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第59話 下品冒険者再び

今日は『創造魔法』を駆使し作りたかったけどタイミングが合わなくて中々作れなかった物を作った。

私が物作りに勤しんでいる間くーちゃんとさくちゃんは鍛錬と称して狩りをしていた。

その狩った魔物を運ぶのにさくちゃんのスキル「クイーンの権能」で野良スライムを配下した。

沢山の野良スライムがさくちゃんの号令1つで動く様は見ていて本当にクイーンなのだなと感心してしまう。


「流石さくちゃん、私の愛しいスライムちゃん。」


それまで尻尾をふーりふりしてたくーちゃんの尻尾がピタリと止まった。


……あっ、マズった。

背中にイヤな汗が流れ落ちる。


「も も も 勿論くーちゃんも私の愛しい愛しい妖弧さんだからね。」


(ふふん、わたくしのは「愛しい」が2回付きました!)

(葛の葉姉さま流石でございます。)


さくちゃんナイスプレー。

キミは空気の読める子だったんだね。

助かったよ、ありがとう。


空気が読めるついでに、後を付いて来てる大勢のスライムちゃんたちをどうすればいいと思う?


(ちょーっと教えて欲しいな。)


(このまま街へ連れて行って売ってしまえばいいのでは?)


(えっ? そんなんでイイの?)


さくちゃんの配下のスライムちゃんたちでしょ?

言ってみればさくちゃんの部下、兵隊みたいなもんじゃない。

それを売り払うって……。


(問題ありません。 ご主人様にお仕えするスライムは私だけでいいのです。)


あ、そうゆう理由なんだ。

さくちゃんて意外と独占欲強かったんだね。

けれど、私としては何気に嬉しい♪

くーちゃんもさくちゃんも他に掛け替えのない大切な家族だよ。

青空の下、なだらかな草原をゆっくりと歩く。

後ろをぴょこぴょこと沢山のスライムちゃんたちが付いてくる。


ぴょこ ぴょこ

 ぴょこ ぴょこ

ぴょこ ぴょこ

 ぴょこ ぴょこ


思ったよりも進んでないね。

スタスタと歩いてゆくとスライムちゃんたちが遅れそうになって慌てて一生懸命飛び跳ねて来る。

可愛いんだけどキミたち大変だよね。

どうしたもんだろ。

街まではもう少し距離があるんだよねー。

どうする?


(さくちゃん通訳お願いね。)


(ここで解散する?)

……無反応。


(それとも付いて来る?)

一応聞いてみると皆ふるふるみよんみよんして肯定の意を示す。


そっか、それじゃあ仕方ない。 頑張って歩こうか。

横9匹の縦25列。 全部で225匹。

スライム軍の行軍だ。

ゆっくりゆっくり。

少し時間が掛かっちゃうけどそれはしょうがない。

歩き易い街道を歩いても良かったんだけど、他の人の迷惑とかも考えて街道は進まず草原を突っ切る形で街まで真っ直ぐにショートカットする。

これで大分時間は短縮出来るはず。

マップスキルを持つ私とクイーンのさくちゃんが先頭で、くーちゃんが護衛がてら最後尾を歩いている。


領都の城壁が見えて来た。

もう少しだ。

みんなガンバロー!

って、疲れてるのは私だけか。

うう、体力がないなぁ。

魔力で身体強化すればいいんだろうけど、素の体力がないのが一番の問題だよ。

体力の底上げ。

これも当面の課題の1つだね。




……やっと着いた。

自分のペースで歩けないって言うのがこんなにも疲れるんだってのがよーく分かったよ。

領都の南門の所まで来たのは良かったんだけど、


……見られてる。


…………遠巻きに周り中からすっごい見られてる。


ざわざわ ざわざわ。


「危ないから近づいちゃダメよ。」


子供に話してるお母さんと思しき女の人の声が聞こえた。

いや、危なくないよ。

配下に入ってるからちゃんと言う事聞くよ。


「おい、見てみろ。あれこないだのおっぱいテイマーじゃないか?」

「ん、どれだ。  あーあれか。 そうだ間違いねー。あいつだ。」

「あのおっぱいのせいで俺たちゃ酷い目に遭ったんだよな、だったらお返しは必要だよな。」

「そうだな、お返しがてらあのスライム全部ぶん取って来るか。」

「ついでにあの美人なおっぱいちゃんも美味しく頂くとかな!」

「そりゃイイな。 世の中の厳しさってモンを身体で教えてやんねーとな。」


ちょっと! 全部聞こえてるわよ!

貴方たちこの間の下品冒険者A・Bじゃない。

自分たちの行いの悪さを棚に上げて酷い目に遭ったって……。

酷い目に遭ったのはこっちの方よ。

まったく碌でもないヤツらなんだから。

ほんと男ってバカばっか。


あーあ、ノコノコとこっちにやって来たよ。

あのニヤニヤ笑い。

うー気持ち悪い。

いかにもザコな悪人って感じ。

相手すんのも面倒臭いなぁ。

可憐な少女が襲われそうになってるんだから誰か助けてくれないかな~?

周りの人たちの、あーあの子可哀相に、よりにもよってあんなガラの悪い冒険者に目を付けられて、みたいな視線を感じる。

周りを見渡すもみなスッと視線を逸らせてしまう。

面倒事は避けたいのは皆一緒か、そうだよね。

はー、気乗りしない。


(くーちゃん・さくちゃんは手出し無用だよ。)


(宜しいので? あのような虫ケラどもを態々主様が相手せずともわたくしたちが相手致しますものを。)


「いいのいいの。」


(くーちゃんやさくちゃんを人殺しにはしたくないんだよ。)

(それに皆が見てるからね、ここはか弱い乙女作戦だよ。)


(か弱き乙女はホブゴブリンを瞬殺したりは致しませぬが?)


こほん、いいの。 見た目が乙女なんだからそれでいいの。

可愛いは正義よ。

ほら 来た。


「そこのおっぱいのネーチャンよー。 こないだの侘びにそのスライムをちょいと俺たちに貸してくんねーかな。」

「ついでにネーチャンも貸してくれよ。 明日の朝までたっぷりとな。」


貸してくれ? 返す心算もないのに貸してくれって?

貴方たちみたいなむくつけき男と朝まで一緒?

気持ち悪いからイヤよ。

魂まで穢されるようで絶対イヤ。

馬鹿も休み休み言いなさい。

この人たち脳みそ腐ってんじゃないかしら。


「へっへっへっ、怖くて声も出せねぇってか。」

「ほえー、近くで見るとビックリするぐらいの上玉じゃねーか。」


周りの人たちがサササーっと引いて行くのが分かる。

まぁ、そうなるよね。

見るからに頭の悪そうな不良冒険者なんかと係わり合いになりたくないもんね。


「俺たちがねんごろに相手してやるからよ。」

「オラ! さっさとこっち来るんだよ。」


下品冒険者Aが腕を伸ばして私の腕を掴んだ。

私はとっさに掴まれた手首を支点に相手の方へ肘を回して掴まれている腕を外した。

あら、簡単に外すことが出来た。

前世で見た「簡単護身術」がこうも役に立つとは!

下品冒険者Aは体制を崩しふら付いている間に股間の金的狙いで蹴り上げた。


「グギャーッ!!!!!」


ぐにゃりとした気持ち悪い感触が伝わるが構わずもう一度蹴り上げる。


「っ!!!!!!」


後はもう股間を手で押さえたまま声もなく崩れ落ちた。

顔からドサリと地面に落ち、ビクンビクンしている。

あー、それ痛いよね。 分かるわー。

前世で鉄棒でそれチーンてやった時あまりの痛みで暫く息が出来なかったもの。

思わずクスリと笑っちゃった。


「てめぇ、笑ってんじゃねーぞ!」


下品冒険者Bが怒ってる?

あー、私が笑ったのは前世を思い出して笑ったんだけど、それを仲間がやられたのを見て笑ったと勘違いしたみたい。

怒りに我を忘れた下品冒険者Bは腰にさがっているナイフを抜いた!


「「キャー!!」」

「「「逃げろ!」」」


流石に得物を抜いた時点で慌てて門番さんが駆けつけて来た!

ナイフ抜いちゃうの?

それやっちゃうと私も手加減出来ないかもよ?


「オイ、ヤメろ!」

「うるせー! 仲間がやられて黙っていられるか。」

「女の子相手に何やってるんだ。 恥を知れ! すぐに武器を捨てろ!」


ちょっ、門番さん 何煽ってんのよ。

そんな事言ったら火に油じゃないの。

頭に血が上った状態の人には何言っても無駄だって。

あーもうホラ。 余計に怒っちゃったじゃない。


「うがががががーっ!!!」


訳の分からない、言葉かどうかも怪しい声を発しながらこちらに向かって突っ込んできた。

真っ直ぐに一直線に。

勢いに任せて突進するだけ。

私は右足を軸にクルリと回転させ下品冒険者Bの直線上から居なくなる。

下品冒険者Bが通り過ぎた直後に背後からドン!と背中を押して突き放してしまう。

これで距離を取って安全圏まで退避出来る。

勢い余ってたたらを踏んだあと激高しながら


「クソがーっ! 舐めやがって!!」


また突進してくる。

懲りない人ね。

学習能力が低いんじゃないの?

右手にナイフを握り前へ突き出すようにしながら走ってくる。

その突き出した右手の手首を私は自分の左手を添えるようにしてパシッと払い除ける。

払い除けた自分の左手の甲で下品冒険者Bの顔面を力一杯殴りつける。

所謂裏拳てやつね。

相手が一瞬怯んだ好きにナイフを持つ右手を確保して、身体強化を掛けて下品冒険者Bの右腕を背中側に捻り上げる。

捻じり上げられた腕がミシミシと軋んでいる。


「イダダダダダ! てめ、離せっ!」


そしてナイフを取り上げ、下品冒険者Bを地面にうつ伏せに押し倒す。


「地面に這い蹲りなさい。」


「ウオー! やったーっ!」

「すごい、あっと言う間に倒しちゃった。」


ウワーッ!!

周りの空気をビリビリと震わすような大歓声。

雷のような拍手の嵐。


パチパチパチパチパチ

パチパチパチパチパチ


「素敵! 見蕩れちゃった。」

「黒髪の戦姫!」

「あーん、彼女に守られたーい♪」

「はぁぁ、美しくて気高くて……ジュンてなっちゃう。」


なんだか色々と桃色な吐息と台詞が聞こえた気がしたけど気のせいよね。


やっと門番さんや衛兵がやって来て下品冒険者A・Bを捕縛してくれた。

ちょっと、遅いじゃない。

私が非難の目を向けたのを察したのか


「オラ、さっさと立て。 これから詰め所へ行ってみっちりと絞ってやるからな、覚悟しとけよ。」

「それからギルマスも呼んでおいたから追って沙汰があるからな。」


あーあ、安全になったとたん強気に出ちゃって。

うわ、蹴り入れてる。

あれは完全に八つ当たりよね。

ご愁傷さま。


ふう、終了っと。

私はその場にぺたんと女の子座りをする。

ぷるぷるぷるぷる。


身体が小刻みに震える。

緊張感から解放された反動が襲ってくる。


「「オルカさん、大丈夫?!」」


あ、リズさんとメロディちゃんだ。

もしかして見られてた?

なんかちょっと恥ずかしいな。


「おかえり~、二人とも今帰り?」


「何呑気な事言ってんの! 危ないじゃない。 怪我したらどうすんの? そんなに震えて、怖かったんでしょ。 可哀想に。 まったくアイツ等と来たら……」

「ほんとほんと、アイツ等死ねばいいのに。」


「震えてるのは武者震いみたいなものよ。 直に治まるから大丈夫よ。」


それにね、結界のアクセサリー着けてるから全然危なくないよ。


「ホントに心配したんだからね!」


そう言いながら涙目になったリズさんとメロディちゃんがギュッと抱き付いてくる。


「そうですよ、心配で心配で生きた心地がしなかったんですからね。」

「「もう危ない事はしないで、お願い。」」


はい、ごめんなさい。

二人に泣かれると弱いな。


(こうなっては主様も形なしでございますね。)

(うん、私女の子の涙には弱いのよ。)


ぐす


……っ


えっうえっ……


両側から抱き付いてすすり泣くリズさんたち。


「私は大丈夫だから、ね。」


二人の背中に手を回しトントンと優しく叩く。

二人はうんうんと頷き潤んだ目で私を見つめる。

あれ? これはちょっとヤバい雰囲気?

ムフフな展開しちゃう? こんな真昼間っから?

ダメよ。

まだダメ。



「あー、お取込み中スマンがちょっとイイか?」


「「「ひゃいっ!」」」


びびび びっくりした。

誰よ急に話しかけてきたのは。

声のした方を見るとそこには見覚えのある顔が。

目の上に傷があって大柄で筋肉質で強面な男性。


「ギルマス~、いきなり声掛けないで下さいよぉ。ビックリするじゃないですかぁ。」

「ギルマスは只でさえ強面なんだからもっと優しくですねー。」


「リズ、メロディ、うるさいぞ。 まずは状況を説明しろ。」


「オルカさんがアイツ等に言い掛かりを付けられて……」

「大体予想は付いてたが、だろうな。 で、それで?」

「オルカさんが無手だったのに、アイツがナイフを取り出して襲って来たからオルカさんが返り討ちにしたの。」

「証人はここに居る全員です。」


「黒髪のお嬢ちゃん、名前はオルカだったか?」

「はい。」

「オルカの嬢ちゃんは当然無実だ、問題なし。むしろ良くやった。アイツ等にはほとほと手を焼いてたからな。本当はギルドとしてもっときちんと対処しないといけなかったんだが。それに関してはこちらの怠慢だ、申し訳ない。」

「疲れてるとこスマンが一応調書を取らんといかんのでギルドの俺の執務室まで来て貰いたいんだがイイか?」


ギルマスさん強面の風貌と違って丁寧で大人な対応ね。

思ったよりも紳士じゃないの。


「今説明したでしょ、なんで悪くないオルカさんが態々行かないといけないのよ。 可笑しいじゃない。」

「リズ~、そう怒るな。 これも仕事なんだよ。 分かってくれ。」


「はい、いいですよ。リズさんたちが一緒でもイイなら行きますけど。」

「そうか、来てくれるか、助かる。 リズたちもスマンが頼む。」


私たちはギルドのギルマスの執務室まで任意同行?する羽目になった。

私は悪くないんだよ、それはギルマスさんも保証してくれてるけど、結果だけ見ると「過剰防衛」。

単なる「弱い物イジメ」とも言えなくもない状況な訳でして。


それでも見ていた人からは、良くやった!とかカッコイイ!とか、ドサクサ紛れに付き合って下さい!とか言われる。

まぁ一応賞賛って事でいいのかしらね。


あ、さくちゃん・くーちゃん一緒に行くよ。 悪いけど付いて来て。

そっちのスライムちゃんたちも一緒に来るんだよ。



私たち3人と配下のスライムちゃん225匹は、ギルマスさんや衛兵さんに守られるようにしてギルドに向かった。






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