第76話 私たち結婚します
ここでいがみ合ってても何も生まれないからね。
私は腕まくりをして両手を『洗浄』しながらアイザックさんの方へ歩いてゆく。
アイザックさんは青白い顔をして腹部の怪我の痛みに顔を歪ませている。
呼吸は浅く速い。
医者じゃない素人の私でも分かる、状態としては良くはないね。
「じゃ、始めるわね。」
私はしゃがんでアイザックさんの患部を露出させて、軽く『洗浄』をかけて綺麗なタオルで拭く。
やっぱり血は止まってない、穴が開いてるんだもん仕方ないか。
まだ内臓が飛び出してないだけマシだと思わなきゃ。
魔力を練り上げる。
周りの空気が集まるように私の周りだけ魔力密度が高まる。
両手をかざす。
目を閉じ軽く深呼吸をして、魔法を展開する。
『治癒魔法』
金色の粒子がアイザックさんに降り注ぐ。
ふわり ふるり
まるで舞を舞うように、祝福するかのようにアイザックさんを包んでいる。
金色の淡い光に包まれるとお腹の傷がみるみる塞がっていく。
そして金色の粒子が全て消え去ると治療は完了だ。
うん、ちょっとやり過ぎちゃったかも。
完治どころか無数にあった古傷とかも纏めて治っちゃった。
「治ったわ。もう、大丈夫よ!」
私は立ち上がりぐるりと皆を見回して飛びっきりの笑顔で言った。
「「「「「うぉぉぉぉーっ!!」」」」」
湧き上がる歓声。
拳を上に突き上げて喜びを表す者、飛び上がる者、抱き合って喜ぶお姉さんたち。
「「「「アルマ、良かったね。」」」」
「俺は……助かった のか?」
「ザック!」
アルマさんがアイザックさんにギュッと抱き付いている。
「良かった、良かった、良かった。」
子供のように泣きじゃくるアルマさん。
でも悲しくて泣いているんじゃなくて嬉しくて泣いてるんだからいいよね。
「治ったと言っても大怪我してたのは変わらない、怪我で失った血までは戻らないから暫くは安静にしてて。」
「それとこれ……飲んで。」
アルマさんにポーションの瓶を手渡す。
「これ、何? ポーション?」
「そ、体力回復のポーション。 私が作ったの。」
「ありがとう。」
アルマさんはアイザックさんの背中に手を回して身体を起こしてやって私が渡したポーションを飲ませている。
飲ませるとすぐに効果が出始めた。
「すごい。身体が少し楽になった。力が入るようになった。」
アイザックさんが驚きながら言う。
「よっと。」
アイザックさんが立ち上がろうとすると
「まだ座ってないとダメよ。」
アルマさんがアイザックさんを手で静止する。
そうだね、体力を回復するって言っても一時的なものだし。
今は出来るだけ安静にしてないとね。
今は怪我が治っただけの状態。
失った血液までは戻らないから、栄養のある物を食べてゆっくりと静養して体力の回復に努める事。
冒険者の仕事は暫くは控える事。
一般的な注意点を与えて「きちんと守れば回復も早くなるからね」と着け加えておく事も忘れない。
アイザックさんが立ち上がろうとしてるのをアルマさんが止めるけど、アイザックさんはそれを拒否して仲間の人に支えて貰いながらゆっくりと立ち上がる。
「立ち上がって大丈夫なの?」
心配そうに尋ねるアルマさん。
ゆっくりと一歩一歩確かめるように前へ進むアイザックさん。
アルマさんの真ん前まで歩いて行って真剣な眼差しで口を開く。
「アルマ、俺と結婚してくれ!」
「っ!!!」
驚いたように両手で口元を覆っている。
固まったまま何も言葉に出来ないようだ。
そして花が咲いたようにパァーっと顔を輝かせて
「…………はい。」
と一言だけ返事をした。
「アルマ、良かったね。おめでとう。」
カーリーさんやベルさんがお祝いの言葉を言う。
「「「「「「「おめでとう!」」」」」」」
ワーッと言う大歓声が響き渡る。
アイザックさん自分で言っておいて照れてるよ。
顔真っ赤。
アルマさんなんか髪の毛いじいじして照れ照れになってるじゃない。
んまっ、初々しい二人。
アルマさんはアイザックさんの胸にピトってくっ付いて幸せを噛み締めてる。
顔が蕩けてるもん。
あーはいはい、ご馳走様でした。
私もうお腹いっぱいですぅ。
「ヒューヒュー」
「お幸せにーっ!」
みんなに祝福される二人。
良かった、良かった。
これにて一件落着!ってね。
私もこれで用済みだよねー。
もう疲れちゃったから今日はもう宿に帰ろうかな。
そう思ってたんだけど、アルマさんに呼び止められちゃった。
「オルカさん……えっと……あの……」
リズさんとメロディちゃんがちょっと警戒してる。
私を守るようにスッと前に出る。
「アルマさん、まだ何か……」
リズさんがそう言いかけた時
「さっきは酷い事言ってゴメンなさい!」
そう言って深々と頭を下げる。
そう言えばギルマスも頭下げてたね。
こっちの世界でも頭を下げるってするんだね、なんて場違いな事を考えてしまっていた。
「謝って済む問題じゃないけど……許して貰えなくても仕方ないとも思うし。さっきは気が動転してて……それであんな事……ううん、いい訳はダメだよね。」
「ね、お礼したいんだけど、」
「ううん、お礼なんていいよ。 アイザックさんが助かったんだからそれでイイよ。」
私的にお礼なんてホントどうでも良かった。
お礼が欲しくて、感謝してほしくて治した訳じゃないからね。
目の前に怪我してる人が居るのに見て見ぬ振りをするのがイヤだったから。
それだけだから。
「ダメよ、私何でもするって言ったんだもの。 私に出来る事なら何でもするから、だから言って!」
んー、そんな事言われてもなぁ。
ホントして欲しい事なんて無いのよねぇ。
「俺からもこの通り。俺たちに出来る事なら何でもする!」
あちゃー、アイザックさんも参戦して来たね。
この流れだと私が何かしら言わないと収まらない感じ?
どーしよう。
シーンと静まり返っている。
みんなが私の返答を注目して待っている。
うわー静寂がプレッシャーだよ。
どうしよ。
さっきアイザックさん「俺たち」って言ってたよね?
うん、その手があったか、それで行こう。
「こほん。」
私は咳払いを1つして、
「じゃあ、言うわね。」
「う、うん。」
「お、おう。」
ゴクリ。
周りのみんなも緊張してる。
「まずアルマさん、元気な赤ちゃんを産む事。アイザックさんは必ずアルマさんを幸せにする事。二人には末永く幸せに暮らす事。 私にとってそれが一番のお礼よ。」
にっこり笑ってコクリと頷く。
「なによ、もう。カッコつけ過ぎじゃない。 そんなのズルいわよ。」
そう言ってアルマさんはまた泣き出した。
でも嬉し泣きなんだからいいよね。
周りで見ていた冒険者たちも笑顔になってる。
たぶんこれで良かったのよね、正解だよね?
「オルカさん優しすぎです。」
「メロディのいう通りね、オルカさんは優し過ぎよ。でもそれがオルカさんのイイ所でもあるんだけどね。」
取り合えず二人の怒りは解けたみたい。
その場に居た全員が笑顔になってる。
これで万事丸く収まった、グッジョブ私。
ホッとして空気が緩んだ時、頃合いを見計らってたのかギルマスが喋り出す。
「あーみんな聞いてくれ。今日この場で起こった事は他言無用だ。お前たちは何も見ていない、何も知らない。」
「いいか、姫さんは自分の身を危険に晒してまでしてザックを救った。姫さんはこのギルドの宝だ。俺たちは同じギルドの冒険者仲間として姫さんを守る義務がある!だからこの事は絶対に喋るなよ、いいな!」
「喋ったヤツには漏れなく俺の鉄拳制裁のプレゼントだ!」
「それだけはイヤだーっ!」
「ギルマスの拳骨マジで痛えんだよ。」
イヤがってるわりに皆笑顔だけどね。
ギルマスって案外人望があるのかもね。
ギルマスいい事言うもんだから、ちょっとビックリしちゃった。
かん口令を出してくれるならそれに越した事はないかな。
助かるし。
貴族に囲われるなんてゾッとしないわ。
うーヤダヤダヤダ、さぶイボが出るよ。
「ギルマス有難う御座います。」
「なぁに、ここんとこ姫さんに助けて貰ってばかりだったからな。返せる時に少しでも返しておかないとな。」
そう言っていつものガハハ笑いしている。
んー私そんなに助けてたっけ?
自分の都合で動いてただけなんだけどなー。
大量のスライムは、あれはさくちゃんのおかげだし、ワイルドカウやズラトロクはくーちゃん・さくちゃん二人のおかげ。
蟲の報告は当たり前の事しただけだし、あっ、そう言や下品冒険者A・Bが居たね。
あれにしたって降りかかる火の粉を払っただけだし。
「そんな訳だし大した事してませんよー。」
手をヒラヒラさせながら私はそう答えるだけだったよ。
「まぁまぁ、そう言うな。人の感謝は素直に受け取りな。」
そう言って二カッと笑う。
「ところでザック、お前たちお披露目はするのか?」
お披露目?
日本で言う所の結婚披露宴って事でいいのかな?
前世では結婚式とかの概念はかなり古い時代からあったみたいだし、こっちの世界でも同じようにあっても可笑しくはないよね。
「本当はしないで官吏に報告だけするつもりだったんだが、死に掛けて助けられた命だ、この際だしパーッと騒ぐのも悪くないかなって、今はそう思ってる。 出来たら誰か手伝って欲しいんだが……。」
「おう、そうゆう事なら任せろ! 俺たちが手伝うぜ。」
アイザックさんのお仲間さんがすぐに名乗りを上げた。
「私たちも手伝う。 アルマを主役にするのは任せて!」
カーリーさんとベルさんも手を挙げる。
「だったら、やっぱり場所は教会一択だよね?」
ベルさんがさも当たり前って感じで言ってるけど何で教会一択?
どこかの酒場だったり食事処でするもんなんじゃないの?
「院長先生にも報告したいしね。」
「ん? 院長先生????」
私が「?????」て顔してるとリズさんが説明してくれた。
「あー、アルマさんたち3人は教会の同じ孤児院出身なの。3人とも同い年だから自然に仲良くなったみたいね。」
「ちなみに私やメロディも3人と同じ孤児院出身なのよ。」
「えっ?」
うそっ! そんなの知らなかった。
初めて聞いたんだけど?
ものすごくビックリした。
きっと目を見開いてリズさんたちを凝視してたんだと思う。
「そんなビックリするような事じゃないでしょ? 孤児なんてどこにでも居るわよ?」
「そうですよー。」
「いや、そんな如何にも普通だよみたいに言わないで。」
「そんな事言ったらオルカさんだってそうでしょ?」
「いや、そうだけど……」
私の場合はそうゆう設定だから。
ホントに孤児な訳では……あー、でもこっちの世界に来ちゃったから天涯孤独の身であるのは間違いないないか。
んーまぁ、孤児とも言えなくもないけど、ちょっと違う。
「オルカさん、そんな難しい顔しないで。そんなに眉間に皺寄せてたら綺麗な顔が台無しじゃない。」
「そうゆう顔のオルカさんも悪くはないけど、やっぱりオルカさんは笑ってる時が一番素敵ですから。」
あ、ありがと。
何気にちょっと照れる。
「孤児が就ける職業って限られてるから冒険者に元孤児って多いんですよ。」
メロディちゃんが言う。
この国は15歳で成人で、孤児院に居ても成人したら出て行かなくてはならない。
だから孤児院に居る時からこまめにギルドに顔を出して、雑役依頼をこなしているんだそうだ。
薬草を採取したり、街の中の小間使い的な事をしたりとかね。
後は冒険者パーティーの荷物持ちだったりとか。
そうやって経験を積んでいくと、大体は成人する頃にはEランクくらいにはなっているんだって。
Dランクならいっぱしの一人前の冒険者で、Cランクから上は上位の冒険者。
リズさんたちはEランクなのでもう後一息のところまで来てる。
っと、話が逸れちゃったから戻して、
院長先生って言うのは、リズさんたちが居た教会の孤児院の孤児院長の事で、年配の女性の牧師様なんだって。
孤児院の子供たちからは尊敬の念を込めて「お母さん」って呼ばれてるって。
で、自分たちを育ててくれた院長先生に報告したい、受けた恩を少しでもお返ししたい。
孤児院の子供たちにお腹一杯食べさせてあげたいって言う気持ちからなんだって。
う、良い話じゃないの、私こうゆうのに弱いのよ。
涙腺がすぐに決壊しちゃって。
「ぐすっ。」
ついつい鼻を啜ってしまう。
前世で、ルカと一緒に映画観てて鼻をぐすぐすさせてたら、映画観終わった後にルカに
「カオくん泣いてたでしょ?」
ってニヨニヨ笑いされたものだ。
いや、だから私は涙脆いのよ! 何か文句ある?!
そんな事を思い出してたら、隣りに居るリズさんとメロディちゃんがニヨニヨと笑っていた。
くっ。
ここでもか。
「へー、意外。オルカさんて情に絆されやすいのね。」
「ふふ、オルカさんの弱点発見♪ オルカさんは情に訴えたら堕ち易い!」
「ううう、うるさいっ。」
ぷい。
ちょっとだけツンしてみる。
「「可愛いーっ!」」
両側からほっぺをツンツンされた。
恥ずい、顔が火照って熱い。
きっと今の私顔真っ赤なんだろうなぁ。
周りの人は「まーた、あいつ等イチャついてる」って顔して見てるよ。
ほ、ほら。 まだ話の途中なんだからね!
カーリーさんたちと相談しなさいよ!




