第39話 オーク肉の塩チャーシューと自家製ラー油
まずはオークのバラ肉のブロックを丈夫な糸で縛って、温めたフライパンで焦げ目が付くくらいに表面を焼いておく。
ジュー。
オーク肉の焼ける音、香ばしい香り。
横で見ている二人の喉がゴクリと鳴る。
早いって。 まだ仕込みの仕込みだってば。
フライパンの横ではお鍋に水を張って火にかけてある。
その間に葱の青いところ、生姜・ニンニクの薄切りを鍋に入れ、ワインとお砂糖と塩少々、そして焼いたオーク肉を投入。
「「ええぇぇーっ!」」
二人とも何すんだー!みたいな顔してるけど、これはそうゆう料理だから。
ほんとはお醤油があればなお良しなんだけどない物は仕方ない。
でもこれはこれでイイと思うよ。
煮込んでると灰汁が出てくるのでメロディちゃんに灰汁取りを頼む。
丁寧に灰汁取りして少し煮込んだら終了。
後は時間経過ありのストレージに仕舞って明日までのお楽しみ。
「これで終わり?」
そ、これで終わり。
これは時間経過ありの方に入れたから余熱でお肉に火が通るのと柔らかくなってグッと味が染みるから。
お次はこれ、唐辛子。
二人とも「これ辛いヤツでしょ?」これで何するつもり?って感じで私を見てる。
まずは葱の青いところとザクザクと切って、生姜は厚めのスライス、乾燥した唐辛子は10本くらい。
唐辛子は手で千切って中の種も使うから捨てないでね。
フライパンにダバーッと油をたっぷりと入れて火にかけて、葱・生姜・唐辛子を投入。
現代日本みたいにガス火とかIHコンロとかあればいいんだけど今日は焚き火での調理だから火加減が難しいのよね。
なのでここからはリズさんにお願いする。
葱・生姜・唐辛子を入れた油を温めて、油がぐつぐつしてきたらフライパンを火から少し遠ざけるようにしてちょうだい。
今やってるのは油に葱・生姜・唐辛子の香りを移す為だから焦がさないように注意してね。
リズさんには油の中の具材がカリカリになるまで焦がさないように見てて貰って、その間に粉唐辛子を用意する。
ちょいちょいとメロディちゃんを手招きして、ボールに粉唐辛子をたっぷりと入れて水を少々加える。
それを混ぜておいて貰う。
なぜ水を入れるかと言うと後で熱した油を入れる時に唐辛子が焦げないようにするため。
フライパンの油がそろそろイイ感じね、中の具材は一旦回収してっと。
フライパンの油が再度ぐつぐつするまで加熱したら、ここからが本日の見せ場よ。
私はリズさんからフライパンを受け取って、粉唐辛子の入ったボールの中に油をオタマですくって少しづつ入れながら菜箸でかき混ぜてゆく。
「二人とも気を付けて、風下にいたら酷いことになるわよ。」
粉唐辛子も油に馴染んだところで熱した油を一気に
ジュワワワー!
刺激臭を纏った蒸気が一気に立ち上る。
これ粘膜から直接吸い込むと咳き込んで大変な目に遭うからよーく気を付けないと。
「ケホッ ケホッ」
ほら言わんこっちゃない。
だから気をつけてって言ったのに。
泡泡が落ち着いて唐辛子が沈んだら完成。
オルカさん謹製の自家製ラー油の出来上がりよ。
これはこのまま時間経過有りのストレージに仕舞っておいて明日使うからね。
さて、お魚の方はどうかな?
リズさんに見て貰う。
「だいぶイイ感じ、もうあとちょっと。」
お魚にはヒレや尻尾には化粧塩をしてパリッと形を整えてある。
こうゆう見た目も大事だからね~。
あと塩も強めにしておいた。自分の好み的に。
ごはんもそろそろいい頃合かな。
(創造魔法さんが)DIYしたテーブルと椅子を取り出して、ごはんをドーン。
マグカップに薬草茶を入れて、お皿には擂った山葵をたっぷりと乗せておく。
お魚の皮目がチリチリと焼ける音がする。
脂が焚き火にしたたり落ちてジュワッとなる。
よしっ!
「みんな集まれーっ! ごはん出来たよー♪」
私の両隣りにリズさんとメロディちゃん、向いにはマルクさんとレオ君。
みんな席に着いたね。
それじゃ、手を合わせて「いただきます」。
皆は「???」な顔してる。
うん、通じない事くらい知ってた。
でもいいんだ、だって日本人だもん。
日本人ならごはん食べる前に「いただきます」は是常識。
お皿には「イワナモドキ」と「アユーモ」が1人1匹づつの合計2匹乗っている。
そのお皿の横には擂った新鮮山葵がこんもりと。
お魚追加で焼いてもいいし、なんならお肉でもいいよー。
おかわり欲しい人は早めに言ってね。
「この横に乗ってる緑色のが山葵だからね。 これをほんのチョットだけお魚に乗っけて食べると美味しいよ。」
そう言って私は解した身にほんのチョットだけ山葵を乗せて口へ運ぶ。
「んん~、美味しい~♪」
私はお箸使えるけど皆は上手く使えないだろうからフォークを出してある。
そっちの方が慣れてるからたぶん大丈夫でしょ。
ささ、みんなも食べて。
「あ、そうそう。 山葵付け過ぎると鼻ツーンと来て辛い よ。」
「「「「んんーーーーっ!!!!」」」」
一足遅かったみたいね。
みんな鼻を摘まんで下を向いて涙を流している。
だから言ったのに、もう。
山葵はほんのチョットが美味しいんだから、次から気を付けて。
あ、くーちゃんお代わり要る?
まだお肉もストレージにあるし大丈夫だよ。
(食べる?)
(是非にっ! お肉に塩山葵でお願い出来ますでしょうか。)
了解。
塩胡椒したお肉に山葵も美味しいよね~♪
それも出そうかな。
みんなもお肉食べる?って聞いたら
「「「「食べるっ!」」」」
って即答された。 みんな良く食べるねーホント。
お魚食べる、ごはん食べる。
お肉食べる、ごはんかき込む。
お茶で喉を潤す。
まぁ、それだけ美味しそうにガツガツ食べてくれたら作った方としては嬉しい限りだけどね。。
スライム(魅了中)のごはんはもうちょっと後ね。
みんなが食べ終わってお魚の骨とかが出るからそれまで待っててね。
スライム(魅了中)にそう言うとぷるぷる震えながら大人しくくーちゃんの横で待機している。
この子ほんとイイ子だね~。
みんなお腹ぱんぱん、とーっても満足そうにお腹をさすっている。
まったりとろぉんとした目で椅子の背もたれに身体を預けているね。
私は手を合わせて
「ごちそうさまでした。」
うん、美味しかった。
食の充実って素晴らしいね。
私は食器を一旦集めてみんなの側から離れるとささっと「洗浄」と「乾燥」をかけてストレージに仕舞った。
マルクさんに見られないように注意しないとね。
悪い人ではないと思うけど、まだよく知らないから。
一応注意だけはしとこうかなと、念の為。
私はスライム(魅了中)に「こっちおいで」って声をかける。
するとスライム(魅了中)は嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねるようにやって来た。
皆が食べ終わったお魚の骨を1つのお皿に集めて
「お待たせ。 はい、ごはんよ。 下のお皿までは食べないでね。」
スライム(魅了中)は魚の骨を取り込んでシュワシュワと溶かしながら食べている。
何度見ても面白いねー、見てて全然飽きない。
マルクさんとレオ君は明日も御者をしないといけないから火の番はなし。
夜通しの火の番は私たち3人で交代でする事になった。
リズさんたちは私が食料を提供したから火の番はしなくていいよって言ってくれたけど、
「何事も経験だから」
って言って私も番をするって押し通した。
でも明日の晩はしなくていいよとも言われちゃったけど。
順番はリズさん、メロディちゃん、私の順番に決まった。
なんでかと言うと朝食を私が用意するから。
パンならストレージにあるし、あとはスープか何か作るだけだから簡単だしね。
「リズさんこれ使って。」
私はそう言ってストレージから魔道具のランタンを取り出して灯りを最大に点けた。
「え? なにこれ。 灯りの魔道具? すっごく明るいんだけど?」
「ええ、私が作ったの。」
「「「「は?」」」」
いや、それ私が作ったの。
宿屋で灯りの魔道具借りたからそれを手本にちゃちゃっとね。
「訳分かんないです。」
「メロディ、オルカさんだから何でもアリなのよ。」
「それはそうだけどぉ」
そこっ! その変なやり取りで納得しない!
マルクさんもレオ君も目を見開いて呆気に取られてるじゃない。
「確か冒険者の方だとお聞きしてたと思うのですが……最近の冒険者って魔道具も作れるのです ね?」
「そんな訳ないじゃないですか。 こんな規格外なのはオルカさんだけですよ!」
ねぇ メロディちゃん、いつも思うんだけど何気にディスってるよね?
「とにかく、これがあれば夜の番も楽になるでしょ? このままで朝まで持つからね。」
そう言ってリズさんに手渡した。
それじゃあ私たちはみんな寝るから最初の夜番宜しくね。
「オルカさん起きて、交代の時間よ。」
東雲の頃メロディちゃんに起こされる。
起きたらくーちゃんの姿がなかったから狩りにでも行ったのかな?
そろそろ空が明るくなるわね。
メロディちゃんお疲れ様、朝ごはんが出来たら起こすからそれまで寝ててね。
闇から光に移行して空が茜色に染まってゆく。
夕方のマジックアワーを見るのも好きだけど、この徐々に明るくなってゆくのを見るのも好き。
焚火を切らさないように適宜薪を追加していく。
パチパチと薪が爆ぜる音だけが響く。
もう魔道具のランタンは必要ないかな。
私はランタンの灯りを消して魔力を補充しておく。
ついでにお米も魔法で出しておいてストレージに片づける。
あ、しってる魔力反応がこっちに向かって動いてる。
くーちゃんが戻って来るみたいね。
しばらくすると朝陽を背にくーちゃんが戻って来た。
あーなんかすっごい神々しい
さすが私のくーちゃんね。
……えっ?
なんか咥えてる。
くーちゃんが私の前までやって来て自慢げに獲物を置いた。
(少し小型ですが近くにワイルドボアが居ましたので狩って参りました。)
う うん。 いつもありがとね。
やっぱりいつものくーちゃんだった。