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第92話 やっぱり日本人だったんだ

時間的にはまだ少し早めだったけど街に戻って来た。

リズさんたち今日の稼ぎは大丈夫だったのかな?

聞こうかなとも思ったけど余計なお節介かと思って何も聞かないでおいた。

獲物を買い取りして貰いお金を山分けするのは却下されてるしお金を渡すってのは無理そうだから、現物支給でメロディちゃんが喜びそうなお肉をプレゼントする事にした。

プレゼントなら受け取らない訳にはいかないよね?

我ながらいい考えだ。


「はい、これ。」


そう言って私はストレージからコカトリスのお肉を取り出した。

コカトリスって言うと遠慮して貰ってくれないだろうから鶏肉だと言う。

嘘は言ってないよ?

コカトリスって鶏のお化けみたいなもんだからね。

ギリセーフ。


「えっ? いいよそんなの。 貰えないよー。」

「そうですよー、コンソメも寸胴一杯貰っちゃったし、お肉まで貰っちゃったら貰い過ぎですよぉ。」


「あー、いいからいいから、気にしないで。プレゼントだから。」


「でも……」


まだ遠慮してたけど


「私ならくーちゃんたちのおかげでお肉いっぱい持ってるから少しくらいあげても全然大丈夫。だから貰って。」


そう言って強引に持たせた。


「オルカさんありがとう。」

「ありがとうございます。」


「いいえ、どういたしまして。じゃ、また明日!」


「「うん、また明日!」」


「明日の朝、今日と一緒くらいの時間にこの場所でね!」


「「「了解!」」」


「「バイバーイ!」」

「バイバイ!」


手を振り合いながらリズさんたちと笑顔で別れる。

さ、次はドロシーさんを孤児院まで送っていかなきゃ。


「さ、行きましょ。」


そう言って歩き出す私たち。


「さて、やっとゆっくりお話し出来るわね。」


私がそう切り出すとドロシーさんも私の意を汲んでくれたようで、


「そうですね。」


ある種決意みたいな物を感じさせながら応えるドロシーさん。

私も緊張してるけどドロシーさんもちょっと緊張してるみたい。

でも考えてみたら当たり前か。

だって前世が同じ日本人かも知れない人間がいま目の前に居るんだもの。

そんな事誰が信じられる?

異世界に転生、若しくは転移して知ってる人なんて誰も居ない一人ぼっち。

元世界の住人に会える可能性なんて万に一つもない。

普通はそう思うよね?

所がその万に一つがいまこの場で起きている。

そりゃあ吃驚もするってものよ。

私だって吃驚してるんだもん。

ドロシーさんを見てみると不安と期待が入り混じった表情をしてる。

無理もない。

でも不用意に緊張感を煽る必要はない訳だから、ここは深刻になり過ぎないように注意しながらちょっと軽めにお話するのがいいのかな。

そう思ったから私はにっこりと笑いながら言葉を発した。


「これから話す事はまだ誰にも話してないの。ドロシーさんだから話すんだけどね、私ね『渡り人』なの。」


そう言った時のドロシーさんは「やっぱり!」って顔をして、そして


「わ 私も『渡り人』なんです。」


小声だったけど、けどしっかりとした口調で勢いよくそう言った。


「やっぱり、昨日の事もあったから、きっとそうじゃないかなーって思ってたの。」


「私も同じ事思ってました。もしかしたら同じ『日本人』かも?って。」


「やっぱりそうだったんだ。まさかホントに同じ日本人に会えるなんて……」


良かった。

私は1人じゃないんだ。

こうして目の前に同じ日本人で同じような年代の女の子が居る。

安堵感や嬉しさでごちゃ混ぜになって涙が零れそうになる。

そう思ったら感情が昂っちゃってドロシーさんをギュって抱きしめてた。


「キャッ。」


「ごめん、今だけ、ちょっとだけこのままで居させて、お願い。」


ドロシーさんを前から抱き締め背中に手を回す。

密着した身体や触れる手からドロシーさんの温かさが伝わる。

あ…ドロシーさんの匂い。

なんかちょっと安心する。

道行く人が「なんだ?」って顔で見ながら通り過ぎてゆくけどそんなのは気にしない、無視だよ無視。


「あうぅ……オ オルカさん、何かすっごい見られてるんですけど……」


耳まで真っ赤にしたドロシーさんが恥ずかしそうにしている。

その姿があまりにも可愛いくて更にギュウーッてする。

暫くの間そうしてたけど気持ちも少し落ち着いて来たので名残惜しいけどゆっくりと身体を離した。


「ええっと、急にあんな事してゴメンなさいね。」


冷静になって考えると、天下の往来で抱き合う女の子2人ってそれはそれは百合百合しい絵面よね。

しかも周りの人にはガッツリと見られてた訳でしょ?

そう理解したとたんメッチャ恥ずかしくなって来た。

かぁぁぁぁぁ。

顔が熱くなる。

ヤッバ、私いまきっと顔真っ赤だよ。


「オルカさん顔真っ赤ですよ。」


「ドド ドロシーさんも真っ赤よ?」


二人して顔真っ赤にしながら見つめ合ってモジモジしてる。

初心かっ!

私は恋愛初心者かってーの。

こう見えても享年36歳の元男性既婚者だ。

数は少なくても恋愛経験くらいあるのよ!

だ…だから大丈夫……落ち着くのよ私。


「すーはー、すーはー。 よしっ!」


ラジオ体操よぉーい!

ゆーっくり深呼吸してー。


「ね、ドロシーさん、日本語分かる……よね? もし良かったら日本語で話さない?」


私がそう言うとドロシーさんは「うん。」て首を縦に振った。

多分意識しないで喋るとスキルの『言語理解』が働いて勝手にこっちの言葉になるんじゃないかと思うの。

私は日本語で話してるつもりだけどこっちの人と何不自由なく会話出来てるのはスキルのおかげなんじゃないかなって。

だから日本人同士で話したいなと思ったらスキルを使わないように意識して日本語で喋らないとダメなんだろうと思う。

なので、ドロシーさんと二人っきりで話すときは『日本語』を意識して、


「私は元世界で一度死んでこっちの世界に生まれ変わったの。死因は…あれは交通事故…なのかな?」


異世界転生物に良くあるパターンの交通事故で亡くなって異世界へ転生する。

私の場合も正にそれなんだけど、事故は事故だけど……次元の歪みへ車ごと飛び込んで次元の狭間で死んでしまった。

王道パターンとはちょっと違っててレアケースよね。


「そうなんですね。私は……病死……でした。愛する人を残して先立ってしまったのが心残りで……」


ドロシーさんは力なく笑う。

そうなんだ。

辛かっただろうに……こんなにも健気に。


「辛い事も沢山あったでしょうに……」

「私はね、最愛の人に先立たれたの。」


「私と逆……」


「ドロシーさんは先立つ者の辛さを、私は残される者の寂しさを知っている。ね、私たちってお互いの辛さを補えあえるんじゃないかしら。きっとその為にこの世界に生まれ変わったのだと思うの。」


うん、きっとそう。

私はドロシーさんと会うためにこの世界にやって来たんだ。


「運命……なのかも。」

「……運命。」


期せずして二人が同時に呟く。

そして見つめ合う。

なんか少し分かり合えたような気がした。


「私は前世の記憶を持ったままこっちの世界で子供として生まれました、それが14年前です。けど両親は早くに他界してしまって私は孤児になって……それでこの孤児院に引き取られたんです。」


「私は元世界で1回死んで、例の女神様の祝福の話、あれね、こっちの世界に()()する時に女神様から授かったの。で、こっちの世界に来たのが1ヶ月半くらい前の話。だから私はこっちの世界に来てまだ日が浅いのよ。」


「じゃあ、孤児って話は……」


「ああ、ゴメンね。あれは嘘、そうゆう設定。騙すようで申し訳なかったけど私が『渡り人』だってバレる訳にはいかないからああ言うしか無かったの。でもこっちの世界では天涯孤独なのは間違いないよ。」


「なるほど。」


ドロシーさんは「うんうん」と頷き納得している。


「ところでオルカさんは今いくつなんですか?」


こっち世界の年齢よね?


「私は今13歳よ、来月には14歳になるけど。」


「えっ、同い年だ! 私も今13歳なんです。」


へー、同い年なんだ。

すっごい偶然。

だとすると元世界では何歳で亡くなったんだろう。


「私が亡くなったのは36歳の時だったんだけどドロシーさんはいくつで亡くなったの?」


「えっ?36歳……ですか? 私は24歳でした。」


「そうなのね……。」


ルカと同じ年齢で亡くなったのか、これは偶然?

ドロシーさんは若くして亡くなった、だとすると時間的なズレが発生してる?

これは一体どうゆう事だろう。

元世界で死んだ時からこっちの世界で生まれ変わる時までの時間差って何かルールみたいな物があるのかな?

それともランダムで一切の規則性がないのか。

分からない。

分からない事だらけだ。


「うーん。」


「難しい顔してますけどどうかしました?」


「いえね、この時間的なズレはどうゆう事なんだろうって思って。」


「時間的なズレ……ですか?」


「そう。」


ドロシーさんは享年24歳でこっちには14年前に生まれ変わってる。

私はと言うと享年36歳でこちらには今年生まれ変わって、しかもかなーり若返っている。

それでもって私たちは同い年。

何か意味があるのか無いのか。

元世界の何年何月に亡くなったのか、それにもよるしね。

例えばドロシーさんが私よりも13年ほど先に亡くなっていた場合には時間的には辻褄が合う。

逆に近い時に亡くなってた時は整合性が取れなくなる。

それとも女神様による無自覚のポカか……。

これが一番有り得そうだけどね。

兎に角いくら考えても分からない物は分からないんだから、考えるだけ無駄。


「私たち二人を巡り会わせてくれた女神様には感謝だね!」


「そうですね、これはもう奇跡ですよね。」


にこりと笑い合う私たち。

因みにドロシーさんは前世では結婚してたのかしら?

愛する人を残して先立ったって言ってたから多分…そうなのよね……。

何か考えるだけでちょっとモヤモヤする。

んー、何とも言い難い気持ち。


「あのね……」

「あ あのっ!」


被った。


「ドロシーさんからどうぞ。」


「いえ、オルカさんから。」


「いやいや、ドロシーさんから先に。」


「いーえ、オルカさんから。私は後でいいですから。」


そう?

お互いに譲り合ってても埒が明かないからね。

じゃ、私から。


「ドロシーさんのその……あ あのね……何と言うか…愛する人って愛する人って事? 一緒に住んでたりとか……その…夜に……ゴニョニョ。 わ 私何言ってんだろ。……その、どんな人だったのかなーって気になっちゃて……。こんな事聞いちゃダメだよね? やっぱいい、いいい今のは忘れて!」


うわー、私メッチャしどろもどろだ。

きっと顔も真っ赤だよこれ。

チョー恥ずかしい!

顔を両手で隠すようにしてぷるぷる震える。

指の隙間からそっとドロシーさんを見るとニヨニヨしてる。

絶対変な人だって思われたよーっ!

ひーっ!

私が1人悶えているとドロシーさんが優しい眼差しで遠くを見ながら話し始めた。


「私の大好きだった人は少し年上の人だったんです。私の一目惚れだったんですよ。とーっても格好良くて優しくて、頼り甲斐もあって大人で誠実で。私には勿体ないくらい素敵な人で、一目見た時からズキューン!て来て寝ても覚めてもその人の事ばっかり考えちゃったりして。で、私から猛プッシュしたんです。押して押して押して押してひたすら押しまくってたら絆されてくれまして♪ 私はその人と一緒に居られるだけで幸せでした。」


「そ そうだったの。随分積極的だったのね。」


ドロシーさんにそこまで言わせるその男が羨ましい。


「ちょっと妬けるな。」


ドロシーさんを盗られたような錯覚に陥ってしまってヤキモチ妬いちゃいそう。


「今はもういい思い出です。私先に死んじゃったから……。 それよりオルカさんの最愛の人ってどんな方だったのかなぁって……そっちの方が気になっちゃって。聞いちゃダメ…ですよね?」


「ううん、大丈夫よ。まだ完全に吹っ切れた訳じゃないけど…でも、自分なりに消化は出来てるよ。辛くないって言ったら嘘になるけど、今でも思い出すと辛い時もあるけど…大丈夫!今は前を向いて生きていこうって思えてるから。」

「私の大好きだった人はね、少し年下のとっても可愛いらしい子だった。笑うともちろん可愛いんだけど、怒っても拗ねても…ご飯を食べている時も寝ている時も……兎に角何をしてても可愛いらしくてね。そんなあの子を見るのが大好きだったの。いっつも私に引っ付いてくるような子だったわ。」


「なんかオルカさんお母さんみたい。」


そう言ってくすりと笑うドロシーさん。

ふふ、そうかもね。


「保護者の心境ってやつね。 あの子は私の宝物だったわ♪」


「オルカさんがそんなにも溺愛する人かぁ…オルカさんて甘えさせ上手なんですね。」


溺愛か……確かに溺愛してたかも。

ルカにはついつい甘くなっちゃってたし。

甘えさせるって言うより甘やかしてるって言った方が正しかったかも。


「そうゆうドロシーさんは甘え上手なんじゃなくて? さっきの話を聞いた限りじゃそんな風に聞こえたけれど?」


くすっ。

甘え上手に甘やかし上手か。


「案外私たちって相性いいのかもしれないね。」

「ですね。」


二人で笑い合う。

心にほわっと温かい灯がともりじんわりと広がる。

ポッカリと空いてた心の穴が少しだけ小さくなったような感じがする。

隣り同士で並んで話しながら孤児院までの帰路につく。

ゆっくりゆっくり。

この楽しい刻が少しでも長く続くように、敢えてゆっくりと歩を進める。

ドロシーさんも同じように思ってくれていると嬉しいんだけどな。

チラリとドロシーさんの方を見ると自然な感じで柔らかく微笑んでいた。

その天使ような横顔に見惚れちゃった。


今この瞬間よ永遠に!そう思わずには居られなかった。





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