第74話 これは・・・けしからん
串焼き2本とそば粉で焼いたガレットみたいなのを2枚ペロリと平らげたメロディちゃん。
すっご。
あれだけの量どこに入ってるの?
もしかして背中まで胃袋なんじゃないの?
それか胃袋が4つあるとか?
そう言って笑ってたら
「ンモー、私は牛ですかっ!」
って、牛みたいに唸ってたよ。
私たちは広場の方まで移動して設置してあるベンチに腰掛けた。
なんか飲み物が欲しいなー。
そう思ったので
「果実水飲む? 飲むんだったらすぐ作るよ。」
そう言うと
「「飲むっ!」」
即答だった。
「ねぇねぇ、それってカーリーさんが言ってた例の果実水?」
「そうそう。 リズさんたちまだ飲んでなかったよね? だから。」
今の私がここに在るのも元々はリズさんたちのおかげって面もあるからね。
受けた恩は返せる時に少しづつでも返しとかなきゃ。
「果物は色々持ってるけど、どれがいい? バナナ・リンゴ・オレンジ・グレープフルーツ・桃・葡萄などなど。他にもあるよ。」
「んー、私は葡萄。メロディは?」
「私はオレンジがいい!」
「リズさんが葡萄でメロディちゃんがオレンジね、了解。 じゃあ私はリンゴにしようかな。」
周りに気付かれないようにポシェットから出す振りをしてストレージからコップを3つ取り出した。
取り出したコップを一旦ベンチの上に乗せ、氷を作り出してコップに入れた。
カコンカコン。
そして『料理スキル』を使って少しばかりの魔力と引き換えにコップに果汁を注ぐ。
トポトポトポ。
そして水を少々。
はい出来上がり。
魔力チートの私ならではの手作り果実水だよ。
カランコロンと氷を鳴らし、コップを揺らして中の果実水が冷えるのを待つ。
程よく冷えたところで、
「さ、召し上がれ。」
くぴ。
一口飲んでにっこり。
うん、甘くて冷たくて美味しい。
ほらほら、リズさんたちも飲んで。
コクリ。
「っ!! なにこれ! 美味しいーっ!!」
「こんな美味しいの飲んだ事ないっ!」
ごきゅごきゅごきゅ ぷはーっ♪
「もう1杯!」
メロディちゃん一気に飲みすぎ。
もう1杯? 飲むの?
「はいはい。ちょっと待っててね。」
もう1杯同じのと思ったけどヤメて
「ねぇ、ミックスジュース飲んでみる?」
「へ? みっくすじゅうすって何?」
「色々な果物の果汁を混ぜて作った果実水の事よ、飲むよね?」
飲まないとは言わないの分かってるけど一応 ね。
ストレージ内でバナナ・オレンジ・リンゴ・レモンの果汁を『料理スキル』を使って絞っておく。
「「もっちろん飲むに決まってるじゃない。」」
ですよねー。
そう思ったから前もって絞っておいたよ。
3人分のコップに手をかざし、それぞれにミックスジュースを注ぎいれる。
トポポポポ。
「はい、どうぞ。」
「「っ! これもすごく美味しい!!」」
良かった。
私もミックスジュースは好きだなー。
「むうぅ、私たちより先にこんな美味しい物飲んでたなんてアルマさんたちズルイ。」
「ホントだよー。私たちに謝って欲しいもんだよ。」
「けどこれホントに美味しいわね、一家に一台オルカさんが欲しいくらいね。」
一家に一台って。
私はジュースサーバーか何かですか。
さてと、そろそろギルドに行かない?
お金を回収に行かないとね♪
そう言いながら立ち上がる私。
手作りブラに包まれた胸が控えめにふるんと揺れる。
うん、いい感じに保持されてるね。
我ながら上手く出来たわぁ。
その様子をジーッと見ていたらリズさんがおもむろに口を開く。
「ねぇ、オルカさん。貴女また成長してない? 主にお胸が。」
えっ? 胸?
「あ、それ。私も思ってました。パッと見昨日より大っきくなってる気がします。」
「もしかして私たち以外の誰かに揉まれちゃった?」
え、えっ?
誰かに揉まれる?
えーっ? 誰に?
何故そんな悲しそうな目でこっちを見るの?
ないないない。
それは絶対にないよ。
「私そんな相手居ないもの!」
「「ホントに?」」
「ホントにホント。神に誓って!」
「「はあぁぁぁぁぁー。 良かったぁ。」」
何でそこで安堵するかな。
なんか可笑しいよ。
これはね、自分用作ったに新しい下着なの。
それ着けてるからだよ。
「この下着すっごく良いんだよー。胸が安定するの。」
「新しい下着……?」
「どれどれ。」
メロディちゃんがあくどい顔をして手をわきわきさせている。
あ、すっごくイヤな予感。
そう思った時にはもう遅かった。
「あんっ。」
前から掴まれた。
そして揉み揉みされた。
ちょっ、ちょっと。手つきがイヤらしいってば。
「これはこれは。 見事なたわわですな。」
メロディちゃん嬉しそうに揉むのヤメて貰える?
すっごい悪い顔してるよ。
「これ、胸を包み込むように布で覆われてる? 背中と肩に紐みたいなのが通ってて、それで胸を支えてるんだ。」
あ、これ。
そんなにペタペタ触らないで。
ヤダ、くすぐったい。
んっ……。
「へー、ちょっと興味あるな。」
今度はリズさんが後ろから両手で包むように胸を触ってきた。
ちょっと、リズさんまで何してるの。
だーめ。
こらぁ……
さっきからダメって……言ってる…………でしょ。
っ!!
「「オルカさん可愛い。」」
二人とも前と後ろからぴったりとくっ付いてさわさわしてる。
ダメだったら、わたし敏感……なんだからぁ。
ね、もうホントにヤメよう?
「オルカさんの魅惑のたわわが……」
「これは……けしからん。」
耳元に二人の声が響く。
二人とも息がハァハァしてる。
いくら何でも流石にこれ以上はヤバいって。
ここらで止めないととんでもない事態になりそう。
「ダメよ、もうヤメて。人が見てるから。」
周りの人が何だ?って感じでニヤニヤしながら見てたよ。
うわーめっちゃ恥ずかしい。
穴があったら入りたいってのは正にこの事だ。
周りの視線に気付いたリズさんとメロディちゃん。
顔を真っ赤にして恥ずかしがってるけど、もう手遅れだと思うよ。
両手で顔を覆うようにして恥ずかしがってる二人。
そもそも一番恥ずかしいの私だからね。
私たちは逃げるようにその場を後にした。
少し離れた所でオルカさんお怒りモード。
って言っても怒鳴ったりとかしないよ。
それに本当に怒ってる訳じゃないから。
あ、いや。怒ってるのは怒ってるんだけど半分は許しちゃってる感じ?って言えば分かるかな。
もー、しょーがないなぁってな感じ。
一応ちょっとだけぷりぷりしてみたけど、
「そんな可愛く怒られたら我慢出来なくなっちゃいますよー。」
「オルカさん誘ってる?誘ってるのよね?」
って逆効果だった……。
「なっ……なんなの これ。」
リズさんが私の服の隙間から見えた胸の谷間を見て愕然としていた。
メロディちゃんはツンと上を向いた形の良い胸を見て羨ましがっている。
「「ジーーーーーーーーーーーーッ!!」」
目は口ほどに?
いやいや、ガッツリ口に出して言ってるし。
「分かった、分かりました。作ればいいのよね?」
「但しこの下着はその人専用の一品製作だから身体のサイズ測らせて。」
「やった、作ってくれるの? ありがとー。」
メロディちゃんあんまり飛び跳ねない方がいいよ、胸がぶるんぶるん揺れてるから。
今から作るのってそうゆうのを緩和する為の下着だからね。
「身体測るの? 脱げばいいの?」
リズさん、ちょっと待った!
なんで今脱ごうとするの!
人の話は最後まで聞くっ!
いいわね!
「私の『分析』スキルで分かっちゃうから大丈夫だよ。 『鑑定』は使わないから安心して。」
「あら、オルカさんになら『鑑定』されてみたいかも、ふふ。」
「あー、リズ抜け駆けずるーい! 私もオルカさん口説くー。」
収拾つかん。
もういい。
兎に角、二人に下着を作ってあげる事を約束してギルドに向かう事にした。
はあぁぁぁぁ、やっとギルドまで辿り着いた。
なんかここまで長かった……。
私はちょっとお疲れモードで冒険者ギルドのドアを開ける。
中に入って窓口まで行ってメイジーさんに声をかける。
「あ、オルカさん。」
「買取依頼に出したワイルドカウのお金を受取りに来たんですけど、ギルマスはいらっしゃる?」
「はい、承っております。ギルマスを呼んで来ますので応接室までお越し下さい、ご案内しますね。」
メイジーさんの後ろについて応接室まで歩く。
私、くーちゃん・さくちゃん、リズさん・メロディちゃん。
応接室の中に入るとソファに座って待っているように言われて、
「では、ギルマスを呼んで来ますので少々お待ち下さい。」
ドアがパタンと閉まって応接室には私たちだけになった。
豪華なソファには真ん中に私、右側にリズさん、左側にメロディちゃん。
後ろにはくーちゃんとさくちゃんが控えている。
「ところで、私たちも一緒に来ちゃったけど良かったの?」
リズさんにそう言われて、確かに言われてみればそうね。
まぁ別に構わないっちゃあ構わないんだけど。
「んー、別にいいんじゃない?」
「軽いわね、そんな物なの?」
「そんな物なの。」
なんともゆるーい会話だね、緊張感の欠片も無い。
3人で少しお喋りをしていると応接室の扉が開いてギルマスが入ってきた。
「あー、待たせたな。スマン。」
「しかし、お前等いつも一緒だな。まるで恋人同士みたいだぞ。」
カカカっと笑うギルマス。
それを聞いたメロディちゃんは
「何言ってんですかー、私たちは恋人同士ですよ! ねー、オルカさん。」
「そうなのか?」
いや、それ私に聞かないでよ、返事に困るじゃない。
「違うの? そうなの? あれは嘘だったの?」
あれって何?
私なんか言ったっけ?
「メロディ、慌てないの。オルカさんが困ってるじゃない。まだ恋人って訳じゃないです、まだ。」
「でも、今後は分からないかもね、うふふ。」
リズさんまで!
ギルマスー、助けて下さいよー。
私は目で訴えたけれど軽くスルーされた。
「よし、清算するか。姫さん期待していいぞ、いい値がついたからな。」
余計な傷もなく状態もすごく良かったので良い値がついたらしい。
今回買取依頼に出したワイルドカウは全部で40頭。
大きさは大小様々だったけど平均すると1頭700kgぐらい。
~ちなみに重さの単位は『言語理解』さんが私に分かるように最適化してくれてるみたい~
ワイルドカウの買取対象になる部位はと言うと、可食部の肉と内臓で約40%、皮が6%、骨7%、脂10%。
1頭約700㎏として、その40%は約280㎏、それが40頭で11,200㎏。
キロあたり単価が大銅貨2枚だそうだから、11,200㎏×大銅貨2枚=小金貨22枚と小銀貨44枚。
は?
はあぁぁぁぁぁっ?!
「た た た 高すぎない? たかが牛でしょ? 何でそんなに高いの?」
私が驚いてると、
「今回は状態が良かったからな、少しだけ高く見積もりしてある。 ちなみにだ、」
今は蟲の発生による警戒期間の為、買取価格10%アップキャンペーン中。
なので小金貨22枚と小銀貨44枚の10%アップで、小金貨24枚と小銀貨64枚。
たかが1割アップ、されど1割アップ。
金額が大きくなればなる程1割アップが効いて来る。
更に説明は続く。
皮6%、骨7%、脂10%、併せて23%
1頭700㎏の23%は約161㎏で、それが40頭で6,440㎏
キロ単価が大銅貨0.5枚(銅貨5枚)で小金貨3枚と小銀貨22枚、更に10%アップがついて小金貨3枚と小銀貨54枚と大銅貨2枚に。
「それからスライムの一括納入分だが、」
スライムは1匹小銀貨1枚。
私がギルドに卸したのが225匹だったので小金貨2枚と小銀貨25枚。
更にこちらも10%アップで小金貨2枚と小銀貨47枚と大銅貨5枚。
総額、なんとなんと! 小金貨30枚と小銀貨65枚と大銅貨7枚……
日本円にして30,657,000円!
ここから解体と買取手数料を引くんだけど、今回は大量納入と言う事で少しおまけしてくれた。
〆て小金貨がちょうど30枚。
へっ?
今何て言ったの?
小金貨30枚?
はぁぁぁぁぁ?
あわわわわわ。
どどどど どうしようーっ!
だって3,000万円だよ、3,000万円!
現代日本でだって贅沢しなきゃ一家4人で6~7年生活出来るわよ。
一人暮らしなら10年はいけちゃうよ。
「「すごっ!!」」
「ほんとオルカさんって規格外よね。」
「だよねー、何もかもが普通じゃないし。」
なんかサラッとディスられてる。
「姫さん、やったな! おめでとさん。」
「いやいや、高すぎないですか? ホントにいいんですか?」
「ああ、ちゃんと正規の手順を踏んでるから問題ない。」
そ そうなのね。
まぁ、ギルマスがそう言うならいっか。
「有り難うございます。」
「いや、こっちこそ助かった。こうゆう緊急時は一時的に買取依頼が少なくなるんだが、今回の買取で少し時間稼ぎが出来たからな。」
「そうですか、お役に立てたなら良かったです。」
それにしても小金貨30枚……。
今の手持ちが小金貨23枚だから合わせて小金貨53枚。
日本円に換算して53,000,000円……何てこったい。
お金減るどころか増える一方ね。
(くーちゃん・さくちゃん、いつもありがとうね。)
(ありがたき幸せ。)
(ご主人様に褒められました。)
(二人とも大好きだよ。)
((っ♪♪))
くーちゃんは尻尾をばっさばっさと振っているし、さくちゃんはみよんみよんと伸び縮みしてる。
二人とも喜んでくれてる。
うん、良かった。
くーちゃんたちを眺めてほっこりしていると、
「あー、姫さん。 ズラトロクの買取の件なんだが」
そうそう、それも聞かなきゃって思ってたんだった。
「すまん、もう少し待ってくれないか?」
「と、言いますと?」
「物が物だけに領主様も扱いに困ってな、王家に買取を打診しているんだそうだ。」
ああ、確かにそんなような事言ってたっけ。
こうゆう伝説上の魔物なんてまず見る事はない。
見る事がないからこその伝説ではあるんだけど。
それが見つかった。
しかも状態も良いままで狩ってあると来た。
王家としては権威を示す為にも是非とも欲しい。
しかし、研究機関や好事家など欲しがる所は山ほどある。
王都でオークションにでも出せば一体くいらの値が付く事やら。
想像しただけでも空恐ろしい事になるのは目に見えている。
当然そこまでとなると、いち領主では手が出せる物ではない。
だから王家に買取を依頼したと言う事らしい。
「王家がいくら出すかは分からんが、恐らく小金貨100枚単位での話にはなるだろうと領主様が仰ってた。」
「少なくとも小金貨500枚くらいにはなるだろうと。あー、だが、半分は税金で持って行かれるだろうけどな。」
は?
……。
…………。
……………………。
一瞬何を言われているのか分からず固まる私たち。
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇー?!!!」」」
小金貨500枚?
日本円でご ご ご ごおくえん?!
税金で半分持って行かれても小金貨250枚。
2億5千万円也。
あわわわわわわ。
驚きすぎてあわあわしてしまう。
びっくりするなって言う方が無理な話ですよ、これは。
「オオオ オルカさん、どうしよー。私そんな大金使いきれませんよー。」
「メロディ、落ち着きなさい。それメロディのお金じゃないから! オルカさんのだからね!」
「3人で割っても一人頭小金貨80枚は行っちゃうね。二人とも良かったね。」
「オルカさんも混乱してる?!」
「リズさん、落ち着いて。 ねっ。」
「オルカさんなに言ってるの、落ち着くのは貴女でしょ!」
ドタドタドタ
わぁぁぁぁぁ
「……大変だ ……を呼んで来てくれ……」
んー?どうしたんだろう。
「ねぇ、何か騒がしくない?」
「何だ? 何が起こった?」
私たちが訝しがっていると勢いよくバーン!と部屋のドアが開け放たれた。
ミランダさん?!