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機鋼神エイジャックス ー石に転生して異世界に行った俺、わからないことだらけだが何とかやっていくー  作者: 井上 斐呂


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第175話 リスティ X トア・イーガロカリア

思ったより早い。運が良いのかも知れない。ラプトルの時も向こうから来ていたし。


、、、ん? それは運が良いのか?


獲物は俺も前に戦った事のあるオオトカゲだな。かなり高度な土魔術を使用してくる相手だ。魔属種名は確かトア・イーガロカリアと付けられたんだったか?


俺の方からは情報は与えていない。そして、事前に空術だけで戦うことは決めてある。未知の相手にリスティは空術だけでどう戦うのか?


俺は見守るだけだが、まずはどうやって戦いを開始するかだな。


相手はまだこちらに気付いていない。狩人なら不意を打って有利な展開に持っていくところだが騎士を目指すリスティはどうだろう?


そう思ってみていると気配を消すどころか挑発的な魔力波を出しながら接近していく。


当然、相手はそれに気付いて警戒態勢を取り正面から向き合うことになる。挑発を受けてかなりイラついているようで直ぐさま威嚇を放ってくるとリスティもそれに対抗する。


それからあっという間に戦闘態勢に移行して魔力を高め合い、互いに相手の出方をうかがいながらにらみ合う形になる。


こういうやり方もあるのか、、、ありかも? いや、ありだな


縄張りを作るような魔物で慎重なヤツなら、縄張り内を嫌がらせのように挑発して回って相手から仕掛けさせるやり方も効果的な気がしてきた。格下の相手に限られるが逃げる相手を追いかけるより効率は良さそうだな。


決してスマートなやり方ではないけど、、、


視線の先では状況が動き出す。


先に仕掛けたのはオオトカゲの方だった。巨体に似合わぬ俊敏な動きで正面から噛みついてくるのかと思いきや直前に体を回転させて尻尾を薙いでくる。


それを読んでいたリスティは上に跳んでギリギリで躱しつつ着地と同時に横腹を切りつける。


切りつけられると同時にトカゲは体を横回転させて距離を取る。傷口からは血が流れるが量はそれほどでもない。直前に魔力防御をして回避に移っていた。見た目よりも浅い傷に留められている。


リスティにとっては追撃の機会にも見えるはずだが冷静に抑えつつ相手の出方をうかがっている。慎重さを保てているのは初戦を経験して余裕が出てきたからなんだろうか?


冷静にオオトカゲの魔力を見つめていると傷口に集中しているのが見える。


出血はすぐに納まり多少の血液が体内に戻ると傷口は瞬く間に閉じて元の状態に戻っていく。


手応えで伝わっていた通りに浅い傷に留まっていた。魔力視では回復に集中しているように見えていたが実際はごく一部でいつでも攻撃に転じられるように構えている。


リスティはそう理解すると全身の魔力を引き上げて今度は自分から攻撃を仕掛ける。


敵と同じく正面から接近すると鼻先を狙って突きを繰り出す。それを相手は後ろに跳んで躱すとリスティも跳び上がって追いすがる。


トカゲが着地する瞬間に背中を切りつけると骨まで刃を届かせることができた。


その手応えにこのまま押し切れば勝てるという思いがわき上がってくる。


それは油断と言うほどのものではなかったが空中を跳ぶリスティに向かって周囲の地表から土製の杭がいくつも出現し伸びて迫る。


相手は損害を引き受けて攻撃する事を選び魔術を用意していた。


捨て身の攻撃とも言えるその判断に内心で肝を冷やす。この攻撃自体はたいしたものではないが次に来る強力な攻撃への布石になり得る。


リスティは当たる直前に空術を発動する。加速して躱すと地面に降り立ち、相手の背後をとった。


好機とみて後ろから仕掛けていく。尻尾による攻撃に注意していれば十分に狙える。そう判断してのことだったがトカゲは先ほどの土の杭を未だに維持し続けている。


その杭が形を変えて集まると大きな土塊を形成して押し寄せてくる。包み込むように形を変えて飲み込もうとするその様子から相手は大量の土砂で押し潰そうとしていると取れる。


捉えられると状況は厳しくなると考えてリスティは攻撃をやめて後ろに大きく躱す。


リスティを包み損ねた土砂の波は地面に倒れ伏すと周囲に土砂をまき散らして止まる。再び襲いかかってくるとみて警戒するが予想に反してそこで動きを止めたままだった。


魔力視で確認すると土からは魔力が感じられない。そして、オオトカゲの姿がいつの間にか消えている。


土砂の波を目隠しに姿を眩ませたらしい。


リスティは相手が土の中に潜ったと予想していた。逃げたのではなく攻撃のため。どこから発せられるか分からないが敵意を感じる圧はなくなっていない。


そう確信すると魔術を練り始める。全身を覆うように空気の層を纏うと相手からの攻撃を待ち構えてその場に留まる。


(少し甘く見ていましたね、、、)


相手の攻撃を待つじりじりと焦げ付くような空気の中でリスティは考える。


レインとの取り決めの中では一属性の使用に限定すると言うことだったが魔術を使用せずに勝つ気でいた。


中級の魔物であればこの間闘った魔物より弱いはず。今の自分なら十分にそれが可能であると踏んでいた。


実際、魔力も魔力格もリスティの方が上だ。それが出来た可能性はそれなりに有る。しかし、可能性を捕まえるには実戦経験が足りていなかった。


(油断していたつもりはありませんが大きく出過ぎたようです )


全力はきっちり出していたが自分の目標に及んでいなかっただけで手は抜いていない。


状況を確認出来た今、リスティは自分の使える空術を最大限使っていく決意を固める。


静かな時間が流れていく。


その静寂を破るようにリスティの背後、地面の中からトカゲが大口を開けて飛び出してくる。


土にかかる重さや振動を検知して獲物の正確な位置や姿勢を検知しているのだろう。正確に後ろから襲いかかっている。


大顎が閉じられトカゲの細かな牙がリスティを覆う空術の層に触れる。


―バシュッ!


その瞬間、空気が弾けるとリスティの体は前方に押し出される。トカゲの牙は空を切り口は閉じられる。


完全に攻撃後の隙を晒しているオオトカゲにリスティは正対して剣を構えている。回避と同時に方向を変えていた。自動的に相手の攻撃をかわしてその方向に向く魔術だった。


空気によって押し出されたその反動によって戻る勢いを上乗せして剣を突き出す。


魔力を十分に乗せた剣の先端は顎の下から皮膚を破り脊髄側に向かっていく。そのまま風剣の術式を発動させて内部を破壊しようとする


しかし、そうはさせまいとトカゲは前足に魔力を込めて剣を持つリスティの腕に振り下ろしてくる。


剣と魔術に魔力を振り分けている今の状態では腕を砕かれる。最悪、切断されかねない。


リスティは魔術を、剣を引き抜く為のものに転換して発動させると体ごと剣を抜き去って素早く距離を取る。


トカゲの爪は空を切り、剣を失って開いた穴から血液が噴き出す。すかさず前足に込めた魔力を傷口に回して止血と回復を試みるがそれが隙となる。


そこを見逃さずリスティはたたみ掛ける。地面を蹴りつけると相手の真上に向けて跳躍した。飛び上がる間に魔術を構築していき頂点に達すると同時に発動させる。


空力を受けて高速で一直線に落下していく。重力加速度も加えて相手の頭上に落下すると体重を乗せて脳天に剣先を深々と突き刺す。


剣を握る手に脳まで達したと手応えが伝わるとその瞬間に風剣を発動させて脳組織を破壊、その反動を利用して後ろに跳んで距離を取る。


魔力を維持したまま構えを取って魔物の死を確認する。


魔物は力なく地面に倒れ伏している。うつろな瞳は何処を見ているのだろうか? 呼吸はもう止まっている様で微かな動きもない。


リスティはしばらくそのままでいたが、やがて納得すると血糊を落として鞘にしまう。


命を奪った独特の感触が手に残っていて微かに震えがくる。


だが、同時にやりきった充足感を感じてもいた。


深く、大きく息を吐いた。


対して危ういところもなく勝利したな。流石リスティだ。


敵の攻撃に対応した時の魔術は結構なものだった。リーンから習ったものなんだろうか?


繊細でありながらそれでいてどこか大雑把な感じもする。なんとなくリーンの影を感じてしまうな。


しかし、ここからどう声をかけたものか、、、?


リスティは表情の消えた顔で横たわるオオトカゲを見つめている。感じ入るものが有るのだろう。生き物を自分の手で殺すのは初めてのことだと思うし無理もない。ましてや殺し合いの果てだしな。


俺が同じようなことを感じたとすればいつだったか?


最初は何かを感じる余裕がなかった。雷鹿の時だったかな? 命を奪うことについて考え始めたのは、、、


初心に返ることは大事だな


、、、もうそろそろいいか。声をかけよう


「リスティ、見事だった。十分な成果だ 」


俺から声をかけられるとハッとなって我に返ったようになり俺の方を振り向く。なんとも言えない表情をしている。本来なら喜んでも良いところなんだけどな。


亜空間から水筒を取り出すとリスティに差し出す。


「飲むと良い。少しは落ち着くだろう 」


それを受け取るとゆっくり飲み始める。直に落ち着くだろう。


俺の方はトカゲの遺体に魔力を流して亜空間に引き込む。


淡々と進めていこう。魔境ではこれが日常だ。取り立てて騒ぐようなことじゃない。これを受け入れることと命を粗末にすることは別のことだ。


拠点に戻りジュジュを袋から出してやると期待を込めてみゃーみゃーと鳴いてくる。


こんな風に鳴くのは珍しいな。前回はよほど不満だったのだろう。


トカゲを亜空間から取りだして地面に横たえると早速噛みつき始める。

リスティが仕留めた獲物だしちょっと心配になったが、わかっているのか魔力を込めずに噛んでいるし傷むことはなさそうだ。


安心して好きにさせておく。リスティもほっこりしてジュジュの様子を眺めている。


椅子とテーブルを用意してお茶を煎れると飲みながら今後について話をしていく。


「取り決め通り一人で中級の魔物を空気魔術だけで倒したからな。これで教練は終了した。カイルゼインや国王には俺がしっかりと見定めて合格を出したと伝えてくれ 」


「はい 」


リスティは花が咲くように笑顔になってはっきりと正面から受け取る。

手応えは十分に掴んだのだろう。一人の騎士としてやっていける自信がうかがえる。


「明日、トアイア・イーガロカリアを解体所に持っていくときに魔境を出て王都に帰る。その時に前みたいに王城まで送っていくとしよう 」


「もう、ですか、、、」


ちょっと残念そうにしている。もう一狩りしたい感じかな? リスティが魔境に来てまだ一週間も経っていないし自分の力をもっと試してみたいのかも知れない。気持ちは分かる。


だが俺はもうそろそろ人里に戻りたい


「もう教練は滞りなく終了したからな。リスティがここにいる理由はないだろう。早く戻って騎士団に入った方がいい 」


「それはそうですが、、、」


「王様の反対を押し切ってきたんだろう? あまり時間をかけると心配をかけてしまう。早い方がいい 」


俺への心証が悪くなりそうだしな。そうなったでじいさんを盾にすれば良いんだけどな、、、


「それは冗談でしたのに、、、でも、先生の言うとおりですね。王女としての務めも果たさなければなりません 」


冗談だったのか、、、いや、そのまま受け取るのは危険か?


なんにせよ分かってくれたならいい


「騎士団に入ったならそうかからずに魔物と戦うことになる。それまでに力を溜めておくと良い 」


「はい 」


俺も戦う前にトレーニングやら魔術の構築やら準備することには事欠かなかったな。今もそうだが、、、


お茶を飲み終わるとオオトカゲの処遇についての話に移る。


ジュジュは満足したのか上に乗ってキリッとしている。倒したらしい。


もふもふなでなでして褒めちぎった後、地面に降ろしてからリスティに提案する。


「これはリスティが一人で仕留めた獲物だからすべてリスティの取り分でかまわないと思っている 」


「いえ、そう言うわけには参りません。ここは先生の狩り場ですし、私はまだ見習いでしかありません。先生が納めてください 」


「そう言うと思ったよ。確かにリスティは狩猟免許がないからギルドに卸すことは出来ないな。すべてを受け取ると問題が出てくる


だが、俺がすべてもらうのもよろしくない。何もしていないからな。そこで、、、」


俺はオオトカゲを横にひっくり返すと心臓の辺りを指し示して続ける。


「一番価値のある魔石をリスティに渡しておこうと思う。売らなければ大丈夫だ。何もしなければいつか消えてしまうものではあるが長く持つものでもある


人生で最初に仕留めた魔物でもあるし初心を忘れないために持っておくのも良いだろう。今から魔石を取り出すから後学のために見ているといい 」


解体用のナイフを取り出すと顎の下辺りから腹側に向かってスッと大きく切り裂いていく。皮は骨にくっついていない様でそのまま左右に開いていくと魔術で留める。あばらに付いている筋繊維組織を刃で切り裂いておく。


肋骨に刃を当ててナイフを持つ反対側の手で刃の背を叩いて骨に切れ込みを入れる。肋骨すべてに切れ込みを入れるとナイフの柄の部分で胸骨を叩いて切れ込みを割ると外せるようになる。


胸骨を外すと心臓が露わになる。表面についている魔石に魔力を流すと簡単に剥がれる。


この作業は結構気持ちが良い。


清発できれいにするとリスティに手渡す。


「これが中級の魔石だ。なかなかのものだな 」


「ウサギの魔石ぐらいは触れたことがあるんですが、、、大きいですね 」


「、、、それじゃあ梱包して明日持っていくとしよう。その後は夕食の準備を始めよう 」


「、、、はい 」


俺がそう言うと一瞬だけど残念そうな表情になったような気がした。


俺の気のせいだったかな?

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