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第114話 タコの購入 x 騎士レグルス

翌朝、空が白み始めた頃にはホテルを出て魚市場に向かう。大屋根の下に小さな店舗がいくつもあるタイプの市場だ。


中に入ってみると思いのほか人がいない。


、、、? なんでだろうな?


閉まっている店舗もあるな。開いている店舗もあまり魚が置いてないようだ。


開いている店舗のおばちゃんに話を聞いてみることにする。おばちゃんといってもけっこう若々しい。少しふっくらしているが恰幅がいいとまでは言えない。やはり魔石の効果で太りにくいらしい。こちらでは明確に太っている人を見たことがない。


おばちゃんというよりかお姉さんといった感じだが年齢的にどうなんだろう? それなりに人生を経てきたような雰囲気がある。未だに年齢を聞くことに抵抗があるんだよな。年齢の感覚がつかめていない。


「タコを買いに来たんだがちょっと聞いてもいいか? 」


「タコをかい? ちょっと時期が悪かったね 」


「? まだ旬は過ぎていないと思うが、、、」


「例のレザンっていう災害級魔物のせいさ。あいつの影響でここんとこ不漁続きでね。直に回復するみたいだけど今はこの通りさ 」


おば、、、お姉さんは自分の店の商品棚を指し示す。確かにスカスカだ。なんてこった。だがかろうじてタコが一杯だけ並んでいる。


しかし、、、


「高いな、、、」


かなり大きなタコだが値段は一杯で5000エスク。想定の3倍以上か。これなら王都で冷凍物を買うのとあまり変わらないな。


「出物が少ないからね。需要と供給ってやつさ 」


「この値段で買う人間がいるのか? 」


「いるんじゃないのかい? 目の前のお兄さんとか 」


そう言ってにっこりと笑う。足下見られているのか? 確かにここまで来て手ぶらで帰るのもしゃくだ。払えるだけの金はある。経済を回すためにも買わない手はないか。


お互い目を見つめ合ったまま数拍の時が流れる。


「よしっ、買った 」


「値切らないのかい? 」


「勉強代だ。勉強代はケチらないと決めているんでね 」


「お兄さん、いい男だねぇ。惚れちゃうよ。あたしがもうちょっと若ければねぇ 」


「今でも十分通用すると思うが 」


「本気かい? こんなおばさんをからかうモンじゃないよ。意外とオンナの扱いが上手いんだねぇ。将来はオンナに言い寄られて苦労するんじゃないかい? 」


「どうだろうな? 」


将来か、、、そんな先のことまではわからないな、、、


しかし、営業トークだとわかっているつもりだが何故か気分は悪くない。むしろ良い。こうやって人はキャバクラにハマっていくんだろう。


金を払って商品を受け取るともう少し会話を続けてみる。


「この金額で売れればけっこう儲けが出たりするのか? 」


「ん?、、、まあ、それなりにね。でも、仕入れも上がるし数が出ないからそこまででもないね 」


「それはなかなか大変そうだな。閉まっている店も多いしな 」


「そこまででもないさ。不漁は一時のことだしレザンが来たのもタコ祭りが終わった後だからね。大きく影響することはないさ 」


「タコ祭り? 」


「タコ漁が解禁されるときに沢山食べましょうっていうお祭りさ。豊漁祈願も込めてね。収穫祭みたいなものだね。地元じゃタコを使った料理が多いのもタコ祭りをやるお陰だね。その時にいろいろ変わった料理を試したりするからね 」


「そうしてタコの需要が増えていくって事か。需要があるから商売が成り立つ 」


「そうだね。最近は冷凍技術が進んでいろいろなものを一年中売ることが出来るようになったし王都とか離れた場所に輸送することも出来るようになった。需要がなくなることは当分ないだろうねぇ 」


「需要量が増えたうえに供給量は限界があるとなると値段も上がっていくだろうな。商売が大きくなっていくんじゃないか? いいことだな 」


「う~ん、そうさねぇ、、、」


お姉さんは俺の言葉に少し考えて浮かない顔をする。何か不都合でもあるんだろうか?


「高く売れるに越したことはないんだけどね。高くなりすぎてもうまくいかないかも知れないねぇ 」


「どういうことだろうか? 」


「高くなったら手が出ないって客もいるだろう? タコ祭りのような催しも出来なくなるだろうね。気軽には消費できなくなるからね。そうすればますます離れていく客も出てくる。

 当たり前のように消費できていたのが、今度は消費できないのが当たり前になってくる。一度転換した当たり前はそうそう変わることがないんじゃないかねぇ。値段が下がっても需要が元に戻るのは相当先になるかもねぇ、、、」


「なるほどな。だが、大きな状況を個人が制御するのは無理だな。なるようにしかならない 」


「、、、お兄さん若いのに達観しているねぇ。もう少し気楽にしてもいいんじゃないかい? まあ、そこもカッコいいね 」


、、、やはり悪くない。商売上手だな、このお姉さん。この状況で店を開けているだけのことはある。


「でも、状況が変化するならあたしたち商売人はそれに合わせるだけだね。そうなったらそうなったで別のものを流行らせていくだけさ 」


「なんかいいな。いい生き方だと思う 」


「そうかい? ありがとうね。お兄さんやっぱりいい男だねぇ 」


タコの他にもなんとなく気になる魚があったので買うことにする。決しておだてられたからではない、、、ないよな?


「あれとそれとこれを一匹ずつ貰おうか 」


「毎度あり! 今日は早めに店じまいしてあたしもお兄さんにお持ち帰りされようかねぇ 」


それには答えず曖昧な笑顔で代金を支払い、品を受け取るとおすすめの料理屋を聞いて後にする。


他にも市場を回ってタコをもう一匹仕入れるとホテルに帰って亜空間にしまう。


チェックアウトした後一度車に戻って荷物を置くと、時間を少し潰してから再び町に行き、お姉さんから聞いた料理屋を探す。


民家のような扉に店名が書かれた小さな看板が掲げられただけのひっそりとしたたたずまい。なかなかに入りにくい。


意を決してドアノブに手を掛けて回して引く。


中はいくつかのガス灯で照らされていて昼間だというのにさほど広くない店内は薄暗い。入り口といい店内の雰囲気といい人を選びそうな感じ。


昼には少々早い時間のせいか他に客はいない。好きな席に座っていいと言うことなのでカウンターの隅に陣取る。


カウンターテーブルは磨き上げられた長くて分厚い木材を使用したもの。椅子も同じような材質で出来ている。四つ足であまり座面が高くなくてどっしりと腰掛けることが出来る。落ち着いた座り心地を提供してくれている。


席に着いたあと、ゆっくりと店内を見まわす。最初は入りづらい雰囲気もあって歓迎されているのか疑問もあったが隠れ家的な雰囲気に思えてくる。


なんだか落ち着くな


入りにくい店だが入ってみると落ち着く。ちょっと不思議な感じだ。


受け取ったメニューを見ると昼用のメニューらしい。夜のメニューが気になるが昼食を取ったら帰るつもりなので残念だが諦めるより仕方がない。


魚系のサンドイッチとタコのカルパッチョ、タコ足のバター焼き、タコのすり身せんべい、飲み物に炭酸水を頼む。こう言う店だと店員にどんな料理か聞き易いのがいい。


朝昼兼用だから多めに頼んでみた。この肉体なら倍の量でも余裕だが人目が気になるから抑えておく。しかし、この量でも「よく食べるんですね」って店員さんに言われたから抑えた意味があったかどうか、、、いや、倍量頼んだら異常者だと思われるかな? 意味はあったか。


最初にせんべいが来る。タコをすり身にして小麦粉の生地と混ぜて薄焼きにしたものらしい。短冊たんざく状の形にして食べやすくしている。パリパリした食感とタコの風味がいい。酒を飲んだことがないのに酒が飲みたくなる味だと思えるのは何故だろうな。


次にカルパッチョが運ばれてくる。タコの味は淡泊なためか魚より香味野菜や香草は控えめだ。口に運ぶと控えめな塩味と香りがタコの味を引き立ててくれる。生のタコのクニュクニュした歯ごたえが気持ちいいな。


食べているとサンドイッチとバター焼きが同時にやってくる。まずはバター焼きの方から食べてみる。


タコ足のぶつ切りに小麦粉と香草とパン粉をまぶして大量のバターで揚げ焼きにしたものだ。エスカルゴみたいな調理方法だな。バターの塩気とクリーミーで濃厚な風味、香草の清涼感、パン粉のカリカリした食感と焼いたタコのグニッとした食感が合わさって癖になる感じの料理だ。


惜しむらくはタコの味がバターに負けているような気がする。元々はホタルイカみたいな小さなタコをまるごと使う料理らしい。今は不漁だから仕方がない。


サンドイッチを手に取ってみる。ふかふかした白いパンの間にレタスのような葉野菜とそれに挟まれた魚の身が見て取れる。魚は鯖のような肉厚の青魚のようだ。表面がざらっとしていて竜田揚げにされているような感じがある。


みじん切りのタマネギが入ったソースがかかっていてとろみがあるようで流れ出ては来ない。ソースがパンに染みないようにする役割がレタスにあるようだ。


かぶりつくとパンはふかふかながらもしっかりした堅さが有り身の締まった魚の堅さと合う。マフィンのようなパンだな。噛みしめていくとほどよく口の中で混ざり合ってソースの甘辛い味と共に調和が取れていく。レタスのシャキシャキした食感がいいアクセントになっている。さらにともすれば濃すぎる味を調整してくれている。


途中で炭酸水を口に含むと炭酸が口の中を洗い流してすっきりさせてくれる。サンドを食べつつカルパッチョとバター焼きを食べていくとあっという間に完食となる。


最後に炭酸水を飲み干すと会計をして外に出る。


店内が薄暗かったせいかものすごくいい天気に感じる。爽やかな風も心地いい。季節は冬に入った時期ではあるがこの身体にはこの程度の寒さはどうということはない。日差しが暖かいぐらいだ。


腹ごなしに海辺でも散歩したい気分だがセリアから呼び出すかも知れないと言われているしさっさと戻るか。それに、ここに来た目的はたこ焼きを作るためにタコを仕入れる事だ。


すでに用は済んでいる。長居は無用だ。時間があるときにまた来よう。


魔力を込めて消化を早めると駐車場に向かって走って行く。車に乗り込み来た道を戻っていく。


途中で夜を明かすことになるが地球と違ってこちらにはサービスエリアみたいなものは無い。いずれ出来るようになるのかも知れないが、無い以上は高速から降りて何もない駐車場に止めて過ごす。


周囲に街灯もなく真っ暗な中いつもの車中泊のように過ごしていく。座席を倒してベッドを作るとシートを敷いて簡易テーブルを出し、亜空間から余り物を出して食べる。


その後、眠りに就いて夜を明かした。朝になると朝食をとり、王都に向けて車を動かしていく。


家に着いたのは正午過ぎだった。家のドアを開けて入るとポストに手紙が入っていることに気づく。


差出人はセリアだ。なんだろうな? あまりいい予感はしない。


中を確認すると第五騎士団本部に来て欲しいとのこと。時間の候補はいくつかあったが直近だと今日の3時間後ぐらい。


このまま昼食を取らずにたこ焼きの試作に没頭しようと思っていたがそうなると気分が変わってくる。


早めにセリアの用件を片付けてからにしたほうが作業に集中できるかと考え、昼食を食べてから向かうことにする。


そして、第五騎士団本部に到着するなりいきなり中を案内された。顔パスになったらしい。


だが案内された場所は訓練場のような所だ。訓練に励んでいた騎士達の手が止まりこちらに好奇の目を向けてくる。


、、、なんか嫌な予感がするな


正体がバレたのか? これから囲まれて襲われるんじゃないかという不安が出てくる。あり得ないと思いつつ平然を装う。しかし、警戒は自然と行ってしまう。


見た感じ俺の相手になれるような強者はいないな。だが全員オードより強そうな感じがする。狩人だったらだいたい五ツ星から六ツ星ぐらいか。上級に届きそうな人間も何人かいるな。


だが、早々にこちらに興味を失ったのか訓練を再開して行く。その様子を値踏みしながら見ていると大きな魔力が二つ接近してくる。


片方はセリアだな。よく知っている。もう片方は誰だろう。知らない感じだ。セリアと比べてしまうと小さく感じるがシグンやルシオラと同じぐらいかもしれない。


二つの気配は真っ直ぐにこちらにやってくる。広い出入り口から並んで入ってくるとセリアともう一人はこちらにやってくる。


知らない方は男性だな。身長は180センチメートルぐらい。セリアより少し高いぐらいだな。がっしりした体格で良く鍛えられている。髪色は金色寄りの茶色でさほど長くない髪をオールバックにしている。


顔つきがけっこう厳つい。眉毛あたりの骨が前に出張っていて目つきがきつい印象を与える。それが仏頂面と合わさって終始睨み付けているように見える。


王都騎士団の制服を着ているから騎士なんだろう。腕章から第五騎士団所属だとわかる。


セリアの部下なんだろうがなんか怖そうな兄ちゃんだな、、、


手前までやってきたところでセリアから声がかかる。


「呼び出してすまないな、レイン。今日は紹介したい人間がいるんであって貰おうと思ってな。例の任務に参加するから顔を覚えておいて欲しい 」


「隣にいる男か? 」


「そうだ。名をレグルス・ソル・シルヴァリスという。第五騎士団の副団長を務めてくれている。頼りになる副官だ 」


「、、、、、」


紹介を受けたのに男は名乗りを上げてこない。しょうがないので俺から名乗る。


「俺はレイン・シス・プラムゼフレルドだ。レインと呼んでくれ。過酷な任務になるそうだが実力はあると自認している。よろしく頼む 」


一応握手を求めるが相手さんは拒否を選択したようだ。手を出してこない。


「、、、どうだかな? 」


「なに? 」


「私はお前の実力を疑っている。何処の国のものだか知らないが国が関わる任務に果たして参加させていいものだろうかと、、、」


「参加するにはお前に実力を認めさせろということか? 」


「そうだ。無理だと思うがな 」


「安い挑発だな。だが乗ってやるとしようか 」


シグンにはああ言ったが必要ならやるしかないな、、、

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