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第106話 防災戦 x 突撃

風を受け止め地面との接触を解くと一瞬のうちに空中に踊り出す。


糸を操り、板を変形させながら飛行の調整を行っていく。


しかし、最初は思うように姿勢が安定せずコースに乗れないでいる。打ち付けてくる雨粒と体を煽ってくる風が不快だ。


しかたなく空気魔術を併用して何とか目標の軌道に入ると進んでいくにつれ空術を使用しなくても制御できるようになっていった。


円の外周を回りながら徐々に中心に近づいていくルートを選択したがなんとかうまくいきそうだ。だんだんと無風地帯の様子が見えてくる。


あと数メートルの位置まで近づくと空術を使用する。


―操空術式、空射加速


―ボシュッ…


境界線を斜めから貫くように突っ切っていくと急に日差しの中に躍り出る。


雨も風もない静かな空間をグライダーで滑空していく。


すぐ隣では暴風雨が吹き荒れているのに中は驚くほど静かで穏やかだった。


中と外は結界で隔てられているかのようにきっちりと分断されているように思える。


円柱の中心部を見下ろすとそこにはバスケットボールぐらいの大きさだろう、黒い球体が浮かんでいる。高度は海上500メートルぐらいか。俺は700メートルぐらいの位置にいる。


あらためてこうしてみると恐ろしいまでの魔力量をひしひしと感じる。


考えてもみればこんなクソデカい魔石が存在しているなんて冗談みたいだ。上級上位の大きな魔物でも掌からはみ出す程度だぞ。


魔力視で確認すると空気の魔力に強い反応がある。


なん…だ… これは…


その姿に戦慄する。


黒い魔核を中心にして球状に制御下に置かれた空気が取り巻いている。リーンが言うには構体というらしい。その上部から何千、いや何万もの空気の糸が上空に向かって伸びている。


どうやらその糸で上空の気流などを掴んで浮いているようだ。


その姿は、葉っぱの部分が異様に多くて長い蕪菁かぶのようにも、形が異物な白菜のようにも、菌糸を大量に伸ばしているデカい胞子のようにも見える。


ひょっとするとアルグラントもこう言うやり方で浮かんでいたのではないだろうか? 魔術がわからなかった頃は反重力の可能性も考えたが今では魔術で重力に干渉するのは不可能だと考えている。この予想はけっこうあっているんじゃないだろうか。


無風状態の中を滑空しているだけなので高度は徐々に下がっていってる。


高度が落ちる前に一当てしたいところ、、、


グライダーを操って接近を試みる。


今のところ反応はないがこれほどの魔力だ、反撃は怖い。


内心びくつきながらも接近していくと50メートルぐらいの距離までやってくる。


まだ反応はないようだ


更に近づいて残り30メートル。ここら辺で攻撃を試みる。


左手にグライダーの手綱たづなをまとめると、空いた右腕で衝撃魔術を放ってみる。


―バシュッ


放たれた衝撃波はレザンを覆っている空気の層を貫きながら進んでいくが途中で消滅してしまう。


俺の使える魔術で一番射程が長くて出の速い魔術はこれなんだが相性は良くないのか?


様子をうかがっていると空気層を修復したところから空気の触手が伸びてくる。


ヤバッ…


―操空術式、空射加速


ドシュッ


先端を尖らせて錐のようにねじらせながら迫ってくる空気塊を加速してギリギリで躱す。


しかし、グライダー操作を片手にまとめた所為せいでバランスを崩してしまう。思いがけない方向に飛んでいきグライダーを中心にぐるんぐるん回転してしまう。


ぬぉぉっ…


両手でグライダーを操ると動きを制御して姿勢を立て直す。しかし、その間に高度は少し下がってしまった。有効距離から遠ざかってしまっている。


グライダーで自由に飛ぶための魔術を構築するか。幸いにして相手からはあれ以来特に反応が無い。いつ攻撃が来るかわからないがこの隙に早いとこ作成してしまおう。


既存の空気魔術の組み替えで何とかなりそうだ。そう時間はかからずに完成する。


―送風術式、通風回廊


魔力域を自分を中心に円柱状に広げて風をながしていく。グライダー部分には前方から風を受けるようにして揚力を発生させて、そこを通過した風がひるがえって俺の背中を押すように流れていく。


ビュオォォォッ…


風切り音と共にグライダーは前進していく。いい感じだ。加速、減速、旋回、上昇、下降。魔力域と魔力圧の制御で自在に飛べる。体重移動などの細かい制御は要らないから攻撃もしやすい。


俺は最高速度がどれぐらいになるのか試してみる。


ゴオォォォ…


ヒャッハーッ! 風になるぜぇー


、、、なんてやってる場合じゃなかった。性能評価も終わったので戦うとしよう。


レザンが上空に伸ばしている触手に接触しないように高度を取ると、一気に急降下して衝撃波を放つとそのまま抜けていく。


さっきと同じように反撃をしてくるがそれを余裕で抜き去ると再び上昇して急降下攻撃を繰り返す。


確実に魔力を消費させているが今ひとつ手応えがないな、、、


だが今のところこれしか手がない。


繰り返し攻撃を行っていくと何度目かの急降下の時、レザンは降下軌道上に錐状触手を伸ばしてきた。


マズいっ、、、


咄嗟のことで回避は間に合わない。迫り来る触手に向かって衝撃波を放つ。


何とか吹き飛ばして下に抜けようとするがそれを読んでいたのか進む先にも新たな触手が待ち受けている。


チッ、、、


急いで刀を抜くと体をひねりつつ掠めるようにギリギリで躱しながら触手に向かって切りつける。


魔力を込める間はなかったが何とか素の攻撃力だけで切断して構成を散らしていくと触手は空気に解けていく。


なんとか切り抜けて一旦距離を置いて相手を観察する。最初と同じ様にただ浮いている。俺の攻撃を意に介していないような魔核を睨み付けながら考えを巡らせていく。


こちらの動きを学習しているように思える。攻撃に合わせて相手の攻撃パターンは増えていくんだろうな。攻撃をすればするほど洗練された反撃が返ってくると言うことか。


厄介な相手だがまあ、それはいつものことだ。それにちゃんとした攻撃が来るならその分、魔力は消費されたと言うことだ。それはそれでいい。


問題は向こうの方が圧倒的に魔力量が多いと言うことだな。少々減る量が増えたところでビクともしないだろう。とにかく一撃の質と手数を増していくしかない。


面倒だな、どこまで持つか、、、


―通風回廊


あらためて加速して接近していくと迎撃の触手が三本形成され迫ってくる。


タイミングはバラバラに来ている。一本目をギリギリで躱して切断すると二本目も同様に切断する。


三本目を上に避けるとそれに脚をついて刀を突き刺し、縦に切り裂きながら本体側に突き進んでいく。


根元から本体に到達するとそのまま刀を押し込んでいき、今度は本体の上を切り裂きながら進んでいく。


魔力を込めた刀身は相手の魔力を砕いて行き、切り裂かれた部分は大きく抉れたように分解される。どのぐらいの消費になるかわからんがちまちま魔術を当てていくより効果はありそうだ。


このまま一周してやろうかと思っていたら行く手に何本もの細長い触手が生み出される。


チッ、、、


―衝撃術式、斬撃波


刀を本体から引き抜いて横一閃に振るう。刃から鋭利な衝撃波が飛んでいき触手は根元から切断されて虚空に霧散していく。


そこを正面から抜けていくとレザンの体を蹴って再び空中に飛び出し加速して距離を取る。


振り返ってみると切断したもの以外にも何本もの触手が形成されていた。逃げなければ掴まっていたかも知れない。やはりどんどん手強くなっている。


レザンはこちらを脅威と見做みなしたのか生み出した触手をこちらに伸ばしてくる。けっこうな速度だ。


それを回避すると俺の後を追ってくる。速度を上げると向こうも速度を上げて追いかけてくる。


それならば、、、


速度を上げつつも引きつけて本体の周りを円を描くように旋回していく。


触手の束は俺の狙い通りに本体に巻き付くように動かされている。本体が同じ速度で回転すればほどかれるが本体はそう速くは動けないようだ。


今だっ…


―操雷広射術式、


触手がある程度伸びたところで急加速して本体に接近すると触手の束、その根本付近に向かって強烈な雷術を刀身から放つ。


散華さんげ雷樹らいじゅ


一直線に進んでいった雷撃は接触する手前で幾本もの細かな雷に分かれていきそれぞれが触手を分断していく。ぶつかりながら進みつつも更に枝分かれしていきその被害を広げていく。性質の異なる魔力のぶつかり合いにより時折火花のような光が散っていく。


ぬうぅっ…


魔力線を維持しながら魔力を流し込んでいき放出を維持していくとすべての触手の切断に成功する。


よしっ


そのままの軌道で切断した間を抜けていく。


これでそれなりに減らしたはず。こちらも魔力を消費したが時間をおけば十分に回復できるはず。


通り抜けて距離を取ろうとするが突然危機感が襲ってくる。


…ッ! ―空射加速 


簡易的に空術を発動させて自分を吹き飛ばすと一瞬の間を置いて爆発が起こる。


爆風により更に急激な加速が襲ってくる。回転も加わり自分がどこを向いているのかわからなくなる。


クッ…ソッ…


グライダーを維持しつつ海水面を確認して上下を認識する。向きを意識して空術で姿勢を制御していく。


―操風術式、通風回廊


安定すると再び飛行術式を発動させて高度を維持しつつ距離を取る。


今のはどんな攻撃だったんだ?


魔力視に集中して注意深く観察しているとレザンから丸い空気の固まりが放出されふよふよと漂うようにこちらに近づいてくる。


球体には紐状のものが付いていて本体と繋がっている。


これは先ほどの攻撃と同じなのか?


試しに衝撃魔術を放ってみる。衝撃が当たったその瞬間…


―ボッッッッッ・・・!!


爆風が広がり衝撃波と共に襲いかかってくる。全身をビリビリと衝撃が貫いていく痛みに耐えつつグライダーをたたんで爆風に任せて吹き飛ばされていく。


自分の体勢を把握するとグライダーを広げて勢いを殺しつつ上昇して距離を取る。


さっきとほぼ同じ魔術だな。圧縮した空気のたまを解放して爆発させる魔術、空気爆弾と言ったところか。初弾より次弾の方が威力がずいぶんと上だった。パターンを試しているのか?


考えているとレザンは次々と空気爆弾を放ってくる。速いものや遅いもの、いろいろな速度を混ぜてそれぞれが異なる軌道で迫ってくる。


とりわけ速い速度で接近してくる爆弾に先ほどと同じぐらいの衝撃波が当たるように遠くから放つ。


バンッ 


なに!?


爆発させるつもりで放ったが空気弾の表面で弾かれてそのままこちらに接近してくる。


速度的に避けられるかとも思ったが全体としてこちらを囲むように多数の爆弾が展開されている。後ろに引くぐらいしか逃げ道はないがそうすると最終的に場外に追いやられそうだ。


そうなると空気爆弾で無風地帯を埋め尽くされて戻ってこれなくなるかも知れない。その状態でコイツが川を遡上していくと堤防や建物を爆破される。


ここで爆破させるしかないか、、、


―斬撃波


突きを繰り出して斬撃波を放つと魔力線の方を切断して爆発させる。強力な衝撃波が周囲に広がる。


空術を駆使して爆風を軽減しつつ迎撃していくために展開されている空気爆弾の間を駆け巡っていく。


魔力線を狙って斬撃波を放ち次々と爆発させていくが中には切断できない硬さのものが有る。ならばと弾の方を狙うがこちらも弾き返された。


仕方なくより強く魔力を込めて斬撃波を打ち込む。それでようやく爆破に成功するが接近されたため余波を受けて後退させられる。


レザンは実験的にいろいろな種類を混ぜて放っている。本当に意思を持っていないのだろうか? 疑わしくなってくるな。


爆風を受けた周囲の空気爆弾は軌道と速度を変えて全体の把握を困難にしてくる。すべてを迎撃するのは今のままでは無理か。魔力の回復が追いつかない。


覚悟を決めて空気弾を掻い潜って本体に接近するか。直接本体付近の魔力線を刀で切断できれば掃討も速い。魔力消費も抑えられる。


だが問題は接近するときに狙って空気爆弾を爆破されることだな。こちらの動きに合わせて動かしても来るだろう。


しっかりと距離を保って掻い潜っていかなければならない。爆発の威力は均一じゃないからそれが難しい。


スピードで振り切っていくのがいいか…


トップスピードを上げるべく魔術を構築し直そうとしたとき視界の端に赤いものが移る。


それが下から猛スピードで上昇してくると何度か爆発が起こりレザンの伸ばす魔力線が次々と切断されていく。


魔力線を切断された空気弾が連鎖的に爆発していく。その余波を受けないように一旦後退してから引き返していくと空中に人間が浮かんでいるのが確認できた。



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