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第107話 防災戦 x 共闘

堤防の上からでも肉眼で戦っている様子がわかるぐらいにレザンは王都に接近してきている。


レインの戦いぶりを眺めながらセリアは笑みを浮かべ感嘆の言葉を漏らす。


「やるな、、、しばらく見ないうちにここまで強くなっているとは、、、」


それに同調したようにルシオラも感想を口から漏らす。


「すごいですね。あんな風に魔術を扱えるなんて。さすが八ツ星狩人と言ったところでしょうか、、、」


吹き荒ぶ風はレザンが接近してきているにもかかわらず強度を増してきたりはしていない。それどころか心なしか弱くなってきているようにも感じられる。


一人の人間が自然災害相手に渡り合っているような光景。それに触発されたのだろうか? シグンは興奮で全身がわなわなと震えていた。


「うおおおおおおおぉぉぉぉ……!」


感極まったのか突然叫び声を上げる。


すぐ隣にいたルシオラは不意の叫びに驚いたのかビクッと反応すると、気でも触れたのか?と言った表情でシグンの方を見やる。


「俺も行くぞっ! 」


「えっ!?、、行くって、ちょっ、ちょっとっ! 」


ルシオラの静止も聞かずレインコートを引きちぎるように脱ぐと放り投げて堤防から飛び降り、砂浜に着地する。落下中に空術で体の周りに風の障壁を張っていてそのまま砂浜を駆けていく。


その勢いで海中に入っていくのかと思われたそのとき、踏み込んだ足元が爆発して空中に跳び上がる。


放物線を描き十数メートル飛ぶと今度は反対側の脚で海面に踏み込む。その瞬間またしても爆発が起こり再び前方に飛んでいく。


それを繰り返しながら進んでいくとだんだん射出角が小さくなっていき速度が増していく。爆発の間隔も短く、リズミカルになっていくとシグンは海面上を前傾姿勢で弾丸のように走って行く。


「うおおおおおおおぉ…!! 」


叫びながら荒れ狂う波を貫通していく様はまるで暴走機関車の様相を呈している。


そのまま突き進んでいくとやがて無風地帯との境界線が迫ってくる。


―ボシュッ…


ためらうことなく突入すると周囲の変化になど目もくれずレザンの本体を見据える。


「ははっ、よく見えるぜっっ! 」


いちいち口に出さないと気が済まないのかそう叫ぶとレザンから伸びる魔力線、その魔術様式を確認して獰猛な笑みを浮かべると低くつぶやく。


「ぶっ飛ばしてやる… 」


更にスピードを上げると両足で海面に着地して一際大きな爆発を起こす。


その勢いを利用して垂直に跳び上がると足の裏から爆噴射を出してぐんぐん上昇していく。


その先にはレインに向かって伸ばされた幾本もの魔力線が見える。それに向かって爆破魔術を放ち吹き飛ばす。


爆拳バルト・ボルク!」


爆破により一本の魔力線を砕くと、その爆発の反動を生かして別の魔力線に取り付き破壊していく。


そうやって次々と破壊していくと魔力線がまとまってある場所に向けて大きめの魔術を放つ。


爆撃波バルディヴェーザ!」


両手を広げて手首で合わせるとそこから連続して伸びる爆発を打ち出していき、魔力線をまとめて破壊する。


シグンの攻撃に続いて数拍遅れて空気弾が爆発していきあたりに爆音が鳴り響いていた。


ボボボボボボボ……


すべての爆発が終わるとシグルは両手足からパルス状に小さな爆発を出して空中に静止しようとする。


その視線の先には黒々としたレザンの魔核が光を反射して妖しくきらめいていた。


空気爆弾が一掃されてすっきりした空間をシグルに向かって飛んでいく。


よく見るとシグンは両手足から細かな爆発を出している。ロケット推進で空中に浮かんでいる。


器用だな、、、


だが制御はけっこう難しいらしくふらふらしている。


隣に移動して俺も空術でホバリングして横並びになる。


レザンを見ると突然の闖入者ちんにゅうしゃに混乱しているのか沈黙をしている。


ここからどう攻めるか話でもしてみようかと思うが話しかけていいのか、これ、、、


声をかけたら集中が切れて落っこちたりしないよな?


迷っていたらシグンの方から声をかけられる。


「レインッ! 二人で同時に攻めるぞっ! 挟み撃ちだっ! 」


そんなに大声を出さなくても、と言いたいところだがそれだけ余裕がないんだろうな。俺も大声で返す。


「わかった! 俺が後ろから攻める! お前は正面から攻めろ! 」


言うだけ言って直ぐさま加速して飛んでいく。返事は待たない。


シグンは何か言いたいようだったが無駄な遣り取りは要らないだろう。


横を通って後ろに回ろうとすると側面から触手が伸びて襲ってくる。急加速して躱していくと回り込んで本体に取り付き白兵戦に持ち込んでみる。


魔力を込めて思いきり切りつける。


―ズムッ


しかし、刃は途中まで切り裂いたものの途中で止められてしまう。


堅くなってやがる、、、


攻撃が緩くなったと思ったらこういうことか


ぬっ、、、


刀を引き抜こうとすると切ったところを修復されて抜けなくなっている。


チッ、、、しょうがねえ


周囲では俺を中心に何本かの触手が生えてきて迫ってきている。


―操雷術式、纏雷


周囲に雷撃を放出して吹き飛ばしていく。刀にも流して本体に穴を開けると加速して上に逃れる。視界の先にはこいつを空中に固定している触手があるので試しに切りつけてみた。


―ガキィィッ


か、、、かてぇ、、、


刃は軽く弾かれる。こいつを支える要の部分だ。容易に破壊はできないようだ。


こいつは厄介だな。どういう攻撃が有効かわからん。下手に消費が大きい魔術は使えないな。


どうするか…?


「俺に命令すんじゃね~っ! 」


レインに向かって叫ぶがその背中はすでに小さくなっている。特に聞こえた様子はない。


「ちっ、、しゃあねぇ 」


シグンは気を取り直すと水平に倒れるような姿勢を取って脚の爆発を強めて飛んでいく。


レザンはそれに対して触手を生み出して迎撃しようとするがシグルの動きはそれよりも速く、体勢が整う前に本体に接近されてしまう。


「おせえよっ、、、爆拳バルト・ボルク!」


両腕を突き出して爆破魔術を繰り出す。レザルの体表を衝撃波が伝わり迎撃用の触手が霧散していく。


(効いたか? )


手応えは十分なように思われた。しかし、


「なんだとっ!? 」


レザンの正面は大きくへこんでいるもののそれだけだ。そのへこみも徐々に元に戻っていく。


「クソがっ 」


自分の渾身の攻撃が効いていないことに激高したシグンはがむしゃらに爆拳を繰り出していく。


ドドドドドドドッ……


連続して爆音が響き渡る。それに合わせてレザンの体は変形しているが力を受け流しているようで魔術構成は破壊できないでいる。


シグン自身も手応えのなさを感じているようでその表情はさえない。


結局、攻撃を切り上げて距離を取ると出力を絞ってホバリングをしつつ息と魔力を整える。


そこに同じように攻撃を切り上げてきたレインが合流しに向かっていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~

(別視点)


横殴りの雨風が吹き荒れる中、堤防に設置された階段を登っていく者がいる。ゆっくりとした足取りだが姿勢に寸分のゆらぎもない。吹き付ける雨粒も風もそこに壁があるかのようにその周囲を避けていく。


後ろに流した長い白髪、顔に刻まれた深いしわ、眼光は鷹のように鋭い。先王カイルゼインである。背中に二本の大剣を背負い戦場へおもむかんとしている。


階段を上りきり一帯を結界で覆うと騎士団長達に話しかける。


「今はどんな状況だ? 」


「私から回答させていただきます、先王閣下。レザン本体に対して接近前に大砲を用いた攻撃を行いましたが効果は確認できず。現在騎士団と協力関係にある狩猟者、レイン・シス・プラムゼフレルドが空中戦を継続中です。有効性は確認できています 」


「ほう、、、」


魔術に集中しているカイレンの代わりにルシオラが状況を説明していくとカイルゼインの表情にほころびが出てくる。


「それと、、、」


手で海面の方を指し示すとその先に視線を動かす。高速で動く赤いものが見える。


「ただいま、第七騎士団長、シグン・シス・プラムゼフレクスが接敵中、、、ちょうど突入するようですね 」


視線の先ではシグンが境界面を突き破っていく。その後も勢いが衰えることなく突っ走っていき上空に飛んでいって暴れる様子が確認できた。


「ほう、、、なかなかやるじゃないか 」


カイルゼインは獰猛な笑みを浮かべると続ける。


「俺も行くとしよう。ここは頼む 」


「はっ! 」


主に堤防を強化しているカイレンに対して声をかけると堤防から飛び降りて波打ち際まで行く。


背中の大剣に手をかけると魔力を流して鞘についた留め金を外す。鞘が開いて剣が解放されると両手にそれぞれ大剣を握り自然体の構えを取る。開かれていた鞘は魔力操作を止めると仕込まれた機構により自動的に閉じて留め金がかかる。


手にした大剣の同士の柄尻の部分を接触させると備え付けられた機構により金属音を立てて強固につなぎ合わされる。双頭の剣が完成する。


そのツインソードの切っ先を天地に向けるように構えると周辺一帯の大気が渦巻いていく。天を指す刃は赤熱していき、地に向けられた刃は冷気を発するようになる。


次の瞬間には海面が凍り付いていき接近しつつあるレザンに向かって伸びていく。


カイルゼインは当然のようにその上に足を踏み出すと氷の橋の上を渡っていく。


「どこまで通用するか、、、」


その瞳は挑戦に期待を膨らませる子供のように輝いていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


再びシグルと横並びになってホバリングする形になる。


距離を取りつつじっと見ているがレザンは特に攻撃してこない。防御を固めてじっとしていた方が魔力消費は少ないと判断したようだ。


概ねその通りだよ、、、


これまでの戦闘情報からこれが最善であると導き出したのだろうか?人工知能のように淡々と行動を決めてくる。嫌な敵だ。


シグンの方を見ると俺と同様に攻略方法を考えているのだろう。腕を組んでなんだか難しい顔をしている。


両足からのロケット噴射だけで姿勢を維持できるようになっているな。最初はふらふらしていたが今では空中に静止できるまでになっている。噴射量も少なく済んでいる。


俺もそうだがこの戦闘の中でずいぶんと魔術が向上しているな。それは今は別にいいか。


魔力は多少回復してきているが心許ないな。王都に本体が到達するまでそれほど猶予はないかも知れない。


ここいらでひとつ、〆《シメ》の大きな攻撃を決めておきたい。生半可な攻撃だと学習されて無効化されてしまう。相手が対応できない攻撃を残りすべてを賭けて決めるしかないな。


そのためにはシグンの協力が必要になるが、、、


再びシグンを見ると向こうもこちらを見て先に口を開く。


「レイン、話があるんだがいいか? 」


どうやら同じ事を考えていたらしい。


俺たちは作戦を示し合わせる。


シグンは噴射を止めて落下していく。


高度が下がると再び燃焼させてレザンに向かって水平飛行をしていく。


「オラァァァァッ! 」


ゴォォォォォォォ、、、、


相手の真下付近まで来ると一気に噴射の出力を最大まで上げてほぼ垂直に上昇していく。赤い弾丸のように高速で飛翔し、レザンの底の部分、中心へ目掛けて一直線に突き刺さる。


―ズゥンッ!


衝突の直前に両手を突き出して掌底を食らわせると衝撃でレザンの底部は大きくへこんでいく。


動きが止まる瞬間、へこみの頂点でシグンは練り上げていた魔術を解放する。


爆侵バルガザード!!!」


混合ガスの高速高圧噴射が発生してレザンの体は削り飛ばされてどんどんガスが侵入してくる。


穴が深くなり広がっていくと入り口付近から爆発が起こり連鎖して内部の深い部分に向かって爆発が起こる。


爆発が起こりながらもさらに混合ガスは内部に向かって吹き込みながら次々爆発をして圧力を内部に押し込んでいく。


深い部分に行くほどに圧が高まっていき大きく穴が広がる。


そして、最深部に達すると極大の爆発が起こる。


爆風は穴を広げながらも出口に向けて高熱を伴いながら吹き出していく。


今度は反対に魔術を維持しているシグンに奔流が襲いかかる。


高熱のジェット気流に魔力を込めて対抗するが残りの魔力では抗いきれない。威力の増大にほとんどの魔力を費やしていた。


爆風を受けて両手の指がすべて吹き飛び体の至る所を焼かれながら海面に向かって吹き飛ばされていく。


それでも本能のなせる技なのか致命的な部分だけは魔力により守り抜いている。


(あとは、頼んだぜ、、、)


薄れゆく意識の中でそうつぶやくと水飛沫を上げながら海面に落下していった。



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いつも楽しませて貰ってます。 ところで第七騎士団長はシグルさん?シグンさん?
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