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第110話 退院 x 鉄の体

治療を終えて部屋を出ていく背中を見送りつつ考える。


先生には悪いが明日には退院するつもりだ。今の俺の回復力はかなりのものになっている。


魔石もコアも今回やそれ以前の戦い、さらには日々の生活でも成長してきている。その効果が出ている形だ。久しぶりに魔力量を調べてみる。


最大魔力量 魔石:82172

      コア:234755


また魔石とコアの差が開いてしまったな。魔石の方もかなり伸びたがコアの伸びが尋常じゃない。良いことなのか悪いことなのか、、、?


今後はコアブーストはますます控えねばなるまい


次の日の朝になるとすっかり魔力の通りは元に戻っている。全力で魔力を練り上げてみたいところだがそれをやると病院中が大騒ぎになりそうだから止めておく。


他の患者に何かあると申し訳ないからな。妊婦とか瀕死の患者とかいたら驚かせるのは危険だ。自重しておこう。


魔石の復元力があるから病院は要らないようにも思える。だが、妊娠中は魔力が使えない。小さな子供も魔力は発達していない。今回のことで健康な成人でも重傷を負うことや魔力を消耗しすぎた状態になることの危険性を改めて認識した。


人生において必要な機会はあまり多くないかもしれないが確かに必要なものだ。


朝食を食べてしばらくすると、またセルマ先生が検査にやってくる。


「お加減はいかがですか? 」


「だいぶいいな。もう退院できそうだ 」


「流石にまだだと思いますよ? 検査してみますね 」


三回目ともなると慣れたものだ。余裕を持って擬装を行える。だが、そう何度も受けたいものじゃない。これで最後にしよう。


検査している先生の様子に注目していると顔に驚きの表情が混じる。


「なるほど、、、そう言うことですか 」


手を外して衣類を整えると続ける。


「すっかりと直っているようですね。ものすごい回復力です。もう退院してもいいでしょう 」


「それは良かった。家の様子が気になるからな。早く帰りたい 」


「それは心配ですよね。例年よりも建物の被害は増えているみたいです。王都は今、復旧に慌ただしくなっていますよ 」


「それはしょうがないな。あれは人の力で何とかなるものじゃなかった、、、」


「それでもレインさん達が頑張ってくれたお陰で被害はかなり抑えられました。ありがとうございます 」


「そういう仕事を受けたからな。受けた以上やることはやる。それだけのことだ 」


そういえば報酬の話はしていなかったな。いくらになるんだろうか? 別にいくらでもいいんだが仕事ではあるからもらうものはもらっておかないと恰好がつかない。


「それにしてもセルマ先生には世話になったな。これほどの傷を負ったのは初めてだったから自分だけでは対処を誤っていただろう。ありがとう 」


思わず頭を下げてしまったがこちらでは感謝の時に頭を下げる文化はないんだった。まあ、いいか。


「そう言う仕事に付いていますから。患者がいる以上治療は行いますよ 」


先生はいい笑顔で応える。自分の言葉をそのまま返されてしまったな。だが悪い気分ではない。


「それもそうだな、ははは 」


「ふふふ 」


なんだか知らないが笑えてきた。先生も釣られて笑う。笑ったのはいつぶりだろうか?


着替えて病室を後にしようとすると先生から声がかかる。


「あの、、、レインさん。一ついいですか? 」


「うん? なんだろうか? 」


ちょっと言いにくそうな深刻そうな感じだ。ひょっとしてバレたか?


「言いたくないならかまわないのですが、過去に何か大きな病気などをされたことはありますか? 」


そう言えばそんな話をセリアとしたことがあったな。どう答えたものか?


「、、、ないと思う。覚えていないだけかも知れないが 」


ある程度正直に答えておこう。


「そうですか、、、レインさんはずいぶん独特な魔力経路をしているのでもしやと思ったんですが。でも回復がはやいのはそのお陰だと思います。特に心配は要らないでしょう 」


アキアトルの魔石を肉体に使用、亜空間で肉体を構築、腹には魔石とは別にコアがありブーストさせたりしている。心当たりが有り過ぎるな。先生は心配ないといっているが大丈夫か、俺?


「それじゃあ家に帰る。返す返すも世話になった。ありがとう 」


今度は頭を下げない。普通にしよう、ふつーに。


「はい、お気を付けて 」


~~~~~~~~~~~~~~~~~


病院から自宅に歩いて戻っていく。それなりの距離だがいいリハビリになる。天気は晴れ渡っていてすがすがしい空気だ。ちょうどいい風が吹いている。


しかし、レザンの痛々しい爪痕がどうしても目に飛び込んでくる。道に瓦礫が転がっていると言うことはない。この二日三日で優先的に片付けたのだろう。


だが、建物に目をやると戸板や窓ガラスが割れているところが目に付く。壁が崩れていたり屋根が吹き飛んでいる建物もある。威力のすさまじさが実感される。


家の近所まで来ると片付けを行っている人々がなんとなく気になってくる。様子を見ていると小さな子供も重そうな瓦礫を持ち上げて運んでいく。魔石の恩恵は子供でも戦力にしてくれる。この世界の人間のたくましさを見せつけられているようだ。


家に戻ってくると外観からは特に破損はみられなかった。鍵を開けて中に入り異常がないか確認していく。一階は問題なかったが二階に上がると雨漏りしたところを発見する。屋根がけっこうやられているらしくかなりの範囲に及んでいる。


これはけっこう大変な修理になるかも知れないな


外に出て屋根に飛び乗り破損部分を確認する。薄い金属板が張られていた屋根だったが端からめくれ上がって剥がれている。幸い大部分が飛ばされずに残っていた。鉄魔術で直してき直した後、足りない部分を亜空間から足して埋めていく。


これで屋根の修理は終わったか、、、


家の中に戻り雨漏りの部分を修繕していく。水術で水を抜いて排水口に流すと木術で傷んだ木を繊維から整えていく。もっとかかるかと思ったが一時間もかからずに終わってしまった。


魔術はやはり便利だ。この分だと王都の復旧もそれほどかからないのではないかと思う。


部屋の掃除をしてトレーニング器具を元に戻すとトレーニングを開始する。病院で寝ていたせいか久しぶりな気がするな。みっちりと鍛えていくと体が汗ばんでくる。


清発室で汗や汚れを吹き飛ばすと食事にしようかと思う。何か作ろうとしたが災害時にあまり排水を流すのは良くないんじゃなかったかと思い直して作るのは止める。


亜空間からカニ鍋の残りとかを出して食べることにした。


今、食料品店がやっているのか知らないが俺が買いにいくとその分誰かが買えなくなるかも知れないからな。しばらく亜空間のストックで暮らすのがいいかもしれない。


決して新たに作るのが面倒だからと言うわけではない、、、


ふと、ラディフマタル森林に作った拠点の様子が心配になってきた。現地に行きたいところだが道がどうなっているかわからない。通行止めになっている可能性もあるからまだ行かない方がいいか。しばらくは王都に留まるしかないな。


森林の環境が荒れたら魔物の動きはどうなるんだろうな? あそこにいる狩人だけで対応できるんだろうか? 俺が心配することじゃないか。レドならそこら辺上手くやってくれるだろう。


それより作成中の鉄の体について進めていくか。ようやく基礎部分は完成した。筋肉むき出しの人体模型といった感じだがコアを乗せれば動かすことは出来る。


胸の中心部分にコアが乗る台座を設置して早速動かしてみよう。


―換装…


…と思ったが止める。こんな街中でコアをむき出しにしたら気配を察知されて騒ぎになるかも知れない。魔境なら魔境で魔物を引き寄せてしまうが。


波動が漏れないようにコアを覆ってしまうと視界がゼロになってしまうからな。先にセンサー類を設置するしかない。


今のところ脳を含めた内臓は存在していない。必要ないからな。空っぽの状態でセンサー類を入れるスペースは十分にある。


まずは眼球を作ろう。実際の眼球の構造を模倣して自然な感覚で操作できるようにしたい。砂粒より小さな人工魔石を沢山作り出して網膜に当たるデバイスを作り出す。


球状の魔鉄製のシートの上に整然と人工魔石を並べていき網膜が完成する。カメラの絞りのような機構で瞳孔を作る。水晶体は生体部品を使ってみようか。魔力格が高ければ腐敗や劣化もしにくい。亜空間を使えば交換も容易だ。


それらの部品をガラスや魔鉄を使用して作った球状のケースの中に組み込んでいく。調整をしながら配置していき眼球デバイスが完成する。


それを骨格に配置するために頭蓋内に保持するための骨格を作り出して人工筋肉により固定していく。


とりあえず視覚は確保できたか。


いつの間にか日が過ぎて朝になっていたので肉体を起こして人間として活動していく。


災害の状況が気になったので新聞を買って家に戻り読み進めていく。


どうやら当初想定されていたものより被害の規模は確かに小さくなったらしい。具体的なところが地図と共に示されている。


こうして報道されるとあの戦いは意味のあるものだったと実感できるものだな。賭に出てコアブーストを限界まで使った甲斐があったというものだ。


その後で腕を吹っ飛ばされたけど、、、


災害記事の終わりの方に死者数に関する記事があった。死者は二十二名、そのうちの半分は騎士団員と衛兵だそうだ。堤防を守っていた術士が川に流されたパターンが多いな。


それについて考えてしまった。


正体がバレるリスクを負って戦闘体で戦っていたらもっと被害は抑えられたのではないか、と。


簡易的にでも空中戦に特化した体を構築していればもっと上手く戦えていただろう。コアの魔力もあの時点で20万近くはあったはずだ。


まあ、考えても仕方のないことだ。


もともと戦いに参加する予定はなかった。森林の拠点を守りつつ消滅を見届けて魔石を入手する予定だった。


セリアに言われたから参加しただけだ。あそこまでやる必要はなかった。十分すぎるほどの結果を出した。それでいいはずだ。


参加する必要もないことだった。たまたまあそこにいて巻き込まれたからやれることをやったまでだ。俺がいなかったとしてもあのじいさんだけで十分に被害は減らせたはずだ。


、、、、、何を言い訳じみたことを考えているんだろうな


あのじいさんの攻撃で俺とシグンが減らした魔力と同等以上の魔力を減らしていた。完全に負けている。それが悔しいんだろう。俺は。


あのとき全力を出せていたらなんてのはただの言い訳、負け惜しみだな。人間体のままあれ以上のことが出来るようになればいいだけだ。


一層、狩人として強くなる決意を固めつつトレーニングをしていると郵便受けに手紙が入れられたことを感じる。


もう、届くようになったんだな、、、


気になったので確認してみるとセリアからだった。封を開けて読んでみると例のごとく呼び出しだ。


仕事の報酬についての話だろうか? 詳しくは書いていない。


日にちの指定は明日以降なので今日はトレーニングとロボットの製作にいそしむ。


、、、ロボットって言う感じじゃないな。モーターとか電源とかないしな。機鋼式戦闘体と呼ぶことにしよう。土の体の方は柔塊式戦闘体として区別するか。


トレーニングが終わると機鋼式の作成に集中する。眼球、つまりカメラアイは設置したが、まだまだ空洞の部分が多い。そこを埋めるようにいろいろなデバイスを組み込んでいこう。


まずは声が出せるように声帯に当たるスピーカーを組み込んでいこう。ちゃんと装甲を纏えば人間に見えなくもない。もしもの時の擬装効果もあるだろう。


スピーカーといっても電気と磁力で振動させるのは魔術のあるこちらでは効率が悪い。魔鉄やセルロースや樹脂といった素材を複合して振動板を作り出して設置しよう。それを魔力で振動させて音を出す。


反響させるために口蓋を複合素材で作り音の通りを良くする。そうすれば強力な音響衝撃魔術を放つことも出来る。


腹部の空洞には何を入れようか。胃腸や肝臓などがない分かなりのスペースがある。ガスタンクを入れて口から火炎放射が出せるようにするか?


、、、いや。亜空間から直接出せばいいだけだ。あまり意味がないな。


どうするか? 亜空間から取り出して使えるものは設置しておく意味がない。常に働き続けるものでなければ有効じゃない。


いろいろ考えてバランサーを設置することに決めた。樹脂製のパックを作り出してその中に鉄球と水を入れる。水術で鉄球の位置を制御すれば空中での姿勢制御も楽に出来るようになるだろう。


次は肺の部分か。何とかして空気中の魔力を取り込めるような装置を作り出して機能させたいな。


柔らかい樹脂を材料に肺を模倣して袋を作り出してみよう。肺胞に当たる極小の袋の一つ一つに極小人工魔石を配置してそこに刀用に作り出しておいた魔銅を毛細血管のようにわせて全身に魔力が回るように出来ないだろうか。


まずは袋の作成から初めて行くが思いのほか作成に時間がかかりそうだ。コアの余ったリソースで生活の合間に処理することにしよう。


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