第41話 スライム(魅了中)をテイム
朝 私を呼ぶ声で目が覚める。
「オルカさーん、朝ですよー。 早く起きないと服脱がしちゃいますよぉ。」
この変な起こし方はメロディちゃんね。
変な起こし方しなくていいから、普通に起こしてよ普通に。
結界石使ってるから誰も入って来れないって分かってるんだけど、それでももしかして?って思っちゃうじゃない。
私は3人でお揃いにしたワンピース姿でテントから這い出て行った。
「おはよう。」
「あ、オルカさんそれ着てたんですね、似合ってますよぉ。」
「あらホントよく似合ってる、すっごく綺麗。」
あ、ありがとう。 そんなストレートに褒められると照れるじゃない。
左手で髪を左耳にかけるようにかき上げてはにかむと、
「オルカさん可愛い。」
ポーっとした様子で潤んだ熱っぽい目で見つめてくる。
ふふ、メロディちゃんも可愛いわよ。
私がそう返すと
「コラコラそこっ! 二人だけの世界を作りださない!」
「オルカさんもメロディを誘ってないで服着替えて来て。その恰好じゃ街道歩けないでしょ。 何だったら着替えるの手伝ってあげてもいいのよ。」
「リズだけズルーい。 私もオルカさんの着替え手伝う~。」
私誘ってないからね。
あ でもメロディちゃんとリズさんならいいかな?なんて思わなくもないけど、今は誘ってないから。
それよりも服着替えてくるからちょっと待ってて。
朝ごはんはそれから作るから。
「着替え手伝うのをお願いするのはまた こ ん ど ね♪」
ウィンクしながらくるりと反転してテントに戻った。
今の私ちょっとカッコ良かったんじゃない?
もしかしてイケてる?
手早くお仕事服(冒険者の格好)に着替えてテントから出て、テントをストレージに仕舞う。
「じゃ、すぐに朝ごはん作るから二人は焚き火の準備お願いね。」
「はい、これ。」
二人に石鹸とタオルを手渡して
「顔洗ってらっしゃい。 夜番してたから可愛いお顔に脂浮いてるよ。」
私はその間にストレージから昨日のオーク肉のチャーシュー作った時の煮汁の残りに野菜を入れてスープにした。
オーク肉の旨みと野菜の甘みが合わさってきっと美味しいだろう。
あとは厚切りでベーコンでも焼こうかな。
パンに焼きたて厚切りベーコンを挟んだら美味しいだろうな。
フライパンを取り出してベーコンを焼きにかかる。
ジュージューと焼けて香ばしい匂いがし始める。
「もうすぐ出来るから馬車の二人を起こして来てくれる?」
そう頼んだらホンの一瞬だけど馬車の方を見ながらリズさんが嫌そうな顔をしたのを見逃さなかった。
最初あれ?と思ったけどすぐにいつものリズさんに戻った。
けれどあれは絶対に見間違いじゃなかった。
んー、リズさんマルクさんの事良く思ってないのかな。
まぁ確かにちょっと考えなしな所はあるよね。
もしかしたら私の知らない何かがあるのかもしれないし。
これは気付かなかった事にした方が良さそうね。
「おはよう。」
「お おはようございます。」
ボサボサの頭のまま二人が寝ぼけ眼で起きてくる。
「マルクさん、おはようございます。 レオ君、おはよう。」
朝ごはんの用意をしながら私は二人に挨拶をする。
リズさんたちはテーブルに着いたまま挨拶した。
「さ、食べましょう。 いただきます。」
食べ応えのあるゴロゴロ野菜がオーク肉の煮汁の中を泳いでいる。
野菜スープなのに肉の味が濃い!
これは美味しい!
ベーコンを挟んだパンもいいわね、欲を言えばレタスがあればなお良しね。
ベーコンレタスサンド、前世ではコンビニのサンドイッチで良く買って食べたなぁ。
メロディちゃんを見ると口いっぱいに頬張ってもきゅもきゅと可愛らしく食べてる。
「すっほふ ほいひいれふ。」
うん、食べながら喋るのヤメようね。
言いたい事は分かったから。
リズさんが大人しいなと思ったら両手に持って食べてたよ。
さしずめ「両手に肉」ね。
ふぅ、美味しかった。
ごちそうさま。
さ、次はくーちゃんとスライム(魅了中)のごはんね。
二人ともおいで、ごはんだよ。
二人には昨日私が狩ったやつ(正確には穴だらけにしてしまって売り物にならないやつ)をあげた。
二人が食事してる間に私は食器などの片づけをしているとリズさんたちがやって来て片付けを手伝ってくれる。
「「オルカさん、美味しい食事ありがとう。」」
「いえいえ、お粗末さまでした。」
日本人的には当たり前の返事だったんだけど
「「全然お粗末じゃないよ、すっごく美味しかったし。」」
あはは、これは一種の挨拶みたいなもんだよ。
私の故郷ではこうゆう返しをするのよ。
「美味しかった」ってお礼言って、返ってきた言葉が「そうでしょう。ふふん。」って言われるより「お粗末さまでした。」の方が謙虚で好感が持てるでしょ。
そうゆう事よ。
そんな事をキャッキャッしながら話していると
「お嬢さん方、早くして。 そろそろ出発しますよ!」
マルクさんが声を掛けてきた。
「あら、大変。 早くしないと。 リズさんメロディちゃん片付け手伝ってくれてありがとう。」
「ちっ。 おつむがお粗末なやつがなに言ってんの。」
はい? 今「ちっ。」って舌打ちした? あのリズさんが?
どゆこと?
メロディちゃんの方を見ると「あはは……」って困り顔で笑ってた。
こちらの様子に気付いたリズさんは
「あ、ごめんね。 オルカさんに対して怒ってる訳じゃないからね。」
て事は、あの人に対して怒ってるって事よね?
私たちにはいつもの面倒見のいいお姉さん的なリズさんなんだけど、ある特定の人に対してだけ……。
でもホラ、プライベートな事だったら聞きにくいじゃない。
すぐ隣りで一緒にいるからメロディちゃんにも聞きにくいし。
どうしたものかね。
予定では今日の午後イチ、お昼の6と半の鐘の頃には領都に着くとの事。
そして今回の復路での最後の立ち寄り場所の村に到着した。
ここで午前中最後の休憩がてら商談をするんだそうだ。
「レオ、馬車と馬を頼む。 お嬢さん方は護衛を。」
そう言うとスタスタと商店の中へと入って行った。
領都まではもう休憩はない。
だったらゆっくり出来るのはここが最後。
ならもう覚悟決めないとね。
領都に着いた時にピンクの君が「従魔」か「捕獲したスライム」かで門番の対応も、そして自分自身も違ってくるから。
(くーちゃん、従魔が増えるけどいい? イヤなら従魔にしないから遠慮なく言ってね。)
(主様の決定に否やはございません。 主様は主様のしたいようになさいませ。)
(ありがとね、くーちゃん。)
それじゃピンクの君を私の従魔にしようかな。
でも従魔契約ってどうやるの?
「ねぇ、従魔契約ってどうやってするの? リズさん知ってる?」
リズさんてしっかり者だから何か知ってるかもしれないしね。
「は? オルカさん既に従魔が居るのに何言ってるの? 従魔契約したんじゃないの?」
あー、それね。
実はね、かくかくしかじか。
くーちゃんが狼に襲われて瀕死の重傷だったのを私が助けて傷を治したら、いつの間にか従魔になってたの。
「だから、本来の正式な従魔契約って知らないし、してないのよ。 けどステータスではちゃんと従魔って表示されてるから従魔である事は間違いないのよ。」
「ああ、それってアレよ。 相手の意思を無視して力づくで従魔にしちゃうやり方。 結果的にそれと同じ事になっちゃった訳ね。」
リズさんによると、従魔契約するには二通りの方法があって、1つ目は穏便な方法。
相手の意思を尊重し、相手に魔力を流してそれを受け入れたら名前を付けて従魔契約が成立する方法。
2つ目は力づくで契約する方法。
相手より自分の方が格上だと認識させて強制的に従魔契約してしまうやり方。
これには相手の意思は反映されない。
私とくーちゃんの場合は少し状況が違うんだけど。
怪我したくーちゃんの魔核は傷ついていて、あの時のくーちゃんは一刻の猶予もない状況でくーちゃんの意思を確認する時間すらも惜しかった。
だから私の独断で私の魔力で補うようにして治癒した。
それが相手の意思を尊重せずに……と結果的に同じと。
でも苦しんでるくーちゃんを放っておけなかったんだもん。
助けられるものなら助けたいじゃない。
だから助けたの。
私は後悔はしてないわよ。
ううん、私の側に居てくれるくーちゃんには感謝してる。
くーちゃんの為にも私は良い主であり続けたいと思ってるの。
それなのに従魔を増やそうとしてる。 うん、我ながら矛盾してるね。
だからって訳でもないけど、くーちゃんもピンクの君も最後まで愛する覚悟だよ。
さ、ピンクの君こっちおいで。
今から君と従魔契約しようと思うの。
もし私と従魔契約してもいいと思ったら私の魔力を受け取って。
「じゃ、今から私の魔力を渡すからね、イヤなら拒否してもいいから。 それじゃいくよ。」
私は魔力を集めた右手の掌をピンクの君に優しくそっと乗せる。
「ね、私の従魔になってくれる? なってくれるなら魔力を受け取って。」
私がそう言うと掌から魔力がすうっと抜けて移動して行くのが感じられた。
良かった、どうやら拒否されてはいないようだ。
「私の名前はオルカ、オルカ・ジョーノ。 君の名前は……」
薄い薄いピンク色、まるで桜の花みたい。
くーちゃんが「葛の葉」で和風の名前だから、君は桜色の「桜」かな。
うん、いいかも。
決まり!
「君の名前は『桜』だ。 これから宜しくね。」
そう言うとくーちゃんの時と同じように桜の身体が光に包まれる。
桜が身体をぶるぶると小刻みに震わせるとぐわっと二回りほど大きくなった。
そして色も少し濃くなった。
濃い桜色、蕾の時の色に近いね。
(ご主人様、素晴らしい名前をありがとうございます。)
(やっぱりくーちゃんと同じように念話出来るんだね。)
(もしかして3人で同時に念話で会話出来たりするの?)
(お呼びでございますか、主様。)
(おお、くーちゃんが参加して来た。)
(葛の葉姉さま、この度新たにご主人様の従魔の仲間入りをしました桜といいます。今後ともよろしくお願いします。)
(みんなで喋るとグループトークみたい。)
((ぐるーぷとーく?))
(あ、そっか。 桜は私が異世界人でしかも元男って知らないんだっけ。くーちゃんその辺りの説明お願いしていい?)
(御意。 桜、主様はですね……なんちゃらかんちゃら……)
うん、後はくーちゃんに任せておけばいいかな。
さてと、私はリズさんたちの方に振り返ると
「「従魔契約するところ初めて見たーっ! すごいすごい。」」
「あんな風にほわんて光るとか知らなかったわ。」
「それにぐわっと大きくなったりとかすごかったねー。」
二人とも興奮気味に話してる。
娯楽の少なそうなこの世界では従魔契約ですらも立派な娯楽になり得るんだね。
まぁ、何にせよ二人がご機嫌さんなのは何よりね。
『葛の葉』がくーちゃんだから『桜』はさくちゃんか。
くーちゃんにさくちゃん。
うん、いいね。
何か仲良し姉妹みたい。
(さくちゃん、鑑定でステータス見ていい?)
(勿論、いいですよ。)
(ありがとね。 じゃ、見させて貰うね。)
そうお礼を言ってさくちゃんを鑑定する。
名前 桜(♀)
種族 クイーン・スライム
職業 オルカの従魔
年齢 1歳
HP 1,200/1,200
MP 150/150
ユニークスキル
クイーンの権能
スライム創出
擬態
溶解液
念話
スキル
水魔法 LV1
クイーン・スライム?
クイーン・スライムってなに?
スライムの上位種なの?
性別が(♀)だからクイーンで、(♂)だとキングになるんだって。
スライムに性別があるなんて知らなかったわ。
職業は……うん、私の従魔になってる。
ちゃんと従魔契約出来てて良かった。
私なんて未だにHP111しかないのに、さくちゃん最初からHPが1,200もある。
この戦闘力ってちょっとした脅威よ……。
さくちゃんまだ生まれたばっかって感じだからかな、スキルが水魔法だけだね。
けれどユニークスキルがスゴすぎる。
ユニークスキルを5つも持ってるスライムって多分さくちゃんだけだよ。
さくちゃん恐るべし。
クイーンの権能は、野良スライムを自分の配下に出来るスキル。
スライム創出は、文字通りスライムを生む事が出来る。
ただし、生まれてくるスライムは通常のスライムと同じで、しかもさくちゃんの身体を分裂させて生む為、スライムを生む度にさくちゃんの身体が小さくなってゆくデメリットがある。
擬態は、自分の体内に取り込んだ物の遺伝子情報を読み取ってそっくりに擬態(形質のみのコピーで性能まではコピーされない)する能力。
溶解液は、スライムと言えばの溶ける液体を出す能力。
念話は私とさくちゃんとくーちゃんとで会話出来る。
私の方はと言うと、
名前 オルカ・ジョーノ(城之内 薫)
種族 半神 界渡り人
職業 冒険者 テイマー 巨乳 美少女
称号 魔物たらし
年齢 13歳
従魔
葛の葉(妖狐) 桜
従魔のところにさくちゃんの名前があった。
なんかこれ見ちゃうと感慨深いものがあるね。
しかも二人とも危険度ヤバイ系の魔物だもの、私の従魔じゃなかったら確実に討伐対象になってるわね。
そうそう、ステータスの隠蔽しとかなきゃ。
今の私の隠蔽スキルのLVは1。
これだと任意の1箇所を隠すか、任意の1箇所以外全部を隠すかのどちらかしか出来ない。
なので当然任意の1箇所、名前以外全部を隠してる状態。
私はもちろん、従魔であるくーちゃんもそうしてある。
だからさくちゃんのステータスも私たち同様名前以外は隠すことにする。
「隠蔽スキル…………うん、これでよしっと。」
これでさくちゃんの従魔契約は終了だよー。
さくちゃんお疲れ。