第89話 コンソメを作ろう ②
さぁ、マヨネーズを作ろう。
材料ならさっき卵白を取り除いた卵黄が大量にある。
用意する材料は、
新鮮な卵黄
お酢
油(オリーブオイルやごま油でも可)
塩
胡椒
たったこれだけ。
ただし作る時にちょっとしたコツが要る。
混ぜる時に一気に混ぜるのではなく少しづつ混ぜるのがコツだ。
みんなは作業をしつつも私がこれから何を作るのか興味深そうに眺めている。
「これから何に付けても美味しい万能ソースを作ります!」
高らかにそう宣言して早速作りにかかる。
ボールに入っている卵黄を軽く溶きほぐして、油を少量入れる。
卵黄の一部分と油を軽く混ぜたあと、卵黄と油を乳化させてゆく。
そこから少量づつ油を加えては混ぜて乳化を繰り返す。
ここでは焦らず少量づつ何回にも分けて混ぜ混ぜする事。
油を半分ほど入れ終わったらお酢を一気に入れて混ぜる。
お酢が混ざったらさっきと同じように少量づつ油を入れて乳化させてゆく。
最後に塩・胡椒で味を調えたら完成!
「ただし、めっちゃ腕が疲れる~!」
ぶっちゃけハンドミキサーが欲しい。
って言うか、何でハンドミキサーを作ってないんだ。
私のバカバカバカ。
う 腕がパンパンだ。
誰か変わってー。
って、みんな他の作業してて手が空いてる子が居ない。
マイガーッ!
仕方ない、やるか。
ドロシーさんがコンロの前で顆粒コンソメを焦がさないように注意しながら丁寧に煮詰めているその横で私はひたすら卵黄とお酢を混ぜ混ぜする。
ぐりぐりぐり。
つ 疲れた。
マジでしんどい。
これは手でやるもんじゃないな。
完全に私のミスだ。
疲れてヘロヘロになっているとドロシーさんが
「ね、それってマヨネーズよね?」
小声で聞いてくる。
あ、やっぱり分かりますか。
そうだよね、元世界の住人なら分かるよね。
「そうだよ、手作りマヨネーズ。超美味しいよ。」
私は親指をグイっと上に向けるサムズアップをしながらニコッと笑う。
でも次からは手作業では作らない。
絶対にハンドミキサーの代わりになる魔道具を作ると心に誓う私。
「味見してみる?」
出来立てほやほやの手作りマヨネーズの入ったボールをドロシーさんの前に差し出す。
小指の先にちょこっとマヨネーズを付けて可愛らしい口に運ぶドロシーさん。
可愛らしいピンクの唇。
そこに吸い込まれるように小指が……。
思わず見惚れてしまった。
「うん、美味しい。」
笑いながら人差し指と親指で輪っかを作ってOKサインをするドロシーさん。
ドロシーさんの声に我に返る。
ちょっとボーっとしてた。
「まさか、こっちに来てマヨネーズを食べれるなんて……。」
何か囁いていたようだけど小声だったので良く聞こえなかった。
けれどドロシーさんが美味しいって言ってくれたから良しとしよう。
これはお昼ごはんの時に使うから一旦ストレージにしまって、みんなの作業は進んでるかな?
ドロシーさんのとこはまだ少し掛かりそう。
リズさんは、もう終わってるか。
メロディちゃんのとこはそろそろ終わりそうだね。
ブイヨンが出来たらいよいよコンソメ作りだ。
「オルカさーん、こんなもんでどうですかー? 灰汁も出なくなったしスープも透明だし、それに美味しそうないい匂いがしてますよー。」
「どれどれー? おっ、いい感じじゃない。上手に出来てるよー。じゃ、火を止めて、スープの具材を濾したらブイヨンの完成。」
本当はここからブイヨンをざる等で濾さないといけないんだけど、この大きさの寸胴だと量が半端ないもんだから大変。
いちいち手でチマチマとやってられないからここはズルをしたいと思います。
一旦ストレージに仕舞ったら同じ大きさの新しい寸胴を取り出して、その中にさっきのブイヨンのスープだけを取り出す。
多少の魔力と引き換えにストレージと料理スキルと『創造魔法』の合わせ技イッポン。
ついでに取り出すときに冷却もかけて熱を冷ましておく。
これで不純物のない綺麗なブイヨンが取り出せる。
ブイヨンを作った時の汚れた寸胴を一度綺麗に洗って大型魔道コンロに乗せる。
さぁ、やるか。
みじん切りした野菜とコカトリスのひき肉、それに卵白を入れてコネコネした肉だねを洗った綺麗な寸胴に入れて、そこにブイヨンを入れていく。
この時に一度に全部入れずに数回に分けて入れるようにする。
肉だねを伸ばすようなイメージで混ぜながらブイヨンを入れていく。
ブイヨンを全部入れたら火にかけて弱火で煮込む。
火にかけると具材が浮かび上がってくるので、そうしたら真ん中に穴を開ける。
弱火でコトコト煮込む事鐘1つ分。
これで対流が生まれて灰汁が浮かび上がり、浮かび上がった灰汁が周りの肉だねに吸着される事で澄み切った綺麗なコンソメになるって訳。
コンソメって実は物凄い手間暇が掛かってる。
元世界ならスーパーに行けば固形の物が簡単に手に入るしお値段も手頃だ。
けれど実際に作るとなると話は別。
手作りなんてやってられない。
けどこっちの世界だと便利なキューブのコンソメなんて売ってない。
そもそもコンソメ自体ないかも知れないんだから。
ないならどうするか?
作るしかないよねって話。
「これはどれくらい煮込むの?」
「大体鐘1つ分くらいかな? それまでは暫く休憩。 あ、それは真ん中に穴を開けたら後は放っておいていいからね。」
メロディちゃんの問いに答える。
ふう。
ちょっと休憩。
ブイヨンの入っていた寸胴はきちんと洗ってストレージへ仕舞っておく事も忘れない。
お片付け大事。
「コンソメが出来たらそれでお昼ごはんにするよ。」
「やったっ!」
「メッチャ楽しみですねー。」
「私お肉も食べたいっ!」
メロディちゃん相変わらずのお肉推しなんだ。
ブレないねー。
「美味しい物作るから楽しみにしてて。」
「「「はあーい♪」」」
コンソメが出来るまでまだ大分時間があるからそれまでティータイムにしよっか。
リンゴを取り出して皮を剥き剥き。
剥いた皮と芯をティーポットに入れて熱湯を注いで2~3分待つ。
はい、出来上がり。
ね、とっても簡単。
「これでふんわりとリンゴ香る紅茶になるから。」
「ホントだー。」
「リンゴのいい匂いがする。」
「美味しい。」
アップルティー好評のようで良かった。
「リンゴも食べて。」
リンゴを乗せたお皿を主にメロディちゃんの前に差し出す。
「あれ?オルカさんはリンゴ食べないんですか? 食べないんだったら私が食べちゃいますよー。」
「食べて食べて。私リンゴの味は嫌いじゃないんだけど、あのシャリシャリした食感が好きじゃなくてねぇ。」
自分で自分の腕を掻き抱きながらブルリと身体を震わせる。
ひっ。
近くからリンゴを咀嚼するシャリシャリした音が聞こえただけでサブイボが出る。
ひーっ!
これは堪らん。
転生しても苦手な物は苦手だ。
私がリンゴのシャリシャリ音と格闘していると
「くすっ。」
ドロシーさんがこちらを見て笑っている。
「ああ、笑ってゴメンなさい。いや、知り合いのオルカさんも同じでリンゴが苦手な人だったから、そっちのオルカさんを思い出しっちゃって。」
「えーっ、そんな人居るの?」
メロディちゃん何言ってるの
「ここに居るじゃない。」
「オルカさんて性癖も変わってるんですね。」
「性癖じゃないし!」
全く、いつもながらシレッとディスってくれるわね。
誰だって苦手な物ってあるでしょ、偶々それが私にとってはリンゴだっただけ。
リンゴは苦手だけど梨は大丈夫。
何でか分からないけど梨は大丈夫なのよね、不思議だけど。
「誰にだって苦手だったりする物ってあるんじゃない?」
「私はお肉が怖くて怖くて~、超苦手~。」
メロディちゃんそれって『饅頭怖い』じゃなくて?
そう来る?
だったら、
「お肉怖いの?」
「うん、お肉怖い! だから怖いお肉は食べて無くしてしまわないと!」
「そんなにお肉が怖いんだったら今後はメロディちゃんだけお肉は無しでいいよね?」
「えっ?」
「『えっ?』じゃなくて、怖いのに無理してまでお肉食べなくていいんだよ?」
「あ、いや、怖いの克服するのにはやっぱ食べないとダメかなぁって……。」
「メロディ無理しなくていいんだよー。メロディの分は私が食べてあげるよ!」
「むぅ、リズまで一緒になって意地悪言う~。」
頬っぺたをぷくっと膨らませてメロディちゃんが不満を漏らす。
「リズのいけず。」
「食い意地張ってるメロディが悪いんだよー。」
「「「あははは。」」」
ぷくりと頬を膨らますメロディちゃんとその様子を見て微笑む私たち。
んー、楽しい。
こうゆう気の置けない仲間との何気ないやり取りってすっごくイイなって思う。
リズさんたちと出会えて本当に良かったと思うよ。
すると不意にメロディちゃんが遠くを見ながら
「ねぇ、リズ。 あれ、何だろう? あの小さい黒いの……。」
「ん? どれどれ? んーっ?!」
つられて私もその方向を見る。
たぶんアレだ、きっとそうだよ。
今から目に魔力を通わせて見てみるけど十中八九間違いないと思う。
目に魔力を集めて遠くの小山を凝視する。
「うん、やっぱそうだ。間違いない。」
「え、なに。あれ何か分かったんですか?」
私の呟きを拾ったメロディちゃんが質問してくる。
「あれ、くーちゃんたちが狩った獲物の山をさくちゃんの配下のスライムが運んでるんだと思う。」
「「「はいっ?」」」
「いや、だから、くーちゃんとさくちゃんが狩った獲物をね……」
「それは分かったよ、オルカさんの従魔が強いの知ってるし、何たって普通に何でもない事のようにコカトリスとか狩って来るからね。けど問題はそこじゃなくて、まぁそこも問題っちゃあ問題だけど、今一番の問題はあの魔物の量だよ量。」
「そうそう、いくらオルカさんの獣魔が強いって言ったってあの量の魔物狩る? いくら何でも多すぎない?」
「そう? いつもあれくらい普通に狩ってくるよ。くーちゃんたちが狩って来た獲物はギルドで買い取って貰ったりごはんにしたりしてすごく助かってる。」
「いや、助かってるって……。」
「うん、なんも言えない。」
むう、リズさんもメロディちゃんも酷いな。
二人がそんなだからドロシーさんまでそんな目で見てるじゃない。
「ほんとだ、こっちに向かってゆっくり動いてる。 最初はちーさかったのが今はもう結構近くまで来てる。」
「パッと見はどうやって動いてるのか分からないですねー。」
「くーちゃんさんが魔物の山の周りをぐるぐる回りながら護衛してる?」
最初小さかった魔物の山が時間の経過と共にだんだんと近づいて来る。
うん、大概デカい。
ちょっとした小山が、ひい、ふう、みい。
今日も大猟だ。
動いている小山を眺めている内にさくちゃんたちが到着した。
「「「なに、この量……。」」」
リズさんたちと初めて出会った時も朝に山と積まれた魔物を見て驚いてたけど、今日のはその魔物の山が3つもある。
そりゃビックリもするか。
私は今日の戦果を確認する。
いつものように鹿や角兎、猪が多いね。
あれ? この牛さんちょっと大きい?
『鑑定』さんによるとワイルドブルと出た。
「牛の魔物かぁ、雌がワイルドカウで雄がワイルドブルなんだ。へー。」
リズさんたちも興味津々で魔物の山をしげしげと眺めている。
「ねー、リズ。これってグリーンバイパーじゃない?」
「ほんとだっ! すごい。これ売ったらイイお金になるらしいよ。」
「そうなの? くーちゃん・さくちゃんありがとね。」
くーちゃんの頭から背中にかけて優しく撫でてあげると、耳をペタンとさせて目を細めて尻尾はばっさばっさと大きく揺れていて嬉しそうにしているのが分かる。
さくちゃんも嬉しそうにみよんみよんしているのでそっと横を撫でてあげた。
二人ともいつも頑張ってくれてるんだもん感謝の気持ちは忘れちゃダメだよね。
グリーンバイパーって言うのは元世界のグリーンスネークの超大型版みたいな感じで、その美しい緑色の体は30mくらいある超巨大な蛇の魔物だ。
鑑定してみると、【グリーンバイパー】 蛇の魔物 毒は無い 味は淡泊で美味 緑色の体色 その皮は柔らかく加工に向いている と出た。
美味。
そうか美味なのか。
じゃあ、これは皮だけ売ってお肉は自分たち用に確保決定だね。
くーちゃんたちが狩って来てくれた獲物をひとつづつ見ながら売るのか残すのか判断していく。
しかし、それにしても今日はまたすごい量だねぇ。
「でも、これどうやって運んで来たんでしょうねぇ?」
ああ、それなら
「メロディちゃん、ここ見てみて。 ほら。」
魔物と地面の境目、私が指さした所をまじまじと皆が見てる。
すると、ぴょこ。 ぴょこぴょこ。
さくちゃんの配下になったスライムちゃんたちが顔を出した。
水色やピンク、黄色に緑。色とりどりの綺麗なスライムたち。
ぴょこぴょこ ぴょこぴょこ
ぴょこぴょこ ぴょこぴょこ
ぴょこぴょこ ぴょこぴょこ……………………。
「ひっ!」
「ででで 出た!」
「……っ!」
咄嗟に後ずさる3人。
一応スライムって魔物だし、さくちゃんが配下にしてるって言っても怖いものは怖いよね。
「あ、この子たちさくちゃんの配下だから大丈夫だよ。絶対に襲って来ないから。」
「そ そうは言っても……」
すっかり及び腰になっちゃってる。
仕方ないよね、それが普通の反応だもん。
全く動じない私が普通じゃないだけか。
「さくちゃん、配下のこの子たちにご褒美あげないといけないよね。何がいい?」
(ご主人様、宜しいのですか? でしたら牛の魔物を3匹ほど頂けると助かります。)
「オッケー!」
可愛いさくちゃんの配下のスライムちゃんたちの為だもん、ご褒美はしっかりとね。
「さ、君たちお食べ。」
(ご主人様よりの賜り物です。感謝の念を捧げ心して味わうのですよ!)
さくちゃんてば、もう。
私なんて何処にでもいる普通の冒険者だよー。
一々大げさなんだからぁ。
さくちゃんが号令を掛けるとスライムちゃんたちが一斉にワーッと集まってワイルドブルに取り付いてゆく。
わらわら わらわら。
ぐにょん。
へちょ。
どろーっ。
スライムに溶かされてドロドロのでろんでろんに……。
「「「ひっ! うわぁ…………。」」」
リズさんたち3人が引き攣った顔でドン引きしてる。
うん、まぁそうだね。
スライムの食事風景なんてそうそう見られるもんなじゃないもんね。
それもドロドロに溶けてリアルスプラッター!
私も何回か見てるけどやっぱ慣れないもん。
それが初めて見る人だったら尚更だ。
大量のスライムに掛かると大きな魔物もあっとゆう間に溶かされて跡形もなくなっている。
証拠を消すならスライムで!
これはもう異世界の常識だね。
って、元世界なら完全犯罪かっ!
ごはんを貰ったスライムちゃんたちは皆みよんみよんして喜んでいる。
良かった、喜んでくれて。
さて、もうそろそろ寸胴のコンソメもいい頃合いかな?
じゃ、お昼ごはんの用意でもしようか。
今日のメニューはトロトロオーク丼とポトフだ。
オーク肉の塩チャーシューは以前の作り置きがまだ残ってるからそれを使うとして、せっかくコンソメを作った事だし、コンソメを使った極上のポトフを作ろう。
それじゃ、久しぶりにガッツリと作ろうか。
うーん、腕がなるなー。