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第108話 防災戦 x 幕引

―ドオォォォォ…!!


シグンが突入した後、レザンの下部で大きな爆発が起こる。


周辺に高熱を伴った爆風が広がっていくが俺はそれに抗うように横から突き進んでいく。


―放射雷刃術式、


防御を最小限にして爆風の中を掻い潜って進んでいく。皮膚は焼かれていくが無視して進む。なるべく爆心地に近づくことが重要だ。


やがて爆発が最大限膨張して止まる。


―来るっ!


俺は来るべき瞬間の為にグライダーをパージして雷術と同時に空術の準備をしていく。


爆発は生み出される高圧力により周辺にすべてのものを吹き飛ばしていくがその中心には空白が生まれる。


それ故に爆風が広がりきった後にはそれを埋めるように周囲から物体を吸い寄せていく。


―空射加速


吸い寄せられる瞬間に自分から加速していき爆心地に突撃していく。


その少し先にレザンの魔核が見える。


表面がむき出しの状態・・・


好機っ!


―蒼閃雷撃斬


叩きつけるように刃を振るい黒々とした魔核に打ち付ける。


その瞬間に接触部から閃光がほとばしり雷電があらぬ方向に走り抜ける。雷術の余波が魔術構成を砕いていきレザンの構体を分解していく。むき出しになりつつある魔核の表面を電撃が覆う。


しかし、魔核に変化は見られない。間近で見ると黒の中に赤や紫のもやのようなものが蠢いている。


相手の魔力をゴリゴリと削っている手応えはあるのだが底が見えなさすぎる。


これじゃ足りねぇなぁっ!


一気にコアブーストを限界まで解放する。肉体への負担は頭の片隅に追いやった。


その瞬間に閃光は急激に輝きを増していき周辺を光が白く染め上げていく。体中を形容しがたい痛みが駆け抜けていくが耐える。


ぬっ…うぅぅっ…


時間にして数瞬の事だっただろう。或る瞬間を越えるとフッと全身から魔力が抜けていくような感覚が襲ってくる。


ここまでか、、、


気がつくと俺の体は落下を始めていた。大の字になって落ちていく。


視線の先に遠ざかるレザンが見える。下半分が吹き飛ばされて無くなっている。徐々に修復されていくだろうがしてやったという思いがわいてくる。


そんな時だった…


ッ!?


突如として危機感を感じ本能的に体をひねる。


その直後、左肩にトンッと軽く小突かれるような衝撃を感じた。


違和感を感じて左肩を見る…


肩からその先がなくなっていた。


空中を何かが舞っているのが視界に入ると視線で追う。


切断された俺の左腕だ。


頭の中が混乱しているのだろうか? 飛ばされた自分の腕を見ているのにどこか現実味が感じられない。


痛みが感じられないことが恐ろしくなってくる。


流れ出る血の感触で現実に引き戻されると止血を行い海面との衝突に備える。


背中を重点的に固めるとすぐに海面と衝突して衝撃と海水の冷たさに襲われる。浮遊感を感じるが刀を持っているためか徐々に沈みつつあるようだ。


光る海面を見ると無数の泡が光に吸い寄せられるかのように登っていく。そこに置いて行かれているような恐怖感を感じると慌てて水術を発動して浮かび上がろうとする。


魔力が… 練れない!?


危機感を感じてコアによる分析をすると魔石や肉体はほぼ魔力を使えない状態にある。コアを使って簡単な水術を使いゆっくりと浮上していく。


水面に顔を出して息をつくと生きていることを実感できる。


何とか間に合った、、、


刀を手放さずに済んだことが幸いか、、、


鞘に収めるとそこで海水温がやけに低い事に気づく。


寒いな、、、血を失った所為か?


傷を塞いで左腕を再生させるためにコアから流して魔力を高めようとすると不意に頭上付近から声がかけられる。


「止めておけ、地獄を見るぞ 」


、、、誰?


声の方向を見ると長い白髪を後ろに流している厳つい感じのじいさんが海面上に立っている。


つぶやくような声だったが低くて良く通る声だ。はっきりと聞こえた。


どういうことだ?と聞き返そうとしたが上手く声が出せない。副作用がこんなところにまで、、、


そんな俺にかまわずじいさんは歩いて去って行く。レザンの方に向かっている。


とりあえずじいさんの言うとおりに左腕の再生はやめておいて止血だけにしておく。


動きの悪い体はコアによる制御でアシストしてある程度動けるようにする。


あのじいさん、、、何をする気だ?


必死で首を動かして行動を目で追うことにする。どうやら冷気を操って海面を凍らせているようだ。海面を歩いているのかと思ったが氷の上を歩いているだけか。どおりで寒いわけだ。


やがてレザンの真下に来るとツインソードを分離させて片方を氷の上に差し込む。


その剣を中心に更に氷が広がっていくと足場として完成したのだろう。白髪のじいさんはもう片方の剣を構えて踏み込んだ体勢を取る。


突如として魔力が膨れ上がる。


恐ろしいまでの魔力の高まりだ。大気が震えているような錯覚を覚える。構えている大剣は元々赤熱していたが更に赤みを増していき光を放つようになる。大気も熱で揺らめいている。


そしてじいさんに変化が起きる。


もともと色素が薄い感じの肌色だったがそこに入れ墨のような赤いラインが浮かんでくる。そこを血液が流れるように魔力が流れている。


あれも魔力変異なのか? そういうのもあるのか…


最高点まで魔力が達すると弾かれたように空中へ飛び上がっていく。


重力に引かれて減速していく前にリズミカルにくうを蹴って加速しながら上昇する。透明な壁を蹴り上がっているように見える。


空術かと思い魔力視で見るがぼんやりとしか見えない。近い魔術のようだが何か異なる。窒素か何かを操っているのか?


無意識下に行っているようで実に滑らかに発動されている。しかも、他の魔術を維持しながら。どれほど繰り返せばああなるのだろう?


射程圏内に相手を捉えるととうとう攻撃が始まる。


レザンは修復が完了したばかりだ。タイミングとしては申し分ないだろう。


大剣を振りかぶると切っ先を突き出して高熱を放出したのだろう。剣の向かう先、レザンの構成する空気の固まりが分解されていく。


熱風で雪を溶かしていくようにどんどん深く穴を空ける。穴から漏れ出る高熱は表面を伝いながら上昇していき熱を伝えながら全体を覆い尽くしていく。


表面を分解されて小さくさせられながら、真下から魔核に向かって高熱の風がせまる。


危機感を覚えたのかレザンは熱を逃がすように下に伸びる円錐状に形を変化させていく。


やはり対応してくるか、、、じいさんの方はどうする?


海面に浮かびながら見上げているとじいさんは更に熱量を上げて照射させていく。


あれは、、、熱変換か!?


俺以外で使っているのを初めて見た。何者なんだろうな、あのじいさん。狩人とも騎士ともなんか違う気がする。


熱閃の照射が終わるとじいさんはそのまま落下してきて氷の上に着地する。その衝撃で沈み込んで先端の丸く広がった部分が折れる。


レザンの姿を確認すると上下に細長い形状になり上空に伸びた細長い触手の束は減少している。


高度が落ちているな、、、色が薄くなっている?


遠目ではわかりづらいが魔核の黒い色が薄くなって灰色がかっているように見える。気のせいかも知れないが。


なんにせよこれ以上出来ることはなさそうだ。


俺はじっと何も無い空を見つめながら回復に専念することにした。


カイルゼインは飛び上がるために踏み込んだ場所、氷に刺した大剣の前に着地すると姿を変えたレザンを見上げながらつぶやく。


「ここまでだな、、、」


剣を引き抜いて鞘にしまうと振り返る。


その視線の先に走ってくるセリアとルシオラの姿が見える。


セリアはレインを、ルシオラがシグンを救助するために行動することを確認するとゆっくりと来た道を戻っていく。


ルシオラは海面をただようシグンを発見すると空術を使って氷の上から引き上げていく。


「またこっぴどくやられましたね 」


「う、、うる、、、せ、ぇ、、」


両手の指をすべて失い残る腕も火傷で皮膚がただれている。顔もほとんど皮膚を失って鼻も削げているがそれでも命に別状はない。遅くとも一週間で元に戻るだろう。


ルシオラはそれを確認するとわずかにほっとしたようなほころびを表情に見せる。


お姫様抱っこで抱えられながら氷の橋を戻る道中で人目を気にしたシグンはルシオラに訴える。


「お、、おろせ、、、自分、、で、、立つ、、、」


「ダメです。このまま皆に団長の勇姿を見てもらうことにしましょう 」


「お、おい、、ふざける、、な、、」


ルシオラはそれ以上聞くつもりはないようでシグンの訴えに何も返さずそのまま病院に向かっていった。


セリアはレインを発見するとレインコートを脱ぎ捨てて海中に飛び込む。


脇に抱えつつ氷の上に上がるとセリアはぐったりと疲労したままのレインに声をかける。


「大丈夫か、レイン 」


「なんとかな、、、」


強がりだった。今は何とかコアによる制御で動かしている。魔石による回復で体は多少動かすことは出来るようになっていたが回復に専念するように機能を割り振っている。


「肩を貸そう。立てるか 」


「そのぐらいなら問題ない 」


実際はおぶってもらいたかったがプライドが邪魔をして自分の脚で立つことにした。


セリアが肩に手を回して立つのに合わせて脚に力を入れるとそのまま病院に向けて歩いて行く。


セリアの方がレインより若干背が高い。そのためセリアはレインに合わせて少しかがんだ状態で歩いている。


(どのみちあまりカッコつかないな )


そのことが多少気になるレインだった。


その後ろではレザンが元の形を取り戻そうとしていた。直に高度を戻して前進を再開するだろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


目を覚ますと木目の映える天井が見える。


知らない… 天井だ…


というのは嘘だ。あの後、病院に運ばれてベッドに寝かされると不覚にも30分ほど眠ってしまった。この天井は寝る前と寝た後で二度目だ。


眠るつもりはなかったが体が勝手に寝てしまった。コアは起きているから何かあったら起こせばいいのだが急な対応に不安が出てくる。


いきなり変な検査をされていたら危なかったかもな、、、


腹に一物抱えている身としては身体を調べられるのは困る。外傷だけだから何もないとは思うが。


同じ部屋に運ばれたようで隣のベッドにはシグンが寝ている。顔の皮膚が削げていて外見からはシグンだとわからなかったが魔力波から判断できる。


その魔力波も弱っていて判別がしづらかった。限界ギリギリまで魔力を使用した副作用と言った所だろうか? 魔力の流れに障害が起きているのかもしれない。


俺も同じような状態だろうけど、、、


そんなことを考えていると人の気配が近づいてくる。部屋の扉が開くと亜麻色の髪を長く伸ばした人物が入ってくる。その後ろにはセリアとルシオラがいる。


知らない人物は丈の長い白衣を着ている。医者なのだろう。髪が長いし、柔和な顔立ちをしているから女性かと思ったが骨格からしてどうやら男性のようだ。


「二人とも命に別状はありませんが魔力回復に異常があるみたいですね。一週間ほどで魔力の巡りは正常に戻ると思いますが傷の治りはその分遅くなるでしょう 」


見ただけでそこまでわかるのか。これは警戒しておかなければ、、、


「外傷は早めに治癒術で治していきますね。その前に全身の魔力の流れを探らせていただきますよ 」






、、え?


それはちょっとマズいかも知れない。


お腹の中に大きめの異物がありますね。切除しましょう。なんて事になったらシャレにならない。


死んじゃう、俺が


いや、死ぬだけならまだいい。独立して動き出したらどうすりゃいいか本当にわからん。


とりあえず時間を稼ごう。


「先にシグルを何とかしてやってくれ。絵面えずらがひどすぎて見ていられん 」


俺の言葉にルシオラが同調する。


「そうですね、ただでさえ見るに堪えない顔が余計に見れない顔になっていますから。セルマ先生に直していただけたら少しはマシになるでしょう 」


―ガバッ


「どういう意味だコラァッ! 」


起きてたのか、、、


「どういう意味も何もそのままの意味です。頭も見てもらったほうがいいかもしれませんね。先生、お願いします 」


「なんだとっ 」


ルシオラは辛辣だな。容赦がない。だが俺にとってこれは悪くない流れだ。たたみかけよう。


「セルマ先生、俺は後で大丈夫だから早くシグンを見てやってくれ 」


「そうですね。二人とも病院の中では静かにお願いします 」


セルマ先生が割って入るとシグンはピタリと大人しくなる。先生に頭が上がらないのか、単に根が素直なのか。


「ではシグンさんから見ていきますね 」


そう言うとこちらから反対側に回りシグンの胸の中心付近、魔石のあるあたりに手を当てる。


こちらから見える位置に行ってくれたのは好都合。何をするのかが良く見える。


魔力の流れを探るとは果たして何をするのか、、、


少しも見逃さないように神経を研ぎ澄まして凝視する。


掌から弱い魔力の波動を出している。それが魔石に当たると反応してバイパスを通り全身に広がっていく。広がった波動は末端で反射されて魔石に帰り、手を介して術者に伝わるのだろう。


身体の表層部分しか捉えることは出来ないがおそらく内蔵も同様にスキャンしている。


マズいな、、、実にマズい、、、


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