第60話 伝説のズラトロク
ギルドに向かって歩く私たち。
道行く人たちの視線が痛い。
先頭はギルマスさんでそのすぐ後ろに私たち3人、その後ろに配下のスライムちゃんたちで、最後尾がくーちゃん。
両側を衛兵さんたちが守ってくれている。
事実はそうなんだけど、パッと見は衛兵に取り囲まれて連行される罪人そのもの……。
なんなのこの罰ゲーム感。
ひそひそ話が聞こえる。
「あんな可愛い子が何をやったのやら、怖い世の中になったもんだ。」
「ホントホント、世も末だねぇ。」
「「「違うからっ!」」」
私たちの名誉の為にも全力で否定したわよ。
ちょっと、ギルマスさんも笑ってないで説明してよ!
「ところで譲ちゃん、さっきから気にはなってたんだがな……」
「なんですか?」
「あの大量のスライムって嬢ちゃんの従魔……じゃないよな?」
「違いますよ。」
あの子たちは捕獲したスライムちゃんたちですよ。
私の従魔のさくちゃんはクイーンなので、配下にして連れて来たの。
ちゃんと嘘偽りなく説明したよ。
「はぁっ? いま何て言った?」
いや、だから捕まえて連れて来たの。
全部で225匹居るから買取お願いしますね。
そう言うと
「マジか、まさかとは思ってたが……だがこれで大量受注の目途は付いたな。 取り合えず王都の分だけでも片付くだけマシか。 あとはまぁどうにかなるだろ。」
ここメイワースと南隣りのハイリントンはトイレスライムの優良産出地。
この2領地で捕獲されるスライムは他の領地のスライムと比べて温厚で消化能力が高いため高値で取引されているとか。
さっきのギルマスさんの口振りだと王都のギルドか、はたまた商人から大型受注でもあったみたいね。
「あれだ、王都の王城からの受注なんだ。 王城のスライムを総入れ替えするらしくてな、それでメイワースのご領主様に依頼が入って、ウチのギルドに回って来てたんだが。」
「いやー、嬢ちゃんのおかげで助かった。 一括納入が条件だったから集めるのに苦労してたんだがこれで何とかなった。」
そうなんだ、この大量のスライムどうしようかと思ってたんだけど役に立ったみたいで良かった。
(さくちゃんありがとね。)
(ご主人様に喜んで貰えて嬉しいです。)
そう言いながらさくちゃんがみよんみよんしてる。
今日はさくちゃん大活躍だったね。
(くーちゃんもさくちゃんの為に色々とありがとね。)
(勿体なきお言葉。)
(もー、くーちゃんは固いよー。 もっと普通でいいんだよ。)
(いえ、これが普通でございますが。)
だね、確かに。
いつものくーちゃんクオリティだ。
そんな事を言ってる間にギルドに着いた。
まさかこの大量のスライムちゃんたち連れてギルマスさんの執務室に入る訳にはいかないわよね。
「あのー、このスライムちゃんたちどうします?」
「流石にそれ連れて執務室には入れんな。だったら先に買取してしまうか、それでイイか?」
「はい、それで結構です。 他にも買取して欲しい物もあるんで丁度良かったです。」
「よし。じゃ、先に解体場所に行って買取からだな。」
ギルマスさんを先頭に解体場所へ移動する。
失礼します、また来ましたー。
一緒にスライムちゃんたちもぴょこぴょこ付いて来てる。
うん、賢いいい子たちだ。
「オーイ、買取依頼だ。 頼む。」
ギルマスさんが職員さんに声を掛けると慌ててこちらにやって来る。
やって来てギョッとして固まる。
まぁ、そうよね。 このスライムの数を見たら誰だってビックリするよね。
「わははは、驚いてるな。 これ全部買取だ。 これで王都の依頼は一発解決だ。」
「ギルマス、これ全部で何匹居るんですか?」
「ええっと、全部で225匹です。 こっちの大きい子は私の従魔なので違いますからね。」
私は説明しながらさくちゃんを撫で撫でする。
「225匹! 入れ物足りるかな?」
職員さんたちが急にバタバタしだす。
私のせいで慌ただしくさせちゃってゴメンなさい。
それでも何とかなったようで全部のスライムを無事に引き渡す事が出来てホッとする。
「あのー」
あと、ワイルドカウも買取して欲しいんですけど出していいですか?
数がちょっと多いんで大変かなーとは思うんですけど……。
そう前置きしながらストレージからワイルドカウを取り出していく。
ドン。
ドンドンドン。
ドンドンドンドンドンドン。
「おいおい、どんだけあるんだ。」
「まだまだありますよ。 残り全部出しちゃっていいですよね?」
ドンドンドンドンドンドン。
ドンドンドンドンドンドン。
ドンドンドンドンドンドン。
ドンドンドンドンドンドン。
ドンドンドンドンドンドン。
「はい、これで全部です。」
所狭しと並べられたワイルドカウを見てギルマスさんや職員さんがあんぐりと口を開けている。
ちょっとやりすぎた?
でも仕方ないよね?
折角くーちゃんたちが狩ってくれたんだもん。
きちんと有効活用しないと。
「……すげえな、オイ。」
「一度にこれだけ大量のワイルドカウの持ち込みは初めて見た。 全部で何頭居るんだ?」
「ワイルドカウは全部で40頭です。」
「「はぁーっ? 40頭?!」」
絶句する二人。
あっれー、私そんなに非常識だった?
私はごくごく普通の一般的な冒険者の範疇だと思ってたんだけどな。
「まぁ、オルカさんだしね。」
「そうそう、何たってオルカさんだもん。」
「今更ちょっとやそっとじゃ驚かないわ。」
「だよねー、これがオルカさんの平常運転だもんね。」
リズさんもメロディちゃんもそうゆう納得の仕方しないで。
まるで私が規格外みたいじゃない。
「これが嬢ちゃんの普通なのか……」
ギルマスさんもそれで納得しないでよ。
心外だわ。
「これまた見事は切り口だな、スパっと綺麗に切断されてる。 こっちのは脳天に溶けたような穴が開いてる?」
解体係の職員さんが検分して何やら呟いてる。
暫くそうやってワイルドカウを見ていたけどこちらに振り向いて
「どれもこれも状態がすごくイイ、肉も皮も余計な傷がないのが又イイ。これは本当にいいな。ただしちょっとばかり時間がかかるぞ、なんせ量が量だからな。」
「これから急ぎでやるが、それでも明日一杯までかかるだろうから明後日以降で金を取りに来てくれるか? 窓口にはそう伝えておくから。」
「嬢ちゃんの方はそれでいいか? 金は大丈夫か? すぐ入用なら一部だけ先払いも出来るが?」
「お心遣いありがとうございます、でも大丈夫です。お金の方は明後日また取りに来ますね。」
実際のところくーちゃんたちのおかげでお金には困ってないのよね。
だから今すぐじゃなくても大丈夫。
それよりも……
(ね、くーちゃん。 アレどうする?)
(アレと申しますと、アレ でございますか?)
(そう、アレ。 さくちゃんが狩ったアレね。)
(ただ物が物だけに出すのが躊躇われるって言うかね。)
(ご主人様、売ってお金に換えてしまえばいいのでは?)
(さくちゃんがそう言うなら、一応出すだけ出してみよう かな?)
「あのー、まだあるんですけど……あと1つ買取を……」
「ん? なんだ? これだけ買取に出しておいて今更だな。」
「そうだぞ、出してみろ。 俺がしっかりと査定してやるから。」
「遠慮するな。 なんだ、そんな珍しい魔物なのか?」
「あはは、これ……なんですけど……買取……出来ます?」
私はそう言っておずおずとズラトロクを取り出した。
……
…………
………………
「まさか……」
「いや、しかし。 アレは伝説上の……」
「オイ、誰か魔物図鑑を持って来てくれ!」
ギルマスが叫ぶと年若い職員さんが走って行った。
「なぁ嬢ちゃん、これどこで狩ったんだ?」
「どこって、南の草原ですけど。」
「南の草原に居たってのか、信じられん。 いつ狩ったんだ? 今日か?」
「ええ、今日私の従魔がサクッと狩って来たんですが。」
「サクッと……? うむむ。」
「ギルマス持って来ました。」
さっき走って行った若い職員さんが1冊の本を持って戻って来た。
「見せてみろ。」
ひったくるように受け取るとギルマスは荒っぽい手付きで魔物図鑑をめくり始める。
「……あった! 金の角を持った白い魔物。」
「マジですか!」
「ホントに居たんだな、ズラトロク。」
「私も長い事魔物の解体やってますが実物なんて初めて見ましたよ。」
「俺もだ。」
「オルカさんもついに伝説上の魔物にまで手を掛けたのね。」
「いつかヤルと思ってましたー。」
「人を犯罪者みたいに言わないでっ!」
「でもそんな伝説の魔物って簡単に狩れるもんなの?」
「さくちゃんによると、弱い魔物だったんだって。」
「「「「これが弱い……魔物?」」」」
4人は私たちの方を見て”お前ら絶対可笑しいだろ”みたいな顔してる。
「そんな事より買取は出来ます?」
「いや、これは物が物だけにまずはご領主様に報告してからだな。」
「ですね、もしかしたら王都の王族の方が欲しがる可能性もありますし。」
「だよな。でもそうなったらメイワースのご領主様の株も上がろうってもんだ。」
「なぁ、嬢ちゃん。これは一旦俺預かりにして貰えねぇか?」
どうやら買取そのものはして貰えるみたい。
でも誰も見た事がない伝説の魔物って事でどう扱っていいか分からず、一旦ギルマス預かりとしてご領主様に報告する事になった。
あとはご領主様の判断で政治的に利用する事も視野に入れているみたい。
ギルマスさんの話だと、このメイワースのご領主様は善政を布く良い領主と評判で決して悪いようにはしないとの事。
そう言う事なら是非もなし。
私も今はメイワース領にお世話になっている身。
なのでギルマスさんやご領主様にお任せする事にした。
取り合えず買取関連の話はこれで終了。
ズラトロクはギルド所有の時間停止機能付きの保管用魔道具に入れられる事になった。
ふう、買取も無事に済んでホッと一安心したわ。
「なんか買取依頼だけで疲れちまったな。 肝心の聴取だがどうする? なんか面倒臭くなってきたぞ。」
「ギルマスまたそんな事言って、一緒に来た私たちの立場はどうなるんですか。」
「そうですよー、形だけでもいいので聴取しましょうよ。」
「それさえ済めばアイツ等を極刑に出来るのよね?」
いや、リズさんそれはちょっと。ナイフ取り出しただけで極刑って極端過ぎない?
「流石にそれはないだろうが、労役は確実にくらうだろうな。」
「ですよねー、いっちばんキツい重労働なとこに決まればいいのに!」
メロディちゃんも大概キツいのね。
私的にはもうどうでもイイってのが本音かな。
そんな事よりもちゃちゃっと聴取してしまいませんか?
そう言ってギルマスさんを促す。
「しゃーない、やるか!」
私たちは連れ立ってギルマスさんの執務室へ向かった。