第44話 領都の宿屋にて
さ、用事も済んだし時間も夕方近いから宿屋の確保しなきゃ。
まずはパトリシアさんに紹介して貰った宿屋に行って部屋が空いてるか聞かないとね。
窓口に居るメイジーさんに場所を聞いたら
「そこならすぐ近くですよ。」
と言って丁寧に場所を教えてくれた。
元女性冒険者がやっている宿屋で、安心・安全の女性限定の宿で、ごはんも美味しくてお風呂も有り、もちろん従魔対応。
女性冒険者に人気のお宿なんですよーとの事。
ただし、その分ちょっとお高めなのは致し方なし。
一方でリズさんたちは借家住まいらしく、二人で1つの一軒家を借りて住んでいるんだとか。
冒険者の宿に泊まるのもいいけど毎日宿屋だと結局高くつく。
そんなくらいなら一軒家を借りて二人で折半した方がうんと安上がりだから。
うん、納得。
ごはん作ったり掃除したりと家事労働は増えるけど、それよりも金銭的負担が激減する方が大きい。
安くついた分はしっかり貯金と装備品の修理や更新に充てたりするんだとか。
ちゃんと考えてるんだね、エライエライ。
メロディちゃん撫で撫で。
目を細めてにへら~っと笑ってる。
「オルカさん、カミラさんの宿に泊まるんですねー。女性冒険者に人気の宿ですもんねー。」
「宿住まいって結局お金掛かるよ、どうせなら私たちと一緒に住まない? 私たちなら大歓迎よ。」
「部屋はまだ余ってるし、結構綺麗だし。 それにお風呂用に防水処理した部屋もあるから湯坪さえあればお風呂にだって入れるわよ。」
魅力的な提案だけど一緒に住むって事は『創造魔法』使ったりとかしにくいのよね。
私的にアッチの方も試してみたいけど声が出ちゃうかも知れないからちょっと躊躇われるし。
アッチの検証は自宅を作ってからのお楽しみって事にして。
それに色々と作りたい物とかもあるからまだ暫くは一人で宿屋暮らしがいいかな。
だから、その内お世話になるかもって匂わせておいて今回は丁重にお断りした。
「二人は明日はどうするの?」
「私たちは明日は休養日よ。しばらく家を空けてたから掃除もしないといけないし、食料の買い出しとかもあるしね。仕事は明後日から。朝ギルドに行って依頼のチェックしてイイ仕事があったらそれ受けて、無かったらどうしようかな、森に狩りにでも行くかな。 オルカさんはどうするの?」
「私は明日は買い物がてら街の探索と買い取り依頼のお金受け取りにギルドに顔出す予定。 依頼は明後日の朝ギルドに行ってから考えるわ。」
「じゃ、明日はお互いフリーですね。 明後日の朝ギルドで会いましょう。 私たちの借りてる家はギルドから少し離れてるから今度教えてあげますね。」
二人は借りている家の方へ、私はパトリシアさんに紹介して貰った宿屋へと向かった。
ここがそのお宿ね。
見たところ小綺麗な宿って印象。
冒険者の宿らしくないと言うか、看板の文字などは可愛らしく女性向けという感じ。
ドアを開けてくーちゃん・さくちゃんを連れて中に入ると
「いらっしゃいませ。 あら貴女テイマーなのね。」
落ち着いた優しい声が聞こえて来た。
歳の感じからしてこの女性がカミラさんなのかな?
ゆるふわな感じといい元冒険者にはあまり見えないわね。
パトリシアさんは自由闊達、いつも元気でこれぞ冒険者って言うのを体現したような女性だった。
それに対してカミラさんはふんわり優しくて自由なパトリシアさんを上手くコントロールしてたのかな?そんなイメージ。
「今日からしばらく泊まれますか?」
「貴女一人? だったら大丈夫よ。 何日くらい泊まる?」
言葉遣いはフランクだけど少し低めの声で優しく響く声が心地いい。
優しく微笑んだ様子に心がほわりと暖かくなる。
「ええっと、取り合えず7日程お願いします。 それ以降はまた考えます。」
「はい、承りました。 そっちの子は従魔ね? 別途料金掛かるけどそれは大丈夫よね?」
ええ、問題ないわ。
くーちゃんもさくちゃんも私の大事な家族だもの。
「はい、大丈夫です。 それからこれをカミラさんにって。 ウーズの宿屋のパトリシアさんからです。」
「ですよね?」
そう言ってにっこり笑いながらパトリシアさんさから預かった手紙を目の前の推定カミラさんに手渡す。
「私に? トリシャから?」
「私に?」って事はやっぱりこの女性がカミラさんで間違いないみたい。正解。
トリシャってパトリシアさんの愛称? トリシャって響きが可愛い。
「へー、あのトリシャがわざわざ手紙を書いてまでよこすって……ふむふむ。」
私をしげしげと私を見る。
そしてくーちゃん・さくちゃんを見て
「貴女、その子たちを大事にしてるのね。見てたら分かるわ、だからトリシャが気に掛けてるのね。」
「さて、一応仕事させて貰うわね。 まず基本料金が1泊大銅貨7枚、食事は朝晩で大銅貨3枚、従魔は1匹につき大銅貨1枚、もちろんお風呂もあるわよ、しかも大きなお風呂。で、どうする?」
「もちろん、全部お願いします!」
「分かったわ。見た所ソロみたいだけど、ここはちょっと高いけどお金は大丈夫?」
「はい、大丈夫です。こう見えて結構稼いでいるんです、この子たちのおかげで!」
って、くーちゃんたちを撫でながら言うとカミラさんも「なるほど」って言って笑った。
取り合えずお金なら持ってるからね。
今日も買い取り依頼してきたから明日にはまた少しお金も入るし。
だから大丈夫。
当分は宿屋暮らしでも平気。
ここ領都は都会な分だけ田舎よりは高いのは理解してる。
だから素泊まり料金が大銅貨7枚でも全然問題なし。
宿屋の感じからしてむしろ安いくらいよ。
お風呂は大銅貨3枚、食事は朝晩付いて大銅貨3枚、従魔の食事が主持ちはウーズの宿屋と一緒。
〆て1泊小銀貨1枚と大銅貨5枚。7泊で小銀貨10枚と大銅貨5枚也。
私はがま口のお財布からお金を取り出して支払いを済ませる。
カミラさんががま口のお財布を見ながら
「それ何?」
「あ、お財布です。」
「オサイフ? なにそれ。」
あれ? こっちでは財布ってないのかな?
「お金を入れておく物なんだけど、ありますよね?」
「ああ、それだったら麻袋とかに入れて縛っておくのが普通なのよ。でもそれの方がいいわね。第一可愛いし。」
へーこっちの世界ではお財布ってないんだ、意外。
「それ何処で売ってたの? 私も買おうかしら。」
「いえ、これ私の手作りなので何処にも売ってないと思いますよ。」
「えっ。」
カミラさん驚いて私の事をまじまじと見てるけど何か可笑しい事言った?
「ねぇ、それ特許取ってる? 取ってないならちゃんと取っておきなさいよ。」
特許?こっちの世界にも特許ってあるの?
「でも、特許なんてどうやって取ったらいいんですか?」
「特許ギルドってのがあって、そこで取るって聞いた事はあるわね。でも詳しい事は知らない。私元冒険者だしそうゆうのに縁がなかったもの。」
そうなのね、だったら早めにその特許ギルドとやらに行った方が良さそうね。
「ああ、ゴメンなさいね。 説明の途中だったわね。」
夜の灯りのローソク込みも一緒。
でも多分使わないかな、だって私は灯りの魔道具があるからね。
あれの方が明るいから。
食堂とお風呂の場所を確認して、
「はい、これが部屋の鍵ね。 部屋は2階の一番奥の部屋にしといたから。」
階段を昇って左右に通路が伸びていて、その通路の両側に5部屋づつある。
合計20部屋、思ったより部屋数多いのね。
「夕飯は3の鐘から4の鐘までね。 お風呂は一人用湯壺じゃなくて大きいお風呂だから3の鐘から5の鐘までだけど希望者が全員入った時点でその日はお終いだから。 まだ時間までは少しあるから部屋で休んでる? それともその辺散歩でもしてくる?」
今が大体2の鐘ちょっと前ぐらい?だから少し散策しながら買い物する時間くらいはありそうね。
カミラさんから部屋の鍵を受け取ってくーちゃんとさくちゃんを従魔の厩舎に入って貰って一旦部屋に入る。
へー、まずまず綺麗な部屋ね。
布団は……うん、ウーズの宿屋と一緒で中が藁だった。
取りあえずお布団に『洗浄』と『乾燥』をかけておく。
これで綺麗さっぱり、気持ちよく寝られるわ。
一番奥の角部屋だけあって窓が2つあった。
窓ガラスではなくて木で出来た鎧窓だけどね。
でも今の季節は吹きぬ抜ける風が心地いい。
私はストレージ持ちだから荷物はほぼなし。
斜めがけのポシェットだけ。
うーん、これじゃあ怪しまれるかな?
普段着ならいいけど冒険者の格好の時はリュックとか背負った方がいいのかな?
取り合えず寝間着代わりのワンピースを着てサンダルに履き替えて宿屋の近くの散策でもしようっと。
そうと決まったら早速行動ね。
くーちゃん・さくちゃんを迎えに厩舎に行って散策に繰り出した。