第86話 普通にイチャついてるぞ
明けて次の日の朝。
ん~、良く寝た。
まずは身支度と朝ごはんだね。
それと、今日がチェックアウト予定日だから泊りの延長もしないと。
そうゆう訳でさっさと着替えて下に下りる。
「おはようございます。」
「あら、おはよう。いつもご丁寧に。」
カミラさんが受付の中からいつものように優しく微笑みながら朝の挨拶を返してくれる。
ほっこりと優しい温かい気持ちになる。
ここはいい宿だなー。
ずっとここに泊ってたいな。
うん、決めた。
ここで長期滞在することにした!
「ねぇ、今日で終わりだけどどうする? このまま連泊も出来るけど?」
カミラさんがちょうど水を向けてくれたのでそのまま会話をする。
私も含めて女性冒険者が安心して泊まれる宿ってそんなに無いみたいだし、この宿はそう言う意味でとても良い宿だからね。
是非とも確保したいところ。
なので
「はい、ちょうどその話をしようと思ってまして。 連泊って出来ますか?それも長期滞在の。」
「出来るよ。 で、何日くらいの予定なのかしら?」
私は顎に人差し指を当ててちょっとだけ上を見上げるようにしながら考える。
「そうね、取り合えず30日ほどお願いしようかな。 大丈夫ですか?」
「ちょっと待ってね、今確認するから。」
そう言ってカミラさんは部屋の空き状況を調べてたけどすぐにこちらを向いて、
「調べるまでも無かった、空いてたわ。あははぁ。」
やっぱりカミラさんだ。
そうゆうのんびり?マイペース?ほっこり?ゆるふわ?な所が如何にもカミラさんらしい。
「長期滞在って事で少しお安くしとくわね。」
「いいんですか? 有難うございます♪」
更に一応食事付きで頼んであるけど朝のうちに夕飯は要らないって言ってくれればその分は返金するとも言ってくれた。
優しいなー。
食事は美味しいし、女将さんは優しいし、給仕の女の子は可愛いしでここはホントいい宿だなー。
あと実は同じ宿に泊まってるお姉さん方が果実水を買ってくれるので宿代はほぼほぼ回収出来てるのよね。
リズさんたちみたいに誰かとパーティー組んで同居するって事にでもならない限り、ソロで冒険者を続ける限りはここを定宿にするのもありかな。
勿論、宿屋に泊り続けるのはお金の面で効率が悪いってのは分かってるんだけど、だからと言って独りで家を借りて食事の用意から掃除まで何もかも全部自分一人でやるなんて大変。
そんな事してたら冒険者稼業に差し障りが出る。
なので当面はこの体制でいいや。
くーちゃん・さくちゃんが居てくれるからお金の心配はしなくて良くなったってのもあるしね。
これが一番大きいかな。
あの子たちには感謝しかないね。
無事に宿の確保は出来たので安心して冒険者ギルドへ向かう。
そして私は今冒険者ギルドの前に居るんだけどちょっと困惑している。
昨日ベルさんたちに連れられて協会の孤児院に行った。
そこでちょっとだけハプニング的な?出来事があり、サラさん・パメラさんと言う孤児たちにとってお母さん的な女性に最初絡まれた。
リズさんたちの事を心配するあまりちょっとだけキツイ物言いになってしまったようだった。
けど理由が分かればそれも納得で私的にそれは特に問題はない。
他にも院長先生に「使徒様」なんて言われて傅かれたりもした。
これにはちょっと困った。
だって教会の実質的トップの院長先生にそんな事言われたらなんか ね。
そして目下一番の問題の出来事がドロシーさんだ。
最初「あれ?」って思ったのが「んん?」になり「やぱっり!」に変わった。
ドロシーさんは転移者か転生者のどちらかだと思うのだが、私が思うに恐らく元世界からの転生者で記憶持ちなんではなかろうか。
なにせ日本語が通じる時点でほぼ間違いないと思う。
向こうも同じように思っていると感じた私は皆に聞こえないようにこっそりと聞いてみた。
「ね、ドロシーさんさえ良ければだけど、明日ギルドに行って一緒に依頼受けない? その時に少しお話もしたいし、ね?」
私の意を理解したドロシーさんが神妙な顔つきのまま無言でコクリと頷いた。
良かった。
これでドロシーさんが転生者かどうか確認出来る。
まぁ間違いはないとは思うけど、一応ドロシーさん本人の口から聞きたいしね。
さて、私は……どうしようか。
どこまで話したらいいものか。
これはちょっと悩ましい。
ドロシーさんがどこまで話してくれるかにもよるけど、私からもある程度は自身の身の上は話した方がいいよね?
女神様…のところは、まぁ話してもいいでしょう。
元世界の名前なんてもう今更何の意味もないから言わなくてもいいか。
年齢も多分大丈夫だと思う。
享年35歳なんて知ったらビックリはするだろうけど、ビックリしてそれだけだ。
けど元男性ってのだけは話せないよねぇ。
これ言っちゃうと絶対引かれちゃうと思うんだよね。
引かれるくらいならまだいいけど、「キモッ!」とか「汚いっ!」とか言われたらショックで立ち直れなくなりそうだし。
うん、これはまだ言わないでおこう、そうしよう。
ドロシーさんの事を良く知ってから、大丈夫と判断した時に話せばいいよね。
と、そんな予定だったんだけど、
「んー、なんでリズさんたちが一緒に居るのかな?」
そうなのだ、冒険者ギルドでドロシーさんと待ち合わせして一緒に依頼を受けようと思ったんだけど何故かそこにリズさんたちも一緒に居る。
今日はリズさんたちとは約束はしてなかったんだけどなぁ。
出来れば私としてはドロシーさんと二人だけの方が都合が良かったんだけど。
「やだなぁ、昨日聞いたじゃない。」
昨日? 聞いた? 何をさ。
「明日オルカさんどうするの?って」
あー、それは確かに聞かれた。
けど予定を聞かれたから、
「ギルマスに頼まれてた通り森の調査と場合によっては討伐もあるかも。」
とは言ったけどそれだけだよ?
別にリズさんたちとは行動を一緒にするとは言って無かったと思うんだけど。
「んで、朝ギルドに来てみたらオルカさんとドロシーさんが密会の話をしてるもんだから……」
「密会って……」
「何でそうなるんですかぁ、私はだたオルカさんと一緒に依頼を受けるだけですよー。」
ドロシーさんが援護してくれる。
けれど
「そう、それよそれ。ドロシー、抜け駆けはダメだからね。」
「それにオルカさんは私たちだけの……ゴニョゴニョ。」
「別に抜け駆けって訳では……私はただオルカさんとお話がしたかっただけで……」
「世間ではそれを抜け駆けと言うのだ。」
「ドロシー、有罪。」
「えええええ。」
これは完全にリズさんたちの誤解だ。
誤解なんだけど、ここはどう場を取り繕うか。
下手な事は言えないし、かと言って馬鹿正直に前世の話なんか出来る訳もないし。
これはちょっと困ったな、いい加減な言い訳は逆効果になり兼ねないし。
ドロシーさんと二人だけで内密の話がしたかったって言う?
ダメだな、これは絶対に告白かなにかだと勘違いされるパターンだ。
だからダメ。
じゃあどうする?
何かない? 何かない?
あっ、一緒にランチしようって話してたってのはどうだろうか?
それならまだ通る?
向こうで3人が話をしてる。
ドロシーさん問い詰められたりしてないといいけど。
ここは早く助け船を出さないといけないかな。
でも何をどう助ける?そう思っていると3人がこっちに向かって歩いてくる。
そして声も高らかにリズさんが宣言した!
「ただ今リズ・メロディ・ドロシーによる淑女協定が成立しました。これにより他者を出し抜くような抜け駆けは禁止、オルカさんにアプローチする時は3者の合意が必要となる。オルカさんを愛でる事を至上とし、全身全霊誠心誠意最上の愛を捧げる事を確認した。」
「……はぁ?」
why?
何言ってんの?この子たち。
思わず思いっきり怪訝な顔しちゃったじゃない。
淑女協定?抜け駆け禁止?至上の愛?
はい?
何でそうなるの?
私の意見は?
えっ? 聞く必要はない? そうですか。
このままだと私の事をドロシーさんに盗られちゃうって思ったらしく、リズさん提案で3人による一時的な休戦協定が結ばれたと。
なんじゃそりゃ。
ただし私がこの中から誰かを選ぶ時はその限りではない。
うん、聞いてて頭痛くなってきた。
こめかみをグリグリする。
ね、貴女たち大丈夫?
「大丈夫、大丈夫。」
「な、なんで私の考えてる事が分かるの?」
「いや、声に出てたよ。」
知らず知らずのうちに声に出てたのか……。
「でね、この3人の内誰を選んでもいいよ。選ばれなかった子は恨みっこナシでっ!って話はついてるから。だ か ら、オルカさんはこの中の誰のお嫁さんになるの?」
じりじりとにじり寄ってくるリズさん。
「え、あ、あのっ。 ちょっ ちょっと待った。」
「ちなみに選ばれなかった子は愛人にしてあげて下さいね。」
にこりと蠱惑的な笑みを浮かべるメロディちゃん。
「愛人っ?」
「「そ、 あ い じ ん。」」
二人が耳元でそっと囁く。
「あわわわわわっ。」
「ね、ドロシーさん 助けて よ……」
ドロシーさんの方を見ると真っ赤な顔をして両手で覆っていた。
その両手の隙間から上目遣いにチラチラと見ている。
ダメだ。
こりゃアカン。
周りの人も「またアイツら朝っぱらから」って顔でこっち見てるし。
めっちゃニヤニヤ笑いされてる。
「おおーい、姫さん。 相変わらずお盛んだなっ、ワハハハ。」
「今日は新人さんもか!」
「ん?なんだ? ドロシーも姫さんの毒牙に掛かったのか!」
「毒牙ってなによ!」
ギルマスったら失礼じゃない?
「天下の往来であんまり激しいのはヤメとけよ、俺もギルマスっていう立場ってもんがあるからな、一応注意したからな。ほどほどにしとけよ。」
「ちょっとぉー、どうゆう意味ですか?それじゃあるで私たちがいつも外でイチャついてるみたいじゃないですか!」
メロディちゃんが抗議の声を上げる。
けれど
「は?気づいてない? お前ら自分たちが普段何してるか理解してるか? 普通にイチャついてるぞ?」
返って来たのは予想もしなかった答えだった。
ギルマスは目を見開いて心底ビックリしたって顔をしてるよ。
うん、私は実はそうじゃないかなぁって何となく感じてはいたよ。
だって可愛い女の子は大好きだもん。
大好物とも言うわ。
女の子の笑顔って心を豊かにするのよ。
可愛い子に美人さん、色っぽいお姉さんに妖艶な人妻さんまでみぃーんな纏めてバッチコイよ!
「おい、姫さん。心の声がダダ洩れになってんぞ……。」
あらヤダ、私ったら。
おほほほ。
「「そうゆう訳だからオルカさん責任とってね♪」」
リズさんとメロディちゃんが首をちょこんと傾げてニコリと笑う。
思わず「うん」て言いそうになった。
「責任とってね♪」
ああ、このフレーズ懐かしい。
元世界で大好きなアニメの2作目の映画作品の中のワンシーンだ。
この作品群が大好きで、映画は全作品観たし勿論TVアニメも観た。
コミックも全巻持ってたし、フィギュアや下敷きなどのグッズも少しばかり持ってた。
あ、年代が違うからリアルタイムでは観てないよ、念のため。
でも観る方法はいくらでもあるからね。
「おーい、オルカさん戻っておいでぇ。」
メロディちゃんに呼ばれてハッと我に返る。
「取り合えず草原に行って森の近くの警らに行ってきます。」
ギルマスにそう言って私が歩き始めると3人も同じように歩きだして一緒に行くと言う。
仕方ない、今日はドロシーさんと話をするのは諦めるか。
「ところで今日はどこ行くの?」
リズさんが私の横で聞いてくる。
「そうそう、私たちは森へは入れませんし一緒に行っても足手纏いだし……」
「オルカさん森に行くよね、やっぱ?」
そう、森へ入っての調査が出来るのはA~Cランクの高位の冒険者だけ。
私はFランク………………では、なんで私が森の警戒にあたらなくてはならないのか、端的に言うとギルマスのせいだ。
ギルマスが、私がテイマーで強い獣魔を使役してるからって、それが理由で単独での調査&可能なら討伐もと言って来たから。
まあ、私にはくーちゃん・さくちゃんが側に居るから問題なし。
私は草原で結界張って大人しく待ってるだけ、後はくーちゃんたちが二人で森へ入って楽し……コホン、さくちゃんの鍛錬がてら魔物狩りしてくれる。
元々そうゆう心づもりだったのでドロシーさんを誘ったんだけど、なぜかリズさんたちも一緒に来る事になっちゃって。
ま、仕方ない。
リズさんたちの事は嫌いじゃないし、ううん、どっちかって言うと好きだし。
ドロシーさんと話をするのはちょっと無理そうだけど、このメンバーで草原にお出かけってさ、
「なんかピクニックみたいで楽しくない?」
みんなもそう思うよね?
私は思いっきり笑いながら皆に語りかけた。
「今日はね、南の草原へ行ってみるつもり。さ、一緒に行きましょう!」
そう言いながら両手でみんなを抱きしめる。
女の子らしい柔らかい身体。
ふわりと漂う芳しい匂い。
花びらがくすりと笑うようにみんなが笑顔を返してくれる。
「「「うんっ!」」」
前にリズさんたち、その後ろに私とドロシーさん。
前に居るリズさんたちに向かって話しかける。
「南の草原に出たら少し森に近い所まで行って、今日はそこでゆっくりするよ。魔物の警戒はくーちゃんとさくちゃんがやってくれるから大丈夫。くーちゃんたちが森に入っている間私たちはのんびりしよっ!お喋りしたりお茶飲んだりしてゆっくりしようよ。それに作りたい物もあるしね。」
「よし! 出発!」
掛け声をかけて右手をグン!と上に突き上げる。
さぁ、いざ行かん。