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第56話 オルカさん痴話喧嘩する

宿の朝は慌しい。

朝も早くからギルドへ赴き仕事を探す冒険者たち。

ワリの良い仕事を得ようと思ったら人より早く起き、人よりも早く仕事に行く。

これ鉄則。

だから冒険者の宿の朝食は3の鐘(地球時間の朝6時)から。

パッと食べてパッと出てゆく。

私はまだ討伐依頼とか受けられないからワリの良い仕事とかもあまり関係ない。

なんせ薬草採取が主な仕事だからね。

なので朝はゆっくり食べてゆっくり出勤。

けどまぁゆっくりとは言っても、リズさんたちが待ってるから遅くとも3と半の鐘の頃にはギルドに行くけどね。


カミラさんが受付に居る。

この人もほんとに良く働くなぁ。

ウーズの宿屋のパトリシアさんも良く働く人だった。

こっちの人ってワーカホリックなのかな?

そんな事をチラッと思いつつ


「じゃ、行って来ます。 戻りは昨日と一緒くらいになるかと思います。」


そう言うと


「はい、行ってらっしゃい。 無理はしない事。怪我しないように細心の注意を払う事。元気な姿で帰って来る事。約束ね。」


カミラさんが心配してくれる。

分かりました、肝に銘じます。

パトリシアさんもそうだったし、カミラさんもそう。

誰かに心配して貰えるって嬉しいような恥ずかしいような、なんかちょっとこそばゆいね。

さ、くーちゃん・さくちゃんお仕事に行こうか。


宿屋を出てギルドに向かう。

今日もいい1日になりますように。

ギルドの前まで来るとリズさんたちが待っていてくれた。


「リズさん・メロディちゃん、おはよう。」


「おはよう。」

「おはようございます。」


二人とも飛びっきりの笑顔でもって手を振ってくれている。

釣られて私も笑顔になる。

こうゆう普通の、何気ない会話とか日常っていいよね。

幸せを感じるよ。

二人の後についてギルドの中に入る。


うーん、やっぱりまだ見られるねー。

ジロジロ ジロジロ。

男たちの視線はどうにも慣れないのよねぇ。

ぞわわわ~って鳥肌が立っちゃう。


「あのおっぱいテイマーいつもリズたちと居るよな。」

「て事ぁ、あっちの住人なんだろうよ、残念だったな。」

「やれやれ、あれだけの美人なのに勿体無い。」

「まぁ、どの道お前じゃあ相手にして貰えねぇよ。」

「違いねぇ。」


なに勝手な事話してんの。

私たちの事なんてどうでもイイでしょ。

私がリズさんたちと居て何が悪いの?

貴方たちに何か迷惑掛けてる?

放っておいて欲しいわよ。

大体何で私たちが殿方の相手なんかしなくちゃいけないのよ。

絶対にイヤよ、遠慮するわ。


「まーた、残念な男どもが何か宣ってる。 ホント男ってバカ!」

「だよねー、私たちもオルカさんも男なんか相手にする訳ないのにー。」

「そんなんだから女の子にモテないのよ。」


「ちょっ、二人とも声が大きいって。 聞こえちゃうってば。」

「あ、ほら。 こっち睨んでるじゃない。」


「大丈夫よ。」


ええぇぇ、大丈夫って……


「こぉら、リズもメロディもそんな事ばっか言ってんじゃないの。」


あ、カーリーさんにベルさん、


「おはようございます。」


「「オルちゃん、おはよう!」」


いきなり両側から抱きつかれた。

朝から柔らかいむにゅむにゅしたマシュマロが♪

ここは天国ですか。

思わずニヘッとしそうになっちゃった。


「あー! カーリーさんもベルさんもずるいーっ!」

「そうだー、オルカさんは私たちが先に唾付けたんですよー!」


「先に唾付けたって……まぁ確かに知り合ったのはリズさんたちの方が先だけど…… 」


「ほらー、オルカさんもそう言ってるんだから二人ともオルカさんから離れてよっ!」


「リズ、メロディ、先輩に会ったらまずは挨拶する!」


「カーリーさん、ベルさん、おはようございます! って違ーう! そうじゃない!」


うっわ~、カーリーさん滅茶苦茶先輩風吹かしてる。

しかもぐいぐい胸を押し付けてくるからぽわんぽわんと柔らかくてね。

ぐにぐに むにゅむにゅ。

あ、痺れを切らしたリズさんがついに実力行使に出た。

私の左腕に抱きついてたベルさんを引き剥がしてリズさんとメロディちゃんが抱きついて来たよ。

引き剥がされたベルさんは右腕に廻ってカーリーさんと一緒に抱きついてる。

両腕には可憐で色っぽい4つのお花たち。 両腕に花。

ここは桃源郷ですか♪

むにむに むにむに。

ぽよん ふよん ぽわん。

柔らかい圧迫感が気持ちいい。

あーヤバイわ、これってマジ最高。

嬉しくって頬が緩むわ。


「先輩方、オルカさんから離れてください!」


「何言ってんの! ここは先輩に譲るべき!」


「私たちの方が先に知り合ったんですー。」


「私たちはオルちゃんと一緒にお風呂に入って泡でぬるぬる洗いっ子した。」


「なっ、オルカさんそれホント? 私たちと言う者が在りながら……」


「いや、洗いっ子って言っても拒否権なかったし。」


「わ 私たちはオルカさんと一緒に寝たよ。 同衾よ同衾。 どうだ! ふふん♪」


「くっ、同衾は羨ましいかも。」


リズさんたち勝ち誇ったような顔してるけどあれは同衾て言わないんじゃないのかい?


「一緒のテントで寝たのは事実だけど同衾じゃ……」


「ほ ほらーオルちゃんもそう言ってるじゃない。 私たちはオルちゃんの手作り果実水飲んだもんねーだ。」


ああ、次はカーリーさんたちがドヤ顔してらっしゃる。


「私たちなんかオルカさんの手料理食べたもんね。 もう胃袋までガッツリ掴まれてるもん♪ ストマッククローよ。」


いや、物理的には掴んでないと思うな、私エリックさんじゃないし。


「「オルちゃんの手料理! ぐぬぬ。 それは食べたい!!」」


あのー、両脇で ぐいぐい ぷにぷに 言い争うのヤメにしない?

周りの人がニヤニヤしながら見てるよ。


「おうおう、女同士で痴話喧嘩かぁ。」

「おっぱいちゃん争奪戦てかぁ。」


「「「「うるさい! 黙ってろ!」」」」


そこはキッチリ揃うんだ。 ハモッてたね。

あのー、そろそろヤメにしませんか?

衆人環視でこの状況は流石に恥ずかしいですよ?

ポッと顔を赤らめる。

それを見た4人が


「「オルちゃん!」」

「「オルカさん!」」


さらにぎゅうぎゅうに抱きついて来た。

あ、私の理性が蕩ける……



パンパンパン!

誰かの手を叩く音で我に返る。


「はい、そこまで! 4人ともオルカさんから離れるんだよ。」


アルマさんありがとう、助かったぁ。

アルマさんが助け舟を出してくれた。

あとちょっと遅かったら私も溢れるとこだったよ。

何が溢れるって? 恥ずかしいから想像にお任せするわ。


「まったくアンタたちは……オルカさんが困ってるでしょ。 ホントいい加減にしなさいよ。 オルカさんに嫌われても知らないわよ。」


「「「「それだけはイヤ!」」」」


「だったら迷惑かけないようにしなさいよ。」


迷惑ではないから大丈夫ですよ。それにイヤでもないし。

ちょうど皆揃ってるから


「はい、これ。 受け取ってね。」


私はポシェットから取り出す振りをしながらストレージから結界型アクセサリーを取り出す。


「これ 何? アクセサリー?」


「うん、そう。 アクセサリーの形をした結界の魔道具よ。 死にそうな程の攻撃をされた時に1回こっきり使い切りで結界が発動するの。」


そう言ってみんなにブレスレットタイプとペンダントトップタイプの2種類を手渡す。

一人ひとり相手の目を見てにっこり笑いながら


「ありがとう、これはお礼よ。」


両手で相手の手を包むようにして手渡す。


「それにね、私たち6人でお揃いなの♪」


右手の手首を胸の前辺りに、左手で首元からネックレス仕様にしたペンダントトップを取り出し掲げて見せる。


「「「「「お揃い! 嬉しすぎる。」」」」」


良かった、みんな喜んでくれてるみたい。

これなら贈った甲斐もあるってもんよ。


ぐす。

ずずっ。


リズさんたちもアルマさんたちも感極まったように涙ぐんで笑っている。

泣き笑いの女の子ってとっても綺麗。


「私たちはずっと友達よ。 私と友達は イヤ?」


「「「「「イヤなんてとんでもない! こちらこそお願いします。」」」」」


良かった。

これで今日の目的の1つはクリアね。


「んんー 俺のアルマを泣かす悪い女は誰だぁ?」


大柄な冒険者が笑いながら近寄ってアルマさんの横に並ぶ。

アルマさんの瞳から流れ落ちる涙をそっと指でなぞって拭いている。

うわっ、キザ男だ。

左手に大盾を、背中に大剣を背負った冒険者。

この人がアルマさんの彼氏さんね。


「オルカさん以外は知ってるんだけど、紹介するわね。 私の恋人のザック。」


「俺はアイザック。 皆からはザックって呼ばれてるから君も気軽にザックって呼んでくれていいから。」


いや、人様の彼氏さんに対してそんな気軽には呼びませんよ。

せめて「さん」付けくらいはしますから。


「ザックは今日の予定は?」


「俺か? 俺はギルドからの依頼で例の調査に参加する事になった。」


例の調査って何だろうって思ってたら、横からリズさんが説明してくれた。

何でもここ最近蟻の魔物の目撃例がちょこちょことあって、被害が出る前に退治出来ればそれに越した事はないから調査に入って見つけ次第討伐するんだとか。

そう言えば昆虫の魔物ってまだ見た事ないな。

リズさんによれば、蟻の魔物は兎に角厄介なんだって。

蟻の魔物は何種類か居るらしいんだけど、代表的なものがバレットアントと軍隊蟻。

バレットアントは単独で居ることが多く近づくと金切り声を上げて威嚇して来て体長80cmを超える個体もいるとか……。

蟻の魔物の中では単体で一番強くて、毒性は強く噛まれると24時間痛みと麻痺が続く。

軍隊蟻はその名前の通り、軍隊のように隊列をなして移動する。

大きさは50cm超える物もいるって。

この蟻の何が厄介かと言うと襲って来る時のその数がすごいから。

一匹一匹はそれ程強くはないんだけど、それがとんでもない数で襲ってくる。

100や200なんてもんじゃなくて、何万~何十万の数で襲ってくると言うのだ。

圧倒的な数の暴力と言うやつね。

そんなのが街を襲ったらどうなるか?

そりゃあもう火を見るより明らか、大惨事よね。

だからそれを防ぐ為にも調査は必要って訳。


「アルマは今日はどうするんだ? 調査に行かないのか?」


「うん、行かない。 稼がないといけないから森で狩りかな。」


「そうだな、家借りるにも先立つものが要るしな。でもあんまり無理するなよ。」


「うん、分かってる。 頑張ってお金貯めて早く家借りようね。」


あー甘々のラブラブだね。

見てるこっちの方が恥ずかしくなっちゃう。


「あーあー、そこの不純異性交遊のキミたち。 直ちに離れなさい。」


ぷっ。

カーリーさん上手い。 座布団1枚!


「うげぇ~、砂糖を煮詰めて蜂蜜で固めたくらいに甘々なんですけどぉ。」


ベルさんて何気に辛辣。


「「まーた始まった。 はい、ご馳走さまでした。」」


リズさんもメロディちゃんも半ば呆れてる。

つまりこれが日常って事ね。

アルマさんとアイザックさん見つめ合っちゃって。

人の話ぜんぜん聞いてないのね。

もう完全に自分たちの世界を作り出してるよ。


あれ?

アルマさんの手がお腹のおへその下辺りにそっと添えられているのが目に付いた。

なんだろ?

慈しむような優しいお母さんの手みたいな。

あ、もしかして、そうゆう事?

そうなのね。


私の視線に気づいたアルマさんが不意に真剣な表情になる。

手に持ってる結界のアクセサリーとアイザックさんを交互に見つめて意を決したように顔をあげた。

私をジッと見つめて話そうか話すまいが悩んでいるように口をはくはくさせている。

口を開き言いかけたから私はアルマさんだけに分かるようにそっと手で制した。

人差し指をピンと立て唇にあてて「シーッ」の合図、私はゆっくりと首を横に振り声を出さないようにして口パクで


「いいよ。」


にっこり笑ってコクリと頷きアルマさんとアイザックさんの二人を見る。

アルマさんの事だから結界のアクセサリーの内1つをアイザックさんに渡してもいいか私に聞こうとしていたと思う。

けれど今ここでアルマさんが何か言うときっと周りの人たちから非難を受けるだろう。

でもそんなのは私は望んでない。

私は、私に関わるみんなが幸せになってくれるのが望みなの。

だから私は出来る限り優しく心を込めて笑う。

気にしないで。

アルマさんが幸せなら私は嬉しいんだから。


「ザーック。 そろそろ出発するぞーっ!」


アイザックさんに同じパーティの仲間の人?から声が掛かってる。


「分かった、いま行く。じゃあな、行って来る。 泊まりがけだから3~4日は掛かると思う。」


「分かった。怪我しないように気をつけて、無理はしないで。 無事に帰って来てね。」


アルマさんがアイザックさんの手をぎゅっと握ってお願いしている。


「アルマちゃん恋する乙女だねぇ。」


私がそう言うと


「んもう、茶化さないでよっ。」


「アルマ、行って来るよ。」


そう言いながらおでこにチュッとキスをするアイザックさん。

ひゅーひゅー、熱い熱い。

常夏通り越して灼熱地獄だわぁ。

うん、アナタたちはバカップル認定よ!


ちょっと照れ笑いしながら踵を返して仲間の所に歩いていくアイザックさんを切なげに見送るアルマさん。

アルマさん何してるの?

渡さないの? もう行っちゃうよ?

ほらっ。

私は無言でそっとアルマさんの背中を押してあげる。

アルマさんは私を見て小さく「うん」と頷いてアイザックさんの所へ小走りで駆け寄って自分の身体で隠すようにして結界のペンダントを渡している。

良かった、ちゃんと渡せたね。

彼氏に無事に渡せてホッとしたような、それでいてちょっと不安気な様子のアルマさん。

事情を分かってしまった私は気づいたけど、他の人は気づいてないみたいね。 良かった。

別に言わなくてもいい事なんて幾らでもあるんだからさ。


「オルカさん、このお礼はいつか必ずするから!」


「あー、いいよー、お礼なんて。」

「みんなが喜んでくれる事が私にとっての一番のお礼だから。」


ねっ。


首をコテンと傾げて微笑む。


「っ!!!!! オルカさんありがとう。」


アルマさん目ん目がうるうるしてる。


「アルマがデレた! 私たちにも見せた事ない顔してるー。」

「オルちゃん、やっぱりたらしだ。」

「うん、女たらしだ。」


ええー、カーリーさん・ベルさんそれちょっと酷くない?


「いいえ、女殺しよ。」

「私たちをこんなに夢中にさせるんだもん。 あーん、オルカさんに殺されたーい♡」


リズさんもメロディちゃんもここぞとばかりに悪ノリしすぎ。



ほんとヤメて、また変な称号ゲットしたらどうすんのよ。









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