第71話 エロスの暴力
私はベッドを背に姿見の前に立つ。
そしてゆっくりとワンピースを脱ぎ始める。
鏡の中の私も同じ様に服を脱いでゆく。
清楚な白色でありながら透け感のある素材とレースをあしらったフェミニンな逸品。
上下セットで着けるとまるでお出かけ仕様みたい。
これはイイ、すごくイイね。
布面積は大きいものの野暮ったさは微塵も感じさせない。
ブラも着け心地良く、しっかりと保持されている。
これを着けちゃうともうキャミだけには戻れないな。
一旦姿見から横に動いて、次は違う色のを着けてみる事にする。
どれにする?
黒? 赤?
いいね、いいね。
大人の黒?
妖艶な赤?
それもいいけど、しっとりとしたネイビーやボルドーも捨て難い。
あー、迷うー。
迷うけど結局全部試してみるんだけどね。
だって ねぇ。
新しい下着って気分上がるでしょ?
楽しいじゃない。
じゃあじゃあ、大人し目のネイビーとボルドーから。
ベッドの上に出しておいた下着に着け替える。
着替えたら姿見の前に立つ。
いいじゃない。
ちょっと大人し目だけど上品な色気があるね。
白は清楚、ネイビーとボルドーはちょっとお姉さん的な色気?とでも言おうか。
パーティードレスなんかにイイかもしんない。
オフショルダーの服で見せ紐なんかも良さそう。
これは活躍の場が多そうな雰囲気だね。
いよいよ満を持して本命の赤と黒。
これはもう見ただけで「えろい」が溢れてる。
なんか見てるだけでいけない気分になってくる。
ねぇ、これ想像以上にヤバくない?
私我慢出来るかな?
取り合えず着けてみよっか。
まずは欲情の赤、じゃなかった情熱の赤だ。
…………っ!
これはこれは。
感想は後ほど。
次は蠱惑の黒、じゃなくて大人の黒。
…………ひゃあぁぁ。
結論。
すっご!
超えろいんですけど。
しかも美少女とえろ下着のギャップが!
なんかね、鏡に映る自分が自分じゃないみたいって言うかね。
背徳感が半端ないです。
私13歳、なのに色気ムンムンで背徳感パないわ。
ええっとね、ものすごい美少女がにっこり笑ってみ?
そりゃあ誘ってるとしか思えないよね。
元男の私だからよく分かる。
この笑顔は人を惑わす笑顔だ。
男性も女性も虜にする小悪魔的笑顔。
そんな私が鏡の中の私に黒下着姿で微笑みかけるの。
あ これはヤバい。
私はベッドに腰掛けてゆっくりと脚を開いてゆく。
それだけで期待に胸を膨らませてる。
心臓がドキドキ高鳴ってる。
あっ、 えっち だ。
ヤダ。
これはもう無理。
私は結界石と消音石を作動させる。
っ!!!!!!!
んっ!!
はあぁぁぁぁ……。
あぁ、鏡に映る私すっごいえっちな顔してる。
あんなに蕩けて気持ち良さそうな顔して……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
チュンチュン。
ゴーン ゴーン ゴーン。
3の鐘が鳴る。
「んっ、んあー! おはよう。」
誰に言うともなくおはようの挨拶をする。
昨日の晩は……
はい、ガッツリと楽しませて頂きました。
すんごいの。
もうね、あれはアカンです。
ほんとマジやばいから。
白磁のようなすべすべの肌に赤とか黒の下着ってエロスの暴力だよ。
あんなのぜーーーーーーーったいに抗えないから!
鏡見ながらって……すんごい滾るって言うか捗るって言うか。
癖になりそう。
嗚呼、私新たな性癖が目覚めちゃったかも。
けどね、1つだけ文句言いたい。
誰に?って、女神様によ。
いつになるか分かんないけど、もし会えるんなら文句言いたい。
なんで、なんで? えっ? なんでこうなってんの?って感じかな。
それは聞いてないって言うかね、これ前世なら事案発生だよ!ってレベルだからね
分かりにくい表現だけれど兎に角これは私も予想外だったよ。
一緒にお風呂に入ったお姉さま方は特に何も言わなかったから、こっちの世界じゃ特に珍しくもないのかもしれないけどさ。
ま、まぁ今はこれくらいにしておく。
特に不利益とか被ってる訳じゃないしね。
えろえろな我儘ボディに不満がある訳じゃないよ。
どっちかって言うと得してる方が多いからさ。
でも、もし会う事があったら絶対言ってやるの、「これ、ダメじゃない?」って。
お仕事服(冒険者の格好)に着替えてお出かけ準備完了。
下に降りて食堂へ行くと皆けっこう起きてきてた。
冒険者って朝早い人多いもんね。
早く朝ごはん食べて早くギルドに行かないとワリのいい仕事って無くなっちゃうらしいから皆朝早いのよ。
私は討伐系の依頼は受けられないから気楽なもんよ。
薬草採取してる間にくーちゃんたちが魔物を狩って来てくれるからね。
だからお肉もお金もザックザク。
「おはよう。」
給仕の女の子に朝の挨拶をする。
それだけでパァーッと花が咲いたような笑顔を見せてくれた。
「おはようございます、オルカさん。」
んふー、女の子の笑顔って好き。
朝の挨拶は大事よ。
これするだけで気分良く1日が始まるんだから。
「今、朝食をお持ちしますね。」
そう言って厨房の方へ戻って行って朝食を取って来てくれた。
「パンのお代わりは自由ですので欲しい時は言って下さいね。」
「ありがとう。」
薄い茶色の柔らかいパン。
手で千切って口に入れる。
噛むほどに麦の味が口に広がる。
私はホントはお米派なんだけど、けどこのパンも悪くないわね。
ザワークラウトみたいなちょっと酸っぱい野菜と焼いた厚切りベーコン。
それから目玉焼き、豆さんのスープ。
この世界でのごくありふれた食事。
でも、美味しい。
屋台とかでもよく見かけるヤツ。
それと何気に量が多い。
こっちの世界の人は女性でも健啖家が多いからね。
みんな良く食べるのよ。
私はこっち世界の基準だと、どちらかと言うと小食の部類に入るんじゃないかな。
手を合わせて「ごちそうさま」。
うん、美味しかった。
食堂を出たら次は従魔の厩舎へ行く。
くーちゃんたちに朝ごはんをあげなきゃね。
「くーちゃん・さくちゃん、おはよう。」
((おはよう御座います。))
(今朝ごはんの準備するからね、ちょっと待ってて。)
そう言いながらストレージからくーちゃんたちの朝ごはんを取り出す。
(ご主人様、今朝は艶々綺麗です。)
(いつもにも増してお綺麗でございますね。)
(そ、そう? せ 石鹸とか変えたからかな?)
(成る程、左様で御座いますか。)
うーん、二人とも鋭いな、あなどれないわ。
すんすん。
ちゃんと『洗浄』掛けといたから臭いは大丈夫よね?
(あの、ご主人様? なにをなさって……)
(何でもないよ、汗臭かったらイヤだなって思って。)
(今日もギルドに行くからその時に迎えに来るね。)
そう言って一旦部屋に戻った。
ややや、ヤバかった。
くーちゃんたち何気に鋭いのよねー。
一応念の為もう1回『洗浄』掛けとこうかしらん。
毎日の日課のステータスチェックと結界石&消音石に魔力を補充してっと。
今日はワイルドカウの買取のお金が入る日だったよね。
それとズラトロクの方はどうなったのかな?
そっちも気になる所ではあるね。
まだ領主様のとこで止まってるとか?
まぁそれはギルドに行けば分かるか。
特許関係もちゃっちゃと済ませてしまわないといけないし今日は忙しいな。
街の外に行ってる暇はないかも。
今日の予定はそんなとこか、よし、ギルドに行くか!
「くーちゃん・さくちゃんギルドに行くよー。」
((はい!))
くーちゃんたちを連れてギルドまで歩く。
テクテクテク。
ひんやりとした朝の空気が気持ちいい。
あ、リズさんたちだ。
今日もギルドの前で待っててくれたんだ、嬉しいな♪
「おはよう!」
「「オルカさん、おはよう。」」
輝かんばかりの笑顔を見せてくれる二人。
その笑顔独占したいなって思っちゃったよ。
なので私も笑顔のお返し。
ニッコニコよ。
二人に両側から腕を組まれて、むにゅむにゅっと柔らかく包まれた。
朝から至福の時間だ。
思わず頬が緩む。
「幸せだぁ~♪」
「何よもう、オジさんみたいな事言ってぇ~。」
「オルカさん、こんな美少女二人に抱きつかれてるんですからもっと感謝してくれてもいいんですよ?」
「もちろん感謝してるわよ、お礼は今度身体で払うわね。」
「「やった!絶対ね、約束よ!!」」
「えっ?!」
「「言質は取ったからね!」」
ええぇぇぇぇ。
どうしよう。
冗談のつもりだったんだけど。
オルカさん貞操の危機だよ。
ギルドのドアを開けて中に入る。
なんかいつもより人が少ない?
規制が出てるからかな。
「お、姫の出勤か。」
「今日もリズたちと一緒なんだな。」
「リズたちいいなぁ、私もオルカさんとアレしたい。」
最初の頃とは違って最近はだいぶ好意的になっては来てるけど、ちょっと方向性が違うくない?って気もしないでもないな。
なんか視線がね、熱いの。
熱視線って言うの?そんな感じ。
声こそ掛けられないんだけど、潤んだ目で見つめられたりとかね。
まぁ悪意を向けられるよりは100倍マシだけど。
「「オルカさんは誰にも渡さないからっ!!」」
リズさんたちが威嚇してる。
どうどうどう。
カーリーさんとベルさんて言う強力なライバルが現れたせいか最近のリズさんたちは暴走しがちね。
「オーイ、そこの愉快な仲間たち!」
「「「誰が愉快な仲間よっ!」」」
こうゆうオヤジなギャグを飛ばすのって絶対ギルマスよね。
振り返るとそこには……果たして。
「お前等相変わらずイチャついてるんだな。朝からお盛んだな。」
なっ!
「ヤダもー、ギルマスったらぁ。照れるじゃないですかぁ。」
いやいやいや、メロディちゃん今のは褒めてないよ。
よーく考えて。
「何言ってるんですかギルマス、オルカさんは私たちのお嫁さんなのよ。イチャつくの当たり前じゃないですか。」
リズさんも! 答え間違ってるよ。
私たちのお嫁さんって何っ?!
イチャつくの当たり前?!
まず持って前提が違うから!
私はまだ誰の物でもないから。
そこんとこヨロシク。
「まぁ、リズたちの戯言は置いといてだな。」
「「むうぅ、戯言ってひどーい。」」
ギルマスはリズさんたちを無視してそのまま言葉を続ける。
「姫さん今日はどうするんだ?」
「私? 私は買取依頼のお金受け取って、ちょっと知り合いの商人のところに行こうかなって思ってて……。」
「そうか、まぁ昨日蟲退治してくれたからな。今日は休みでもしゃーねーか。」
「ねぇ、商人ってアイツ?」
リズさんが渋い顔をして聞いてくる。
「私アイツ嫌い。」
「私も嫌い。」
リズさんとメロディちゃんが口を揃えて言う。
まぁ、特にリズさんは良く思ってないよね。
でも大丈夫。
今日行く理由は、「前回の約束を果たして貰う為」だから。
「ちょっと特許登録したい物があってね、特許の登録の仕方とか分からないから登録を手伝って貰おうかなって。」
「ああ、なるほど。」
どうやらリズさんたちにご理解頂けたようで何より。
そうゆう訳なので、
「すみません、今日は1日休みます。午後に一度ギルドに戻ってきますので買取の清算はその時にお願いします。」
ギルマスにそう言う。
すると、
「私もついて行く! アイツ信用できない。」
「ですです、信用出来ません!」
だ、そうです。
マルクさんも嫌われたものね。
ま、私もあの人は好きくないけど。
じゃ、一緒に行こっか。
「ところでさ、マルクさんのお店ってどこ? お店の名前は? リズさん知ってるんだよね?」
「………………………………知らない。って言うか興味ないから忘れた。」
……まずは商業ギルドからだね。
冒険者ギルドと商業ギルドって仲悪いって聞くからちょっと心配だ。
ちょっとだけ不安を感じつつも商業ギルドに向かった。