第38話 魔物たらし
透き通る薄いピンク色、丸くてツヤツヤ、プルプルのふるふるでそれはそれは愛らしい生き物スライム。
そのスライムが私たちに遅れまいと一生懸命ピョンピョン跳びながら後を付いて来てる。
私たちの後ろを追いかけてくるスライムが見えた途端メロディちゃんが剣を抜きながら
「二人とも逃げて! 後ろにスライムが居る!」
あちゃー、やっぱこうなるよね。
リズさんと全く同じ反応だ。
私は一旦足を止めてスライムが側にやってくるまで待ってから
「メロディちゃん、この子は悪いスライムじゃないよ。」
そう説明したけれど「はぁ?」って顔された。
スライムは私の隣まで来ると追いついたのが嬉しかったのかピョンピョンと上にジャンプしている。
そのほっこりする動きに癒される~。
私はさっきの経緯をマルクさんたちに説明する。
「なんかオルカさんらしい……。」
「うーむ。 商品を食べられたら困るし……。」
困惑顔の二人。
オルカさんらしいってメロディちゃん失礼よ。
その言い方だと毎回私がトラブルメーカーみたいに聞こえるじゃない。
え、違うのかって?
違うわよ! トラブルに巻き込まれはしてもトラブル起こしてないもん。
「ウーズの森の狼事件……。」
「その後の白い大きな魔物事件……。」
な、なによ二人とも。
あ あれは ホラ 私世間知らずだったから……
ごめんなさいっ!
私が悪かったんです。
「スライムは流石に困ると言いますか……大変言いにくいのですが、商品に被害が出た場合補償して頂けるなら連れて行くのも問題ないんですが。」
まぁ普通に考えたらそうよね。
大事な商品食べられたら堪ったもんじゃないもんね。
「ところでオルカさん、そのスライム テイムしたの?」
え? テイム? したつもりないけど?
ステータスで確認したら分かるって?
分かった、やってみる。
名前 オルカ・ジョーノ(城之内 薫)
種族 半神 界渡り人
職業 冒険者 テイマー 巨乳 美少女
年齢 13歳
従魔
葛の葉(妖狐)
魅了中
スライム
従魔はくーちゃんだけ……
は? スライムが「魅了中」になってる?
なんで?
私なにもしてないよ?
魅了ってパッシブスキルだったっけ?
可笑しい可笑しい。
でも前にくーちゃんに言われたっけ、魔物にも有効だって。
……マジですか。
「……スライムが魅了中になってた。」
「「魔物たらし!」」
ヤメて、変な事言わないで、縁起でもない。
そんな碌でもない称号とか付いたら洒落にならないじゃない。
……まさか ね。 付いてないよね?
名前 オルカ・ジョーノ(城之内 薫)
種族 半神 界渡り人
職業 冒険者 テイマー 巨乳 美少女
称号 魔物たらし
年齢 13歳
従魔
葛の葉(妖狐)
魅了中
スライム
ノォォォォォー!!!!
付いてるじゃないのぉ~っ!
ガックリとうな垂れる私を余所目に皆はさっさと馬車に乗り込み
「ほらー、早く行くよー!」
急かされて私はスライムを抱いたまま馬車に乗り込んだ。
スライム(魅了中)は私の膝の上でぽわんぽわんしている。
とっても大人しい。
薄い薄いピンク色でスライム(魅了中)の下の私の膝が透けて見えている。
これだけ透明度が高いと処理能力も高いのでお値段も相応にお高くなるとリズさんが言う。
うーん、現状これだけ懐かれてると売るのは何か忍びない。
でもこのまま連れても行けないしどうしよう。
この子連れて領都に入れるの? もしかしてダメなんじゃない?
リズさんにそう聞くと
「スライムに限っては一般市民も捕獲してくるので、テイムされてなくても大丈夫よ。」
そっか、じゃあもう暫くは様子見かな。
その内勝手に離れて行っちゃうかも知れないしね。
(主様の側に居る限りは魅了は解除されないと思われます。 逆に言えば主様から遠く離せば自然と魅了は解けるのではないかと。)
そっか、そうゆう事なら気にしなくてもいいのかな?
て言うか気にしても仕方ないか。
うん、分かった。 明日は明日の風が吹く。 ケセラセラね。 なるようになるさ。
暫く馬車は進み続ける。
森の中と違って遮る物のない草原は陽射しが強くて少し暑いわね。
前世の日本の蒸し暑さに比べると涼しいものだけど、森の中の生活に慣らされた身としてはちょっと暑く感じる。
けど不思議なのは私は全く日焼けしていない事。
リズさんたちは冒険者として屋外で活動しているとは思えないぐらいには色白と言えるかもしれないけれど、それでも健康的な程度には日焼けしている。
それに対し私はシミ1つない、雪白で透き通るような肌。
これって「女神の贈り物」を食べてたからなのか、それとも私の身体の半分は女神様と同じもので構成されてるからなのか。
どっちも可能性あるか。
でも日焼けしないのは嬉しいかな。
そりゃあね、女の子だもの。
「そろそろ村に着きますよ。」
マルクさんから声がかかる。
本日2箇所目の村。
ここで休憩がてらマルクさんは商談を行う。
午前中の村と同様レオ君は馬のお世話をし、私たちは荷馬車の警備をする。
もちろんくーちゃんとスライム(魅了中)も一緒。
スライム(魅了中)は私の後ろをピョンピョンと付いて来てる。
馬車に乗ってる間も商品を勝手に食べるような事はしなかったのでホッとした。
もしかしたらこっちの言ってる事が分かってるのかもね。
くーちゃんとスライム(魅了中)には塩気を抜いた干し肉をおやつがわりにあげた。
くーちゃんそれで足りる? まだまだあるよ。
くーちゃんからは大丈夫だと返事があった。
お腹が空いたら夜に狩りに行くんだって……。
ほどほどにね。
スライム(魅了中)に追加でおやつをあげると嬉しそうにしゅわしゅわと溶かしながら消化してた。
よくよく考えたらスライムって便利よね。
今までだったら食材のゴミは穴掘って焼却してたけど、スライムが居れば食べてくれるもんね。
しかも可愛いし。
どうしよう、この子手放すのが惜しくなって来ちゃった。
ううん、ダメダメ。 流されちゃダメ。
ちゃんと考えるのよ私。
「それではまた次回。ご注文の品はその時に。」
「はい、よろしくお願いします。」
店主と思われる男性とマルクさんが握手をしている。
どうやらここも上手くいったようだ。
これで本日の立ち寄り箇所は終了で、後はこのまま野営地まで移動するだけ。
「よし、レオ行くぞ。 野営地はいつものあそこだ。」
マルクさんがレオ君に指示している。
ふむふむ。
行商だと使うルートは大体いつも同じだから野営地も同じと。
いつもと一緒だから迷わないし、何か異変があってもすぐに気づく。
安心と安全の確保。
なるほどね、理に適ってる。
比較的安全と言われる草原の中を通る街道での移動。
それでもたまに魔物に遭遇する事はあるらしい。
けれど今回はあのスライム以外魔物には出会ってない。
すごく順調な行程にマルクさんとレオ君はとても喜んでいるけれど、たぶんそれくーちゃんのおかげだと思う。
くーちゃんてそのまま魔物にとっても脅威だからね。
くーちゃんが居る周りは魔物や獣は近寄ってこないもの。
森の中でずっとくーちゃんに助けられてたからね、私には良く分かるのよ。
(くーちゃん、ありがとね。)
(何でございますか、藪から棒に。)
ふふ、何でもないよ。
くーちゃんの尻尾がふわんふわんと揺れてる。
「お嬢さん方、今日の野営地に着きましたよ。 さっそく野営の準備をお願いします。」
着いたのはそこそこ広い平らな場所。
森の中と違い草原は開けているため見晴らしがよい。
見ると他にも商人と思われる荷馬車が停まっている。
時間的に少し早いような気もするけど、夏と冬では暗くなる時刻が違う。
今の季節では早いように思っても冬だと暗くなり始める時間なんだろうね。
だからこの辺りが野営地としては最適と。
まずは火の確保ね。
リズさんたちにお願いして、焚き火用に井桁型と料理用に並行型の大きいのを作って貰った。
後は調理用の私の調理道具を出してっと。
「もしかしてオルカさん料理作ってくれるの?」
うん、そのつもりで料理用の焚き火台作って貰ったんだもん。
リズさんたちにはお世話になってるからね。
受けた恩は返せるときに返さないと。
「マルクさんたちも一緒にどうですか?」
「宜しいので?」
ええ、ついでだから一緒に食べましょう。
今から作るので少しお時間頂きますけどそれでいいですか?
さぁ、これからオルカちゃんクッキングのお時間よ。
メインディッシュは「イワナモドキ」と「アユーモ」の塩焼き、それに焚きたてごはん。
あと、山葵も擂っておく。
実は前世での私の好きなもの、お魚の塩焼きに山葵をちょんと乗っけて食べるのが大好きだった。
だから今夜は皆にそれを振舞おうと思うの。
美味しいからきっと喜んでくれるはず。
あとは明日食べるように仕込みも同時やっておこうかなと。
ね、二人ともちょっと手伝ってくれる?
私はそう言ってストレージから材料を次々と取り出してゆく。
こっちのお魚は今から焼くから串に刺しておいて。
お魚は1人2匹ね。
ごはんはこれで火にかけるだけだからタイミングは後で知らせるわね。
問題はこっち。
これが結構手間が掛かるから大変。
まずは、ジャーン!
「「オーク肉!」」
ふっふっふ。
喜びたまえ、明日の晩ごはんはオーク肉を使った料理なのだよ。
「ね ね ね、何作るの?」
「ひ み つ ♪」
まずは明日の仕込みをするから。
楽しみにしてて♪