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第105話 防災戦 x 開始

いよいよ最後に残った大男の自己紹介が始まる。


「第二騎士団長のカイレンだ。一応今回の防災戦の総指揮官って事になっているが気にせずに自分の判断で動いてくれてかまわない 」


気にするなと言われても気にしてしまうな。主に頭頂部を、、、


「こんな事を経験したこのある人間は騎士団にはいないからな。正直有効だと判明している対策は何一つ持ち合わせていない 」


確かに持ち合わせていないな。髪の毛を、、、


「狩人としての勘を優先して自由に行動した方が力を発揮できるだろう。いきなり騎士団の人間と歩調を合わせるのも無理な話だろうしな。何か要望があるなら遠慮なく俺に言ってくれ。内容にもよるが出来るだけかなえることにしよう 」


聞いていいんだろうか? どうしてそんな頭をしているんだ?って


俺は別にハゲに偏見を持っているわけじゃない。地球でも再生治療によって髪の毛を生やすことはそう難しいことじゃなかった。価格も昔よりだいぶ安くなっていると言う話を聞いたことがある。スキンヘッドは基本的にファッションとか文化的理由によるものだ。


ここまで気になるのは魔石の存在によるものだろう。魔石の恒常性によって病的にはハゲないはずだ。可能性があるとすれば二つ、生まれつき無毛であったと言うこと。そしてこれが問題だがもう一つは魔力変異に因るものだ。


俺の肉体はまだ魔力変異が起きていないが魔力変異で頭がつるつるになる事があるなら、俺がそうならないとは言い切れない。


自分の魔力変異はいつか経験してみたいというかいずれそうなるだろうが強制的にスキンヘッドになる可能性があるなら考えておかなければならない。


そんな俺の思いが通じてしまったのかカイレンは自身の禿頭とくとうを手で軽く叩きながら言う。


「この頭が気になるのか? まあ、そうだよな 」


伝わってしまったか、、、当然だよな。見ないようにしよう、見ないようにしようと思って視線が行かないようにしていた。


だが、そう思えば思うほど視線が勝手に動いてチラッチラッと何度も視線を送ってしまっていた。わからない方がおかしい。


俺が黙っているとむこうは勝手に続ける。


「この頭は美容院で脱毛処理をしてもらっているんだ。脱毛させる魔術があるんだよ。俺は石魔術が得意で石の鎧と石の盾を使って戦っている。その時石の兜を被るんだが毛があるとどうにも邪魔な気がしてな。それでこんな頭にしているってわけだ 」


「回復術を使ったときにすぐに再生されてしまったりしないのか? 」


この際だからいろいろ聞いておこう。


「うっかり間違えると生やしてしまうな。だが慣れれば髪の毛だけ再生しないようにすることは可能だ 」


「それでも時間がたてば徐々に生えてくるものだろう? 」


「そうだな。自身の魔力を制御すればそれなりに持たせることは出来るが一年が限度だな。定期的に脱毛しに行っているよ 」


「なるほど。良くわかったよ。ありがとう 」


シグンの方を見ると腕を組んでうんうんとうなずいている。


なんでだ?


疑問に思っていると近づいてきてこちらの肩をバンバン叩きながら話しかけてくる。


「いや~、お前も気になっていたのか! そうだよな! なんでハゲてんだよって普通思うよな! 意外と気が合うじゃねぇか 」


どういう理屈だよ。何かツボに入ってしまったらしいな。こんなことで距離が縮まるなんて思いもしなかった。


仲を悪くする必要はないし歓迎すべき事かも知れないがそれにしてもちょっと気安くないか。体育会系のノリは苦手なんだよ。


それにしてもハゲとか口に出していいんだろうか?


こちらではタコみたいな頭というニュアンスが含まれる。侮蔑的な意味合いを含むものだ。カイレンをちらっと見るが慣れているのか特に怒った様子はない。


ほっとするとなんだかたこ焼きが食べたくなってきた。なんでだろう? タコ繋がりかな? 丸いものを見て連想したんだろうか?


こちらにもタコはいて西海岸の方では日常的に食べるらしい。今度、買ってみようか、、、


「ま、まあ、よろしく頼む 」


「おう! こちらこそよろしくな! 」


とりあえず握手を求めて手を差し出すとシュバって言う音がしそうな勢いで握り返してくる。力強く握り返してくるその様子からはさっきまでの険悪な感じはない。


良くわからんがこちらの実力は認めたということで良さそうだ。八ツ星をとっていたお陰か? この感じだと関係なかったような気もするが。


ともあれ作戦中は問題なく行動することが出来そうだ。


その後はシグンにずっと話しかけられることになった。適当に相づちを打ちながら時間が過ぎるのを待っていると部屋の扉がノックされる。


扉が開き一人の騎士が入ってくると開戦を知らせてくる。


「レザンの接近を確認。迎撃準備は整っています。いつでも始められます 」


レザンというのは今来ているアキアトルの固有名だ。台風みたいに名前を付ける習慣があるらしい。名前がないと不便だしな。


「了解した。始めるとしよう。それでは我々もいくとしようか 」


カイレンが音頭をとると各自動き出す。


「レイン。お前は私と来い 」


セリアに言われるままに着いていくとレインコートのようなものを渡される。


「これを着るんだ。雨を弾いてくれる。魔力の節約になるはずだ 」


「わかった。借りておこう 」


こちらに来てから雨具は傘ぐらいしか使っていなかった。魔術の練習も兼ねてのことだがそう言うことなら遠慮なく使わせてもらおう。


少し着るのに手間取ったが着てみるとサイズは申し分ない。


セリアの方を見ると着慣れているのかすでに着終わっている。


「着丈はいいようだな。ではいこうか 」


「ああ 」


建物を出ると強烈な横殴りの雨風が体に叩きつけられる。レインコートに魔力を流して水を弾き、裾のはためきなんかを抑えると確かに魔力の消費を抑えられる。


足下は整地術で水を固めると滑らずにしっかり地面を掴んで歩ける。


自己魔力だから回収できるしな


堤防の階段を上がっていくとすでにカイレン達は上にいる。視線をずらすと堤防の上には筒状のものがずらっと並んでいた。


これは大砲だな、、、


アームストロング砲とか言うやつかとも思ったが外観的にはもっと兵器として洗練された見た目で近代兵器と言った風貌だ。


少し近づいてよく見てみると弾を入れるための薬室の扉が横に開くようになっている構造をしている。砲塔の中は見えないがライフリングを施しているのかも知れない。


一つの砲塔に三人の騎士が着いている。それぞれの役割はわからないが首から双眼鏡をかけている人が観測手なのだろう。


海の方を見ると遠くに一際厚い雷雲が見えてくる。動きはそこまで速くないようだ。ゆっくりとこちらに接近しているように見える。


水晶体を操って遠視をしてみるがまだ魔核を確認することは出来ない。


双眼鏡を使えば見えるのか? ちょっと借りてみたいが邪魔になりそうだから我慢しよう。


見るものは見たのでじっと風雨に耐えていると一人の騎士がカイレンに近づき状況を伝える。


「十分に射程距離内に入っています。いかがなさいますか? 」


「そうだな、、、レザンの進行速度はどのくらいだ? 」


「現在、分速100程です 」


「では5分後に砲撃を開始する 」


「はっ 」


そうして5分が経過するといよいよ攻撃が始まる。まだ肉眼では見えないが状況は動いていく。


騎士の一人が魔力域を広げて風雨を遮ると観測手が砲撃手に指示を出す。


「信管、3.4秒 」


砲弾の信管を設定すると薬室に込める。


「仰角32.4、左12.7 」


砲塔の確度と向きを調整して準備が整ったようだ。


それぞれの砲塔は別々の指示で調整されているがほとんど同時に準備が整う。


するとすかさず全体の指揮官が合図を行う。


「てぇっ! 」


それに従って12門の砲塔が一斉に火を噴く。耳をつんざくような轟音が鳴り響き鼓膜どころか内蔵まで揺らされる。足の裏からは地響きのような振動が伝わってくる。


数秒の後に遠くで爆発のような煙が微かに見えるが何が起きているのかまでは良くわからない。


数分ぐらいたった頃に砲撃指揮官からカイレンに報告が入る。


「全弾有効圏内での爆発を確認。効果の程度は確認できず。対象は依然として形状を保持しています。どうなさいますか? 」


カイレンは目を閉じて何やら思案しているようだ。少しの間沈黙していると目を見開いて決断を口にする。


「弾がなくなるまで続けてくれ 」


「はっ 」


その後も爆音が鳴り響き砲撃は続いていく。


砲弾の爆発に魔力は含まれないから当然相手が魔力防御をしっかりと固めたならばいくら爆発の威力が凄まじくともダメージはあまり期待できない。


だが爆発は面での攻撃だ。最低でも接触面すべてを固めなければならない。弱い部分があればそこに威力が集中してしまう。


こちらからではよく見えないがこの距離で届く砲撃なら爆発の威力も相当なはず。


きっちりと防御をさせて魔力消費を狙っていると言うことか。あわよくば防御の隙間を狙えるはず。


攻撃の意図はなんとなく予想が付いたが相手がアキアトルだと効果が有るのか無いのか見た目からじゃわからない。


相当魔力が多い相手だろうから効果が感じられることはないんだろうが現状これしか方法がない以上はこれを続けていくしかないか。


砲弾が一発いくらなのか知らないが安くはないだろう。出費を考えると頭が痛いって感じなのかも知れないな。


砲撃は全部で9回行われた。9回目の砲撃の後にまた伝令が来る。


「全弾打ち尽くしました。すべて有効圏内にて捉えています。効果の有無は確認できず。レザンは依然として平常を保っています 」


「ご苦労。砲台はすべて回収してくれ。回収の後、防災を主体に行動する。後は我々が場を引き継ごう 」


「はっ 」


指示を受けると整備担当と思われる騎士達がやってきて大砲を大まかに解体して運び出していく。雨風を防ぐ騎士達の活躍もあり大雨と強風の中手際よく作業が進められて行きみるみるうちに堤防の上は元の何も無い石畳の様相を取り戻していく。


俺たちは大砲があった場所に移動すると各々がやりたいように行動する。


と言ってもカイレン以外は風雨に耐えながら観察しているだけだ。現状俺に出来ることは何も無い。


時間が経過してレザンはそれなりに接近してきている。肉眼でも台風の目に当たる雨雲のない場所が見えてきている。その中心にヤツの本体である魔核が鎮座していると言う話だ。


風は接近に合わせてどんどん勢いを増してきている。相当な強さだ。報道リポーターとかいたらとっくに空へ吹き飛んでいるだろう。牛とかでも飛ばされているかも知れない。


いや、魔力が無いなら飛ばされていく前に赤い霧になっているか。それ以前にここまで来れないだろうけど、、、


俺がそんなくだらないことを考えている間にもカイレンは得意の石魔術で堤防を強化している。


ちょっと申し訳なくなってくるな、、、


ちょっと気まずさを感じつつレザンの接近を待っていると竜巻なんじゃないかってぐらいの強さになってくる。


だがようやくぼんやりとだが相手の本体が見えるようになってきた。無風地帯の真ん中に黒い固まりが米粒大のサイズで見えてくる。


ものすごい魔力だ


シグン達を見ると呆気にとられたようにただただ目を見開いて見ている。ルシオラはちょっとクールキャラが剥がれているな。素はもうちょっと人間味があるのかも知れない。


セリアを見ると苦虫を噛みつぶしたような表情で迫り来る脅威を睨み付けている。戦う術がないことを歯痒く思っているのかもしれない。


不意に後ろからガシャンと何かが壊れるような音が響いてくる。振り返ると屋根の瓦なんかが次々と飛ばされ宙を舞っている。


これはヤバいな、、、何とかしなければ、、、


事前にちょっと考えていたことを実行してみるか


一応カイレンに話をしておこうと思ったがいつの間にか地面に手をついた姿勢で魔術を使用している。


声をかけられる雰囲気じゃないな…


ならばとセリアに声をかけることにする。


「セリア 」


「ん? なんだ、レイン 」


「ちょっと考えたことがあるんで今から実行する。何かあったときはよろしく頼む 」


「何かあったときって、、、レイン? 」


俺は返事を待たずにレインコートを脱ぐとそれで雨水を受けて水魔術を実行する。


レインコートを芯材にして水でコーティングして湾曲した板のようなものを作り出すと両手と水糸でつなぎ即席のグライダーを作り出す。


グライダーが風を受けて俺を引っ張ると足がふわりと軽く浮く。


それと同時にセリアに行ってきますの挨拶をする。挨拶は基本だな。


「それでは行ってくる 」




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