第91話 「初めて」頂きました
「美味しいーっ!」
「うん、やっぱオルカさんの作るごはん最高ーっ!」
リズさんたちとは何度か一緒にごはんしてるから分かってるけど、初めて一緒に食べるドロシーさんはちょっと吃驚してる。
「ほんとにどれもすっごく美味しいです。」
ドロシーさん目をキラキラさせながらそう言ってくれる。
そんなにストレートに褒められると照れ臭いね。
別に自分の実力でも何でもなく元世界の知識の賜物なんだけどなー。
ドロシーさんもそれ分かってて何も言わないでくれている、空気の読めるとってもいい子だ。
「でしょー。すっごく美味しいでしょ! エッヘン!」
メロディちゃんがはち切れんばかりの柔山をぶるんと震わせ胸を張る。
「なーんでそこでメロディが得意気な顔してんのよ。すごいのはオルカさんであってアンタじゃないでしょ!」
「あー、いいよいいよ、特に気にしてないし。それにメロディちゃんらしいし。」
「もー、オルカさんもあんまりメロディを甘やかしちゃダメよ。」
「オルカさんが落ち着いてて一番大人な対応してますね。なんか年上のお姉さんみたい。」
「えー、何よそれ。それだとまるで私が躾のなってない子供みたいじゃない。失礼だなー。」
「「「えっ?!」」」
「ちょっ、3人とも何でその反応? ……私ってそんなに子供っぽい?」
「メロディはああゆう子なのよ、分かってはいたけどさ……」
「メロディさんお願いですからもう少し大人になりましょうね。」
「メロディちゃんは今のままがメロディちゃんらしくていいのよ。無理に変える必要なんてないからね。」
「むうぅぅぅ。」
ちょっとむくれながら口いっぱいにチャーシューを頬張るメロディちゃん。
頬袋をぷっくりと膨らませてリスのようにもぐもぐと食べている。
食べてる姿は小動物みたいですっごく可愛いのよね。
ただ時々ちょーっと面白いだけで。
メロディちゃんは基本「花より団子」だから。
「ほれひひへほほひひーなー。」
いつもの事だけど口いっぱいに食べ物入れて喋る癖があるよね。
ちゃんと飲み込んでから喋ろうね。
因みにさっきのは「それにしても美味しいなー」だ。
「この『メイヨーソース』が特に美味しいなー、リズもそう思わない?」
「思う思う。って言うか、領都のお店で食べたのよりオルカさんが作ったのの方が断然美味しく感じるんだよね。」
「あ、やっぱり? 私もそう思った。リズも?」
「うん、なんて言うか、領都のお店で食べたのはもっと油っぽくてもったりしてて重い感じでさ、食べた後口が濁ってるって言うかスッキリしないんだけど、オルカさんが作ったのは同じようで全然違う。『似て非なる物』。まず、オルカさんのは口当たりが滑らかで軽くて爽やか、なのにコクがある。あとまろやかな酸味が気持ちいいの。どんどん食べたくなるの、ひと言で言うと兎に角美味しい!って事。」
「リズ語ってるねー。」
コンソメの時もそうだったけど、リズさんて美味しい物食べた時は饒舌になるんだね。
なんかちょっと可愛らしいって思ったよ。
そんなリズさんをニコニコ顔で見ているメロディちゃん。
「んー。 多分だけど、味の差はね……」
「「「なになにっ!」」」
「確証はないんだけど、私の勝手な憶測なんだけどね……」
そう前置きして持論を展開する。
「多分使ってる油が違うんだと思うよ。あと卵はそのお店は全卵で作ってるんじゃないかな、私のは卵白は使わないで卵黄だけだし。お酢も違う可能性もあるし、作る手順なんかももしかしたら違うかも。」
「それだけ違ったらもう別物なんじゃない?」
「だねー、だからさっきリズが言った『似て非なる物』なんだね。」
私が使った材料は売ってる物の中で一番癖の無かった植物油とお酢を選んだから食べやすかったってのはあるだろうね。
私はそのお店のは知らないけどさ、上手く乳化してなかったとかあり得そうな話だし。
少量づつ混ぜないと上手く乳化しなくて分離しちゃうんだよね。
まぁ、流石に分離した物はお店で使う事はないだろうけど。
「はぁ~、このポトフもほんとに美味しい。」
ドロシーさんが感極まったようにトロンとした顔で呟く。
元世界でならいくらでも食べられたんだろうけど、こっちの世界では中々難しいよね。
そもそもがコンソメがねー、先ず以てこれを用意するのに掛かるコストが馬鹿にならない。
あと、レシピその物がない可能性すらあるね。
だから、
「この野菜スープもすーっごく美味しいです!」
「うん、これはヤバイくらい美味しいね。」
リズさんたちも手放しで絶賛してる。
こっちの世界にも似たような野菜スープはあるよ勿論。
でもそれは塩辛いベーコンとかで塩味を付けた野菜を煮たスープなんだよね。
野菜が豆に替わったお豆さんのスープとかだったりとかのバリエーションもあるけど基本はやはり塩味なのだ。
そうゆうのに慣れてる……いや違うか、そうゆうのしか知らなかったリズさんたちにしてみれば異世界のコンソメスープの美味しさは驚愕、異次元の旨さだったんだろうね。
「オルカさんが言ってた『お野菜やお肉の美味しさをギュギュっと凝縮した』のがこのスープだって言ってたけどホントその通り!お肉やお野菜の美味しさが口中に溢れて爆発してる感じ。」
「……こんなの初めてっ!これ知っちゃったらもう元に戻れないかも……。」
はい、リズさんの「初めて」頂きましたーっ!
ふふふ。
これからどんどん貰っていくよ。
みんな覚悟しときなさいよ。
「ジーッ。」
ん、なに?
ドロシーさんがジト目でこっち見てる。
「いま何かエッチな事考えてたでしょっ?」
ギクッ!
何で分かったの?
「もしかして超能力者?」
「んな訳ないでしょ。ほら、怒らないから言ってみなさい。」
「ななな 何の事かなぁー。 私分かんなーい。気のせいよ気のせい。」
「誤魔化してもダメですよ。顔見たら一発で分かるんですからね!まるで男みたいなエロ下衆い顔してましたよ?」
しまった!顔に出てたのか。
これは失敗失敗。
こんな事でみんなに嫌われたらかなわない。
気を付けなきゃ。
よーく気を付けて仲良くなった所で……ぐへへ。
「こりゃっ!」
ドロシーさんが私のおでこにペチッとチョップする。
「メッ! ですよ。」
「あちゃー、ドロシーさんに怒られちゃった♪」
んふ、ちょっと嬉しい。
「オルカさんてこんな人でした?さっき褒めたの返して下さい!」
「ごめん、もうしないからー。許してたもれー。」
ちょっと冗談めかして私がおどけて言う。
「「ぷ。 あははは。」」
二人顔を見合わせて笑い合う。
ちょっとだけ心の距離が縮まったように感じる。
なんか元世界でルカとこうやって笑ってたの思い出す。
あの頃も他愛もない事で笑い合ってたな。
懐かしい、けど切ない。
大切な思い出だな。
ドロシーさんとイチャコラを楽しんでいると、
「ヤバイヤバイヤバイ……これマジでヤバイよ。美味しすぎるよー! お野菜が柔らかくてソーセージがパリッとジュワッとして!」
メロディちゃん物凄い勢いでガッついてる。
「あーもう、そんなに慌てて食べなくても御代わりなら沢山あるからね。」
「だって、美味しすぎて止まらないんですよー。」
ありがと。
そこまで言って貰えると嬉しいもんだね。
「メロディそんなに慌てなくても誰も盗ったりしないから、もっとゆっくり食べなさいよー。」
リズさんがメロディちゃんを軽く嗜めているけど、そう言ってるリズさん自身がポトフを入れたボールを抱えるようにして食べてるからね。
それじゃああんまり説得力ないよ?
「リズさんももうちょっと落ち着こうか。」
苦笑いしながら私がそう言うと
「ほらー、二人ともオルカさんを少しは見習ったら? なんか年下のオルカさんが一番しっかりしてて頼り甲斐があるわ。」
ドロシーさんもやや呆れぎみに笑いながら言う。
「「ぐぬぬ。まさか年下の二人に注意されるとは……私たちの威厳が……」」
「「無い……ですね。」」
「「ガーン!!」」
ガーン!じゃないよ。
二人とももう成人してるんだからもっとちゃんとしようね。
それから私たちは美味しいごはんを心ゆくまで楽しんだ。
くーちゃんは私たちの側でくるんと丸まってウトウトと微睡んでいるし、さくちゃんはくーちゃんの頭の上に乗って溶けたように平べったくデロンとなってる。
さくちゃんの支配下のスライムちゃんたちも行儀よく大人しく待機している。
みんなリラックス、のんびり穏やかな時間が流れている。
優しい時間だね。
私たちは食後のお茶を楽しむ。
さて、これからどうしようか。
帰るには時間的にまだちょっと早いんだよね。
私だけだったらもう少し狩りをしてから帰るとこなんだけど……。
一応念の為みんなに聞いてみるか。
「みんなはこの後どうするの?」
「私はどっちでもいいよー。オルカさんに任せる。」
「私もリズに同じ、オルカさんに任せますよぉ。」
「あ、あの……私は子供たちの夕飯の準備に取り掛かりたいのでそろそろ帰ろうかな……と。」
「ああ、そっか。そうだよね、ドロシーは孤児院の仕事があるもんね。」
「そだねー、じゃあ帰ろう。」
「そうね、そうしましょ。」
私たちは期せずして同じ意見に纏まる。
「あ、あう……ごめんなさい。私の為に……」
「何言ってるの、私たち友達じゃない。」
「そうそう、そんなの気にしなくていいから!」
リズさんたちが「いいよいいよー」って手をひらひらさせながら気にしないでって言っている。
うん、私もそう思う。
友達なんだから変な遠慮は要らないよ。
「友達なんだから我儘言っていいんだよ?」
「友達……」
ドロシーさんが小さく呟く。
「そうだよー、私たち4人は友達だよ。」
「そうそう。」
「私はまだ昨日会ったばかりだけど、でも友達だと思っているよ?」
「……皆さん。」
ドロシーさんが困ったような嬉しいような何とも言えない戸惑いの表情をしている。
「ほらぁ、そんな顔しないの!」
リズさんがニカッと笑いながらドロシーさんの肩をバンバンと叩いている。
メロディちゃんも「そうだよー、私たちの仲じゃない。」って笑顔で言っている。
「だねー、友達ついでに今日の獲物の買い取りも4人で山分けしよっか!」
「それはダメ! 何がついでなの!」
「そうですよー、それはオルカさんの稼ぎなんですからダメです。」
「いくら何でもそれは……ちょっと。」
「ええぇぇ? なんでー?」
「「なんでじゃないです!」」
「そうですよ、そんな事したらオルカさんの従魔さんたちに悪いですし。」
むう。
ダメだったか。
「どさくさ紛れに上手くいくかと思ったのにぃ……」
「そんなの上手くいく訳ないでしょ、全くもう。」
リズさんもメロディちゃんも「やれやれ」って顔で呆れている。
ドロシーさんに至っては頬をぷくっと膨らませて「メッ!」ってしてる。
あははー。
取り合えず笑って誤魔化そうか。
「さぁて、そろそろ帰ろうか。」
「だねー。」
「そうしましょか。」
リズさんたちが同意する。
「ところでさ、オルカさんは明日はどうするの?」
明日?
明日は……確か、注文してあった革の防具の受け取りの日だったか。
「明日は午後からちょっと予定があって、午後遅くならない時間までには街に戻らないといけないから。」
「デート? そうなのね? 相手は誰? 男? 女の子? ねぇねぇ、誰なのよ。 それって私の知ってる人?」
「む、新たなライバル出現か? オルカさん相変わらず手が早いですねー。」
「そう……なの?」
ちょっと!
何で決めつけるの。
リズさんたちが変な事言うからドロシーさんが悲しそうな顔でこっちを見てるじゃないの。
違いますからね!
「違う違う。明日は頼んであった革の防具を受け取りに行く日なの。ほら、前に言ってたでしょ?ウーズの街の防具屋さんで。」
「ああ、そう言えばそんな事言ってたわね。そっか、それでこっちで新しい防具買ったんだ?」
「うん、そう。だから明日はそれの受け取りに行く日なの。でも午前中は今日と一緒で空いてるよ。」
私はゴメンねーのポーズをしながら説明した。
リズさんはいつものように手をひらひらと振りながら、
「あー、謝んなくていいよー。」
「だったら、オルカさんさえ良かったら明日も一緒に行動しませんか?」
「ええ、私はいいわよ。 リズさんもドロシーさんもそれでいい?」
「ん、委細問題なし。」
「私も大丈夫です。」
二人とも二つ返事で了承してくれた。
「よしっ!明日も美味しいお昼ごはん確保だーっ!」
メロディちゃんは力こぶを作って満面の笑みでガッツポーズをしている。
なるほど、そっちが目的だったか。
でも私的には特に問題なし。
って言うかみんなで食べるごはんは美味しいから逆に嬉しいかも。
「メロディー、そうゆうのはちょっとどうかと思うよー?」
リズさんが軽く注意してるけど私はそうゆうの気にしない。
「リズさん、いいよいいよ。私全然気にしてないから。それにみんなで食べるごはんは特別美味しいからね。」
「さっきも言ったけど、オルカさんてメロディーには甘いんだよね。」
そう? そんな事ないと思うけど?
私は誰にでも甘い訳じゃないからね、私が甘くなるのは基本的に好きな人に対してだけ。
好きでもない人は……まぁ、どうでもいい、興味なし。
「私は好きでもない人には甘くないよ。」
「「「そそそ それって? つまり……」」」
「うん、そうゆう事、貴女たちの事好きよ♪」
「「「っ!!!」」」
3人は顔を真っ赤にして照れ照れモジモジしている。
んふー、やっぱこの子たち可愛いわー。
元オジさんの血が騒ぐわぁ。
ほーんとこのままテイクアウトしたいくらいだわ。
「よよよ、よーし、街に帰るぞーっ!」
「おーっ!」
リズさんとメロディちゃんが変な掛け声かけて急に元気なってきた。
なんか微笑ましい気持ちになって来る。
ドロシーさんはまだ顔赤くしてモジモジして二人の後ろに控えている。
ふふ、さて、街に戻ろうか。