第19話 くーちゃん、オーバーキルもいいとこだよ
森の中心部から離れてようやくちょっと落ち着いた。
森の中心部ってやっぱ怖いのよ。
私の『探知』に大きい反応がちらほらと、あっちこっちと、そこかしこにあったのよね。
あれだけの反応に囲まれてるのに全く襲ってくる気配がないの。
様子を窺ってるって言うか、怖がってるって言うかね。
(ねぇ、くーちゃん気づいてた?)
その事をくーちゃんに聞いてみた。 すると
(もちろんでございます。)
あ、やっぱり気づいていたんだ。
でもその割に落ち着いてたよね?
(くーちゃん怖くなかった? 私ドキドキで生きた心地しなかったよ。)
(獣は自分より強い相手には向かって行ったりはしません。 ですから、わたくし達が立ち去るのを待っていたのだと思います。)
くーちゃんスゴすぎだよ。
もう苦笑いするしかないわ。
でもまぁくーちゃんのおかげで安全は守られてる訳だし感謝しないとね。
(くーちゃん、ありがとね。)
(勿体ないお言葉にございます。)
くーちゃんくーちゃん、言葉遣いがまだ硬いってば。
そんなに気遣わなくていいんだよ。
普通でいいんだからね、普通で。
「くーちゃん、探知お願いね。 獲物は何にする?」
私もくーちゃんも探知はLV6で一緒だからどっちがやっても大差ないんだろうけど一応くーちゃんにお願いする。
(ならば食糧確保の意味でも熊とかは如何でございますか?)
(熊っ?!んー ヤメとく。 くーちゃんは大丈夫だろうけど、私は多分大丈夫じゃない。 襲われたらひとたまりもないもん。 最初だから手堅く兎さんにしよ。 それなら私でも安心だし。)
(御意。 では探知致します。)
まだ言葉硬いよー。
まぁ直せって言ってもいきなりは無理だろうからね、徐々に直していこう。
(北北東の方向に小さい反応が3つございます。)
え? そうなの?
私には分かんないんだけど。
私もくーちゃんも探知レベルは同じLV6なんだけどくーちゃんの方が性能がいいみたい。
つまりこれはスキルレベル依存ではなくてその個人の素の能力に依存すると思って間違いない。
後天的にラッキーで獲得した探知と、くーちゃんのように生きる為に必死で、獲得せざるを得なかった場合とでは全然違うって事ね。
くーちゃんを追いかけて私も動き出す。
あ、ほんとだ。 確かに小さい反応が3つある。
私とくーちゃんとでは、確実に小さくない差があるな。
くーちゃんてすごいね! 頼りになるわぁ。
風下からゆっくりと近づいていく私とくーちゃん。
二人とも『気配遮断』使ってるからすぐ近くまで近寄って行ける。
見ると3匹とも角兎だった。
3匹も居れば確実に1匹はゲット出来そうね。
僥倖僥倖。
っと、捕らぬ狸のなんとやらね。
横を見るとくーちゃんが体勢を低くして飛び掛る構えに入っている。
(さぁ、やっておしまいなさい!)
私が念話で合図をするとくーちゃんは草をさわりと揺らして消えるように飛び掛っていった。
すごっ!
音がほとんどしなかったよ!?
あっ! と、思った時にはもう角兎のすぐ側まで跳躍していて1匹はそのまま頭から噛み付いてブンッと振り回し、残り2匹は前足で振り払うと一瞬のうちに両断されていた。
まさに瞬殺である。
肩から上がもぎ取られたのや、胴体の中ほどで上下に離れたのが2匹。
辺りには血が流れていてちょっとした惨状である。
私は顔を引きつらせ、くーちゃんは得意げにドヤ顔してらっしゃる。
くーちゃん やりすぎだよ、オーバーキルもいいとこだよ……。
いずれ街に行った時に兎の皮とかは売り物になるかも知れないから出来るだけ傷の少ない状態で確保したいんだよね。
ちゃんと話してなかった私が悪かったね、ごめんごめん。
次からは風の魔法で首を綺麗に刎ねてくれると助かるな。
お願いね。
そう言うとくーちゃんはシュンとなっちゃてうな垂れていた。
でもっ! 今夜の食料ゲットだよ。
お腹いっぱいのお肉だよー♪
くーちゃん、ありがとね。
こんな事言っちゃなんだけど、シュンとなってるくーちゃんも可愛い。
私はくーちゃんの背中を優しく撫でながら狩った兎をストレージに仕舞う。
後でまとめて処理しなくちゃ。
それじゃ、気を取り直して次いこ次。
今度は私の番だね、
(くーちゃん探知お願い。)
(見つけました、ご案内致します。)
私の探知には反応がない。
くーちゃんに案内されて移動を始める。
移動を始めてやや遅れて私の探知にも反応があった。
やっぱりくーちゃんの探知の方が優秀よね。
居た。 爪兎が2匹ね。
ストレージからベレッタを取り出して銃撃の準備をする。
ジャキン!
(主様、それは一体?)
ああ、これね。 これは私の武器よ。
私ってくーちゃんみたいに身体能力高くないし近接戦闘に弱いからね、だから離れた場所からでも攻撃出来るようにと思って私が作ったの。
じゃ、作戦会議ね。
まず私から攻撃を仕掛けるからそれが合図ね。
私がこの銃で右の兎を撃ったらくーちゃんは左の兎の逃げ道を塞ぐように兎の前に出て一瞬でいいから動きを止めて欲しいの。
ただし、私と兎の射線上に来ないように気をつけて。
弾丸が貫通した場合、万が一射線上に居るとくーちゃんに当たるかもしれないから。
じゃ、準備が出来たら知らせてね。
私がそう言うとくーちゃんは音もなくするすると移動して行った。
(主様、準備が整いました。 いつでもご命令を。)
くーちゃんから念話が届く。
私は撃鉄を引き、そっと引き金に指をかける。
息を吐き、落ち着いたところで息を止めて
shooting!
パァーン!と言う小気味良い発砲音ととも打ち出された弾丸が兎の頭部に命中する。
左側の兎は驚いて逃げようとした瞬間、くーちゃんの威圧で竦んで動けなくなってしまった。
私はすぐさま狙いを左の兎にかえ引き金を引く。
パァーン!
手応え有りっ。
パサリ、兎が崩れ落ちる音が聞こえる。
(お見事でございます。)
良かった、どうやら上手くいたようね。
ベレッタで撃った弾は兎の頭部を貫通しきれいな銃創が出来ていた。
(見事なものでございますね。)
うん、銃だと一瞬で意識を刈り取って絶命させる事が出来るからね。
攻撃力のない私にはぴったりの武器よね。
(ですが、主様)
ん? なに?
(主様も大概オーバーキルかと存じますが。)
うっ、言い返せない。
あはは、主従揃って似た者同士ってね。
狩った兎をストレージに仕舞いながら次の獲物を探す。
くーちゃん、何か良さげな獲物は居る?
私の探知の範囲内だと小さい反応ばっかりだ。
歩きながら周りの様子を探る。
あ、あんな所に薬草が群生してる。
回収回収っと♪
(主様、少しばかり大きめの反応がございますが、如何致しますか?)
少し大きめか、今のくーちゃんなら大丈夫だろうから、どんな獲物か見てみようか。
そう言ってくーちゃんの後に続いて歩いてゆく。
(反応のヌシが分かりました、手頃な大きさの猪でございます。)
手頃な大きさの猪かぁ、1mくらいかな? それイイかも。
猪肉って味が濃くてちょっと野性味のある味わいだけどクセは無いから美味しいんだよね。
ちょっとじゅるってなっちゃった。
(くーちゃん、猪狩ろう。お願い出来る?)
そう言うと
(御意、お任せ下さいませ。)
尻尾をバッサバッサと振りながら嬉しそうにしている。
それ見てちょっと微笑ましくって可愛いなって思っちゃった。
くーちゃんの後について歩いてゆくと獣の姿が見えた。
あ、居た……けど
デカくない?
どこが手頃なの?
くーちゃん説明を求む。
『鑑定』さんの説明によると獲物の名はキングボア、ワイルドボアの上位種で大変美味しいらしい。
(くーちゃん アレを仕留めるつもり? 大丈夫? かなり大きいよ。)
見たところくーちゃんより更に大きい。
(問題ございません。キングボアの中では小さい方の個体かと。)
あれで小さい方なんだ……。
猪って見た目に反してすごく機敏に動き回るし走る速度も速いって聞くよ?
生前の話だけど、写真撮りに山に入るって言ったら山育ちの知人から猪には気を付けろって口を酸っぱくして言われたっけ。
(ね、何度も聞くけどほんとに大丈夫? くーちゃんが怪我とかしちゃったら私イヤだよ?)
(主様は心配性にございますね♪)
なんかくーちゃん嬉しそうなんだけど。 尻尾がふぁっさふぁっさしてる。
あっ、行ってしまった。
ズズン。
キングボアが地に沈む音が辺り一面に鳴り響く。
(大変お待たせ致しました。)
ううん、全然待ってないから。1分も掛かってないよ。
倒されたキングボアは首の所で胴体から綺麗な切断面でもって離れていた。
くーちゃんマジ強すぎ。
もしかしたらこの森の支配者になれるんじゃない?
(そんなものには興味はございません。 わたくしは主様の剣であり盾でございます、全ては主様の為に!)
嬉しいけど何だかね、怪しい宗教ちっくじゃない?
キングボアをストレージに仕舞いながら、くーちゃんに相応しい主になれるよう努力しないと!そう思った。