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第115話 模擬戦闘

なんか人と戦うことになってしまった。


まあ、面接的なものはあるだろう。任務の性質上あまり平和的なものにはならないだろうけど。


セリアにいわれて大蛇と戦ったころが懐かしいな。新入りを試すのは理解できる話ではある。


しかし、引っかかるところがあるとすれば上官のセリアが認めているのに部下のお前が認めないってのはどうなの?って所だが、、、


セリアの方を見てみると涼しい顔をしてちょっと微笑んでいるように見える。


すでに了解済みって事か… それならば別にいいか


「それで方法はどうする? 」


場所が場所だけに大方の予想は付いているが一応聞いておく。


「訓練用の木剣を用いた模擬戦を行ってもらう。まずは中央に移動してくれ 」


セリアがしきり役を買って出る。やっぱり了承済みか。


移動するとそれに合わせて人が速やかに移動していく。


慣れてんね、君たち… 穏やかじゃないね


中央に向かい合って立つと団員が木剣を差し出してくる。俺は腰の刀を外して差し出すと代わりに受け取る。


木剣は木の丸棒に綿を巻き付けたものだ。オードとの訓練で使用したものと構造は同じ。これまた懐かしいな。訓練棒での打ち合い。しかし、あのときと今回ではだいぶ状況が違う。


それぞれ得物を手にすると規則の説明が始まる。


「勝利条件は武器での一撃を急所に当てることだ。武器以外の攻撃は無効。武器が壊れた場合は敗北とする。魔術の使用は禁止。使用した場合は敗北とする。時間は無制限。判定は私が務める。両者、何か質問はあるか? 」


「ありません 」


「ないな 」


無くはない。しかし、そういった雰囲気でもない。まあ、やりながらルールを掴んでいくことにしよう。


「よろしい。それでは、、、」


セリアがすっと手を上げると真上で止める。お互い少し距離を空けて武器を構え戦闘に向けて精神を研ぎ澄ます。


緊張に当てられたのか時間が止まったように周囲は静まりかえる。


数瞬の後にセリアの手が下ろされそれと同時に開始の合図が訓練場にこだまする。


「始めっ! 」


宣言を聞いてもお互いすぐには動けなかった。まずは読み合いから始まる。


武器を破壊してしまったら負けになる。全力で打ち込んだら間違いなく破損するだろう。魔力で強化したいところだが訓練棒の魔力許容量はたいしたものではないだろう。全力で魔力を込めれば崩壊を招く。相手も同様だろう。お互い全力は出せない状況だ。


相手の防御に攻撃を当てた場合、互いの武器は破損してしまう。防がれるような攻撃は途中で止めて引かなければならない。致命的な攻撃以外は有効にならないから手足に当てたところで意味はないだろう。当ててしまうと逆に武器が壊れる。


互いに寸止めで戦いつつ隙を見て決定打を叩き込む。そういった戦いになるだろう。


魔術が使えない以上、肉体の強化と地面との親和性、駆け引きが勝敗に繋がる。強化を含めた肉体の最大スペックではこちらに分があるだろうが相手はこの場所でこういった訓練を長年やっているはず。


総合的に見てこちらが不利か。まずはこの場所と形式に慣れていく必要がある。


自分の方が有利とみたのかレグルスから攻撃が始まる。


いきなり喉に向かって突きが飛んでくる。早めに勝負を着けようという魂胆か。同じ事を考えていたらしい。


身体をひねって紙一重で躱すとカウンターで胴を薙ごうとする。それをわずかに後ろに跳んで数センチの所で避けられる。


、、、リーチの差もあるな


再び読み合いが始まる。一応警戒させることに成功したらしい。


俺は相手を中心に円を描くように移動しながら隙をうかがっていく。それを行いながら地面の魔力の通りを確認して馴らしていく。


少しずつ相手のアドバンテージを削っていくとしよう。


こちらの時間稼ぎに業を煮やしたのか、また相手から攻撃が来る。


横薙ぎの一閃が来る。剣を縦にして受けようとすると手前でピタリと止まる。そこから素早く切り返し頭めがけて振り下ろしが来ると頭上で横に構えて同じように止める。さらにレグルスの剣は軌道を変えてがら空きの胴に迫ってくるが俺もそれに追従して防ぐ。


そこから変幻自在の軌道で打ってくる相手に対して軌道を読んでそれを防ぐ俺という形で攻防が始まる。


ビュオオオオ……


風切り音を訓練場に響かせ、目にもとまらぬ速さで斬りかかってくる。一秒の内に6回ほどの速度か。しっかり目で追えているのはこの場では俺と本人とセリアぐらいだろう。


俺はそれを魔力の感覚で先読みしつつ最小の動きで先回りして防いでいく。剣と剣は触れあうことなく風切り音だけが鳴っている。当てることのない戦いなら防御側が不利ということはない。防ぎつつも相手の隙をうかがっていく。


、、、、ここっ!


相手の若干大振りな攻撃に合わせて剣の柄尻の部分で手元を妨害する。そのまま空いた胴を払おうとするとレグルスは俺の腹をめがけて蹴りを放つ。


、、、チッ


こういった手を予想していなかったわけじゃない。腹部を魔力で固めて正面から受けつつ胴打ちを継続しようとする。


―ドッ…


蹴りが腹を打ち据える。ダメージが入ったわけではない。完全に受けきっている。しかし、少々後退させられた。そのせいで俺の斬撃は空を切ることになる。


剣を途中で止めてむしろ自分から後ろに跳んで距離を空ける。レグルスはこちらに追撃をしようとしていたが俺がそれを余裕で待ち受けると追撃を諦める。


蹴りを放ってくるのは予想していたが果たしてやっていいものかわからなかったので俺の方からはやらなかった。だがこれで俺も遠慮なく肉弾戦が出来るってものだ。


今度はこちらから仕掛ける。


地面を蹴って接近すると上段から振り下ろす。それを剣で止めてくると再び蹴りを放ってくる。下からすくい上げるように腿を狙うような軌道。


剣から手を放すと蹴りを片手で受け止める。


―勝機


俺は姿勢を低くして相手の軸足に足払いをかけるように蹴りを放つ。それをレグルスは片足で飛び上がり飛んで躱す。


それは悪手だ、、、


剣と剣を付き合わせることが出来ない以上、空中で相手の攻撃を止めるかこちらの攻撃を止めさせるときに体勢を崩す事が出来る。着地が崩れれば一撃を決めるのは容易たやすい。


レグルスは空中で大振りの上段を放ってくる。相手にやられるよりはという判断か。確かにその方がまだ次に繋がる。だがそこまで俺は甘くない。


体勢を立て直せない位置で止まるように剣を差し入れる。だが、


―むっ


ドンッッッ


俺は全力で地面を蹴ると飛ぶような勢いで後ろに下がる。周りにいる騎士団員に背中からぶつかり何人か吹き飛ばすが気にしない。


「ミゲル! ナタリー! 大丈夫か!?」


…気にしない。


地面には俺が蹴ったことで生じたクレーターが出来ている。


、、、この野郎、、、そのまま剣を振り抜いて来やがった


あのままだとお互いの武器が破損して引き分けになっただろう。あるいは相手の武器だけを破壊する算段でもあったのか?


、、、ないとは言えないな


やはり駆け引きは向こうが一段上か。


しかし、もういい加減決着を付けようか。こちらもこのルールになれてきたところだしな。こちらが上回っているパワーを最大限生かすとしよう。


お互い出方をうかがってにらみ合っているところで仕掛けていく。


―闘気術、


魔力を限界まで高めていき周囲にも振りまいていく。


……オオォ……


周囲にいる騎士達も思わず感嘆の声を漏らす。セリアも「ほう 」と感心した様子だ。


その高まった魔力を一気に消す。


…フッ…


突然のことに周囲は呆気にとられる。レグルスも気勢が殺がれたようだ。だが、闘気は消えたように感じられただけだ。


兎脚ときゃく


弾丸のように一瞬で最高速に達するとレグルスに迫っていく。反応できていないようだ。立ったままの相手に肉薄すると地面に両手をついて両足に足払いを掛ける。


足を地面から無理矢理引き離されて仰向けに倒れたところに覆い被さる。同時に相手の剣を握る手を上から握りこんで固定する。マウントポジションを取ったような形だ。


そこに上から俺の剣が落ちてくる。兎脚で飛びかかる前に放り投げておいた。それを掴むとレグルスの頭を若干の魔力を込めて打ち据える。


バシッと音が鳴ると同時にセリアの声が再び訓練場に響く。


「勝者、レイン! 」


それを聞くと残心を解いてレグルスを解放する。俺が離れてもしばらく呆然としている。周囲の騎士達も何も声を上げない。


俺の闘気術に度肝を抜かれたのか、それとも自分たちの副長が敗北したことにショックを受けているのかかける言葉がなくて気まずい空気になったのか、、、


まあ、勝ちは勝ちだ


倒れたままのレグルスに手を差し出すと素直に握り返してきたので引っ張って立つのをアシストする。


立ち上がると向こうは払いのけるように手を解いて姿勢を正すとセリアの前に行き報告をするように言葉を発していく。


「団長の見立て通りの実力でした。疑って申し訳ありません 」


俺に謝らんのかい!


「別にかまわんさ。それで仲良くやれそうか? 」


「任務中は問題なくやれそうです 」


「、、、普段から仲良くしてもらいたいところだがな。まあ、いい。実力を認めたなら後はその場で連携を取り合えばいいな。そのぐらいの器用さはあるだろう? 」


「はっ! 」


レグルスはビシッと姿勢を正して威勢のいい返事をする。


ほんとにできんのかぁ? んんぅ?


「レイン。すまなかったな。要らん苦労を掛けた 」


「いや。それなりに実りはあった。いい経験だったと言うことにしておこう 」


実際対人戦を経験することは狩人にはあまりないから新鮮だった。ちょっと試合を思い出して楽しくなった部分もある。


「その割には不機嫌そうな気配も感じたのだが、、、まあ、そう言ってくれて良かったよ 」


バレてるな。そりゃ伝わるか。


「それにしてもレザン戦と言い今回の模擬戦と言い急激に成長したものだな。あんなことまで出来るようになっているとは、、、何が飛び出してもおかしくないと思えてくるな。見ていて飽きないやつだよ、まったく、、、」


兎脚のことか。びっくり箱みたいな人間という評価は褒めていることになるんだろうか? まあ、褒められているのはわかるのだけれど、、、


それにしても、こちらにもびっくり箱と言ったものはあるんだろうか? いや、どうでもいいことか、、、


一応、レグルスにも声を掛けておくか。少なくとも任務とやらが終わるまでは何度か会うことになるだろう。


「レグルス。良い戦いだった。ありがとう。いろいろ学ぶことが出来た 」


礼を述べながら握手を求める。試合は一人では出来ない。勝っても負けても礼節は必要だ。


「、、、ああ。こちらこそ学ばせてもらった。感謝する 」


手を握り返してちゃんとした挨拶を返してくれる。一応、礼儀を以て接する程度には認められたと言うことかな?


「勝ったのは俺だけどな、勝ったのは 」


相手の目をしっかり見つめて口元でにやりと笑い念を押しておく。この際に勝ったと俺の部分を強調しておく。勝負の世界は非情なんだよ。


「ふん、、本番の任務で活躍してから言うんだな。この程度で勝った気になるなよ 」


乱暴に握った手を振りほどくと負け惜しみを吐いてこちらから目を逸らす。


、、、こう言うのをなんて言うんだったかな、、、 確かツンデレとか言うんじゃなかっただろうか?


初対面としてはこれで十分だろう。相手は立場のある大人だ。滅多なことにはなるまい。


「それじゃあ、しっかりと認められたと言うことで俺はおいとますることにしよう。任務に関してはいつでも連絡をしてくれ。すぐに応じることは出来ないかもしれないが王都を中心に活動しているから予定はつくことになるだろう 」


「ああ、今日はありがとう。そう遠くないうちに任務の詳細を明かすことが出来るようになるだろう。お前のお陰で人員にも目処が付きそうなんだ。連絡を待っておいてくれ 」


? なんとなく含みのあるような言い方だったがどうなんだろうな? まあ、いずれわかる事になるだろう。


「そうしよう 」


答えてからきびすを返してその場を後にする。


さあ、帰ってたこ焼きを作ることにしよう。なんだかわくわくしてきたな。

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