第69話 誘ってないから!
冒険者ギルドから宿屋に帰って来た私は、
「ただいま戻りました。」
いつも通り、普段通りにそう言う。
カミラさんが私を見て
「さっき聞いたんだけど蟲が出たんですって? それで森へは入れなくなったとか。」
「ええ、その通りです。」
カミラさんと蟲の話、規制の話をしていると
「あ、居た居た。オルカさん詳しい話聞かせて。貴女蟲を退治したんでしょ?その辺も含めてさ。」
あー、まぁ蟲は誰だって気になるよね。
あのカサカサ ワサワサしたのが何とも言えず気持ち悪い。
私は蟲が苦手なのよ。
蟲の話が気になったのか他の冒険者たちも集まって来た。
ギルドで大体のあらましは知っていても、当事者じゃないと知らない事もあるしね。
なのでギルマスにしたように少し詳しく話した。
まずはメイデンウッド側の森の近くの草原で、私の従魔が「森林狼」と「エンペラースコーピオン」を狩って来た所から話し始めた。
本来草原には出没しないはずの「森林狼」が草原に居た。
さらに「エンペラースコーピオン」までもが草原に居た事実から考えるに森で異変が起きているのは確実だと。
「エンペラースコーピオン」は体長200㎝を超える大物。
私の従魔が言うには、そんな「エンペラースコーピオン」でさえ森から逃げて来たのではないかと。
「それって超マズイよね。」
「エンペラースコーピオンが逃げなきゃいけない程の魔物って一体……」
「やっぱりそう思うでしょ。だから私は北の森に入って調べてみたの。そうしたら……」
「リーパーマンティスとマンダリニアが居たのね。」
「そう。」
私たちが「リーパーマンティス」を見つけた時、ヤツは狼を捕食していた。
生きたままむしゃむしゃと……。
肉食の蟲の魔物なんて考えただけでゾッとしない。
皆も同じように思ったようでブルリと身体を震わせている。
夏なのに腕をさすりぶるぶるしてる子も居る。
私のせいで「リーパーマンティス」に見つかってそのまま戦闘に。
私だけだったら「リーパーマンティス」の最初の一撃で死んでたかも。
油断してた、きっと驕りがあったのだと思う。
でもそれをくーちゃんが防いでくれて私は無事だった。
後は戦闘の様子をみんなに説明する。
私が説明してる間、くーちゃんは尻尾をふわんふわんさせながら私の側に居る。
さくちゃんは私に抱かれながらみよんみよんしてる。
「こんなに大人しい子たちがリーパーマンティスを狩るって……」
「どんだけ強いの?」
「いやいや、それよりリーパーマンティスの鎌を噛み砕くってもう普通じゃないよ!」
「蟲系魔物の外殻ってすんごい硬いから武器や防具の材料になるくらいなのよ!」
「そうなの?私よく分からなくて。」
私がそう言うとみなが口を揃えて
「「「主人も普通じゃない?!」」」
失礼ね。
コテンと小首を傾げながら
「私は至ってごくごく普通の常識人よ?……たぶん。」
「だから何でそこで疑問形なの。」
そんな事言われてもねぇ。
だってね、
「私の基準は私だもの!」
ドヤ顔でそう言ったら思いっきりジト目で見られて呆れられた。
何よその態度、納得いかないわー。
イマイチ納得はいかないものの私は話の続きをする。
「リーパーマンティス」を狩った後も私たちは森の探索を続けた。
くーちゃんの聴覚・嗅覚・視覚は通常のスキルのそれより遥かに高性能でスゴイ。
普段私が安穏として居られるのもくーちゃんのこの力があるからに他ならない。
そのくーちゃんの力を持ってすれば魔物を探す事など造作もない事。
そうして見つけたのはブンブンと飛び回る3匹の「マンダリニア」だった。
「マンダリニアも手強い相手よね。少なくともDランクくらいじゃないとかなり厳しいわ。」
「そんなのが3匹も? 普通ならCランクのパーティーで対応するところじゃない。それを貴女一人で?」
「いやいや、私一人でなんて絶対無理ですよ。私たち3人で倒したんです、私とくーちゃんとさくちゃんと。1人1殺。」
幾ら何でも私一人でブンブン飛び回ってるマンダリニアをやっつけるのは骨が折れるし面倒臭い。
魔法をブチ込めばそれで終わりだろうけど、森の中であんまり強力な魔法をぶっ放すのも躊躇われるしね。
「噂に違わずやっぱり相当な強さね、あのギルマスが森の調査を依頼する訳だわ。」
「私が強いんじゃなくて、私の従魔のこの子たちが強いだけですよ?」
「従魔の力もテイマーの実力の内よ。」
「そうそう、従魔とも良い関係が築けてるように見受けられるし、オルカさんは優秀なテイマーなのね。」
「だからあのトリシャも気に掛けてるのね、納得。」
いや、あの、そんな手放しで褒められると照れる。
顔がポッと朱に染まる。
「あら、初心な反応。そうゆうの反則よ♪」
「お姉さんを誘うなんていけない子。」
冒険者のお姉さん方がしなを作りながらつつつーっと擦り寄って来てピトっとくっ付く。
「いえいえいえ、誘ってないです。これ素なんです!」
「素で誘うのね、んふふ。 じゃあ誘われちゃおうっかな♪」
ヤ ヤ ヤ ヤバイ。
年上のお色気ムンムンのお姉さんに迫られてる。
強引にされたら私……。
ちょっと自信ないよー。
「貴女可愛いのねぇ♪」
あ、ちょっと。耳元で囁かないで。
ゾクゾクッと来る。
下唇をキュッと噛んで声が出そうになるのを堪える。
「こ え 出してもいいのよ。」
はい、ゴメンなさい。
私の負けです。
もう許して下さい。
私が涙目になってウルウルしているとカミラさんが
「こぉら、貴女たち、オルカさんが困ってるでしょ。揶揄うのもいい加減にしなさい。」
「「「はぁーい。」」」
良かった、助かった。
カミラさん助け船出してくれてありがとうございます。
カミラさんが器用に片目だけパチッとウインクする。
私は感謝の意を込めてペコリと頭を下げる。
「助かりました。」
「そんな、お礼なんてイイのよー。あの子たちも悪い子じゃないのよ? ただ、オルカさんの魅力負けちゃっただけなのよ。」
そう言ってほよほよと笑うカミラさん。
ウーズの街のパトリシアさんはカラカラと笑ってたけど、カミラさんはそれとは対照的にほよほよと笑う。
リズさんとメロディちゃんの笑い方はコロコロって感じだったから、笑い方ってほんと人それぞれなのね。
「もうすぐ、夕飯の時間よ。 みんな一旦部屋に戻って着替えて来たら? そうしたらすぐに夕飯だからね。」
そうね、そうしようっかな。
「じゃあ、着替えて来ます。」
そう言って私は階段の方へ動き始めると、
「私も着替えて来るー。」
「私も! ついでにお風呂の準備もしてくる。」
お姉さま方も次々と2階の各自の部屋に戻って行った。
「ふう。」
私は部屋に戻ってひと息つく。
いやぁ、お姉さま方のお色気攻勢には参ったー。
ヤバかった、もうちょっとで流されるとこだったよ。
ちょっとだけジュンてなっちゃったしね……。
おっと、さっさと服着替えて食堂に行かないと。
仕事着(冒険者の恰好)を脱いで白いワンピースに着替える。
履物はオープントゥのサンダルっぽいパンプス。
タオル持って、新しく作った石鹸とシャンプー、それに以前作ったのを1つ。
以前作ったのは皆で使って貰う用に。
取り合えず今着けてる”ザ・オバちゃん”なブラは外していつものキャミに着替える。
さて、下着は ど れ に し よ う かな。
黒? 黒いっちゃう?
黒はえっちぃよねー。
あーでも赤も捨て難いなー。
少女以上大人未満の私。
そんな危うい色気を醸し出す美少女が黒と赤の下着って……背徳感あり過ぎだ。
えろえろ、そんな言葉がぴったりな美少女ってヤバイよね。
そんな下着を着けようもんなら、
「誘ってるのね、分かったわ。こっちへいらっしゃい♪」
うん、容易に想像できるよ。
お姉さま方にロックオンされ拉致られてそのままオールで……。
ヤバイねー、私抗えないかも。
これは戦略的撤退が必要だね。
……やっぱ白だ、白。
無難だけど清楚で清潔感のある白の下着。
ただし豪華レース仕様で透け感のあるのにしようっと。
もちろん上下セットで。
それくらいの冒険はいいよね?
よし、お風呂の準備も出来た事だし食堂に行こう。
私はお風呂セットを持って食堂に行く。
食堂に入って空いてる席に適当に座る。
ガヤガヤガヤ。
ワイワイ キャッキャッ。
女3人寄れば姦しい、読んで字のごとくってこの事ね。
特にこの宿は女性専用宿。
そりゃあもう姦しい×∞
食堂に黄色い声が響き渡っている。
「今日の夕飯はワイルドカウなんだって。」
「楽しみよねー。私お肉大好き!」
ぐうぅぅぅぅ。
あはは、誰?すっごいお腹の虫。
「えへっ、鳴っちゃった。」
「もー、ヤダー。」
みんなウキウキ楽しそう。
こっちの世界の女性ってみんな逞しくてエネルギッシュで健啖家さんが多いよね。
ワクワク顔でそわそわして待ち切れなさそうにしてるお姉さまが一杯。
するとカミラさんが厨房から顔だけ出しながら、
「皆さんお集りですかぁ?お肉の用意が出来たんですけど夕飯始めても宜しくて?」
「「「待ってました!」」」
「「いいでーす。始めちゃって下さい!」」
「じゃ、お肉運びまーす。」
給仕の女の子がお皿に乗った美味しそうに焼かれたお肉を運んで来た。
「ん~♪いい匂い。」
塩胡椒、たっぷりのガーリックを効かせた食欲を誘う匂い。
ああ、鼻腔を直撃するこのガーリックの匂いが堪らない。
付け合わせの野菜は豆さんとおイモさん。
ステーキの上にはレモンバターが乗っていて、それが熱でトローリと溶けている。
食欲をそそる匂いと絵面。
嗅覚と視覚を刺激する。
両手を合わせて、
「頂きます。」
んっ、 美味しいぃぃ♪
鹿とも猪ともオークとも違う味わい。
ううん、鶏や兎なんかとも全然違う。
この感じはやっぱ牛じゃないと出ないよねー。
赤身主体のお肉だけどそれがまたイイ。
柔らかいのにお肉に味がある。
噛めば噛むほどお肉の旨味が口の中に溢れて来る。
「美味しいー!」
「はぁ、幸せだぁ。」
「カミラさん、もう1枚!」
早っ! あのお姉さんもう1枚食べちゃった。
これ、まぁまぁ大きいよ?
多分だけど250gくらいはありそう。
私なら1枚で十分満足なんだけど、それをお代わり?
はい? 1ポンドステーキになっちゃうじゃん。
「あらあら、みんな良く食べるのねぇ。」
カミラさん、笑ってる場合じゃないよ。
みんな健啖家だから放っておいたら際限なく食べちゃうと思うよ。
パンはお肉に負けないようにどっしりとした味わいの茶色いパン。
素朴な味と噛むほどに麦の味がする。
スープは豆とお肉の切れ端を入れたお肉のスープ。
けぷ。
あらイヤだ。
調子に乗って食べすぎちゃったら流石にちょっと胃が重たい。
私はもうお腹いっぱい。
両手を合わせて、
「ごちそうさま。」
ん、美味しかった。
とっても満足。
けれどお姉さま方はまだ食べてる人多数。
すごいね、ホント。
そう思うと私ってこっちの世界では小食なのね。
さて、お風呂に入ってこようかな。
んふっ。
ふふふん♪
新しく作った石鹸とシャンプーと、し た ぎ。
新しい下着めっちゃ楽しみだー。
「それじゃ、お風呂頂いてきます。」
カミラさんにそう言って私は足取りも軽やかにお風呂場へ向かった。
いつも読んで下さっている皆さまへ。
私事により暫くの間更新が出来ません。
大変申し訳ありません。




