第95話 ダメなお姉さんたち
冒険者ギルドでギルマスから面倒事としか思えないような嫌ぁな話を聞いたあと宿に戻った。
ドロシーと仲良くなれてちょっといい気分だったのがギルマスの最後の言葉で台無しだ。
あーあ、何だかなぁな気分よ。
けど、それはそれ、これはこれ。
お仕事はお仕事として頑張るけど、明日も今日と同じでみんな一緒にお出かけなんだからそれは楽しまなきゃね。
ブンブンと首を横に振って沈みかけた気分を振り払い「よしっ!」と気合を入れる。
「ただいま戻りました。」
受付に居たカミラさんに挨拶して部屋に戻った。
昼間マヨネーズを作ってて思ったのが、兎に角腕がダルイ!と言う事。
あれは人力でやるモンじゃないね、腕がパンパンに張ってバカになるよ。
ハンドミキサーが欲しいって切実に思ったもん。
なので今日は調理用魔道具を少しばかり作ろうと思う。
先ずハンドミキサーでしょ、それにジューサーミキサー、ミンサーもあると便利だな。
ミンサーを作るんならついでにパスタマシンも欲しいかな。
調理器具って見てるだけでも楽しくて、ウキウキして、更に実際に使って楽しめる。
調理器具や包丁って見てるだけで気分アガるよね。
私前世では包丁5本持ってたよ。
ごく普通の中年サラリーマンとしては普通だよね?
みんなもこれくらい持ってるでしょ?
良く研がれた包丁ってすっごい綺麗だからついつい見蕩れちゃう。
眺めてても全然飽きないのよね。
私の幸せ時間だったなぁ。
今の私の希望は調理器具の拡充だな。
そんな訳で夕飯の時間まで調理用魔道具を作ろうと思う。
私の総魔力量は可笑しな事に日々増えている。
それも伸び率が一定のまま日々伸び続けているのだ。
絶対に可笑しい。
普通では考えられないのだが、有難い事にあの女神様だからきっと何かやらかしたのだろう。
そう思えば納得も出来ると言うものだ。
と言うかそうでも思わないと納得も理解も出来ない。
まぁ、規格外の魔力量を持つ私だけど特別何か不具合がある訳でもなし、魔力量が多くて困る事も特にないのでこれはこれでアリか。
魔力量が多いとそれだけで安心感あるし。
何やかんやうだうだと考え事をしながら調理用魔道具を作っていると3の鐘が鳴る。
「ん、もうそんな時間? 夕飯食べてこようっと。」
私は楽な服装に着替え、お風呂セットを用意してストレージに仕舞う。
さ、下に降りよう。
この宿は女性専用の宿だ。
たまに見知らぬ女性冒険者が泊まりに来る事はあるが基本的にここを定宿にしている同じ顔触ればかり。
そしてどうやら私も常連の仲間入り出来たみたい。
食堂に入ると見知った面々が並んでいるのを見て軽く挨拶する。
「お疲れさまー!」
「「「お疲れーっ!」」」
「オルカさん今日も可愛いわねぇ。」
「だねぇ、目の保養だよねー。」
「私の妹になってくれないかなぁ。」
「それそれ、私もオルカさんみたいな可愛い妹が欲しかったんよね。」
「可愛いだけじゃなくて綺麗で品もあるよねー。まるでお貴族様みたい。」
「それねー。下手な貴族よりよっぽどオルカさんの方が所作とか優雅で貴族みたいだもん。」
「あはは、有難う御座います。」
元中年男性の私としてはこうゆうストレートな褒め言葉にはどうにも慣れなくてねぇ。
嬉しいんだけど照れ臭いって言うか恥ずかしいって言うかね。
これいつか慣れるんだろうか?
んー、分からん。
きっと慣れるんだろうけどすぐじゃないな。
「そうやって顔真っ赤にして照れてる姿もキュンとしちゃうのよー。」
これだもん。
慣れろって言う方が無理ってもんよ。
「もー、そんなに褒めても何も出ませんよ。 メッ!ですからね。」
「ぐはっ!」
「はうっ!」
顔を赤くして胸を押さえるお姉さんがチラホラと。
「あああ、オルカさんにメッ!された……」
「うん、これはヤバいよ。新しい扉が開いちゃうかも。」
「お姉ちゃんが甘えさせてあげたいって気持ちと、メッ!されたい気持ちがせめぎ合ってる。」
「分かる! それすっごい良く分かる。」
「私も同じ気持ちだよ。」
「オルカさん、お姉ちゃんに甘えていいんだよ。 私はいつでも待ってるからね!」
「オルカさんに叱られるダメなお姉ちゃんになりたい!」
「私もーっ!」
あ……うん、これはダメな人たちだ。
なるべく関わり合いにならないようにして食べるもの食べたらさっさと退散するのがが吉だね。
私は急いで食べるとそそくさと食堂を後にしお風呂場へ向かう。
ここも要注意な場所だ。
ここは兎に角みんながエロいのだ。
目のやり場に困るって言うか、女の子同士だから遠慮がないってのもあって開けっ広げすぎる。
もう、オープン、オープンのフルオープン。
ガッ!っと開いてザパーッ!なのだ。
思わずつい凝視……げふんげふん、違った、否応なしに目に入って来て困ってしまう。
ちょっとだけ……うん、ちょっとだけだよ、ホントだよ? 乙女の花園を愛でて楽しんでる私。
出来るならサッと浸かってさっさと上がるのが理想なんだけどそんな烏の行水みたいな真似は出来ないので、目線だけで乙女の花園を楽しみつつ出来るだけ素早く洗ってお湯に浸かって上がる。
それっきゃないよね。
時間との勝負。
お風呂でジーっと見られているけれどそれはもう気にしないようにして脱兎のごとくお風呂場を去る。
ふう。
無事にお風呂場から離脱成功。
多少楽しみつつも何とかミッションクリア。
部屋に戻ってさっきの続きをする。
色々と細々とした物を作っていく。
コレあったら便利だなーって思った物を思いつくままに作る。
あー、そうそう。 リズさんたちにはヘアブラシとかあげたけどドロシーにはまだあげてなかったな。
明日会うから忘れずにあげないと。
明日は今日と同じくらいの時刻にギルドに行くでしょ。
そんで、東の草原&森へ行ってもいいか聞く。
ギルマスから聞かされた通り完全自己責任だよって事は口が酸っぱくなる程説明してだけど。
それでOKなら明日は東の草原でピクニックランチだね。
実はもう明日のレシピは考えてある。
手持ちのお肉の中からコカトリスと、今日狩ったグリーンバイパーのお肉を使って唐揚げ、こっちの世界では過去の異世界人がもたらしたと言われているレシピ『カリャーゲ』にしようと思ってる。
コカトリスとグリーンバイパーのお肉2種類を2種類の味付けで作るつもり。
勿論リズさんたちやドロシーにも手伝って貰って二人や孤児院の子供たち用の持ち帰り分も作るよ。
他に付け合わせでポテトサラダも作ろうかな。
実はポテトサラダって前世の私の得意料理の1つでもある。
手間は掛かるけど簡単ですっごく美味しいからって良くルカに作って欲しいってリピされたっけ。
懐かしいレシピだ。
明日は久しぶりに作って、みんなに振舞ってあげようかな。
ゴーンゴーンゴーンゴーンゴーン。
鐘の音が5つ。
もうそんな時間なんだ、そろそろ寝なくちゃ。
じゃ、おやすみぃ。
朝。
んんんーっ、っはー!
ぐぐーっとひとつ伸びをする。
スッキリとした目覚め。
昨日は余計なハッスルしなかったから睡眠はバッチリだ。
いつもの仕事着(冒険者の恰好)に着替えたら下に降りて朝ごはんの時間。
朝食のメニューって大体いつも同じののローテーションみたいでパンやスープ、具材なんかが定期に変わる。
たまーに果物なんかも出る時がある。
それとゆで卵も出る。
私の知ってる異世界物だと玉子は高級品で滅多に口に出来ないみたいな描写があるけれど、この世界では普通に食べられてるし売ってもいる。
ただ鮮度のいい卵はあんまり売ってなかったけどね。
基本的に加熱して食べる食材って扱いだから。
私は『鑑定』さんのおかげで生食可能な物だけを選んで買ったから問題はなかったけど。
塩味だけのシンプルな味付けの朝食だけど不思議と飽きないと言うか、思いのほか美味しかったりする。
昨晩の残りのスープに硬いパンを浸してもっきゅもっきゅと食べる。
朝からしっかりと顎を動かして食べる事で色々と健康促進効果が期待できる。
消化吸収を助け、虫歯予防、ガンや老化を防ぎ、脳の活性化、食べ過ぎを抑制し痩せやすい身体に、あと、顔の筋肉が鍛えられ顔周りがシャープになる。
噛むって言うのは本当に大事だなって思う。
だからなのか、こっちの世界の人々って筋肉質だけどスラっとして細マッチョな人が多いよね。
あーでも私の知ってるこっちの世界の人って商人や冒険者といった一般市民ばかりだからかも知れないけど。
お貴族様の知り合いって居ないから良く分かんないんだけど、もしかしたら貴族なんかだと美味しい物いっぱい食べてるから太ってる人も居るかもね。
私は……うん、大丈夫!
胸にたっぷりのぷにぷにした脂肪を蓄えてはいるけど他の部分はそれ程でもない。
流石にシックスパックが浮き出る程筋肉質ではないけれども、脂身って言うほど脂肪はついてない。
うっすらと脂肪が乗ってて、自分で言うのも何だけど女性らしい柔らかで美しいボディラインだと思う。
っと、横道にそれちゃったね。
さっさと朝ごはん食べてくーちゃんたちのとこに行かないと!
私は朝食の残りを手早く食べると席を立ち厩舎へ向かった。
「くーちゃん・さくちゃんおはようっ!」
((おはようございます。))
二人は嬉しそうな顔でいつもと変わらぬ様子で朝の挨拶を返してくれる。
私は今ごはん食べて来たけどくーちゃんたちは?
「今ごはん出すね、ちょっと待ってて。」
私がそう言うと
(いえ、それには及びません。昨日の狩りでたっぷりと食べましたゆえ。)
(はいなのです。)
二人からは遠慮する旨が。
「あら、そう? それならいいけどお腹空いたら言ってね。食べられる物なら一杯あるから、言ってくれればすぐに出すよ。」
それだけ言って一旦出そうとしたくーちゃんたちの朝ごはんは出さないでおいた。
それから二人には厩舎から出て貰って一緒に並んで外へ出る。
「まだちょっと時間早いけどもう行こうっか。」
(そうで御座いますね。)
ひんやりとした朝の冷気が漂う中くーちゃんたちと冒険者ギルドへ向かう。
通りはまだ人影もそんなに多くはない。
歩いているのは朝早い商人や冒険者稼業の人たちばかりだ。
くーちゃん・さくちゃんと言う従魔を連れて歩いていると周りの人々の耳目を集めてしまう。
うーん、見られてる。
大分慣れては来たとは言うものの、それでもやっぱり意識はしちゃう。
完全に気にならないようにはならないだろうな。
出来るだけ気にしないように気にしないようにしながら歩いた。
冒険者ギルドの前まで来たけどやっぱりまだリズさんたちやドロシーは来てないみたい。
「ありゃ、まだ来てないや。ま、いっか。」
別に彼女たちが遅刻してる訳でもなし、私が早く来すぎただけだから待てばいいよね。
別に待つのは嫌いじゃないし。
ドロシー早く来ないかなー。
暫く、と言っても大した時間でもなく、通りの向こうから見知った顔が二つ並んで歩いているのが見えた。
来た来た。
リズさんとメロディちゃんだ。
「おはようーっ!」
私は右手を高く掲げてブンブンと手を振る。