第102話 天災 x 赤髪の騎士①
ラディフマタル森林から狩りを終えての帰り道、王都にさしかかると衛兵の姿がちらほらと目に付くようになる。
はじめは魔物でも出没したのかと思ったが郊外を過ぎて街中を流しているときも衛兵を何人も見かけた。
流石にこんな所に魔物が出ることはないだろう。理由はわからないがとりあえずは放っておくことにした。
たとえ魔物だとしても王都騎士団がいるから大丈夫だろう…
家に帰るとすぐに近くの商店に行き新聞を購入してから戻る。
新聞配達による定期購読もあるが留守にしていることも多いので気が向いたときに買うようにしている。
日本では紙の新聞は歴史上のものだった。すべて電子配信だったから新鮮な感じがする。ちょっと懐かしいとも感じるのはなんなんだろうな? 経験したことはないのに。
どれどれ、、、
読み進めていくと大部分が気象に関しての記事だった。
なんでも、超大型の台風、つまり大型の暴風雨のアキアトル、ヴェゼラトルが接近してきているらしい。
リーンの話の中にも登場したヤツだな
南に広がるオルテア内海を東に進んだ後、王都を流れるシルムス川を遡上するように北上していくのがお決まりのコースらしい。
つまり、王都を直撃すると言うことか。そりゃあ衛兵達もせわしなく動いているというものだ。
まてよ、ということはラディフマタル森林も直撃コースに入ってしまうじゃないか。ひょっとしたら拠点を破壊されてしまうんじゃないだろうか。
それだけじゃなく魔物の生息域にも変化をもたらしてしまうかも知れない。
後始末が大変になるな
通常なら二、三年に一回の頻度で夏にやってくるそうだが、今回来る台風は七年ぶりで秋にずれ込んでいる。
そのせいか知らないが歴史的に見ても異常なぐらい大型のものが接近してきていると言う。
ますますマズいな、、、
この家を補強してから森林の拠点に行って補強を行い、そこで過ごす。台風が来たら魔力で強化しつつ耐えるか、、、
プランを練りながら読み進めていくと船の運航に関する記事を見かける。
欠航になるのは当然だが興味を引かれたのは航路に関してだ。オルテア内海を挟んだ対岸には主に獣人で構成されたアーミシア連邦がある。
そことを結ぶ航路も欠航になったとのことだが船が通っていたとは思っていなかった。
深海には大型の海の魔物がいるはずだ。俺がカンヴァル湿原であいつと遭遇したようにちょっと上に上がってこられたらエンカウントしてしまう。それ故に船は水深が浅めの沿岸部を航行している。
対岸と直線で結べば近いのだが、それはなかなか命がけのような気がする。技術の進歩により可能になってきているのだろうか?
読んでいくと少しだけそこら辺の記述があった。海峡部に比較的安全な航路があるらしい。
通れるのは大型船だけのようだからなにかしらの安全装置があるのかも知れないが航路自体は実際に試してみて得られた経験則なんだろう。先人の苦労が偲ばれるな。
新聞を読み終わると早速家の補強を開始しようかと思ったがポストをまだ確認していないことに思い当たる。
確認すると手紙が入っていた。セリアからだ。なんだか久しぶりな気がするな。
開けて中を確認すると俺にとってはあまり好ましくない内容だった。
そう来たかぁ、、、
曰く、王都の自宅で待機しろ、だそうだ。
理由は書かれていないのでわからないが素直に従っていた方が良さそうだ。
件のアキアトルはシルムス川を遡上した後どこかに消えていくそうだ。一説によると魔力を失うまで暴れると死んで、魔石がどこかに落下して行くという話。
拠点で耐えてやり過ごした後、偵察体を使って追跡して消滅を見届けてやろうと思っていたんだがな。残念だ。
うまくいけばバカでかい魔石を手に入れられるかと思ったんだが諦めなければならないとは、、、
必ずしも手に入るとは思わないが逃した魚は大きい、、、いや、捕らぬ狸のってやつかな?
面白そうだったんだけどな…
まあ、愚痴っていてもしょうがない。
予測では台風はあと五日ぐらいで王都に到達するらしい。その間に魔鉄を使って家を補強しよう。
窓ガラスが割れないように戸板も強化しておきたい。外から見えない位置に魔鉄の板を張っておこう。
家の補強も終わりおとなしく過ごしていく。
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(別視点)
「おいおい、、、ずいぶんと派手にやられちまったなぁ、、、」
魔境深層と中層の境界あたりに設けられた騎士団の拠点を前にして王都第七騎士団長シグン・シス・プラムゼフレクスはぼやく。
赤髪が真っ先に目に付く精悍な顔つきの青年だった。その魔力の圧から団長にふさわしい力強さを感じる。
コンクリートで固められた拠点は至る所から魔鉄製の尖った杭が飛び出している。建物の周囲は深く幅の広い空堀で囲まれていて頑強な跳ね橋が唯一の出入り口に繋がる。
その橋の先には木材と魔鉄を重ね合わせた分厚く頑丈な扉が外部と内部をわけ隔てている。まさに要塞といった外観であった。
しかし、今は所々杭がひしゃげ折れている。混凝土製の壁にもヒビが入り何カ所か崩れている箇所がある。扉は大きめの穴が空けられ内側に向かって穴を中心にくぼんでいる。強力な魔物の襲撃があったようだ。
「早急に対処することにしましょう。これほどの魔物がいては修繕も進められません 」
「ああ、、、そうだな 」
副団長のルシオラ・ソル・ラトルムは冷静な口調で団長のぼやきに答える。長い金髪が特徴の女性だ。表情を動かさず抑揚無く淡々と言葉を紡ぐ態度から冷たさを感じる。
扉が開きシグンを先頭に第七騎士団の精鋭が入っていくと重苦しい空気に支配されていた拠点内は一気に活気づいていく。
「シグン団長! お待ちしておりました 」
知らせを受けた部隊長が出迎えに来るとシグンとの間で作戦室に向かいながら軽い遣り取りを行う。
その後をルシオラを含めた数名が付いていく。
「大変だったな。ずいぶん手酷くやられたみたいじゃねぇか 」
「申し訳ございません 」
「いいってことよ。相手が悪いってのは外を見ればわかる。死人は出たのか? 」
「いえ、重傷者は四人ほど出ましたが幸いにして死者は出ておりません。回復次第、通常任務に復帰可能です 」
「そりゃ何より。こっちからも医療班を回そう 」
「ありがとうございます 」
それを聞いてルシオラが後ろに目配せをすると医療班と思われる人員が引き返していく。
作戦室に到着すると森の地図を見ながら部隊長の説明が始まる。
「敵の魔属種名は金毛猪。雷魔術を使いこなす強力な魔物です。おそらく上級上位に相当する力はあると思われます 」
「雷術ね、、、。そりゃあ厄介な相手だな。今どこに居るかわかるか? 」
「斥候を張り付かせて定期的に報告をさせていますのである程度正確にわかります。今はこのあたりですね 」
そう言って地図を指し示す。
「近くに谷があったか 」
「窪地になっている場所がありますね。このあたりです 」
「ここに追い込んで仕留めることにするか。耐雷装備はあるか? 」
「はい。30人分は揃っています 」
「それなら六人ずつで五班作って追い込んでいくとするか。相手はここら辺に詳しいと思うか? 」
「流れてきたばかりでしょうからそこまで地形に明るくないとは考えられます。作戦に勘づかれる可能性は低いでしょう 」
「そうだな。まあ、とりあえずはこれでやってみるか。ダメだったらその時はその時で考えよう 」
作戦が決定すると団員に作戦の詳細が伝えられ連携の確認などが行われる。
そうして次の日を迎え、作戦が実行される事となった。
窪地に陣取ったシグルはアフラ・ウゼラが追い立てられてやってくるのを今か今かと待ちわびて居る。
耳を澄ませて包囲戦の音が聞こえないか集中しているとやがて雷撃の破裂音や獲物を追い立てる鬨の声が聞こえてくる。
(さすがに精鋭が30人もいれば追い立てることぐらいは出来るか )
強力な魔物でも多勢に無勢を嫌うことはままある。正面から戦うことにこだわるような個体でも数が多ければその動きを制御することは可能だ。もっとも能力の高い個人を多数動員できる騎士団にしかできないことだが。
しかし、こういった魔物を逃がしてしまっては再び同じ場所に現れるだけだ。仕留めるためには逃げられないように包囲を維持したまま狩るか、人数を絞って戦いに持ち込んで狩ることを選ばなければならない。
今回も後者を選んだ。騎士団長としての誇りもあるが純粋に戦うことへのこだわりが強い。
シグンはそう言う男だった。
迫ってくる音が大きくなってくるとそちらに向かって走り出す。
しばらくすると森の木の間から金色に輝く物体が高速で動いているのを確認する。
(あれだな、、、戦うのは初めてだが本当に名前通りの見た目をしてやがる )
挑発する為の魔力波を飛ばしながら相手の進路の前に出ようとすると、それの応えるように魔力波が帰ってくる。
お互いがお互いの動きに合わせて進路と速度を調整し合うとやがて向かい合うような位置取りになる。
魔物は全身が金色の毛で覆われた巨大な猪だった。全高は3メートル、体長6メートルを越える巨体はシグンと比べると山のように大きい。
そんな相手にシグンは気楽な様子で声をかける。
「わかってんなお前。それじゃあやろうか 」
言葉を解さない魔物にそう話しかけると武器を持たずに接近していく。
そんなシグンに対して警戒したのか魔術を発動させると全身が淡い光に包まれると体から稲妻が放たれる。
「爆拳!」
それに対して拳を突き出すと魔術を発動させる。拳の先から爆風が発生して何もかもを吹き飛ばしていくと雷も吹き飛ばす。
「爆脚!」
すかさず脚からも魔術を放つと爆発により猪は仰け反りながら後ろに後退していく。
シグンは両手両足に装着した手甲と脚甲に細長いガスボンベを仕込んでいる。中には液化プロパンが充填されていて空気魔術により弁を開けて放出させる。そして、空気と可燃ガスを混合して爆発させる魔術を使用する戦いを主体としている。
「オラオラァッ!」
後退した敵に同じ魔術で追撃を行っていく。
あたりには爆音が響き渡り、爆風は土や枯れ葉をまき散らしていく。猪も爆発の威力に後退させられている。
しかし、シグンは一方的に攻撃しているにもかかわらず手応えを感じていなかった。
(あんまし効いてねぇな、、、流石に堅ぇ )
攻撃を受けている間にも猪の金毛は仄かに電子の輝きを帯びていく。防御の魔力を練りながら雷魔術を構築しつつある。
(チッ、なら大きめのやつを、、、 )
そう考えながら術式を構築しようとした次の瞬間には猪の全身からいくつもの雷撃が蛇のように伸びてシグンに襲いかかる。
雷撃は示し合わせたかのように同時にシグンの体に到達すると突如として爆発が起こり後ろに吹き飛ばされていく。
空中を十数メートル飛ばされ地面を跳ねながら転がっていくと、その勢いを利用して起き上がり靴底で地面を擦りながら止まる。
その様子からは痛手を受けているような印象は無い。
シグンは攻撃を行いながらも体に薄い膜を張るように混合ガス層を作り出して維持していた。雷撃が接触した瞬間に引火して爆発が起こり電流が肉体を焼く前に自ら吹き飛ぶことによって攻撃を避けることができていた。
だが、吹き飛んでいる間にも相手は全身に雷を纏いながら突進してきている。
「チィッ、跳爆!」
両足の裏に爆発を起こして空中へ飛び上がると同時に別の魔術を構築していく。
真下にいる猪めがけて右手を突き出すと発動させる。
「火砲!」
掌から炎が伸びていき猪の体を包み込む。シグンは落下をしながらも火炎放射を続け、猪の後方に着地した後も炎を出し続けていく。
「燃え尽きなぁっ!」
なおも魔力とガスの放出を上げていき敵を焼き付くさんとする。
だが、金毛猪は大量の炎に包まれながらもシグンの方に向き直る。その動きには余裕を感じる。炎はその威力を発揮していないように見える。
(クソが、、、効いてねぇな )
猪の体と炎の間を隔てるように空間が空いている。全身を覆っている雷が炎も熱も防いでいるようだ。金毛猪もシグンと同じように魔術で防御を行っていた。
猪は大きく一鳴きすると全身から雷を放出して炎を散らしていく。雷はそのまま方向を変えてシグンに迫っていくと攻撃の中断を余儀なくされる。
後ろに跳んで躱そうとするが雷はそのまま追いかけてくる。
避けられない、そう判断すると爆拳を放ち雷を散らすが後から次の雷が襲いかかってくる。
連続して爆拳を繰り出して散らしていくが雷の生成の方が速い。シグンは徐々に押され始めていった。
(このままじゃ埒が明かねぇ、魔力の消費はさせているがこっちもそれ以上に消費している。大技をねじ込んで当てるしかねぇな )
爆拳を放ちながら右足に魔力を集めていき機会を見計らうと地面を踏みならすように魔術を発動する。
「爆裂脚!」
効率を度外視して大きめの魔術を地面に向けて放つ。地面を爆発させて土をまき散らすと相手の視界から消えてその場を逃れる。
「こっちだ! 付いてこい!」
敵を見失った猪にわざわざ声をかけて居場所を知らせると、シグンはきびすを返して駆けていく。
猪もシグンを逃すまいとその背中をを追いかけていった。




