第77話 私のくーちゃん
リズさんたちにニヨニヨ笑いされて弄られた私。
くっ。
だーかーらー、何か文句ある?
ツンて怒ったら
「そんな可愛いく怒られてもねぇ」
って、ギューって両側から抱きつかれた。
あうっ、右と左からふにふにふよんふよんと柔らかいものが。
ここは天国か楽園ですか。
「仕方ないなぁ、許してあげる。でも次はないんだからね。」
何か知らないけど「ツンデレオルカさん」発動中。
ほらー、さっさと動く。
みんなと相談だよ。
「やっぱ、場所は教会の中庭がいいんじゃない?」
とは、ベルさん。
「だよねー、それなら孤児院の子供たちも一緒に食べれるもんねー。」
カーリーさんが同意する。
「「うんうん。」」
リズさんたちも頷いてるから場所はこれで決まり。
で、結局食事関係やご祝儀ってどうなるの?
私良く知らないんだけどなー。
「ほら、ザックの体調の事もあるから今回はカーリーたちに頼むから宜しくね。」
アルマさんがちょっと申し訳なさそうに頼んでいる。
「「了解、任された!」」
つまりどうゆう事?
リズさんの袖をつんつんする。
「ねぇねぇ、結局どうなったの?」
この世界での一般的なやり方は前世のやり方と同じような物みたい。
結婚する二人が食事やお酒で招待客を持成して、ご祝儀を頂くのが1つ。
逆に結婚する二人は何もしないで、友人や知人が全てを取り仕切って二人を持成すのがもう1つのパターン。
その場合は基本的にご祝儀はなし。
前者が結婚披露宴に近くて、後者が披露宴の後の二次会に近い感じかな。
んで、今回はカーリーさんたち知人が取り仕切る形で行うとの事。
なので食べ物やお酒などは全て私たちが用意する。
場所は教会で。
じゃあ、だったら私にも協力させて。
「お肉ならいっぱい持ってるから私出すよ。 何がいい?」
「オーク! オークがいい。」
メロディちゃん相変わらずブレない子ね。
OK、オークね。
他にもあるよ?
「了解、オークなら持ってるよ。他にもまだまだあるから。」
「コカトリスとバジリスクなんかどう? 美味しいよ。あ、ハイオークもあるわよ。」
「「「「はぁ???」」」」
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!」」」」
あれ? 私何か変な事言った?
「オオオオ オルカさん、そんな超高級食材持ってんの? そんなの出しちゃっていいの? 勿体ないよ。」
「そうよ、売ったらすごい金額だよ?」
狼狽えたように皆が口々に言う。
「コカトリスとかバジリスクって高位の魔物だよな?」
「ウチの子たちが嬉々として狩って来てくれるんだよねー。」
「「ああ。」」
リズさんたちは知ってるもんね。
思い出しながら納得してる。
じゃあ決まりだね。
お肉は私が用意するよ、全部で何人くらいになりそうかな。
それによって出す量も変わってくるからね。
仮にだ、最大200人くらい参加したとして、1人500g食べたってお肉100kg程度で済むね。
余裕余裕。
お肉ならどーんと来いだよ。
ワイルドカウとか、鹿とか猪とかも持ってるしね。
「お肉は私が用意するから皆は他のを頼むわね。 飲み物とかはどうするの?」
それに答えてくれたのはアイザックさんの仲間の人だった。
「飲み物は普通はエールだな。本当は子供は水なんだが、まぁ普通にエール飲んでるな。」
「大っぴらに飲めるのってこんな時くらいだからなー、大人も大目に見てるって言うかな。」
「じゃあ、飲み物は任せた。 場所の設営ってどうするの?」
それはベルさんが教えてくれた。
「教会の中庭を借りて立ち食いにしようかなって思ってる。料理は孤児院の調理場を借りればいいしね。」
「子供たちには手伝って貰って、その代わりお腹いっぱい食べさせてあげるって訳。」
成る程、理にかなってる。
私は細かな事とか分からないから後は宜しくね。
で、日時はいつにするの?そう思っていたら
「で、いつにする?」
ギルマスが皆に聞いている。
だよね、いつの何時からとか分からないとね。
まぁ、明日や明後日って事はないだろうけど。
「そうね、ザックの体調が戻るのにどれくらい掛かるか分かんないからすぐはちょっと……」
アルマさんが心配そうにアイザックさんを見ながらそう言う。
「そっか、そうだな。どの道この蟲騒動が終わらないと無理だしな。」
結局日にちはこの蟲騒動が終わって規制が解除されてからと言う事に決まった。
ま、それが順当ね。
どうせ騒ぐなら規制も解除されてから気分良く騒いだ方が楽しいしねー。
「「「賛成ー!」」」
後はカーリーさんたち幹事組がやってくれるでしょ。
私はリズさんたちに何か頼まれたら手伝うくらいかなー。
まっ、それもその時になってからだね。
「さて、楽しい話はここまでだ。」
ギルマスがキリッとした顔でみんなに向けて喋り出した。
東西南北全ての森への出入り禁止は当然、A~Cランクの冒険者による厳戒態勢にて望む。
なぜか私もその中に入ってるけど……なぜに。
今回アイザックさんが蟲に襲われたのもあって、決して無理はしない事。
見かけたら討伐よりも逃げる事を優先する事。
そしてギルドに報告して多人数による大規模討伐隊にて対応する等々。
「それで、姫さんには単独での調査と可能なら討伐も頼む。」
……はぁ?
「なんか私だけ難易度高くないですか?」
それって罰ゲームか何か?
「今このギルドで一番索敵範囲が広くて、且つ強く、怪我せず死なず、冷静に対処出来そうってなると嬢ちゃんが適任なんだ。」
ええぇ? なんかなー。
(くーちゃん・さくちゃん、どうする? やる?)
(勿論で御座います。これで遠慮なく楽し……コホン、桜の鍛錬が出来ますゆえ。)
(葛の葉姉さま、私頑張ります!)
(桜、ここいら一帯の魔物を狩り尽くしますよ!)
(はい!)
今、楽しみって言いかけて鍛錬て言い直したよね。
まぁいいけど。
くーちゃんたちがやる気になってるなら別にいっか。
「分かりました、やります。 私の従魔もやる気みたいだし問題はないです。」
「そうか、スマン。 恩に着る。」
そう言って頭を下げるギルマス。
「ちょっ、ちょっと。頭を上げて下さい。立場の上の人がそんな簡単に頭を下げちゃダメですって!」
んもう、こうゆうのがズルいのよね。
大人のズルさだ。
私は筋を通す人には弱いんだよね。
やれやれだ。
「よーし、みんな今日の所は解散だ。森に調査に行く連中は宜しく頼む。草原を警戒するヤツも気は抜くなよ。」
「「「はい!」」」
「「「「「おうっ!」」」」」
ギルマスの話が終わったとたんに、
「なぁ、姫さん。俺たちのパーティに入らないか?」
えっと……誰だっけ?
名前も知らない人なんだけど。
私が「???」って顔してたら
「あ、テメェ抜け駆けすんじゃねー。 姫さん、俺たちのパーティーに入ってくれないか? 俺たちと一緒に上を目指そうぜ!」
「はぁ?、お前こそ何言ってんだ。お前んとこはもう既にメンバーに女が1人居るじゃねーか。」
うっわー、ウザい勧誘が来たよ。
どーしよー。
私殿方とは組みたくないんだよね。
「だからだよ。女1人じゃ肩身が狭いんだとよ。それに姫さんなら足手纏いにはならないだろうからな。」
「馬鹿言ってんじゃねー、こっちは男ばっかでむさ苦しいんだ。華が欲しいんだよ華が!それが姫さんなら最高だろうが!」
「はぁ?テメェこそ馬鹿言ってんじゃねーぞ。寝言は寝て言え!」
「キミたち止めないか、オルカ君が困っているだろう。 さっ、僕のパーティーへおいで、歓迎するよ。」
この人……両側に女の子……1…2…3…4人も侍らせて何言ってるの?
歓迎するよ?
いやいやいや、あの女の子たちの相手を射殺さんばかりの敵意の篭った目!
あれは絶対歓迎なんかされてないって!
大体何で私がハーレム要員なのよ。
「「お前んとこはお前意外メンバーは全員女なんだからもう女は要らねーだろが!」」
「ふっ、これだからモテない野郎どもは……。」
手で髪をファサッとやってる。
うわっ、キモッ。
ナルだ。
典型的な「自分大好き」ナルシストさまだ。
ぶるるるる。
おーこわっ。
「くっ、殺す。」
はい、「くっ、ころ」頂きましたー。気持ち悪いけど。
これは変形バージョンだね。
普通は女騎士が敵に捕まって、敵の情けを受けて虜囚となるよりは潔く死んだ方がマシだって言う考えなんだけど。
今回に限ってはむくつけき冒険者がただただモテ男を妬むあまり「殺してやる」なだけの話だから。
まぁ底辺同士の争いって事だぁね。
はぁ、面倒臭っ。
「な、なぁ。テイマー同士組まないか? 俺はウルフドッグを使役してるから姫さんを守ってやれるぜ。なんなら姫さんの従魔も守ってやるぜ。」
ピキッ。
ちょっと今のは聞き捨てならないわよ。
「私のくーちゃんを守ってやるですって?」
私の声に険が乗る。
怒りによって無意識に冷たい声が出る。
ぐるうるるるるぅぅぅ。
くーちゃんも怒ってる。
まぁそりゃそうだよね、ワンちゃん如きに守って貰わなきゃならない程落ちぶれてないもんね。
「ぐぎゃわあぁぁっぁあ!!!!」
くーちゃんが威圧を乗せてひと吠えする。
「キャイン。キャン。キューン。」
ワンちゃんが尻尾を丸めて股の間に入れて萎縮しちゃってる。
めっちゃ怖がってるね。
「お、おい。 どうしたんだ? 相手はたかがキツネだぞ。しっかりしろっ!」
いや、無理だって。
動物や魔物は自分と相手の力量の差を本能で理解するんだから。
勝てない相手には絶対逆らわないよ。
「ぷ。」
「くすくす。」
「普通気付くよな?」
あーあ、周りの人にも言われてるよ。
ちょっとやり過ぎたかも、ゴメンよ。
(うふふふ。主様が私のくーちゃんと仰って下さった♪)
(えっ?くーちゃん?)
(葛の葉姉さま、羨ましいです。)
(あの…くーちゃん大丈夫? 壊れてない?)
(嗚呼、私のくーちゃん♪ 何と言う甘やかな響き、恐悦至極に存じます♪)
あ、喜んでくれたんだ…良かったよ。
くーちゃんの耳がペタンと寝て、尻尾もこれ以上ないくらいバッサバッサと振られている。
「ちょっとー、何勝手な事言ってんの? オルカさんは男とは組まないわよ! そうよね?」
リズさんが合いの手を入れてくれる。
「ええ、私殿方はちょっと…苦手なもので。」
「今のとこオルカさんと組んだ事あるのは私たちだけなんだから! ふふん♪」
「そうですよー、オルカさんは誰にも渡しません!」
リズさんもメロディちゃんも超ドヤッてる。
そんな挑発するような事言って……。
「いっつもリズたちばっかじゃん、ズルいよー。」
「そうだそうだ。私たちにもチャンスをーっ!」
「そうだ。俺たちにもチャンスをくれーっ!」
「男はダメッ!!!」
「女ばっかりズリぃぞー。」
「オルカさんはこっち側の子だからこれでイイの!」
ねぇ、私は? 私の意見は?
関係なし?
リズさんとメロディちゃんが両側から腕を組んで来てむにゅっと柔らかい丘が当たった。
思わずにへら。
口元が緩んじゃう。
「明日教会に行くから付き合って♪」
「リズ、それは私たちの役目。 人の仕事取る良くない。」
カーリーさんも参加されますか、そうですか。
更にカーリーさんとベルさんが加わって両腕に花束。
「オルちゃん、明日一緒に行く。決定。」
カーリーさん有無を言わさず私は強制参加。
選択権など一切無しですか。
まぁイヤではないからいいんだけどね。
でもそうするとさ、
「カーリーさん後からズルいー。」
メロディちゃんが抗議の声を上げる。
そうなるよね、当然。
「じゃあ、5人で一緒に行きましょう、それがいいわ。」
ベルさんのひと言で決着。
みなダメとも言えず、取り合えずしぶしぶ了承する。
本音は自分たちだけで……と思ってるんだろうけど、相手を出し抜くのが大変だからここは穏便に平和協定を結んだと。
なんのこっちゃ。
うん、まぁいいんだよ。
いいんだけどさ……。
アルマさんはアイザックさんのお世話で来れないんだって。
うーん、一番の常識人枠のアルマさんが来れないのか……波乱の予感しかしないな。
「じゃ、明日は別にゆっくりでもいいんだから4の鐘にここに集合ね。」
ベルさんが取り仕切る。
ベルさんは皆を纏めるのが上手いね、幹事さん向きだ。
明日は明日の風が吹く。
今日の風はわりかしイイ向かい風だったよ。