかまわない 」
「いいんですか? 」
何でもという俺の言葉にちょっと反応して期待を込めた感じで問いかけてくる。何か思うところがあるらしい。俺はそれを快く承諾すると三人で店の席に座る。
この後、学校があるそうなのでさっさと注文を済ませて料理の到着を待つ。何を食べるのか決めていたらしく少女の注文はとても早かった。目当てのものがあったらしい。それに釣られてこちらの誘いに乗ったのだろう。
「まだ名乗っていなかったな。俺はレイン・シス・プラムゼフレルド。流れの狩人をやっていてレイゼルト王国から来た。レインと呼んでくれ 」
「狩人さんなんですか。道理で強いわけです。あっ、わたしはファムって言います。まだ高校生です 」
こちらの世界でも都会の方には高等学校がある。高校生ならば十六、七ぐらいか。そこら辺は地球と変わらない。
「ファムか、よろしく。でも俺とそこまで年齢は変わらないだろうから堅苦しい言葉は使わなくていいぞ。気楽に話してくれていい 」
「そうなんですか!? おいくつですか? 」
「十九才だ 」
「十九!? わたしとあんまり変わらないね… もっとずっと年上かと… 」
「ファムは何才なんだ? 」
「わたしは十六だよ。三つしか違わないね… 歴戦の勇士って感じだったから長くやっているのかと思った 」
「戦闘経験は沢山あるな。強さには自信がある 」
「そうなんだ… なんかカッコいいね 」
カッコいい…
女子高生から言われるとこれはこれで違った響きがあっていい。いや、俺も少し前までは男子高生だったんだけどな。途中で退場するまでは、、、
今更後悔はないが少しまぶしく感じる。二百年以上にもなる人生でたったの三年間だ。是非とも悔いのない時間を過ごしてもらいたいものだ。
他愛のない話をしていると料理が運ばれてくる。ファムが注文したものはパフェの様なものだった。ガラス製の背の高い器に下から層になる様に盛り付けていって上にはみ出す様に高く盛り付けられている。
見た目がパフェなのでデザートだと思ったがファムが言うには一番上がしょっぱい味でだんだんと甘塩っぱい味、甘い味、酸っぱい味、甘酸っぱい味に変化するのだそう。食事からデザートまで一品で完結する様に出来ているという。
食べたいかと聞かれたら俺は微妙ではあるがコンセプト的にはパフェよりもパフェだな。
食べながらいろいろと話をしていくとなかなか興味深い話が聞けた。主に魔術についてだがやはりファムは詠唱の効果を試していたという。
いろいろな呪文を試してみてその影響を調べているそうでほとんど毎朝のようにあの海岸に行って試しているそうだ。
呪文が魔術式の説明になっていることを指摘してみたら感心された。最初はもっと適当な呪文でやっていたらしいが威力や効率を追い求めたら自然とそうなっていったらしい。魔術式と感情と言語には何かしらの関係がありそうだという話。ファムにスゴいなと伝えたらレインもスゴいって返された。
スゴい…
呪文の詠唱が魔術の伝播共有に役立つかも知れないと言うことを伝えたらファムにはそこまでの考えはなかったらしく意外だと言った顔をされた。そのことを真剣に考え出した様で黙りこくってしまう。食べる手も止まる。
パフェにはアイスクリームも入っていた。溶けてしまうのももったいないので早く食べた方がいいと指摘してやるとハッとなり食事を再開する。
会話はしていきたいが学校の時間もあるし込み入った話題はやめておいた方がいいかと思って簡単な話題を振っていく。ファムが使っていた杖について聞いてみた。
「ファムが使っていた…杖? あれにはどういった意味が有るんだ? 別になくても魔術は使えるはず 」
「ああ、あれ…… レインは自己魔力と分離魔力って知ってる? 」
ファムは少し考えると魔力の分類について聞いてきた。思ったより説明のいる話だった様だ。話題選びを間違えたかと思ったがファムも乗り気の様だしまあ、いいか、、、
「知っているぞ。魔術を使うには自己魔力を分離魔力に変換しなければならないという話… 」
「それなら話が速いかな… 杖があると分離しやすくなるのよ。特に先端の部分で 」
それを聞いて何となく狙いが理解出来た。
「自分の肉体からなるべく距離を置いた方が変換しやすくなると言うことか、、、いや、魔石からと言った方が正確か… 」
「そうそうっ、そういうことっ、さっすがレイン。理解が早いね 」
俺の考えは当たっていた様だ。少なくともファムのお眼鏡にはかなったらしい。彼女は上機嫌になる。俺もなんだか嬉しくなってしまう。
「手に持った物体に魔力を通せるのはそれを自分の体だと認識しているから。苦手な物質でも慣れれば通せる様になるのはそのためだね
でも認識にも限度があって長いものを持つほどその先端は自分だと認識しづらい、、、
棒を持って魔力を流したときその先端にある魔力ほど分離しやすいってことね 」
「なるほどな、理論上は長ければ長いものを持つほど魔術が使用しやすくなるということか、、、魔力を行き渡らせることが出来ればと言う話ではあるんだろうけど、、、長ければその分先端の魔力圧は低くなるから威力は出せなくなる。他にも制限は受けそうだな 」
「うん、そうだね。わたしの場合、このぐらいの長さの杖が一番使いやすくなるんだけど… 」
そう言ってファムは両手を広げてみせる。一メートルと少しと言ったところか。それなりに魔力圧は出せるようだ。魔境に入ったことはなさそうなのだが日々の練習のお陰かな?
「あんまり大きなものを持っていると悪目立ちしちゃうからこのぐらいの大きさにしているの。外套で隠せるしこの後学校だしね 」
「他にも材質や形状の影響なんかも受けそうだな 」
「そうそう。今持っているやつは空術がやりやすい様に調整しているんだ 」
「へぇ、そうなのか… 見せてくれるか? 」
「いいよ、はいっ 」
ファムから杖を受け取ると矯めつ眇めつ詳細を確認していく。遠目でも見た通り指揮棒の様な形だ。全体の長さは四十センチメートルほど。真ん中を金属の棒が通っていて端に木製のグリップが付いている。
棒は等級は低いが魔鉄で出来ている。中空のパイプ構造になっていて先端からグリップ部分まで貫通して空気が通る様になっている。グリップから先端側に数センチ言ったところに規則的にいくつか穴が空いていてここからも空気が通る様だ。
俺が作ったレインメーカーの兵装と発想は似ている。というかほとんど同じだな。使う魔術に合わせていくつも用意して使い分ければ戦力の向上になる…
いや、普通の人間はそんなに数を持ち歩けないし、交換する手間もかかり隙が出来る。使える魔術の種類も限られるしな、、、一つに特化した方が正解かも知れない。戦闘でも産業においてもそれは変わらないか、、、
「ありがとう、ファム。いいものを見せてもらったよ 」
俺がグリップの方を向けて差し出すとそれを受け取った彼女は反対側の手でローブをめくり杖を腰に付けたホルダーに仕舞う。剣士のようにもガンマンのようにも見えるな。
既に料理は完食している。そろそろお開きと言ったところだ。
「助けてもらった上におごってもらっちゃって… 今日はありがとう。楽しかったよ 」
「ああ、気をつけて学校に行けよ 」
「うん、いつもあの時間にあそこにいるからわたしに会いたくなったら来てみてね 」
「ああ、何日かこの街にいるからまた会うこともあるだろう 」
「それじゃあね 」
そのまま学校に向かうファムの背中を見送るとふと伝票が気になったので見てみる。彼女が注文したパフェはやはりそれなりの値段がする。学生が朝食で気軽に食べられる様なものではない。それが俺にとってはそこまで大きな金額にならないことを考えると自分が大人になったんだなぁと実感出来る。
お金を使う機会は今までもあったのだが今回はファムの存在が大きい。こちらに来てから出会ってきた人間は全員年上だったと言っていい。リーンもリオンも俺より上だしな、、、
年が近いとは言え歴とした年下であり、まだ学生という身分だ。先輩として後輩の面倒を見ている様な、そんな感覚がある。ちょっと自分がえらくなった様な感覚。悪くない…
、、、パパ活とはこんな感じなんだろうか?
ふと、思ってしまった。
俺の年齢がもっと高かったらさらに気分が良くなっていたのかも知れない。四、五十代だったらよけいに若い年代とこんな風に出会う機会はないだろう。
仕事も落ち着いてきて金銭的にもある程度余裕が出来てくる。あまり収入が多くない若い世代に援助するという名目でお金を使う。そして、自分は培ってきた経験と知識があり若者にはそれがない。ちょっとした知識でもスゴーいとか言って感心してくれる。
それなりのものを奢ったのだから感謝もしてくれるだろう。心が舞い上がってしまうのも不思議じゃない。そうやって、人はパパ活にハマっていくのだろう。
別にそれが悪いとは思わない。世代間の交流が新たな知見を産むこともあるだろう。だが節度が重要だ。身を持ち崩すのは良くない。もっとほかに打ち込むべき物事があるはずだ。
思うに自分の限界が見え始めてしまうことが道を踏み外す原因なのではなかろうか? 新たなチャレンジをし続けていけば自分を見失うことはないだろう。
ロボット製作、魔術の探求、この世界を知っていくこと、、、
いろいろやるべき事がある自分なら惑うことはない、、、かな?
それはそれとしてファムは明日も海岸で魔術の研究をするんだろうな、、、また、明日も誘ってみようか、、、
ん? 既にハマっていないか?
いかんな、、、これはいかん
頭を振って邪念を追い払おうとしていると視線を感じる。ジュジュがこちらを見ている。その視線にたじろぐ。あきれた様なそんな目に見える。
《情けない主ですまん… 》
《??? 》
謝罪したら疑問符で返された。全然違うらしい。なんだろうか? 、、、ああ、おかわりが欲しいと。足りなかったらしい。
疑心、暗鬼を生ず とはまさにこの事だな…
店員を呼んでジュジュの分のおかわりと俺の分のギートを注文する。それを飲みながら今後の予定について考えていく。




