第192話 特務騎士の二人
「終わったが大丈夫か? 」
「、、、ああ、すまんな。助かった 」
じいさんは逃げることなく俺達の戦いを見守っていた。俺達に何かあったら加勢するつもりでいたらしい。しっかりと盾と槍を握りしめていた。
律儀なことだ。俺としては立ち去ってくれてもかまわなかったが心情的にはそうし難いか。死なれたら引きずるだろうしな。
せめて生死の確認ぐらいはしておきたい。そう思うものなのかも知れない。
「ワシの名はガエルと言う。ガエルと呼んでくれ 」
「俺はレインだ 」
「そうか、、、レイン、改めて礼を言う。助かった、ありがとう 」
「別にかまわない。それよりこいつは俺が頂いていいか? 」
地面に倒れ伏したガズーの遺体を指してガエルに確認を取る。答えは聞くまでもないと思うが俺が獲物を横からかっさらって行ったように見えなくもない。こいつに執心していたようにも見えたし。
「? それは当然だな。お前さんの獲物だ。遠慮無く持っていくといい 」
どうしてそんなことを聞くんだと言った感じで答えてくる。別にどうでも良かったらしいな。それだったら逃げても良さそうなんだが騎士の性分ってやつか?
狩人には向いていないな、このじいさん
「それでは頂いていくとしよう 」
改めてガズーの状態を確認する。
高値が付きそうな毛皮の状態はかなりいい。気を使って狩った甲斐があった。じいさんが少し散らした胸の房毛も戦闘中に元に戻っている。俺の攻撃でも少し散ったはずだが再生されたのか分からないぐらいになっている。
角も値が付きそうだから確認しておく。俺の斬撃により表面に細かな傷が入っているがそれ以外は特に破損は無いようだ。恐ろしく丈夫に出来ている。かなり質のいい魔鉄が含まれているようだ。
全体としてもいい状態で狩ることが出来た。丸ごとギルドに持っていきたいところだがどうだろうか?
かなりデカいから持っていくのは大変だがここは表層でも浅い方だ。面倒ではあるが頑張れば、人目を気にしなければ何とかなりそうだ。
梱包用の布は持ってきていないからそのまま運ぶしかない。重さは問題ないがバランスが取れるかどうかだな。
どうするか・・・?
少し考えて水糸を使うことにした。
水術を発動させて水糸で縛り上げると前足を肩に掛けて背中で胸部を支えるように固定する。
「丸ごと持っていくのか!? 」
じいさんは俺の行動を割とおかしなものとみているようだ。気持ちは分からなくもないがこれが一番無駄にならない。
「そうだ。いい状態で狩れたからな。解体士に任せた方がいい 」
道路に向かって進んでいくが後ろ足と尻の部分が地面と擦れてしまう。縛りをキツくすれば解消出来るかも知れないがその方が痛める可能性もある。
引きずっていくかな、、、
地面の魔力ではガズーを傷つけることは出来ないだろう。気にしないようにして進んでいくと後ろの部分が持ち上がる感覚が伝わってくる。どうやらじいさんが持ってくれているらしい。
「ワシも手伝おう。助けてくれた礼だ。気にしなくていい 」
「そうか、、、では頼む 」
俺達はじいさんも含めて魔境から引き上げることになった。正直、そうなったことにほっとしている。
ガズーを仕留めたことで魔境の気配が薄くなるかと思っていたが依然として濃いままだ。いや、更に濃くなっている様にも感じる。
この不気味で不穏な中にじいさんを置いておくのはいただけない。助けた意味が無くなってしまうからな。
まあ、それはそれとして、この異変の根源とも言えるものに近づいている気がするが果たして踏み込んでいいんだろうか?
思ったよりも遙かに厄介なことに首を突っ込んでいる気がする。
あれ?
、、、、、、、いつものことか?
そうだったそうだった
とりあえず、じいさんも今日はもう狩りをしないようだし良しとしよう。
しかし、、、
じいさんの持ち位置だとキン〇マが体に当たると思うんだが大丈夫か?
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(別視点)
森の中を一組の男女が歩いている。二人とも同じ騎士服と軽鎧を身に着けている。女性はきっちりと着こなしているが男性はどこかだらしなく着崩していて、どこかちぐはぐな印象を受ける二人だった。
女性の方が先を行き、それに男性が着いていくように進んでいく。
北部騎士団所属の特務騎士、リリーアン・ソル・グレイズとロイドである。
「お嬢、これ以上進んで行くと境界区域に入っちまいますぜ 」
「今は非常事態よ。境界なんて意味を成さないでしょう 」
ロイドは進んでいる先からなんとも嫌な気配を感じていた。特務騎士としては調査に行くべきだろうが、なるべくならリリーアンを危険な場所に行かせたくない気持ちがあった。
リリーアンに直接危険だから行くなと言うと彼女の正確から言って反発して余計に前のめりに進んでいくと考え、別の理由で促したのだがあえなく撃沈してしまった。
彼はもともとはグレイズ家に雇われていた狩人であったがリリーアンが北部騎士団に入ることになると彼女の父親で自分の雇い主であるグレイズ領主に頼まれて一緒に北部騎士団に入ることになった。
最初は断るつもりであったがそれなりに長い付き合いのある領主に頼み込まれると断りづらかったのと特務騎士の地位が意外に自由の利く立場だと知って受けることになり今に至る。
同じ時に北部騎士団に入団してかれこれ五年ほど行動を共にしている。
(どうしたものかな、、、)
今はまだ彼女はこの嫌な気配に気付いていないようだがこのまま進めばいずれ気付くだろう。
そうなれば何故そのことを自分に伝えなかったと詰問してくる。そして、意地を張って危険を顧みずに先に進んでいくことになる。
どちらにしても結果は同じでしかない。
(何かが起こってくれればいいが、、、)
途中で引き返すに値する何かが起きることを願っていたが、願いむなしく何も起きそうにない。
お互いに無言で先に進んでいくとしばらくして先頭を進むリリーアンの足が止まる。
「この先から嫌なものを感じるわね 」
「そうだろうか? 」
「、、、ロイド。あなた気付いていたでしょ? 」
ロイドはやはり自分の予想通りになってしまったと心の中で嘆息したが何も答えないという訳にはいかない。
問題はなんて答えるかだがここは素直に答えることにした。そう思ったのは紛れもなく自分自身も危険な状況に置かれることになるという不安からだったのかも知れない。
「お嬢、はっきり言うがこの先は危険だ。俺一人でも…! 」
「どうしたの? 」
「魔物だ 」
話の途中だったが魔物の接近を感じたので中断して襲来に備える。ロイドは手にしている金属製の棒を両手で構えると魔術を発動させる。
すると棒が徐々に水で覆われていく。棒の中は中空構造になっていてそこに魔水が入っていた。棒の先端部にある弁から魔水を出している。
ロイドの行動を見てリリーアンも腰の剣を抜いて構える。
「どんな魔物? 数は? 」
「狼系だな、、、数は三、、強さは、、、まあまあってところか 」
二人はこの場で迎え撃つことにしてこの場に留まる。
(ちょうど良いところに来てくれた、、、話がうやむやになってくれそうなのはいい )
程なくして魔物が視界に現れる。ロイドの見立て通り狼系の魔物が三体。三体とも同種であるようで外見は同じだ。灰白色の毛並みに鬣のように長めの赤い毛が目立つ。
ここら辺では割と見られる種類で魔属種名はフラピウルス・ゼファと付けられた魔物だ。中級上位に当たる魔物で群れが大きくなると対処が難しくなるので早めの駆除が推奨されている。遭遇した以上騎士としてはここで倒さなければならない相手だ。
二人にとっては何度も相手をしたことのある魔物。外見から特殊な変異もなく、魔力にも違和感はない。早々に見切りを付けると短期で決着を付けると決めて最初から全力を出していく。
距離が近づいてくると二人も狼に向かって走り出す。
向かって右側の大きめの個体にはリリーアンが向かう。背負っている容器から油を出して剣に纏わせるとまだ距離があるにも関わらずその剣を振るう。
振り抜かれた剣から油が鞭状に伸びると走って来る狼の前足が地面を捉える直前に二本まとめて巻き取られる。
そのまま、リリーアン側に引き寄せられて横に捻られると狼は地面に転ばされて仰向けの体勢を取らされる。そこから、油にかかる張力を利用して素早く接近すると胸元から心臓に向けて剣を差し込む。剣に沿って急激に油圧をかけて内部を破壊すると剣を引き抜いて距離を取る。
残り二体を相手取るロイドは接近しながら魔術を発動させていく。棒に纏わり付いた水、その先端に当たる部分が幅広で短い剣のような形を形成していくと凍り付いていく。熱変換を使用して凍らせたようだ。
氷の刃は魔水を介して金属棒と繋がっている。ロイドが棒を振るうとそれに合わせて自在に宙を舞い、滑らかな曲線軌道を描くと一体の胸に突き刺さり心臓を低温で停止させる。
棒の動きに合わせて引っぱられると心臓から氷刃が引き抜かれていく。勢いそのままに今度は放物線を描くようにもう一体の頭部に落下して突き刺さる。
棒を引くとまたも氷刃は引き抜かれて勢いよく戻っていく。棒を円を描くように回すとその勢いを吸収して元の位置に固定される。
二人は狼を仕留めたことに納得がいくと構えを解く。そして、何事もなかったかのように話の続きを再開する。
「それじゃあ先に進みましょう 」
「お嬢、駄目ですぜ。仕留めた以上は後処理をしなくちゃ。騎士団への報告も必要になりますぜ 」
「、、、、、、」
リリーアンはロイドの言葉を若干不服そうに聞いている。だが、いきなり否定することはしない。言っていることには一理ある、真意はともかくとして。
彼女としては一刻も早く異変の核心に迫りたいと思っていた。それが特務騎士として自分がやるべきことだと信じているからだ。
一人の騎士として彼女なりに誇りを持って仕事に向き合っている。多少、奇矯なところがあるが根はとても真面目な人間だった。
真面目故にロイドの言葉に耳を傾けざるを得ない。ロイドはそんな彼女の真面目さに訴えかける戦略をとっている。
更にたたみ掛けていく。
「先を調査するにしても、もう暗くなってきていますぜ。目星が付いたのなら明日早くから開始しましょうや。早く戻って調査経路を検討した方がいいですぜ 」
「、、、、、、わかったわ。そうすることにしましょう 」
結局、リリーアンはロイドの提案を飲むことにした。彼女も無茶をしたいわけではなかった。調査を進めるに当たって安全の確保は重要だ。
方針が決まると二人は後処理を開始する。狼の死体をすべて布で包むとロイドが一体だけ背負い魔境の中で一番近くにある騎士団の拠点に持っていく。
魔物を仕留めた場所と種類、数や強さなどの情報を伝えれば回収班が残りを回収する手筈になっている。情報を集めて魔境の状態を把握するのも騎士団の重要な仕事だ。こういった情報は狩猟ギルドや学会と共有されることになる。
リリーアンを先頭に狼を運んでいく途中ロイドは考える。
とりあえず今日はやり過ごすことが出来たが明日は確実に危険な領域に足を踏み込むことになる。
リリーアンも別に死にに行きたいわけではないし引き際は心得ているだろう。実際に今日も人の意見を聞いて決断をすることが出来ている。騎士になりたての頃だったら無理を通したかも知れないがこの五年程で彼女も成長している。
しかし、引き際を知っているだけでは不十分だ。魔境では引き際に直面した段階でもう手遅れになる。事前に引き際が来る兆候を感じて引く判断が出来なければいつかは命を落とすことになるだろう。
ロイドは自分の命を優先するだろうが頼まれた以上は彼女を死なせるわけには行かない。そうでなければわざわざ特務騎士になった意味が無い。
騎士の身分ではあるし仕事では十分以上に成果を出しているがその精神性はまったく騎士に染まっていない。狩人としての根柢がロイドの生き方にある。
最悪、無理矢理にでも連れて帰るしかないだろう。
そう心に決めたロイドの脳裏にふと浮かぶものがあった。最近出会った黒髪の狩人のことだ。
(恐ろしく強い狩人だった )
協力が得られれば心強いと思ったが明日までにヴィルフォートを探して接触しなければならない。
狩猟ギルドを当たれば案外直ぐに見つけられるかも知れないが、これから戻って明日の調査計画を立ててからだとすると時間を合わせるのは困難だ。
結局、明日には間に合いそうもない。無理なことだと諦めるより他はなかった。だが、不思議とロイドはそこまで残念なこととは思わなかった。
なんとなくあの狩人とは魔境の中でひょっこり出会う、そんな予感がしていた。




