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第79話 お魚食べ比べ

なーんだかちょっとモヤモヤした気持ちのまま部屋に戻った私。

ベッドの端にドッカと座る。


はぁぁぁ、疲れたぁ。


魔力とか体力とかではなくて精神的に削られた感がある。

商業ギルドひと悶着あって、次にギルバート商会でもうひと悶着。

商業ギルドに戻って軽くまたひと悶着。

みんなでお昼ごはん食べて衆人環視の中でリズさんたちに胸を揉まれた。

これは恥ずかしかった。

リズさんたちも恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてたけど、揉まれてた私の方が恥ずかしいんだからね。

冒険者ギルドでワイルドカウの買取依頼のお金を受け取りに行って、あまりの金額にビックリした。

そしたら最後にアイザックさんが蟲に襲われて重傷のまま運ばれて来た。

よくよく考えると今日だけでもかなり起伏の激しい1日だな。

波乱万丈な1日、中身の濃ゆい1日だったよ。

ベッドに身体を横たえるとそのまま眠りそうになったけど、


「よっと。」


私は起き上がり小法師みたいに勢いを付けてピョコンと起き上がる。

楽な普段着に着替えて下に行かないと。

仕事着(冒険者の服)を脱いで『洗浄』と『乾燥』を掛けて、その辺に置いておく。

これは明日も着るからここに置いておけばいいよね。

服は何にしよっかな。

スカートは黄色のロングのプリーツスカートに白のノースリーブブラウス、履物は黒のパンプス。

無難にこんなとこでいいかな。

あとはお風呂セットと替え下着を用意したら一旦ストレージに仕舞って準備OK。


ギギギ

バタン


ちょっと軋むドアを閉めて廊下を歩き階段を降りる。

トントントントン


「もうすぐ準備出来ますから食堂に行って待ってて下さいねぇ。」


「はーい、有難うございます。」


カミラさんにそう返事する。

食堂に入ると給仕の女の子が夕飯の準備で忙しそうに動き回っていた。


あ。


目が合っちゃった。

にっこり笑って手を振る。

女の子はトレイをテーブルの上に置くと小走りで私のとこまでやって来て


「お帰りなさい。」


弾けるような笑顔で迎えてくれた。

うーん、嬉しい。

歓迎されているようでこれは嬉しいな。

それから空いているテーブルまで案内してくれる。

案内してくれるのは嬉しいんだけど、私だけ特別扱いとかじゃないよね?

それだと他の人に申し訳ないなって思っちゃう。


「ありがとう。お仕事頑張ってね。」


「あああ あひりゃとうごひゃいまふ。 ふあ いいにほひ。」


顔を真っ赤にしながら噛み噛みするとこなんか可愛い。

こうゆう子は好物よ。

見た目は私の方が年下なんだけど中身は35歳のオッサンだからね。

こうゆうお若い娘さんを見るとついつい頬が緩む。

えへ。

っと、いかんいかん。

素が出そうになっちゃった。

給仕の女の子がモジモジしてて中々離れてくれないので他の給仕の子を呼んで回収して貰った。

イヤイヤして首を横に振ってたけど大丈夫か?

後で怒られたりしないといいけど。


「お腹空いたねー。」

「今日のごはんは何だろうー?」


ガヤガヤ ガヤガヤ

宿の宿泊客が食堂に集まって来た。

宿泊客って言ってもみな冒険者だから仲間みたいなもん。


「どうもー。」


軽く挨拶する。

ここは女性冒険者だけだから気が楽だし安心する。

ただ安心し過ぎて気が抜けちゃう人も多いけどね。

みんなスカート平気で捲ってパタパタしてる。

私はしないよ、元男だから恥ずかしいのよ。

あと女の子だけだと会話がえっちなの。

会話の中身が中々酷い。

男同士でも下ネタはするけど、女の子同士の方が輪をかけてすごい。

会話の内容が直接的。

あれは殿方には聞かせられないわね。

聞かれたらドン引きされてもおかしくないかもだよ。

私は会話には参加せずに顔を赤らめて聞くに専念してる。

迂闊に喋ると墓穴を掘ってしまいそうだもの……。

最近暑くなって来たからけっこうパタパタしてる子いるし。

そうこうしてたらカミラさんがやって来て


「みなさーん、夕飯の支度が出来ましたよー。 今日は「コイーノ」の香草焼きですからねー。」


カミラさんがそう宣言すると給仕の女の子たちが食事を運んで来た。

お皿には付け合わせの豆さんと一緒にぶつ切りにされたそれはそれは大きな白身のお魚が乗っていた。

強い香草の香り。

あれね、前世で言うところのハーブソルト。

それも白身魚に合わせたタイプのやつ。

でもこのお魚かなり大きいな。

『鑑定』さんによるとこのお魚は「コイーノ」と言うらしい。

もういい加減すぎて言葉もないよ。

これはもう普通に「鯉」でいいんじゃないの?

どしても「コイーノ」にしなきゃいけない理由ってなに?

このお魚は淡水魚で体長は大きい物は200㎝を超える個体もいるそうだ。

味は濃くて美味しいが同時に泥臭くもある。

なので泥抜きしてからじゃないと美味しく頂けないらしい。

ふむふむ。

なるほどね。

では、頂いてみましょうか。


はむっ。


ほっ。


はふっはふっ。



香ばしく焼けた皮目と、ふわふわの白身が口の中でほどけるよう。

鼻を抜ける鮮烈な香草の香気と最後に残る白身の甘さのハーモニーがまた……。

これは美味しいわ。

香草のおかげで泥臭さは感じない。

「コイーノ」の濃厚な味わいが後を引く。

周りを見てみると皆も一心不乱にガツガツと食べている。


「おかわり!」

「私もっ!」

「私も食べるーっ!」


「はいはい、ちょっと待ってね。」


カミラさんがニコニコしながら応対してる。

お代わりした子のところに順番に運ばれていく。

毎度毎度だけどみんなホントよく食べるね。

あれだけ食べて太ってる子が一人も居ないってのは冒険者として日々身体を動かしてるからだろう。

メロディちゃんなんかもそうだね、今日もあれだけガッツリ食べてたし。

それでもあのナイスバディを維持してるんだから大したもんだよ。

私は基本的に戦闘はくーちゃんたち任せだから。

自分が動いて近接戦闘とかはあまりせずに、魔法ぶっ放してはい終了ってのがお決まりのパターン。

なのでそんなに沢山は食べなくても平気なのだ。

まぁ、そもそもの話、私はそこまで大飯食らいではないから。


この「コイーノ」というお魚は、王都からメイデンウッドを通りメイワースの領都の東側を流れる河で捕れるんだって。

特徴は味は濃くて美味しいけどちょっと泥臭い。

そして臭み抜きの為に3日程生簀で泳がせて泥抜きが必要だと言う事。

そしてたっぷりの香草で焼き上げる。

それが「コイーノ」を美味しく食べるコツなのだとか。

それに対してラザロムからメイワースの領都の西側を通りウーズの街へと流れる川に住むお魚は臭みもなくとても食べやすく美味しい。

あのお魚だ、「イワナモドキ」と「アユーモ」だ。

臭みがなくふわふわジューシーな身質と上品な脂の甘さが特徴のお魚だ。

そんな事を考えてたらなんか食べたくなって来た。

「コイーノ」と食べ比べってのも面白いかも。

どうしよっかな。

「イワナモドキ」も「アユーモ」もまだストックはあるから少しくらいなら出してもいいかな。

そう思ったら居ても立っても居られなくなった私はカミラさんの所まで足早に歩いていった。


「あの、もし良かったらこれ……」


そう言ってストレージから「イワナモドキ」と「アユーモ」を数匹づつ取り出した。


「え、これ……えっ? えぇぇぇぇ。 貰っていいの?」


「はい、少しづつみんなで食べるくらいはあると思うので、一緒にと思って。」


「この魚は……西の川に住むヤツよね? ホントに貰ってもいいの?」


「ええ、イワナモドキとアユーモです。お魚の食べ比べなんて面白いかなーって思って。」


「ありがとう、折角だから頂くわ。」


余計な事すんなって言われなくて良かった。


「みなさーん、聞いて聞いて。」


カミラさんが見た目に反して大きな声を張り上げる。

何事?って感じでみんな一斉にこちらに視線を向けてくる。


「なになに、どしたのー?」

「カミラさん何をドジッたの? なんかやらかしたんだったらすぐ謝らないとー。」

「そうだぞー、謝るなら今のうちだよー。」


「違います、今回はまだ何もしてません!」


今回は? 何も?

って事は普段から日常的に何かドジをやらかしてるんだ。

意外。

全然そんな風に見えないのに。


「じゃあ何なの? お姉さん怒らないから正直に言いなさい。」


うは、まだ言う。

カミラさんて実は残念な子だったんだ。

へー。


「もー違うったら! 実はねオルカさんがお魚を分けてくれたのね。だからそれを皆で一緒に食べようかなって思ったんだけど……悪口を言う子にはあげませんからね。 つーん。」


カミラさんちょっとだけ怒った感じが可愛い。

思わずほっこりするよ。


「あ あ ゴメン。 ゴメンてー。」

「すいません、言い過ぎました!」

「許してたもれー。」


「もー、ホントにしょうがないなー。」


カミラさんも本気で怒ってる訳じゃないってのが分かるから見ててつい笑ってしまう。

みんなもつられて笑顔になってる。

温かい雰囲気。

こうゆうのイイなぁって思う。


「ジャジャーン。 イワナモドキとアユーモでーす!」


「「「「「おおおぉぉぉぉー!」」」」」


「でも不思議ね、このお魚下処理してあるのに全然痛んでないみたいだけど、貴女とんでもない性能のアイテムBOX持ちなの?」


「あはは」


私のは時間停止機能付きのストレージだから生のままでも傷まずにそのまんま保存出来るからね。

とっても便利なんだけど、反面知られたら大変。

ここは笑って誤魔化してやり過ごそう。

由緒正しい日本人としてはこれが正解。

曖昧な笑顔を返して返事はしないでおく。


「お魚は塩焼きでいいの?」


カミラさんが聞きてきたので


「はい、塩強めで皮はパリッと焼いて下さい。 あ、あとこれもこうやって擂ってお皿の横に少量乗せて置いて下さい。」


私はお魚と一緒に「山葵」も出して渡しておいた。

お魚の塩焼きと山葵って美味しいよねー。

私はこの組み合わせが一番好きかな。

前世でもいつもこの食べ方だったっけ、懐かしいな。

暫く待っていると半身になって香ばしく焼かれた「イワナモドキ」と「アユーモ」が運ばれてきた。

うーん、どっちにしよう。

どっちも尺サイズのそれなりに大きいのだから食べ応えはある。

どっちも美味しいのは知ってるから私は最後に残ったのでいいや。


「私は最後でいいから皆さん先に選んじゃって下さい。」


そう言ってみんなに先に選ぶよう促す。

ささ、遠慮なさらず。


「いいの? 先に選ばせて貰ってゴメンねー。じゃあ遠慮なく! 私はこっち!」


この人は「イワナモドキ」と選んだね。

こっちの人は「アユーモ」だ。

みな楽しげに選んでいる。

お、最後のは「アユーモ」か。

どっちも美味しいから私的にどっちが残っても問題なし。


「みなさん、オルカさんに感謝して食べて下さいねー。」


「「ありがとー!」」

「姫さまありがとー!」

「オルカさん有難うね。」


ニコニコ顔でみなが口々にお礼を言ってくれる。

そんなにストレートにお礼言われると嬉しいけど照れる。


「い、いえ どういたしまして。」

「冷めないうちに食べて。 あと横に付いてるのが山葵だからこれをほんのチョットだけお魚に乗せて食べると美味しいよ。」


私はお箸が使えるからお箸でチョンと山葵を摘まんでアユーモに乗っけてパクリ。


「んんーっ! 美味しい♪」


それを見ていた皆はゴクリと喉を鳴らし私と同じように山葵を乗せて食べ始める。


「うっまっ!」

「なにコレ! チョー美味しいんですけど。」

「コイーノとはまた全然違った美味しさがあるっ!」


だよねー。

濃ゆい味わいで甘みのある身質のコイーノと、柔らかでふわふわ、さらりとした上品な脂の旨みが際立つアユーモ。

どっちも美味しい。

甲乙付けがたし。

私がお魚食べ比べを堪能していると


「「「んーーーーーーーーーっ!!!!」」」


鼻を指で押さえて涙流してる人がちらほらと。


あ……山葵。


鼻ツーンしちゃったか。

ゴメンゴメン、説明不足だったね。

山葵はつけ過ぎると辛いよって


「先言ってよぉ。」


私は手を合わせて「ゴメンね」のポーズをする。


「んもう、しょーがないなー。いつもお世話になってるから許してあげる。」


私はにっこり笑って


「ありがと。」


「っ!!」

「べべべべ 別に照れてないからね。 ゆゆ許してあげるって言っただけだから。」


真っ赤になって可愛い。

そうゆう事にしといてあげますか。

によによ。


「あーあ、あの子も堕ちちゃったねー。」

「オルカさん無自覚でやっちゃうからぁ。」

「だよねー。」


何か言ってるけど遠くて良く聞こえない。


「でもオルカさんとなら……いいかなって。」

「分かるー。それ私も思った。」

「オルカさんとしっぽり……想像しただけで捗るわー。」

「あの笑顔はヤバいよね。」

「うん、あれ見たらキュンてなっちゃう。」


ガヤガヤしてて誰が何を言ってるのか聞こえないけど楽しそうだからいっか。

食事は楽しく美味しく!が一番だもん。


ただね、一部のお姉さん方の視線が熱かったのは気のせいだと思いたい。







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