第97話 ダメな女の子筆頭は私でした
ひらひらと手を振りながら中に入って行くギルマスを見送る私たち。
別に、私たちイチャイチャなんかしてないし……だいたい激しい事ってなによ。
そんなのする訳ないじゃない、ねー。
するんだったら宿の部屋でドロシーとしっぽりと……ゲフンゲフン。
「……声漏れてるよ。」
3人から思いっきりジト目で見られちゃったよ。
おかしい。
私はただ単に自分の欲求に素直になっただけなのに。
はぁ、と軽くため息を吐いたリズが思い出したようにこっちに向き直って言う。
「所で、さっきギルマスが言ってた東の草原がどうとかって、あれなに?」
「そうそう、確か東の草原って今入れないですよね?だから行くんならてっきり南の草原か西の草原だとばっかり思ってました。」
「ああ、それね。実は条件付きで許可が出たの。」
かくかくしかじか、その辺りの事を説明する。
「へー、そうなんだ。」
「なんか意外ですねぇ。ギルマスってもっとお堅いんだと思ってました。」
「だよね、思いの外緩かったし。けどまぁ信用はされてるのかな? なんか責任重大だけどね。」
私は身が引き締まる思いがした。
信頼されてるってのはそれはそれで勿論嬉しいんだけどもヒシヒシと責任は感じるね。
ギルマスからの信頼は裏切らないようにしないと!って気持ちを引き締める。
私たちはお喋りしながら門のところまで歩を進める。
それにしても……
「ねぇ、なんかやけに商人が多いと思わない?」
ぐるりと首を回して周りを見る。
朝の一番人の出が多い時間帯だから当たり前なのだけど、それは規制の出る前の話。
行動規制が出ている今の期間は商人や冒険者の動きは穏やかなのだ。
特に北と東の門は顕著で人々は西門や南門に集中していたのだが……
「ほんとだ、確かに言われてみれば…」
私と同じようにぐるりと周りを見回してリズが言う。
「冒険者は少なくて商人の方が多い?」
元居た世界でも大雪等で物流が滞る事はある。
と言うかあった。
大雪が降ったせいで主要幹線道路の交通機能がマヒし大渋滞を引き起こし物流が止まってしまうと言う経験をした事がある。
それでも冷蔵・冷凍技術の発達した現代社会ではストックがある為普通の局面では大事には至らない。
確かに物が少なくなる為不便は感じるだろうが生活は出来るといえば出来る。
では、こちらの世界ではどうだろうか?
冷蔵・冷凍技術なんて物を一般市民が持ち得ている訳もなく、また店先に並ぶ生鮮品の鮮度は日毎に落ちてゆく現実、日々の物流が制限されれば……
「市場在庫が減っている?」
ドロシーが呟く。
そう、それなのだ。
保存食の備蓄はあるだろうがアレはあくまで保存食。
同じ食べるなら誰だって新鮮且つ美味しい方がいいに決まってる。
市民は今のこの規制は知っていて、自分の所だけでも新鮮な物をある程度確保しておきたい、そう思うのは普通の事。
そうすると買い占めに走る人が居たっておかしくない。
いや、実際に買い占めに走っている人も居るのだろう。
だから商人は荷馬車を出す。
需要があるのだから少々の危険は飲み込んで荷馬車を走らせる。
あと……件の商業ギルドの身勝手な規制解除。
これが一番の原因なような気がするけどね。
ただこれについてはまだハッキリしていない。
たぶんそうじゃないかなぁって話。
まぁ、皆がみんな危険なとこを通って行商に行くって訳でもなかろうし、大部分は迂回するとは思う。
だから心配はないんだろうけど……何とも言えない不安感が拭えない。
「今ここで私たちが心配したところでどうにかなるモンでもなし、取り合えず行こうよ。」
リズが努めて明るくそう言ってみんなを促す。
そうだね、そうかもしんない。
「くーちゃんさんたちに狩りして来て貰えばお肉も確保出来るしね。」
メロディが「お肉お肉」と嬉しそうに言う。
「メロディ…さん、お肉はギルドに卸して市場に流すんですよ? メロディさんにあげる訳ではないですからね? そもそもの話その狩って来た獲物のお肉ってオルカの物ですからね!」
「わ 分かってるよー。そんな意地悪言わなくてもいいじゃない。ドロシーのいけず。」
唇をアヒルのように尖らせて可愛らしいく文句をメロディ。
「分かってるんなら言わなきゃいいじゃない。」
半ば呆れ気味にリズが苦笑している。
まーいつも通りのメロディだね。
「そんな訳だから、くーちゃん・さくちゃん。今日は二人で遠慮なく狩っちゃっていいよ。」
(それは僥倖。我らの楽し……さくらの鍛錬が進むと言うものです。)
あ、うん。 いちいち言い直さなくてもいいからね。
分かってるから。
それじゃあぼちぼち行きますか。
「レッツラゴー!」
「「「おおー!」」」
4人で拳を上へ振り上げる。
意気揚々と門をくぐりいざ行かん。
門番さんには微笑ましいものを見る目で見られたのは内緒。
「まだ規制は解除されてないからな、ちょっとでも危ないと思ったらすぐに帰ってくるんだぞ。」
「「「「はーい!」」」」
元気よく門番さんに返事をして街道を歩く。
確かに人通りが多い、それに荷馬車も多いように感じる。
でも殆どの人が迂回路を通ってゆく。
私たちもその人の列に続いて歩いてゆくが、森が近づいた所で一旦立ち止まり、
「どっちへ行く?」
街道から外れた草原を指さし、人差し指を右に左にとついついっと動かす。
「オルカに任すよー。」ってリズたち。
うーん、そう言われてもねぇ。
こうゆう時はくーちゃんに聞くのが一番かな。
「ねぇ、くーちゃん。どこか近くで川の側で木陰のある所ってなぁい?」
私の問いにくーちゃんは鼻をついっと上に上げてスンスン。
耳をピクピクとあっちこっちに動かす。
しばし間があってくーちゃんから返事がある。
(見つけました、たぶんご要望に近い場所かと。 では、案内いたします。)
さっすがくーちゃん、頼りになる。
「くーちゃんが良い場所見つけてくれたみたいだから行こう。」
みんなの方を向いて声をかけて歩き出す。
ワイワイきゃぴきゃぴ。
女の子が4人も集まればそりゃあもうかしまし娘よね。
私もこうゆうのにもすっかり慣れてきちゃって普通にガールズトークしてるし。
「くーちゃんさんてさ、ホント出来る子ですねー。」
「でしょ?でしょ? エッヘン!」
「なんでそこでオルカが威張ってんのよ、エライのはくーちゃんじゃない。」
「「そうだそうだー!」」
「な なにようー。メロディもドロシーも口揃えてぇ。」
(まぁまぁ主様。 わたくしは主様の役に立てればそれだけで嬉しいのですから、どうぞお気になさらずに。)
(くーちゃん、ありがと。 だけど何か納得いかないのよ。)
「ほらぁ、今のくーちゃんの台詞聞いた? 私の役に立つのが嬉しいって言ってくれてんだよ?」
「「「いや、そもそも私たちはくーちゃんさん達とは話出来ないし!」」」
「ホントにくーちゃんさんがそんな事言ったのー?」
ちょいとリズさんや、そんな疑いの目で見るのはおよし。
ホントに言ったんだから。
私のくーちゃんは嘘つかない。
「ホントにホントだもん!」
「あーあ、オルカが拗ねちゃった。」
揶揄うようにリズとメロディが困った子を見るような優しい眼差しで私を見ている。
うううぅ、ホントにホントなのにー。
「よし!そこまで言うんなら、今後くーちゃんが狩って来たお肉はもうあげない!」
私が冗談めかしてそう言うと
「はいっ! 言いすぎました!ごめんなさい。 私はリズと違って最初からオルカを信じてました!! だからお肉お下さい♪」
「あっ、メロディずっるうぅぅ。一人だけ抜け駆けしてー!」
「メロディさん…………。」
「「「「ぷっ。 あははは。」」」」
「もー、メロディ最悪ぅ。」
「はあぁぁ、メロディったらもう。。。」
「相変わらずダメな人だったんですね。」
「そこまで言う? 私ってそんなにダメな人?」
「気づいてないっ?!」
「ほら、だってメロディだから。」
「メロディさんですもん。」
「みんな酷い ううぅ。」
ひとしきり笑った所でちょうど目的地に着いたみたい。
(主様、如何でございましょう?)
「着いたーっ! 中々良さげなとこね。」
「川の側で通り抜ける風が爽やかで気持ちいいー!」
リズとメロディがニコニコ笑顔で草原で寝そべって手足を伸ばして寛いでいる。
ドロシーは横に来て私の顔をジッと見ている。
あら、ヤダ。 ちょっと、そんなに見つめないで、照れちゃうじゃない。
私誘われてるのかと勘違いしちゃうよ?
ドロシーったら見た目と違うくて意外と積極的なのね。
ダメよ、ダメダメ。
ここじゃダメよ、リズたちが見てるもの。
あ と で ね♪
頬に両手を当ててモジモジくねくねしてたら
「オルカ、めっさ声漏れてるから。」
ジト目で睨まれた、テヘッ。
「それよりこれから何するの? 何か手伝える事とかある?」
「あるある、手伝って欲しい事いっぱいあるよ。 それよりもあの二人だよね。リズ、メロディー!そんなとこで寛いでないでこっち来て手伝ってー! 手伝わない子はごはんナシだよーっ!」
そう声を掛けるとダッシュでメロディがやってきて
「イエッサーッ! 何すればいい? またお野菜切る? それともお肉焼く?」
「メロディ速っやっ!!! ごはんが絡むと5割増しで動きが速くなるよね。」
リズが酷い事言ってる。
けどメロディって実際そうゆうトコあるしねー。
「メロディさんから食欲取っちゃうと只の抜け殻ですもんねー。」
うわ、ドロシーも大概酷い言い草だ。
真正面から直球でディスってるよ。
しかも抜け殻って何の抜け殻よ。
「ね、みんな私にだけあたり酷くない?」
頬っぺたをぷくっと膨らませて怒ってみせるメロディ。
うーん、怒った顔もとっても可愛い。
そんな顔見ちゃうとついイジメたくなっちゃうよ。
あんな事したりとかこんな事したりと。
くふっ。
楽しみが広がるわぁ。
嗚呼、あれもいいわね。
あれやったらメロディが恥ずかしがってる顔見られるかしら?
なんか考えただけでキューンて来ちゃう。
疼くって言うの?まぁそゆ事。
「「「漏れてる漏れてる!」」」
「私さぁ最近分かって来たんだけど、オルカって妄想モードに入ると急に独り言多くなるよね。」
「そうそう、それがダダ漏れに漏れちゃって。」
「しかも小声とかじゃなくてまぁまぁ大きい声だったりするんよね。」
「えっ? 嘘。 心の声が漏れてた?」
「いやいや、心の赴くままに欲望が漏れまくってたよ?」
「リズの言う通ぉーり。」
「異議なーし!」
「そりゃあちょっとは独り言言ってる自覚はあるにはあるけどさ、そこまで酷くないつもりなんだけど?」
「やっぱ気付いてない?」
何が?
私何か変だった?
「あー、こりゃやっぱり気付いてないよ。うん。」
「ですねー。 ここは心を鬼にして忠告してあげないと。 では、人生の先輩のリズさんからどうぞ!」
「私っ?! 私が言うの? いや、イヤじゃないけどさ……。 分かった、分かったから。 言うからぁ。」
ええぇ、そんなイヤそうにする?
そんなに言いにくい事?
それ言われると相当ショック受けるやつ?
「い 言うよ? オルカ心の準備はいい?」
「……いいわよぉ。」
なんかちょっと怖いような。
リズが意を決したように目に力を込めて喋り出す。
「あ あのね。 オルカの独り言なんだけどね、割と結構言ってるのよ。頻繁に。」
「う、うん。そうかもしんない。」
「でね、その何ていうか、あっち方面って言うか……」
「あっち方面て?」
リズが顔を赤くしながらモジモジしてる。
そこまで恥ずかしがらなくても。
「え え エッチぃ妄想の時ほど声が大きくなるって言うかね……」
「……はっ?」
「普通の独り言だとそこまで大きい訳じゃないんだけど、エッチぃのとかエロ方面だと声が大きくなるのね。それがエロければエロい妄想ほど声が大きくなる の。」
はぁあああああああああああああああああぁぁぁぁっ?!
つまり
「私の心の潤いが全部漏れてた と? 」
「うん。」
「あんなのやこんなの、イチャイチャとかくんずほぐれつ系も?」
「うん。」
「ベッドでしっぽりとか、〇〇でごにょごにょ……も?」
「「うん、全部。」」
リズとメロディが申し訳なさそうに頷く。
……………………
「イヤアアアアアアアアア! ま ま ま ま マヂか。」
私一生の不覚。
恥ずかしすぎる。
オルカ=とってもエロい子が定着しちゃった模様。
マイガーッ!
どどど どうすんのよ?
ひぃーっ、なあんで皆言ってくれないのよぉ。
これじゃあまるで無自覚でエロ妄言漏らしまくってる痴女じゃないのよー。
「だ 大丈夫よ。 私はもう慣れたから。」
「そうそう、オルカがどんな性癖でも受け入れるつもりですよ。」
「私の知ってるオルカも同じような事言ってたし大丈夫。そうゆうモンだと思って接してるし。」
「うう、みんなありがとう。 でも全然フォローになってないからね。」
涙目だよ、クスン。