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第66話 死神の鎌

蟲の痕跡を発見した私たち。

マッピングで印をつけておく。

後で何かしら役に立つかもしれないからね。

それにしてもさっきのあの残骸。

肉食の蟲の魔物ってヤバいなんてもんじゃないわね。

魔物を捕食する蟲の魔物ってどんだけ大きいんだって話よ。

ぶるるるる。

願い下げよ、絶対に闘いたくないものだわ。


っ!


くーちゃんの動きが止まる。

ツイと鼻先を遠くへ向けて耳をピクピクさせている。

くーちゃんレーダーに反応あり?!


(居ますね、魔物同士が闘っているようですが……)


私の探知にはまだ反応がない、つまりそれだけ遠いと。

くーちゃんの後をついて行く。


暫く進むと、

あ、ホントだ、ワリと大き目の反応が2つある。

確かにこれは魔物の反応で間違いないね。


(魔物の反応が1つ消えた、いや重なった?……これってつまり)


(恐らくそう言う事で御座いましょう。)


(だよね、ここからは慎重に行くよ。)


(さくちゃんも『気配遮断』使ってね。くーちゃんは『忍び足』もね。)


((分かりました。))


私は全力で『気配遮断』と『忍び足』を使いながら反応のある地点へと向かった。

『忍び足』もレベルが上がるにつれ歩く音がしなくなる。

『気配遮断』も同様にレベルが上がれば上がるほど自分の気配を消す事が出来るようになる。

特に今回のようにヤバい相手には必須のスキルだと言える。

私たちは風下からゆっくりゆっくりと近づいてゆく。


っ!


(居た。 アイツだっ!)


カマキリだ。

そこに居たのはそれはそれは大きなカマキリの魔物だった。

『鑑定』さんによると「リーパーマンティス」って言うみたい。

名前の由来は「死神の鎌を持つカマキリ」で、カマキリ種の魔物の中では最強。

緑色をしていて細長く両手には鋭い大きな鎌を持つ蟲の魔物。

体長は2mを超えているかも。


グッチャグッチャ。


両腕の大きな鎌で獲物を捕らえ固定して……食べている。

そう言えばカマキリって生きた餌しか食べないんだったよね。

捕らえられているのは……狼。

あれは森林狼?

森の中では上位の魔物なんだけど、それが殺られちゃう?

生きたまま捕食される狼の身体がビクビクと痙攣したように震えている。

辺りには飛び散った血や狼の被毛が散乱している。

そしてパタリと動かなくなった。

そのあまりの惨状に胃の辺りがむかむかして気持ち悪くなってえずいてしまう。


「えうっ!」


思わず声が出る。

胃がせり上がり、胃の中の内容物を吐きそうになるがグッと堪える。


っ!!!!


私の声に反応したリーパーマンティスがくるんと顔をこちらに向ける。

カマキリ特有のあの顔を左右に傾げるような仕草でこちらを観察している。


しまった、見つかった!

私のバカバカバカ。


ドチャッ。

リーパーマンティスが狼の遺骸を打ち捨てる。

細長い身体を起こし両腕の鎌を前面に構え、ゆっくりとこちらに近づいて来る。


ヤバイ、こっちに来る。

けどまだ少し距離が開いてる。

この距離ならまだ大丈夫……


ヒュンッ!


目に見えない何かが動いたような気がした瞬間、


ガキン!!


硬質な衝突音と共に現れたのはくーちゃんだった。

私には何も見えなかった。

ううん、違う。油断してた。

まさかあそこから届くなんて思ってもみなかったから。

私の目の前ではカマキリの死の鎌を口に咥え攻撃を防いでくれたくーちゃんが居た。


(ここはわたくしが対処致しますゆえ、主様は下がって結界石をお願い致します。)


とんでもない速度で飛んで来たカマキリの鎌を、私には全く見えなかったその攻撃をくーちゃんは的確に捕らえ防いでくれた。

くーちゃんに言われるまま私は後ろに下がり結界石を起動させた。


あっ……


(くーちゃん口の横の所怪我してる。)


カマキリの鎌を咥えた時に擦れて怪我をしたんだろう、血が滲んでいる。

くーちゃんが怪我した!

私のせいでくーちゃんが怪我をしてしまった。


(ゴメンね、くーちゃん。痛かったよね。)


(問題御座いません。主様をお守りするはわたくしの務め。)


(葛の葉姉さま、名誉の負傷立派です。)


(ふふん、桜も分かって来たようですね。いいですか桜、主様をお守りするは我らが使命。命を賭してお守りするのですよ!)


(はい!葛の葉姉さま。)


くーちゃん、リーパーマンティスの鎌を咥えたまま何食わぬ顔で念話してるけど、そんな悠長な状況じゃないと思うんだけど。

さくちゃんの身体は赤い点々が浮き出て攻撃色へと変化し、溶解液を飛ばしながら威嚇している。


(くーちゃん怪我しちゃったけど、本当は怪我する所なんか見たくないんだからね。二人とも怪我しちゃイヤだよ。)


(主様に心配されるとは我らもまだまだ未熟。 もっと精進せねば!)


(いやいや、私たちは家族だよ! 家族の身を案じるのは当たり前じゃない。 ホントにホント、気を付けてね。)


(従者冥利に尽きると言うもの、恐悦至極に御座います。 桜、行きますよ!)


(はい、葛の葉姉さま。)


っ!


くーちゃんの雰囲気が変わった!

くーちゃんの身体に力が漲っている。

ボディービルダーがパンプアップするかのようにくーちゃんの身体がグワンと一回り大きくなる。

咥えていたリーパーマンティスの鎌をギリギリと力いっぱい噛み付けている。

リーパーマンティスも負けじとあらん限りの力で鎌を引き抜こうとしているがくーちゃんがそれを許さない。


ガッ、ギリギリギリ。


くーちゃんが更に力を込めて噛み込んでいく。


ピキッ


リーパーマンティスの死の鎌に亀裂が入る。


ピキピキピキ


バキンッ!!!


「ギギギ ギュエアアー!!」


くーちゃんがリーパーマンティスの鎌を嚙み砕いた!

苦痛でリーパーマンティスが叫び声を上げる。

怒り狂ったリーパーマンティスは残った鎌を振り回すがくーちゃんには当たらない。

速度に勝るくーちゃんがリーパーマンティスを翻弄する。

緑色の体液を撒き散らしながら鎌の取れた腕を振り上げるリーパーマンティス。

くーちゃんを追いかけようとするリーパーマンティスに溶解液を飛ばし牽制するさくちゃん。

追いつこうとするも追いつけず、回り込もうとするもやはり回り込めず。

距離を取られ速度で翻弄されるリーパーマンティスの姿がそこにあった。


スゴッ!


この子たちスゴすぎじゃない?

くーちゃんの爪が、牙がリーパーマンティスに無数の傷を付けてゆく。

くーちゃんが残るもう片方の鎌に噛み付いた!

残るもう1つの鎌も噛み砕かれては堪らないとばかりにリーパーマンティスが暴れようとする。

が、くーちゃんの咬合力が勝っていてそれをさせない。


ギリギリギリ


更に力を込め噛み付く。


(桜、今です! 頭を狙いなさい。)


ビュッ ビュッ!


さくちゃんがリーパーマンティスの頭部めがけて溶解液を飛ばす。


「グギャギョエェェオォォォ!!」


聞くに堪えない断末魔の叫びを上げるリーパーマンティスの頭はさくちゃんの溶解液を受けドロドロに溶けている。

そのままドサリと地に伏し息絶えた。


はぁぁぁぁ、終わった。

自分が闘った訳でもないのにぶるりと身体が震える。

くーちゃん・さくちゃんのおかげで助かった。

私だけだったら最初の一撃でやられてたかも。


はっ!

そうだ、くーちゃんの怪我!


(くーちゃん、すぐに治してあげるからね。 『治癒』(ヒール)!)


淡い光に包まれてくーちゃんの怪我がみるみる治っていく。

良かった、治った。

私はくーちゃんに抱きつき


(私のせいで怪我したんだよね、痛かったよね、ゴメンね。)


(主様は心配性で御座いますね。)


そう言いながらもくーちゃんの尻尾はふわんふわんと揺れている。

一頻りくーちゃんをギューした後、くーちゃんの背に乗っているさくちゃんを抱き上げて


(さくちゃんもありがとね。 でも無理や無茶はしちゃダメだよ?)

(私は二人が怪我するとこなんか見たくないんだからね。)


二人は特に何も言わなかったけど嬉しそうだ。

ううん、何も言わなくても二人の感情が伝わってくるって言えば分かるかな?

二人を見てるだけで分かるの。

だって私の家族なんだから。


(ねっ。くーちゃん、さくちゃん。)


((はいっ!))



しかし……蟲が入り込んでいるとは。

「エンペラースコーピオン」だけでなく「リーパーマンティス」も。

もしかしたら他にも入り込んでる蟲が居るかもしれない。

もう少し調べてみる必要がありそうね。

リーパーマンティスをストレージに仕舞いながら


(心配だから、もう少し調べたいんだけど、いいかな?)


(御意)

(もちろんです。)


(二人ともありがと。 くーちゃん、蟲の居そうなとこって分かる?)


(さて、どうでしょうか。)


(ここに居てもアレだから、取り合えず移動しようか。)


くーちゃんの『探知』も優秀だけど、それ以外もすごいからね。

キツネはイヌ科イヌ亜科の動物で、嗅覚・聴覚・視覚に優れていると言う。

人間には感知出来ない臭いや音を感じることが出来る。

そのくーちゃんが全力で森の様子を探っている。


(居ました。恐らく間違いないかと。)


(そっか、やっぱりまだ入り込んでいたんだ。くーちゃん案内お願い出来る?)


(こちらへ。)


くーちゃんが走り出すのを追いかけ私も走り出す。

そのままくーちゃんの後に付いて走っていると、


っ! 魔物の反応! それも3つ。

しかもワリと高速で動いてる?

不規則な動きで時折重なるように移動しているみたい。

私たちは速度を緩め、ゆっくりと風下から近づいてゆく。


(見えました!)


(えっ? ど どこ?)


くーちゃんが見つめる方向を見るが私には見つけられない。

一生懸命下を探しているのだけれど……。

どこ?


(主様、上で御座います。 どうやら蜂系の魔物ようで御座いますね。)


くーちゃんに言われて視線をスッと視線を上に上げるとそこには



っ!!!



ひっ! 蜂だ。

本当に蜂だ、しかも馬鹿ほどデカイ蜂の魔物。

『鑑定』さんによると名前は「マンダリニア」。

見た目はまんまスズメバチそのものだ。

ただ違うのはその異様なまでの大きさ。

何なの、あの大きさ。 優に1mを超えてる。

そんな蜂の魔物がブンブンと飛び回っている。

お お 恐ろしい。

前世の地球でも危険度激高の最強最悪の昆虫として恐れられていたオオスズメバチ。

それの超巨大化したのが目の前を飛び回っている。


ヤバイヤバイヤバイ。


あれはマジでヤバい。

あいつの毒針で刺されようもんなら一発でアウトだ。

今ならまだ気付かれてない。


(どうする? やっちゃう?)


(主様の武器と桜の溶解液でそれぞ1匹づつ仕留められれば、1匹くらいならわたくしが何とか。)


(よし、1人1殺!)


私はストレージからベレッタを取り出し構える。

さくちゃんが興味津々と言った体でこちらを見ている、ような気がする。


(ご主人様、それは一体?)


(これはね、私専用の武器で”銃”って言うの。私はくーちゃんやさくちゃんみたいに強くないからね。)


簡単に説明して作戦会議に入る。

作戦と呼べるかどうか分かんないけど、一応作戦としてはこうだ。

さくちゃんがこっそりとマンダリニアの側まで近づいて待機する。

合図は私の発砲音。

私が銃を撃ったら、さくちゃんが溶解液で1匹仕留めて、くーちゃんが飛び出して残りの1匹を仕留める。

私はさくちゃんとくーちゃんに左側へ廻るように手で合図を送る。


(準備はいい?)


(問題ございません。)

(いつでもOKです。)


(じゃ、私が発砲したら合図ね。)


私は銃を右手で持ち左手を下から添えるようにして握りこむ。

撃鉄をそっと起こし、人差し指をそっと引き金に添える。

息を吸いゆっくりと吐く。

狙いを定めて引き金を引く。


パーン!


小気味良い炸裂音がして弾がマンダリニアの頭部に命中する。

が、深手を負ってはいるがそれだでけは死に至らなかったみたい。

下に落ちてバタバタともがいている。

パンパンパンパン!

私はそのまま銃を連射して止めを刺した。

良かった、何とか勝てた。


さくちゃんとくーちゃんの方は……


頭がドロドロに溶けたマンダリニア1匹と、身体を真っ二つにされたマンダリニアが1匹地面に転がっていた。

まぁそうだよね、二人が梃子摺る訳ないか。


もしかしたらマンダリニアの援軍が来るかもしれないから暫く周りの様子を窺う。

これだけなのかな?

巣は近くに無いのかもしれない。

そうだといいんだけど。

一応くーちゃんに確認だね。


(くーちゃん、マンダリニアの巣とかこの近くにありそう?)


(いえ、無さそうで御座います。どうやらハグレの個体だったのでは?)


(そうなんだ、それならイイけど。)


(よし、一旦街へ戻ろう。この事をギルドに報告しないといけないからね。)


うーむ。

しかし、状況的には良くないよね。

蟲は間違いなく入り込んでいる。

しかも今日だけで既に3種類の蟲の魔物を倒しているし。

はー、これはやっかいな事になりそうね。

アイザックさんたちは調査に行ってるけど大丈夫なのかな?

リズさんたちやアルマさんたち無理してなきゃいいんだけど。


いつも見慣れているはずの森が禍々しい魔物が口を開けているように見えた。

これから何かが起こる。

そんな暗示なのかもしれないな、私はそう感じずにはいられなかった。








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