第40話 とろとろにトロけちゃう
明け方ワイルドボアを咥えて颯爽と戻って来たくーちゃん。
私は慣れてるけどこの4人がどうゆう反応をするか。
……まぁ、だいたい予想はつくけれども。
あ、荷馬車の方からマルクさんとレオ君が起きて来た。
「ふあー。 あぁ おは…………よ……う。」
朝起きてきたら目の前にワイルドボアがドーンと置かれてたらそりゃビックリするよね。
レオ君も起きて来てビクッてなって固まってる。
馬車の横にはくーちゃん基準で小振りなワイルドボアが置かれている。
「これ美味しいんですよ~。 くーちゃんが狩って来てくれました。」
私はにっこりと笑う。
「いやいやいや、そうゆう事ではなくてですね。」
すると私たちのやり取りを聞いていた二人も起きてくる。
目の前に置かれたワイルドボアを見て
「「あぁ、なるほど。」」
「オルカさんの従魔が狩って来たんですね。」
リズさんたち二人は知ってるからさほど驚かなかった
「私もあの時はビックリしたよー。」
「そうね、あの時は小山くらいあったものね。」
くーちゃんは私たちの様子を見ながら尻尾をふぁっさふぁっさと振っている。
ご機嫌さんね。
さぁさぁみんな朝ごはんにするよ。
テーブルに着いて。
朝ごはんはウーズの街で買っておいたパンと、ソーセージと野菜のスープね。
果物もあるからね、果物は好きなものを各自取って食べて。
「しかし、野営でこんな温かい食事が食べれるなんて思ってもいなかった。 なにかお礼でも考えないといけないな。」
「ホントですね、しかも美味しいです。」
マルクさんがレオ君と話している。
「そう言って貰えると嬉しいです。」
にっこり笑うとレオ君が顔を赤くして俯いてしまった。
あらま。
それを見てマルクさんがニマニマと薄ら笑いしている。
この人案外性格良くないかもね。
意外と腹黒? 少し気をつけた方がいいのかな?
そう言えばリズさんたちも野営の時の食事に関しては同じような事言ってたわね。
普通の人は魔法は使えないから水と食料を持ったまま移動する。
食べ物は固い干し肉と硬いパンだけ。
でも私はストレージが使えるから新鮮な食材を仕舞えるし魔法もあるからね。
テントも持ってるしくーちゃんも居る。
うん、私は恵まれてる。
なんかちょっと悔しいけど女神様に感謝だね。
朝食を食べ終えて手を合わせて
「ごちそうさまでした。」
それを見たリズさんとメロディちゃんが同じように手を合わせて
「ごちそうさまでした。」
いや、別に真似しなくていいんだよ。
これはあくまで私の故郷の風習だから。
日本人である事を忘れたくないからやってるだけだからね。
ん? なんだろ、なんか今リズさんに微妙な違和感を感じたんだけど気のせいかな?
朝食を食べたら食器の片づけとスライム(魅了中)にごはんをあげる。
うんうん、美味しそうにしゅわしゅわと消化してるね。
スライム(魅了中)は私の言う事が分かるようで夜も大人しくしてくれた。
この子ほんとイイ子だよねー。
テイムしてる訳じゃないからギルドに売る事になると思うんだけど、そうなるとちょっと心が痛む。
でも連れても行けない。 思案のしどころね。
(主様の中ではもう決まっているのでは?)
(いや、まだ迷ってるのよ。)
最後の最後、ギルドに着くまでには決心するけどね。
そんな事をくーちゃんと念話しながら石鹸で手を洗っていると
「それ石鹸? なんか泡多くないですか?」
「これ? 私の手作りなの。 使ってみる?」
そう言いながら石鹸をメロディちゃんに手渡した。
まぁね、創造魔法で作ったから正確には手作りではないのかも知れないけれどね。
そこはそれよ。
「なにこれ! 全然獣脂臭くない! それにすっごく泡立ちもいいし香りもいい!」
「メロディどうしたの?」
「あ、リズぅこれ使ってみて。すっごいの。オルカさんの手作りなんだって。」
リズさんが石鹸を手に取ってしげしげと眺めて
「これ、すごく白いのね。ホントだ、獣脂臭くない。」
洗ったあとの手をかざし匂いを嗅ぐ二人。
「すんすん、ふわりとハーブが香っていい匂い。 なんかお貴族様になった気分。」
「あのー、良かったら二人にあげるけど、いる?」
「いるっ!」
「欲しいっ!」
じゃあ、はい。 これね。
マルクさんがこっち見てるから斜めがけポシェットから取り出す振りで誤魔化しつつストレージから石鹸を2個取り出して二人に手渡す。
あ、メロディちゃん髪の毛跳ねてるよ。
もー女の子なんだからそうゆうとこちゃんとしないとダメよ。
ちょっと待って今直してあげるから。
ポシェットからヘアブラシを取り出してメロディちゃんの髪の毛を梳かしてあげる。
よし、これで綺麗になったよ。
ん? どしたの、二人とも。
「そのブラシもオルカさんの手作りなのよね?」
そうだけど、リズさんも使ってみる?
「これイイ。 全然髪の毛が引っ掛からない。 すごいすごい。」
「そんなに良かった? だったら作ってあげようか? すぐにって訳にはいかないけど2・3日あれば作れるよ。」
ホントは創造魔法使えばすぐなんだけど、すぐ作っちゃさすがに色々と拙いでしょ。
だって今もジーっとマルクさんがこっち見てるもの、だからワザと時間かかるみたいに言ったの。
私だって 一応? 考えてはいるんだよ。
「お嬢さん方、そろそろ出発しますよ。」
マルクさんが私たちを呼んでる。
私の方を見て何か言いたそうにしてる。
だけど気づかない振り気づかない振り。
さ、二人とも行きましょう。
まずは午前中の立ち寄り場所ね。
ここも前日と同じく馬の休憩と商談。
前回に注文を受けていたと思われる商品を卸して次の注文を受けるマルクさん。
商売繁盛でなによりね。
それからまた少し移動してお花摘み休憩になった。
ここまで魔物に遭遇したのは私の側にいるスライム(魅了中)だけ。
くーちゃん護衛の元私たち女性陣は交代でお花摘みタイム。
ほんとくーちゃん様様ね。
小休止を取ったあと前日と同じように午後の集落へと歩を進める。
今日も朝から私の探知にはポツポツとスライムと思われる反応があったのよ。
気がつくと結構近くまで寄って来てて構って欲しくてジーッと待ってるの。
だけどね、スライム(魅了中)以外のスライムには極力構わないように気を付けた。
だって構ったらスライム(魅了中)が増えちゃうもの。
増えたら増えたで領都に入る時に大変だし、売る時に心が痛むじゃない。
だからグッと我慢した。
我ながらエライと思う。 だよね? 私エライよね?
今朝くーちゃんにはまだ迷ってるって言ったけど、実はもう気持ちはほぼ固まってる。
くーちゃんには見抜かれてるけどね。
スライム(魅了中)はいい子だし、ピンク色も可愛いし、売ったり捨てたりする理由が見つからないし。
でもね、そんな簡単に従魔にしていいのかな?ってちょっとだけ迷ってるってのが現状。
要は誰かに背中を押して欲しいだけなのかも。
「さ、着きましたよ。 今日はここで野営にしましょう。 レオは馬の世話を頼む。」
マルクさんが指示を出してレオ君がテキパキと動いている。
街道に続く地面には轍の跡がついているし、煮炊きしたような跡も残っている。
ここも商人や商隊なんかがよく使う野営地なんだろう。
石を組んだ残骸とか残っているので焚き火台を確保するのはさほど難しくはなさそうね。
今日もリズさんたちに焚き火の準備をお願いする。
今夜の晩ごはんは昨日仕込みしておいたオーク肉の塩チャーシュー。
味付けは自家製ラー油、山葵、白髪葱。
お好みでどうぞってね。
まずは固まってるラード部分を取り除いて、焚き火が十分に熾きたらオーク肉の入った鍋を火にかける。
鍋の中のお肉は十分に柔らかくなってるから軽く火を通すだけでいいかな。
火の番をリズさんにお願いする。
ついでにティーポットに水を入れて薬草茶も用意してと。
あ、そうそうごはんも炊かなきゃね、これ必須よ。
お肉にはガッツリとごはんいきたいものね。
ん、くーちゃんどうしたの?
なになに、近くに美味しそうな獲物が居るから狩って来る?
私の探知さんには引っ掛ってないんだけど?
(主様もご一緒なさいませんか?)
そうね、マルクさんたちの視線がね、時々気になる時があるしね。
なーんか言いたそうにしてるのよ。
じゃあちょっと狩りでもしに行こっか。
「ちょっとくーちゃんとその辺散歩して来ます。」
マルクさんにそう伝える。
「分かりました。あまり遠くへは行かないように。 あ、従魔が居るから大丈夫か。」
無用の心配をさせないようにリズさんたちにも一応一言声を掛けておく。
「散歩? ほんとに散歩だけ?」
信用してないなー、散歩って言ったら散歩だよ。
狩りがしたくて行くんじゃなくて、散歩のついでにたまたま獲物が居たりしたら狩りもするかもしれないってだけよ。
じゃ、行ってくるわね。
ルン♪
私は身体強化5倍を使ってくーちゃんと一緒に駆け出した。
走り出してすぐに私の探知さんにも反応が感じられた。
ああ、これね。
でもこれ結構数多いよ?
多分20頭は居るんじゃない?
走るスピードを落とし私とくーちゃんは風下からゆっくりと近づく。
獲物はヘラジカに似た異世界ヘラジカとでも言うのが適当な魔物だ。
前世の日本では食害の被害金額の約1/3が鹿による物と言われていて、農家にとっては害獣そのもの。
どうやらこちらの世界でもそれは同じようで鹿は適度に駆除しても良いと言うのが一般的みたい。
なので私は遠慮なくやらせて貰うわ。
ストレージからベレッタを取り出す。
(久しぶりにお使いになられるのですね。)
うん、みんなから離れたから使っちゃおうかなって。
一番手前のを狙うから、私が撃ったら突入の合図ね。
くーちゃんは思う存分暴れていいわよ。
私は最初の1発を撃ったら身体強化7倍まで使って2丁拳銃でくーちゃんのフォローに回るわね。
右手でベレッタを握り左手をグリップの下側から包み込むように軽く握る。
引き金にそっと人差し指をかけ、ゆっくりと撃鉄を起こし照準を合わす、息を吐き姿勢が安定したところで引き金を引く。
パァーン!
命中! 頭が爆ぜるように吹き飛びそのまま横にバタリと倒れる。
音が鳴ったと同時にくーちゃんが飛び出す。
速いっ!
私も負けじとすぐに身体強化を7倍まで強化し両手にベレッタを持ち飛び出す。
あとはもう一方的だった。
正にくーちゃんによる蹂躙劇だった。
私はくーちゃんの邪魔をしない程度に撃ちまくった。
ただ私の技量が足りてないので動きながらだと上手く当たらない。
相手も必死だから動く動く。
逃げ惑う相手をこちらも動きながら狙いを定めて撃つなんてやっぱり難しいよ。
それにベレッタはハンドガンだから基本的に近距離用なのよね。
それもどちらかと言うと魔物よりは対人間用のね。
だから遠距離用の狙撃銃があると便利かなぁって。
領都に着いて落ち着いたら作ろうかな?なんて思っちゃった。
ちなみに私が仕留めたのは最初の1頭と乱戦になった後に2頭の計3頭。
くーちゃんは17頭。
……力の差 歴然。
時間にしてわずか10分足らずでよ。
いかにくーちゃんの戦闘力が突出しているかが分かるってものよ。
でもお肉と素材が大量に手に入ったのは重畳ね。
狩った獲物をストレージに仕舞って魔石だけ最初に回収しておいた。
それにしてもくーちゃんが狩った獲物の見事な切り口。
首と胴体のところでスッパリと切られている。
私のは銃を乱射したから穴だらけなのに……。
さ、戻ろうか。 みんなが晩ごはんを今か今と待ってるよ。
「ただ今戻りました~。」
「あれー、以外に早かったですねー。 狩りはしなかったんですかぁ?」
メロディちゃんが聞いてきたから、
「ううん、狩りしてきたよ。 大猟だった。」
って言ったらやっぱりねって顔して笑った。
釣られてリズさんも笑った。
けれど連れて行って貰えなかったスライム(魅了中)はちょっとイジけてた、ゴメンね。
さぁごはんにするよー。
座って座って。
今日の晩ごはんはね、
「オルカさん特製のとろとろオーク肉チャーシューだよ!」
鍋に浸かっているオーク肉を取り出すんだけど、柔らかすぎて菜箸だと持ち上げた時に自重で崩れちゃう。
だからトングで両端をそっと持って持ち上げて鍋から救出した。
ふるるん。
まな板に乗せただけでぷるんぷるんに揺れている。
まるで私の〇っ〇〇みたい……
キッチンバサミで糸を切って包丁を入れるんだけど、柔らかすぎて薄く切れないから分厚く切る事にしたの。
今回はね、みんな沢山食べるだろうと思っていっぱい作ってあるから。
オーク肉の大盤振る舞い、とろとろチャーシューが贅沢に1人1本だよ!
炊き立ての熱々ごはんにとろとろオーク肉チャーシューをこれでもかと乗せて白髪葱を散らして皆の前にドンと置く。
味のベースは塩味だけどお好みで山葵・ラー油で食べてね。
「では、いただきます!」
「「「「いただきます!」」」」
私はお箸使えるけど皆は箸が使えないからね。
フォークで刺すとお肉が崩れちゃうかと思ってスプーンを出してある。
それでごはんとお肉を一緒に掬って食べて。
私はお箸で摘まんでそっと持ち上げる。
ぷるんぷるんに揺れる宝石のようなオーク肉チャーシュー。
お口に入れるとハラリと解れて溶けていく。
ヤバッ! これ美味しい!
脂が甘くて超ヤバいかも。
「なにコレ!!! 柔らかっ!」
「すごい、舌の上でお肉が溶けちゃう!」
「これはっ! これ程までに柔らかい肉は初めて食べた。」
「………………」
皆喜んでくれてる。
レオ君にいたっては無言で食べてるね。
味変にちょこっとラー油を付けて食べるとこれはこれでアリよねー。
次は山葵を乗っけて、あむっ。
んー、これも美味しい~♪
ヤバイわぁ、これはほんとにヤバイわ。
お箸が止まんない。
「「「「お代わりっ!!!!」」」」
はいはい、そう来ると思ってたから沢山作ってあるの。
遠慮なくお腹いっぱい食べて。
「オルカさんてほんと料理上手ですよね~。」
「だよねー、私もメロディもガッツリ胃袋掴まれてるもんね~。」
またまた二人とも何言ってんの。
貴女たちこそ誰かイイ男見つけて胃袋掴まなきゃ。
「ねぇ、オルカさん。 私のお嫁さんになりませんかぁ?」
「あ、ちょっ。メロディ抜け駆けはずるいわよ! 私のお嫁ちゃんにならない? 絶対に幸せにするわよ。」
「もー、二人とも変な事ばっかり言ってぇ。」
「そうですよ、お嫁と言わず是非私の愛人とかどうですか?」
はぁ? このオヤジ何言ってんの?
「「「サイテー!」」」
ガールズ・トークに割り込んで来て2号さんって?
私に? お妾さんになれって?
私まだ13歳よ。 いたいけな少女よ。
リズさんたちもジト目で非難してるし。
特にリズさんの相手を射殺すような目が怖い。
うん、リズさんは怒らせないようにしよう。
「あ、いや。 失礼しました。失言でした。」
当たり前よ。
言うに事欠いて愛人になれってどうゆう神経してんのよ。
失礼しちゃうわ。
くーちゃんも威嚇してるじゃない。
もうあと一言余計な事言ったらくーちゃんがその喉元に噛み付いてたかもね。
今後は気を付けてね。
さぁ、くーちゃん・ピンクの君、ごはんの時間だよ。
さっき狩って来たばっかりのピッカピカのヘラジカがあるからそれ出すね。
くーちゃんにはお肉の部分をメインに、ピンクの君には骨と内臓をメインにして夕飯にした。
二人とも喜んでくれてるから良かった。
ランタン型魔道具を出して灯りをともし、焚火に薪を追加する。
食器類をお片付けして就寝の準備ね。
今夜は私は夜番はしなくていいみたいなのでテントを出す事にした。
もちろん結界石使うわよ、さっきのマルクさんの事もあるし念には念を入れてね。
安全と安心は自分で何とかしないと。
リズさん・メロディちゃん夜番気を付けてね。
じゃあ、おやすみ。