表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/174

第58話 運び屋くーちゃん

なんか茶色い小山がゆっくりゆっくりと近づいてくる。

なんで勝手に動いてんの?

可笑しくない?

それもなんか長い列になってるよ。

くーちゃんが魔物の横について歩調を合わすようにトコトコと歩いている。

それにしてもゆっくりだねぇ。

さくちゃんは……居た。

ぴょんぴょんと飛び跳ねるように先頭を歩いてる。

じゃああの魔物は誰が動かしてんの?

はて?

謎だらけだ。


大分近づいて来た。

くーちゃんたちに狩られた魔物は……牛だ。

それも赤茶色の毛並みのそれはそれは大きな牛だ!

『鑑定』さんによると「ワイルドカウ」と出た。

雌が「ワイルドカウ」で、雄が「ワイルドブル」。

更にその上位種が「マッドブル」なんだって。

「ワイルドブル」は赤身が主で食べ応えのある旨みの濃い肉質で、「ワイルドカウ」は柔らかで適度なサシが入ったとろける様な肉質。

どちらも食用としては大変美味で、「ワイルドカウ」の方が高値で取引されている。

それが何十頭と倒され横倒しになり勝手に動いている。


これはあれか、ポルターガイストか!


な訳ないよね。

でもあれはどうやって動いてるんだろう。

ついに目の前までやって来た。

くーちゃんとさくちゃんすーーーーーーーっごいドヤ顔してらっさる。


(主様、大猟でございます。)

(ご主人様、私も沢山狩ったよー。)


う、うん。 二人ともすごいね。

私びっくりしたよ、あまりの数の多さに。


(ね、これ全部で何頭くらいいるの?)


(20数頭ほどのそこそこの大きさの群れでしたので、取り合えず狩っておきました。)

(ご主人様、これくらいの群れは他にも居たよー。)

(これからもう一度狩って参ろうかと。)


(えっとね、質問なんだけどいい?)


(何なりと。)


くーちゃんたちが狩ったのは分かったけど、これどうやって運んできたの?

倒された魔物が自分で勝手に動いてるように見えて気持ち悪いったらありゃしない。

秘密を教えてよ。

え? 下を見てみろって?

下って魔物の下?


んんー?


んっ?


今なんか動いた!


にょこぴょこ。

ぐにぐに、ぽよん。


魔物の下からスライムが出るわ出るわ……。

色とりどりのスライムがひょこひょこと出てきてはみよんみよんしてる。

なぜに楽しそうなのか。


(整列っ!)


さくちゃんが念話を飛ばすとスライムたちがビシッと……とはいかずぴょんぴょん飛び跳ねながら整列していく。


か 可愛い。


そしてズラッとならんだスライムたち。

縦横に綺麗に四角く整然と整列している。

みんなみよんみよん嬉しそう。

ねぇ、さくちゃん。


(これってアレ? クイーンの権能ってやつ?)


(そうです。私の能力を使いました。)


クイーンの権能って言うのは、野良スライムを自分の配下にして使役するスキル。

さくちゃんのユニークスキルの事ね。

そっかー、アレ使ったんだ。

すごー、便利なもんだねー。

配下にした野良スライムの数は15×15で225匹。


225匹!!!!


これギルドに買取に出したらすごい事になりそうね。

更にお金増えちゃう。

くーちゃんもさくちゃんもスゴ過ぎだよ。

私なんて自分で倒した魔物なんてホンの僅かで、ほとんどがくーちゃんとさくちゃんだもんね。

ほんと有難い話だよ。


(いつもいつも有難うね。私二人に助けられてばかりだよ。)


お礼に撫で撫でしてあげる。

くーちゃんは耳をペタンと後ろに下げて目を細くしながら尻尾をふわんふわんと振っている。

さくちゃんはふるふる~っと小刻みに震えてみよんみよん伸び縮みしてる。

良かった、二人とも喜んでくれてる。


((主様の幸せはわたくし達の幸せ♪))


嬉しい事言ってくれるね、主冥利に尽きるよ。


ね、さくちゃん。 配下のスライムちゃんたちにご褒美あげなくていいの?

頑張っていっぱい運んで来てくれたから少しくらいならあげてもいいんじゃない?

3頭くらいで足りる?

さくちゃんに聞いてみると


(ご主人様、いいのですか? そうして頂けると助かりますが。)


(モチロンいいに決まってるじゃない。)


子牛は子牛でいい値段がつくから、成体の雌の内小さい方から3頭選んでスライムちゃんたちにあげた。

残りのワイルドカウはストレージにお片づけ。


さ、スライムちゃんたちお食べ。


(ご主人様からの賜り物です、みな心して味わうように! 食べてヨシ!)


いや、さくちゃんそんな大層なもんじゃないから。


さくちゃんが号令を掛けるとわーっとスライムが集まって来て、うにょうにょと牛さんに取り付いていく。

そしてだんだんと溶けだして、ドロドロに……。

うん、軽くスプラッターだ。

すごい絵面、これは絶対に放送禁止ね。

そんじょそこらのスプラッター映画なんか目じゃないわ、だってリアルに溶けてるんだもん。

うん、スライムって何気にすごい脅威だよね。


225匹のスライムにかかると3頭のワイルドカウもあっとゆう間に消化されて無くなった。

骨の一片、血の一適すらも残ってない。

証拠を消すならスライムを!

すごっ、異世界ヤバいわ。

そしてくーちゃんとさくちゃんは配下にしたスライムちゃんたちを連れてまたどこかへ狩りに行った。

もしかしてまた牛さんを狩ってくる?

それとも何か別のを狩る?

どっちにしろこの後もすごい事になるのは間違いなさそうね。



私は冷えた紅茶をグイッと飲み干し次の作業に取り掛かる。

っと、その前にもう1杯紅茶を作っとこう。

次はあれだ、コットンボールを使って糸を作ろう。

今日はそこまで出来たら御の字かな。

コットンボールは素材のまま大量、ううん違うか、どれくらいの重量があるか分からないくらい持ってるし。

ウーズの街と領都の職人街の問屋にあったコットンボールを買えるだけ買ったもんだから量が半端ない。

コットンボールは全部を糸にするんではなくて少しだけ残しておく。

綿を入れたお布団や枕、座布団とかソファ、ちゃんちゃんこなんかもイイね。

そうゆうのに使いたいから残しておくの。


じゃ、早速糸を作りますか。

糸は8番手から120番手まで単糸と双糸で作る。

これだけあれば大抵の物は作れるでしょう。

ちなみに糸は数字が小さい程太くなって数字が大きい程細くなるらしい。

双糸とは単糸を2本撚り合わせた物なんだって。

40番手単糸よりも80番手双糸の方が肌触りが良く風合いが良くなると聞いた。

糸は細い方が光沢感が増し美しくしなやかな生地になるの。

そして、細い糸を使用した生地の方が高級で値段も高くなって一般的に ”品質が高い良い生地” となる。

なーんて偉そうな事言ってる私だけど、これは全部前世のルカの受け売りだけどね。

元男の私にはちんぷんかんぷん、分かったような顔をして聞いてただけ。

『創造魔法』を使ってコットンボールを糸に加工する。

8番手から120番手までの単糸と双糸の糸を作り出す。


おおおぉぉぉ。


魔力がかなり持っていかれる。

いくら材料があっても本人が良く分かってない場合はやはりそれなりに魔力を必要とするのね。

ストレージの中で糸がどんどん出来上がっていくのが分かる。

あ、ようやく終わったみたい。

思ったより時間が掛かったねー。

残り魔力も結構少なくなっちゃった。

こんなに魔力残量が少なくなるまで魔力を使ったのって久しぶりだ。


くーちゃんたちが戻って来るまで残り魔力で何作ろうか。

そう言えば冒険者向けのパンツの予備って買って無かったな。

こっちの世界のパンツでも悪くはないんだけど、私としてはアウトドア用にはジーンズが似合うと思うの。

厚手のしっかりとした生地で、色はインディゴーブルーとブルー、ブラックかな。

ジッパーは使わず、金属製のスナップボタンを使ったボタンフライ仕様、織り方はデニムとしては一般的な右綾の3/1綾織で。

デザインはスキニーとストレートの2種類もあれば十分だよね。

ちなみにジーンズに使っている金属のスナップボタンも設計図を書いておいた。

これは色々な物に使えるので特許は取っておくつもり。

きっと特許料を稼いでくれるだろう。

ちょっとだけ期待しちゃう。


さぁいっちょ作ってみようか。

材料は揃った。色も指定した。

あとは『創造魔法』さんにお願いするだけ。

頭の中で前世のジーンズをイメージしながらストレージ内で魔法を展開する。

女性特有の柔らかいラインが美しいスキニージーンズと細身のストレート。

ここのイメージが明確なほど必要魔力が減り出来上がりも良い物が出来るような気がする。

ナイロン等のストレッチ素材は使わずコットン100%で。

なので太ももの辺りには少しだけ余裕を持たせておく。

こうしておくだけで動きやすさが断然良くなるらしい。

いや、私は前世では基本的にスラックスばかりだったので良く知らないんだけどね。

どうもそうらしいの。

じゃ、『創造魔法』さんお願いします。

目を閉じて頭の中で想像する。

あー、魔力が減っていく感覚があるなぁ。


……まだかな。


…………そろそろ終わる?



出来た?

うん、ちゃんと指定した通りに出来てるみたい。


あ、ちょっと頭痛い。

久しぶりだこの感覚。

これは魔力枯渇状態ね。

ぐんにょりへにょん。


アカン。


ちょっと休憩。

物作りは今日はこれで終了。

テーブルに突っ伏して魔力回復中。

ちょっとダメな女の子してるけど許して。

私は女神様の祝福でHP/MP自動回復(小)があるから30分も休んでいれば大丈夫。

だから問題なし。

お茶でも飲んで待ってればいい。



…………




ちょっと楽になってきた。

峠は越えたかな。

ふぅ。

いやー久しぶりの魔力枯渇は堪えるねー。



『探知』さんがくーちゃんたちの反応を捉える。

またもやゆっくりゆっくりと近づいて来てる。

これはさっきと同じパターンだ。

この感じだとやっぱり沢山狩って来たんだろうな。


お、見えてきた見えてきた。

赤茶色の小山が貨物列車のように連なってこちらに向かって進んで来てる。

さくちゃんを先頭にくーちゃんが護衛している。

きっとスライムちゃんたちが運んでくれているんだろう。


あはは、やっぱりね。


予想通りと言うか必然と言うか何と言うか。

もう何も言う事はないね。

さっきと同じくらいの量の牛さんが狩られているよ。


(私も頑張りましたー。)

(わたくしにはまだまだ及びませんが桜も強くなりましたよ。)


ま まぁ、くーちゃんはもう別格だから。

それでもさくちゃんも大概相当強いと思うよ。

今回も「ワイルドカウ」の群れを狩って来たんだね。


(こんなに乱獲して大丈夫かしら?)


(問題ございません。 魔物は放っておいても勝手に増えますゆえ。)

(あとね、あとね、私少し変わった魔物も狩って来たんですよー。)


さくちゃんが狩った変わった魔物?

どこどこ?


(これ?) 


金色の角の生えた白い魔物?

何これ!

こんなの見た事ない。

もしかしてすっごい珍しい魔物なんじゃないの?


(名前は何て言うんだろう。)


(ズラトロクだと思われます。)


ズラトロク?

知らない。

初めて聞く名前だよ。

こうゆう時は「鑑定」さんの出番だ。

「鑑定」さんお願いします。


「ズラトロク」金の角を持った伝説上の白い雄シャモア


は? 伝説上の魔物?


えぇぇぇぇぇぇ!!!!


(で で で 伝説上の魔物ってどゆこと?)

(そんなの狩っちゃっていいの?)


(問題ございません。弱いから狩られるのです。)


(いや、そうだけど……)


(ご主人様、気にしたら負けなのです。)


普通気にするって。

気にするなって言う方が無理があるよ。

と と と 取り合えず狩った獲物は全部片付けるね。

くーちゃん・さくちゃんがこの2日間で狩った魔物の魔石は回収してある。

魔石はこれからも色々と使い道があるから有用なのよね。

あ、スライムちゃんたちにお礼しなきゃ。

お礼はさっきと一緒で牛さん3頭でいいよね?

一応さくちゃんに聞いてみる、


(ご主人様、過分な報酬かと。)


そう? でも2回も運んで貰っちゃったし。

じゃ、牛さん3頭ここに置いとくね。

スライムちゃんたち、食べていいよー。


またしてもスプラッター劇場。

まさか1日に2度も血の惨劇を見る事になろうとは。

スライムに取り付かれドロドロに溶けて消化されてゆく牛さんたち。

うひーっ!

やっぱ慣れないなー。

でも当のスライムちゃんたちはすっごく喜んでるけど。

ん、まぁ喜んでくれたんならヨシとするか。


(今日くーちゃんたちが狩ってくれた獲物は自分たちが食べる分の何頭か残して全部買い取って貰うけどイイ?)


((どうぞ、ご随意に。))


ありがと。

今ストレージに入ってる「ワイルドカウ」は全部で45頭。

すっごい数。

私だけじゃ絶対に無理な数だよね。

ほんとくーちゃん・さくちゃんには感謝だね。

「ワイルドカウ」は5頭だけ残してあとは売却だ。

「ズラトロク」はどうしよう……

これ買取に出したらとんでもない事態になるよね、きっと。

一応聞くだけ聞いてみて、大丈夫そうなら買い取って貰おうか。

それがいいね。 そうしよう。


時間的にはまだちょっと早いけど街に帰ろうか。

夕方遅くなればなるほどギルドは混むからねー。

こうゆう大量の買取依頼を出す時は早めに行った方がいいし。


じゃ、二人とも帰ろうね。




ぴょこ ぴょこ


ぴょんぴょん



ちょっ、さくちゃん 大変。 

配下にしたスライムちゃんたちが付いて来てるっ!

私たちに遅れまいと一生懸命になってる。



これって拙いパターンなのでは?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ