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第103話 赤髪の騎士② x セリアからの依頼

(別視点)


(ここらへんだったな、、、)


ザザザ……ッ


目的の場所に到着すると振り返りざまに足で地面を擦りながら止まり相手を迎え撃つ体勢になる。それを見た金毛猪はシグンの行動に警戒したのか距離を置いて止まる。


しばらく両者はにらみ合ったままお互いの出方をうかがう形になる。沈黙を破り先に仕掛けたのはシグンだった。


爆拳バルト・ボルク!」


出来るだけ接近して直接体に爆発をたたき込もうとする。肉薄して小刻みに動いていくことで相手に的を絞らせない立ち回りをしていく。


対する猪はこれまでとは打って変わった動きに翻弄されて有効な攻撃が出来ないでいる。


防御を捨てて込める魔力を抑え、手数と回避に主眼を置いた攻撃だ。金毛猪の纏う電界と分厚い毛皮に阻まれてダメージはあまり通っていないが相手はそれをうっとうしがり苛立いらだっていく。


苛立ちが頂点に達したのか猪を中心に膨大な雷の魔力が急激に膨れ上がっていくとシグンは危険を感じて距離を取ろうとする。しかし、雷撃が広範囲にまき散らされ後退するシグンを追うように迫っていく。


(よけられねぇ! )


咄嗟に自分の前方に爆発を起こし後方に加速していく。爆射と呼ばれる魔術を使用して雷撃から逃れようとした。


それを追うように雷撃はなおも伸びていきシグンの想定を越えてくると蛇のようにのたくりながらシグンの脚を捉えて全身に電流を流していく。


痺れて声も出せずに地面を転がるが意識だけはしっかりと保ち、裏で構築し続けていた魔術は維持する。


痺れる体を治癒もせずに気力だけで起き上がらせると必殺の魔術を発動させていく。


大規模魔術だ。


今居る場所の周囲にあらかじめプロパンガスが入ったボンベをいくつも設置していた。戦う前から周辺に散布されるようにして戦いに挑みここに誘い出していた。


プロパンは空気より重く下に溜まる。窪地で風が無い場所なら魔術で使えるぐらいには留まっている。


広範囲に及ぶ魔力域から猪に向けてガスを集中させていく。猪は呼吸から空気の変化を感じ取りその場から退避しようとするがシグンはすでに魔術を完成させている。


爆縮バルパシア


対象を中心とした球状に周縁部から小さな爆発が起こり中心部に向かって連鎖的に爆発を起こしていく。地鳴りのような轟音とともに爆発は大きさを増していき球の中心を圧縮していく。


中心の圧力に耐えられなくなると周辺に向かって爆風がまき散らされ圧力の均等化が始まる。


魔力を消費しきったシグンでは吹き荒れる爆風に耐えきれずに後ろに十数メートル程吹き飛ばされ地面に伏せた形で止まる。


吹きすさぶ風に耐えながら地面に伏していると顔の近くにべちゃっとなにか柔らかくて湿ったものが飛んでくる。


猪の眼球だった。それを見てシグンは勝利を確信する。


(俺の勝ちだ、、、)


だが次の瞬間、土煙の中から雷撃が伸びてきて無防備なシグンの背中に打ち落とされる。


叫び声を上げることも出来ずに電撃に耐える。なんとか意識を保つことが出来たが肉体はピクリとも反応しない。


やがて土煙が晴れると爆発の中心には金毛猪が四本の脚で直立していた。


爆縮により全身の骨が折れている。折れたあばら骨が肺に刺さり口からは絶えず血が流れている。右目は眼球を失い眼窩から溜まった血が溢れて垂れてくる。


普通なら立っていられる状態ではないが魔力で骨をつなぎ止めて筋肉を動かして立った状態を維持している。魔境で生き続けてきた誇りと意地を体現している。そう思わせる堂々とした態度にも見える。


流れ出ている血は逆流をはじめ体の中に収まっていく。損傷の治癒を始めたようだ。脚の骨を優先して治していくと数分の後に歩けるようになる。


治癒を続けながらもシグンの方にゆっくりと歩み寄っていく。留目とどめを指すつもりだろう。


シグンは未だ動けずにいる。魔力が低下した状態では回復もままならない。ここから巻き返す術は持ち合わせていない。


鼻先の距離まで来ると金毛猪の全身が淡く光り出す。反撃に備えて距離を置きつつ雷撃で仕留めるつもりのようだ。


最後の一撃を放とうと魔力が膨らんだその瞬間、猪の巨体は支えを失ったかのように崩れて横倒しになる。込められていた魔力は霧散していく。


地響きのような振動を感じてシグルは相手が倒れたことを悟ると力を振り絞ってなけなしの声を絞り出す。


「、、、お、、せえ、、ぞ、、ル、、、」


声をかけられた方は感情を伴わない声で淡々と応える。


「これが肉体の治癒を完了するギリギリを待っていました。その方が高く売れますので 」


そこにいたのは副団長のルシオラだった。猪が倒れたそばに立っている。


死体を見ると脇腹に剣が刺さっている。あばら骨の隙間から心臓へ向けてひと突き。さらに風剣ジェント・ブラスの魔術を使用して空気圧により内部を破壊してとどめを刺した。


ルシオラはシグンを放っておくと信号笛を取り出して金毛猪を倒したことを団員に伝えると死体から剣を引き抜いて血を落とすと腰の鞘にしまう。


「ルシオラ、、、ちょっと、治癒魔術を、使ってくれねぇか? 」


ようやくしゃべれるようになってきたシグンは消え入りそうな声で詰まりながらも自分を回復するように頼む。しかし、ルシオラの方は団長の窮地にさほど興味はない様子だった。


「お断りします。直に医療班も到着するはずです。専門職に任せるとしましょう 」


相変わらず抑揚に乏しい口調でぴしゃりと言い放つ。シグンは憤慨しそうになったものの、いつものことかと思い直すと大人しく回復を待つことにした。なによりそんな体力は残っていない。


しばらくすると信号を感知した団員達がやってきて死体を梱包すると拠点に運んでいく。同時に医療班はシグンを担架に乗せると運びながら治療魔術をかけていく。


拠点の修繕は残るもののこれで今回の件はほぼすべて片付くこととなった。


金毛猪討伐から次の日、肉体が回復したシグンは解体場に運び込まれた金毛猪の死体を確認しに来ていた。その表情には険しいものが混じっている。


力を失って横たわる巨体を視線の定まらない目で見上げながら思いの丈をぶつける。


「チッ… 勝負はてめぇの勝ちだ… 」


無念さを口から出すとある程度は気持ちが和らいだのだろう。幾分か表情から険が取れて心持ち穏やかにみえる。


そこに後ろから声がかかる。


「いい感じの所済みませんが、、、」


「おおぅっ! ル、ルシオラ! いつからそこに!? 」


「さっきからいましたよ。それより王都から緊急の要請です 」


「!? なんだ? 」


ルシオラの緊迫した様子からただ事ではないと判断して居住まいを正すと続きを促す。知らないものが見ればルシオラの態度は普段と変わらないように見えるがなんだかんだで付き合いは長い。シグンは正しくルシオラの無表情から情報を読み取っている。


「直ちに帰還して王都防衛の任務に当たるよう指令が来ています 」


「? 来たばかりだぞ。制圧任務はどうなる? 」


シグンの疑問にはかまわず説明を続けていく。伝えれば理解するという判断だ。


「王都に強力な魔物が迫ってきています。対象は暴風雨のアキアトル。定期的にやってくる魔物ですが今回は規模が桁違いです。直撃すれば王都は壊滅状態になるという予想です 」


「、、、、、、、、、、、、、は? 」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


狩りから帰還して二日後のことだったがドアノッカーを叩く音が鳴り響いた。玄関の外にはやや大きめな魔力反応が二つ。


衛兵が見回りに来たのかと思ってドアを開けると衛兵とは違う制服を着た人たちが立っていた。


どこかで見たことがある制服だがどこだったか?


軽く記憶を探るとすぐに思い出せた。


ああ、王都騎士団の制服か。セリアの家に行くときに見るあれだ。


二人はどことなく緊張しているようだった。


「レイン・シス・プラムゼフレルド殿でしょうか? 」


「そうだが、何の用だろうか? 」


俺が答えるとあらためて姿勢を正し、用件を口に出す。


「エルセリア団長からの要請を伝えさせていただきます 」


やはりセリアからの使いか。


「今から我々に同行して団長と会っていただけますか? 我々に与えられた指示はこれだけです。それ以降は直接団長の口から聞いていただきたいのですがいかがでしょうか? 」


それだけしか聞いてないのか。それなら緊張するよな。気まずい感じがあるだろう。こんなんで伝わるのかって思っているのかも知れない。


見たところ新米の従卒って感じの二人だ。魔力もあまり強くない。俺にビビっているとしても無理からぬ話か。


俺とセリアの関係性も知らないだろうし大丈夫なのかって疑うよな。


「了解した。すぐに支度をするから待っていてくれ 」


とりあえず安心させるために承諾の意を伝える。部屋着のままだったので少し待たせて狩人の服に着替えると外に出る。


「待たせたな 」


「いえ、それでは行きましょう。我々の後に付いてきてください 」


後に付いていくと騎士団の詰め所に案内される。


建物内に通されて廊下を渡っていくと扉の前に来る。簡素な扉だ。特に威厳とかは感じられないが中からあふれ出す魔力は強大だ。


「では我々はこれで 」


中までは付いてこないらしい。案内してくれた二人はどこかに行ってしまう。


なんか入りにくいな、、、


久しぶりだからか、ここで会うのは初めてだからかなんか緊張する。意を決して扉をノックすると中から声がかかる。


「入ってくれ 」


「失礼する 」


返事をして中に入るとセリアは重厚な机の向こうに腰掛けていた。背もたれの高い黒革のふかふかした社長の椅子って感じの椅子に座っている。


、、、貫禄があるな


扉から中も簡素かと思っていたが調度品はけっこう豪奢ごうしゃだな。


「ひさしぶりだな、レイン 」


「そうだな。三ヶ月ぶりぐらいか。手紙での遣り取りなら何度かあったが 」


「ずいぶんとたくましくなったな。ギルドからいろいろあったと聞いている。無事で何よりだ 」


逞しくなったと言われてちょっとドキッとした。照れ隠しに話をさっさと進めてしまう。


「それより何か用があるんじゃなかったのか? 」


「ふふ、せっかちだな。まあいい。始めるとするか 」


そう言うとセリアは用件を話し出す。


「今、王都に危機が迫っているのは知っているな? 」


「ヴェゼラトルのことだろう。新聞で確認した 」


「そうだ。我々王都騎士団は王都の防衛を担っている。例年ならば避難誘導や防災設備の防衛なんかに終始するんだが今回はそうもいかない 」


「異常な大きさという話だったな 」


「ああ、相当な被害が予測されている。そこで騎士団は直接攻撃を仕掛けてヤツを弱らせる作戦を実行することにした 」


「、、、算段はあるのか? ヤツの本体、魔核は上空にあるという話だ。攻撃を届かせるだけでも難しいことだと思うが、、、」


「有効な手段が無いわけでもないが少々心許ない。そこでレインに声をかけたわけだ。お前なら何か考えが浮かぶんじゃないかと思ってな 」


「、、、流石に上空にいる魔物に有効な手段は持ち合わせていない。役に立てるとは限らないぞ 」


「かまわないさ。確か水魔術は得意だったな。戦闘に見切りを付けて中断することも考えている。そうしたら減災作戦に切り替えるからその時に活躍できるだろう 」


「なるほど。最初から勝てる見込みは無いということだな 」


「そうだ。少しでも弱らせることが出来ればそれで十分だからな。相手は上空を通り過ぎるだけで明確な攻撃を仕掛けてくることは無い。普通なら戦いにもならないだろう。それでもやらねばならない 」


勝ち負けの問題じゃないって事か。そう言う戦いは苦手ではあるが自然相手に四の五の言ってられない。やるだけやってみるか。コアの力があればその場で魔術を組むことも出来るしな。


「理解はした。自然の脅威を相手に何とかあがいてみるとしようか。神に祈るのは性に合わないが今回ばかりは祈りたくもなるな 」


「神、、、か。遙か昔に置き去りにされた概念だな。確か架空の高次的な存在だとか、、、レインの故郷ではそういう古い言い伝えとかが残っているものなのか? 」


、、、マズいな。何気なく使った言葉だがポカをやらかした。そういえばこちらには宗教施設とか見たことがない。言葉自体は存在しているから油断した。使い方を誤ったか。


どう答えたものか?


「まあ、そうだな。古いものは残っていたよ。古いだけだと思っていたが今となってはそう言うものを残したくなる気持ちがわからないでもないな 」


なんとなく嘘を言う気が起こらなかったから、それらしいことをなんとなくで答えておく。


なんとなく、か、、、?


「そうなのか? いつかお前の故郷の地に行ってみたいものだな 」


さらにマズいことになった気がする。いきたいと言われても無理だ。自分でまいた種だがこの話は終わりにしたい。


「しかし意外だな。セリアは伝承とか遺跡なんかに興味があるのか? 」


「それなりに学問は修めているからな。帝国にも留学した経験がある 」


「そうなのか? 今度その時のことを聞かせてもらえないか? 」


「そんなに面白い話ではないと思うがな。とりあえず作戦には参加してもらえると言うことでいいか? 」


「ああ、かまわない 」


「うむ。それでは作戦の詳細を伝えておくことにしよう。詳細と言ってもたいしたことではないが、、、」


俺は作戦内容を聞いた後自宅に戻り、その時まで自宅で待機することになった。

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