勇者は貧乏くじを引く
俺は勇者だ。魔王を倒す者として育ってきた。1日たりとも鍛練を欠かしたことはない。今日が、その成果を発揮する日だ。
「魔王、貴様を倒しにきた。」
「よく来たわね。倒してやるわ。・・・って、一人なの?」
「悪いか?」
本来は、一人で行くべきではないのだろうが、行きたそうな奴もいないし、めんどそうなので一人で行くことにしたのだ。
「別にいいわよ。倒すのが楽になるだけだし。まぁ、仲間がいない勇者って他には先にも後にもいないだろうけど。」
馬鹿にするような口調に、若干イラッときたが、大人なので、あおるだけにとどめておいた。
「お前も一人だけどな。」
フッというわらいつきの俺の言葉にで魔王の顔が歪んだ。
「貴方、死にたいみたいね。」
がらりと空気が変わった。ゆるかった雰囲気が、ギュッと引き締まる。魔王が剣を抜き、俺も剣を抜く。気を引きしめ、魔王に切りきったとき、魔王が消えた。「ちっ」と舌打ちをする。すぐに見つかった。なぜなら、消えたのではなく、下がっただけだったのだ。下がって何をしていたかというと・・・
「すみませんでしたーーー!!!!殺さないでくださいーーー!!!どうかご慈悲をーーー!!!」
そう、土下座をしていたのだ。これには俺もドン引きだ。こいつには魔王としての・・・いや、それ以前に生き物としてのプライドはないのだろうか。
「まだ戦ってもいないのだが?」
「仕方ないじゃない!貴方、怖いのよ。目つきわるいし、ガタイいいし、髪型、おかしいじゃない。なんか強そうだし。さっき斬り掛かって来たときなんて最悪よ!もはや、勇者じゃなくて、貴方が魔王よ!」
・・・また、少しイラッときてしまった。だが、俺は大人だ。我慢してやろう。
「俺が魔王だとしたら、お前はなにになるんだ?ただのへたれか?」
「へたれじゃないわ!・・・そうね、ちょっとだけ強い可憐な美少女かしら」
何いってるんだこいつ。
「土下座してる奴に、強いも可憐も美少女も、あわねぇよ」
もういい加減めんどくさくなってきたので剣を持ち直して斬りかかる。すると魔王は慌てて言葉を連ねてきた。
「あああああぁぁぁぁぁーーー殺さないでーー。落ち着いてよーー」
「お前がおちつけ。そして黙れ。」
もうほんとにめんどくさい。剣をまた持ち直した俺に魔王が焦る。
「ちょっと待って。そ、そうだ。私を仲間にしてよ。それなりに強いと思うし。どうせあなた、一人でしょう?・・・こ、ころさないでってば!!お、おねがい!」
ちょっとイラッとくる言いぐさはあったが、こんなに土下座もして、下手に出てきてる相手を殺すのはさすがに夢見が悪いしいいだろうか。もし、裏切ろうとしても、その時はすぐに殺ればいいだろう。
「まぁ、いいだろう。ただし、お前は倒されたことにするからな。そして、俺の言うことには従え。」
「まぁ、仕方ないわね。それでいいわ。」
・・・こいつ、めんどくさいうえに、腹立つんだが。
こうして俺は、本来倒すはずの魔王と仲間になってしまった。
「あなた、本当に勇者なの?わたしの提案に乗るなんて。あ、もう覆しちゃだめよ。男に二言はないもの。」
おかげで、すごく、腹が立つ。・・・ほんとに、どうしてこうなったのだろうか。
「ほんっっっとに、めんどくせぇーんだけど!!」
魔王城に勇者叫び声が響き渡った。
「うるさいわね」
「いいかげん黙れ」
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