第201話 黒竜 X 乱入
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狙いは…… 俺か!
―雷神装
―ドッッッッッ………―
上空から落ちてきたものと刃を交えてぶつかり合う。
衝撃で地面は抉れ土が周囲に飛び散っていく。
巨大な黒い刃が俺を押し切らんと上からのし掛かってくる。サーベルの様に湾曲していてどこか極彩鳥の刃翼を思わせる。二本の刀を縦に構えて防いでいるが全力でもギリギリだ。
―コアブースト
瞬間的に少しだけ出力を上げて押し返すとわずかに相手の体勢が崩れる。その隙に後退して距離を取るとようやく相手の姿がはっきりと認識出来た。
それは真っ黒で巨大な竜だった。大きさはガルアドラより二回りは大きい。首は長くて腕と体の側面に駆けて翼が生えている。尻尾は長く全身をゴツゴツとした鱗とか甲殻で覆っている。
一番特徴的なのは手から生える長大なサーベル状のものだろう。翼とは独立していて自在に動かすことが出来そう。一目で最大の武器であるとわかる。
黒竜は押し返されたことに若干の驚きと喜びを感じている様だ。興味深そうにこちらを見ている。ワクワクした感じがあるな、、、
戦闘狂め…
だが俺にしか興味がないのは好都合だ。周りのことを考えずに戦えそう。他の三人は戦意を喪失している。ガルアドラの姿は消えていた。
あとは換装するタイミングを整えるだけだ。今のままじゃ勝てない。
まあ、それが大変なんだけどな、、、
「逃げろっ! 」
俺は三人に向かってそう叫ぶと黒竜を誘って場所を移しにかかる。背を向けて森の奥に入っていく。ジュジュには念話で三人が追いかけてこない様に引き留めるよう指示を出しておいた。
黒竜は俺を追いかけて後を追ってくる。森の木々を体でなぎ倒しながら一直線に追ってくる。その膨大な魔力は特に意識することなく破壊をまき散らせる。それだけ地力が強いってことだろう。
逃げる俺の背中を刃翼の一振りが襲ってくる。その気配を感じると振り返って二刀を振るって迎え撃つ。
斬撃をぶつけるとけたたましい金属音と共に軌道を逸らすことが出来た。振り抜かれた刃翼は立ち木をバターの様に切断していく。
俺は衝撃で吹き飛ばされて背中で木をへし折りながら後ろに吹っ飛んでいく。距離を開けるために自分から衝突の勢いを利用してワザと飛ばされていた。
これで多少は…
と思ったら相手はさらに加速して俺を追いかけてくる。わずかな時間も稼げず追いつかれてしまう。
意味無っ!
木を切断することを意に介さず滅茶苦茶に斬撃を繰り出してくる黒竜に対して再び二刀を打ち当てて去なしていく。
雷神装で肉体の動きも剣撃も強化し、後退しながら一撃一撃を丁寧に去なしていく。しかし、相手の斬撃が激しくて忙しい。
途中から“雷凄一文字”に変えて正面からぶち当てていく事に変更する。すると剣戟の重さが増したことに相手は気を良くしたのかさらに速度を上げて斬撃を繰り出してくる。
さらに上がるのか…
長々と剣戟が続いていく。あるいは俺がそう感じていただけで一瞬だったのかも知れない。すでにコアブーストも放出強化も限界まで引き上げている。
弾いた刃がしなって不規則な軌道を取ると切っ先が肩をかすめる。肉まで切り裂かれて出血するが気にしてもいられない。必死に刀を振るっていく。
おそらく相手はまだ全力ではないんだろうけどな、、、
だがもう十分距離は取れただろう。俺達が伐採して切り開いてきた道はずいぶん遠い。始まりはとうに見えなくなっている。
だが、本気でやり合う前にこの状態でこいつに一発かましておきたい。魔石とコアで同じ魔術を構築して溜めておく。
相手の斬撃に合わせてこちらも斬撃を放ち正面からぶつかる。その反動で後ろに下がると次の攻撃に合わせて魔術を起動させる。
―白輝焦煌閃
白く輝く斬撃と黒い斬撃が交差する。刃翼の根元を狙い相手の攻撃の出だしにねじ込む。
刃同士が接触する瞬間…
―…重撃
押し込んでいく様に出力を最大化させる。まばゆいばかりに輝く白刃は甲高い音を響かせて黒い刃を切り裂く。
根元から折られた刃翼は回転しながら横に飛んでいき幾本かの木を切り倒しながら進むと地面に突き刺さって止まる。
予想だにしていなかったんだろう。黒竜は驚きのあまり動きを止めて固まってしまう。
ふぅ… 一息付けるな
もうここいらでいいだろう…
“雷凄一文字”を亜空間ししまうとへし折った刃翼の元に行きそれも亜空間に回収する。その様子を見てヤツはさらに驚いているようだ。
さっきも一度見せたんだけれどな… 興奮していて気付いていなかったのか…
このまま第二ラウンドを始めてもいいが俺はこの竜にそれなりに高度な知性の様なものを感じている。脳筋ぽいけれど、、、
なんとなく念話で意思疎通が出来るんじゃないかと思った。
アルグラントの時の経験がある。ジュジュとも通じ合えている。技術的には十分なはず。気になることもあったし話しかけてみるか…
《おい、ちょっと話せるか…? 》
俺の問いかけに黒竜はビクッと体を震わせて再び固まる。念話で話しかけられるのは初めてなのか、えっ、なにこれ? みたいな反応だ。しかし、反応があったと言うことは何かしら通じていると言うことだろう。諦めずに続けていこう。
《お~い、わかるか? 》
《###%%&&nklxyt… 》
おっ、返ってきた
それを解析して調整して……と、
《俺に話しかけているのは貴様か? 》
《そうだ。聞きたいことがあるんだがいいか? 》
《面白いヤツだ。それに十分な手応えがある… 聞きたいことがあるのだったか……、いいだろう、特別に応えてやることにしよう 》
結構上から目線だな。流石は竜種と言ったところか、プライドが高い。それに今の俺とこいつとの戦力差を考えると間違いじゃないな。こうやって会話に乗ってくるのは俺がこいつの刃翼を折ったからなのかも知れない。
まあ、とりあえず会話が出来そうなことに一安心だ。続けてみよう。
《何故こんな所にやって来た? もっと魔力の濃い場所で暮らしているんだろう? 》
《貴様も戦っていたあいつと戦うためだ。やつがこんな所に来てまで俺を避けるからな… わざわざここまで来てやっている 》
わざわざ? それなら来るなと言いたいがそれでは話が進まないな… いちいち突っかかる必要はない。続けていこう
《以前にも同じ事をしていたな? そのときは別の個体と戦っていたのか? 》
《以前…? ああ、あの時か… ん? 貴様が何故それを知っている?あの時いたか? 》
《いや… 別の人間に聞いただけだ。それより二回とも同じヤツなのか? 俺が戦っていたあいつは… 》
《そうだ… 前回は邪魔が入って決着を付けることが出来なかった… お前達が邪魔をしなければな、、、興醒めもいいところだっ!! 》
黒竜は過去の怒りを思い出したのか怒りをにじませた魔力を周囲にまき散らせていく。マズいな… もう少し会話を続けて情報を引き出したいところだが… なだめられるか?
《そう苛立つなよ、俺の全力はあれよりも強い、遙かにな… 話が終わったらの後で思いきり戦ってやるよ 》
《そうかっ! ではさっさと始めよう 》
怒りよりも俺に対する興味が勝った様だ。それは良かったがせっつかれてしまう。
《慌てるな… 次で最後の質問だ 》
《なら早く言え! 》
《何故前回の戦いから時間が空いた? 》
《・・・ヤツはどういうわけか強さが跳ね上がる時期があるのだ。それに気づいた俺はそれを待って戦うことにした
それなのにヤツはこんなところまで来おって… またしても邪魔をされる事になるとはな… しかし、お前という獲物に出会えた。思いがけない幸運だ
さあ、話すことは話した。さっさとやろう! 》
《ああ、今から見せるからちょっと待っとけ… 》
なんとなく状況が見えてきた。ガルアドラが不可解な行動を取っていたのはこいつを俺に押しつけるためか… あの野郎… 体のいい身代わりにされてしまった様だ
何と迷惑な…
まあ、ヤツの《《立場》》ならそうしたくなるのも分かる。それに迷惑の根源はこいつだ。すべてこいつにぶつけるとしよう。
《それじゃあ… やるぞ 》
俺の言葉に黒竜は長い尻尾をピンと立ててぶるっと震えた後、今か今かといった感じにビタンビタンと尻尾を地面に叩きつける。
待たせたな…
《換装、レインメーカー 》
《!? 、、、おおっ!! 》
一瞬で姿を変えると結構大袈裟に驚いてくれる。姿の変化と言うより魔力の質と大きさの変化に対してかな? まあ、なんにせよ期待に応えられたようで何よりだよ…
《くっははは いいなっ! お前ッ! こちらもいくぞっ 》
黒竜も俺に触発されたのか魔力を限界まで引き上げていく。物理的な現象は何も起こっていないはずだが森全体が震えている様な錯覚を覚える。想像以上だな…
俺によって折られた刃翼が瞬く間に再生されていく。やはり外部から物質を取り込んで再生しているようだ。魔力の流れに異質なものを感じる。
早回しの映像を見ているような、にょきにょきと伸びていく様子はちょっと面白いが冷静に見れば脅威だ。再生されたばかりだというのに以前と変わらない魔力格を持ち合わせていることに驚きを禁じ得ない。
どうなっているんだろうな、、、?
そう言えば俺も腕を再生したとき魔力格はそのままだった様な気がする。あまりにも自然だったから気にしていなかったが、、、
完全に再生が終わり戦いの準備が整う。もう念話は完全に切れていて相手からは何も感じ取れない。
俺も相手に合わせて出力を上げていく。最初はあちらさんからだったし今度はこちらから行こう。
地面を蹴って突進を仕掛けると黒竜は刃でそれを受ける。俺の前腕装甲と黒竜の刃翼がぶつかり合う。火花が散り、衝撃波が中心から広がっていく。
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初撃は互角だった。両者、一歩も引かないまま相手を睨む。そして、次の瞬間には激しい打ち合いが始まる。
その場に留まったまま打撃と斬撃の応酬が始まる。一瞬の内に、幾度となく拳と刃が正面からぶつかり合い、その度に激しい火花と衝撃波が撒き散らされる。
衝撃波は大地を削り根を掘り返して爆風と共に木をなぎ倒していく。直ぐに一帯は隕石が落下した様な有様になるがふたりは止まらない。
レインメーカーが電子を操って体勢を維持しているのに対して黒竜は膨大な空気を操り押し返していく。
魔力を含んだ粒子が激しくぶつかり合うとプラズマが発生する。それが空中に浮かんで激しく交錯し合うふたりを中心に渦巻いていき幻想的な光景を作り出していく。
光の中心でふたりの速度は徐々に増していく。周囲の情報をすべて遮断した無音の世界の中でお互いの存在しか感じられない。時間すら置き去りにして加速している。胸中にあるのは楽しさとさらなる戦いへの渇望だけだった。
ふたりにとって永遠とも思える様な時間もやがて終わりが来る。速度が最高に達したとき黒竜の動きに変化がある。
レインメーカーの拳が空を切ると黒竜の尻尾が胴体に叩きつけられる。黒竜は本能的に巨体を回転させ攻防一体の技を繰り出していた。
均衡が破られレインメーカーは吹き飛んでいき地響きを立てて地面に墜落する。巻き上がる土煙を見ながら黒竜はしてやった喜びと一抹の寂寥を感じていた。
だが、土煙の中から先ほどまでと変わらない魔力と闘志を感じるとそれもどこかに吹き飛んでいきさらなる戦いへの予感に胸が高鳴っていく。
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痛ってぇ… やられたな…
つい夢中になりすぎた様だ。尻尾への警戒を怠っていた。あいつの最大の武器だったらしい。
極限までコアとボティの同調を高めていたためボディの損傷が痛みとして知覚されていた。
刃翼と付き合わせていた拳や前腕の装甲は塗装が剥げて一見ボロボロに見えるが基材までは損傷していない。
しかし、尻尾を喰らった胴体は胸部も腹部も結構削られてしまっている。鱗が刃物状になっているようだな。コアにもヤツの魔力が衝撃として伝わってきていた。魔力も削られてしまった。そして痛い。直撃はきついな。
しかし面白い…
こちらももっと見せていくとしようか…
俺は開発していた新装備を使うと決断する。亜空間シミュレーションで効果は検証済みであるが実際に使うとなるとワクワクするものだ。立ち上がると地面を蹴ってくぼみから飛び出す。そして、空中で外部装甲を纏う。
【兵装呼出】:[白兵戦用高質量外部強化装甲]
ズンッと重苦しい音を立てながら地面に着地すると前傾姿勢をとり走り出す構えを作る。そして、全身に魔力を漲らせていく。
待たせたな… 準備完了だ
力を込めて蹴り出すと同時にブースターを吹かして一気に加速していく。
さあ、第二ラウンドを始めようか




