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第174話 ペアリングだね

とんでもない金額が転がり込んで来て本来は嬉しいはずなのに、どうやってリズたちにお金を受け取って貰うかで頭を悩ます事になろうとは思いもしなかった。

儲け過ぎってのも考えものね。

素直に小金貨12枚よ、やったね!で済めばいいけど済まないよねぇ、絶対。

これでも一応リズたちの言った通りに計算しての金額だからねぇ、はぁぁぁぁ。

リズもメロディもドロシーもさ、もっと普通にガメツイ子だったら事は簡単だったのになー。

みんなイイ子過ぎるのよ欲がなさ過ぎ。


っと、考え事しながら歩いてる間に孤児院の前まで来ていた。

いつものように勝手知ったる何とやらで一応「おはようございます。」とひと声かけてから中に入る。

スタスタと廊下を歩いていると子供たちが食堂からわらわらっと出て来るのが見えたのでその中の一人の女の子に声を掛けた。

ええっとこの子は確か絵が上手な子で名前は「オリーヴ」さんだったかしら。


「オリーヴさん、忙しい所申し訳ないんだけどドロシーを呼んで来て貰えないかしら?」


「ひゃっ! あ、使徒様! おはようございます!」


急に名前を呼んだもんだから吃驚させちゃったみたいでゴメンね。

そう言うと手を前に突き出して横にブンブンと振って「そんな事ありませんから、すぐ呼んで来ます!」とそう言って走り出して行く。

あっ、行っちゃった。

そんな慌てなくても良かったのに。

なんか悪い事しちゃったかなと思ってたらオリーヴさんが走って行った方向からドロシーがトテトテと駆けて来るのが見えた。

んふー、私のドロシーは可愛いなぁ。

息を切らしてやって来て私の真ん前に立つと嬉しそうに「オルカおはよう!」と言う。


「おはようドリィ。 ギルドの用事も早く済んじゃって暇だったから来ちゃった。引っ越しの準備終わった?何か手伝う事ない?」


「もう殆ど終わってる。だってそもそも個人の持ち物って殆どないんだもん、すぐ終わっちゃうよ。精々衣類が少しあるくらいかなぁ。」


「そうなのね。」


それを聞いてやっぱり孤児ってそうなのねと思ってしまう。

でもこれからはドロシーにはそんな思いさせないからね!

綺麗なお屋敷に住んで、綺麗なべべ着て、美味しい物いっぱい食べてさ、お金にも不自由させないよ。


「絶対に幸せにするから!」


「ふふ、ありがとう。それ二度目だね。」


そう言ってふにゃりと笑うドロシーだった。


「ああ、使徒様のなんと神々しいお姿……」


ドロシーの後ろで両手を胸の前でギュッと握ってうっとり顔でこちらを見ているオリーヴさんが居た。

ええっと、今の私の姿のどこに神々しい要素があると言うのかしら?

んん? 良く分からないんだけれど。

目に薄っすらと涙を溜め私を見ながら「オルカ様♪」と言うオリーヴさんの顔はまるで恋する乙女のようだった。


「使徒様、私頑張りました!」


ん?

頑張った? なにを?

私の考えている事が分かったのかオリーヴさんが「えっと、アレです。 侯爵家の依頼で絵を描いてたんです。」と言う。


ああ、アレ!


そうなのね、上手くいったんだ、良かったね。

そう言うと


「はい、会心の渾身の最高の出来だと思います! 執事さんも褒めてくれましたし。」


とオリーヴさんは満面の笑みで答える。

へぇ、グレイソンさんに褒められたなら大したものだわ。

将来有望ね。

前途洋々だ。

だったらもうウチじゃなくてそのまま侯爵家のお抱え絵師になるって手もあるんじゃない?

そんなに優秀な絵描きならグレイソンさんも放っておかないと思うんだけどなぁ。

そう言ったら「そんな事言わないで下さい」ととっても悲しそう顔で返された。

今にも泣き出しそうに目をうるうるさせながら懇願するように私の方をジッと見ている。

わわわわわ。

ゴメン私なんか変な事言っちゃった?

謝るから、ね。


「そんな意味じゃなくて、あわわわ、えっとね、良かれと思っただけだから。」


「私使徒様の所にお勤めしていいんですよね? 要らない子じゃないですよね?」


「ももも 持っち論!働いていいに決まってるから。」


「良かった。」


オリーヴさんは安堵したようにそれはもう嬉しそうに笑った。

ううむ、そこまでなものなのか?

私としてはそう思わなくもないが、ここまで喜ぶのだから当人にとってはそうなんだろう。

そんな風に思って貰えるんだから有難い事なんだと感謝しないとね。


「オリーヴは熱狂的なオルカ教の信者だから。」


そう言って苦笑するドロシー。

オルカ教?

なにその物騒な宗教は。

え、教祖は私?

は?

どうゆう事ですか?


「まぁ、この孤児院の子たちにとってはオルカは院長先生の更に上の女神様のお友達って事になってるからねー。そりゃあ崇め奉るのも無理ないよ。」


ええええ。

ドロシーの言葉に困惑してしまう。

しかしそれが当然だと言わんばかりに


「はい! ドロシーさんの言う通りです!」


ううむ、元気いっぱいだ。

しかも迷いが全くない、キッパリと言い切ったね。


「私一生使徒様について行きます! 何でもしますからお側に居させて下さい!」


そんなキラキラした目で見られると否とは言えない。

あ、はい。

ずい分情熱的なのね。

私とオリーヴさんのやり取りを見てドロシーはくすくすと笑っているし。

明日が引き渡し日で明後日から孤児院の子たちも私のお屋敷に来る事になるんだけど準備は大丈夫?って聞いたら「もういつでも大丈夫です!みんな今から待ちきれなくてそわそわしてるんですよー。」と言って笑ってた。

そっか、大丈夫ならいいの。

それじゃまた明後日ね。

そう言ってオリーヴさんと別れて私とドロシーは孤児院を後にする。

リズたちが住んでる家に向かう道すがらお昼用に屋台で何か買って行こうって話になって私たちは市場の方へ向かった。

メロディは沢山食べるだろうからいっぱい買わないとだ。

それとお肉も必須よね、あの子お肉大好きだし。

二人ともたぶん今夜は料理なんかしないだろうから晩ごはん代わりになる物も買って行ってあげよう。

そこそこの量の食事を買い込んでストレージに仕舞ったら、まだお昼には少し早い時間だったのでドロシーと二人で市場を周ってみる事にした。


そっと手を繋ぐ。

隣りを見ると薄っすらと頬を上気させたドロシーが私を見ていた。

目と目が合ってにこりと微笑む。

それだけで心が通じ合えたのが分かって嬉しい。

ふわりと気持ちが浮上してゆく。

ただこうやって並んで歩いてるだけなんだけどすっごく楽しい♪

たわいない会話を楽しみながら市場巡りをする。


「あ、可愛い。」


ドロシーがアクセサリーを並べて販売している屋台の方へ駆けてゆく。

こうゆう屋台で売ってるアクセサリーって基本的にお安いのばっかりよね。

あ、別に安物って言ってる訳じゃないの、だっていつ物盗りに遭うかもしれないのに高級品なんて危なくて売ってられないでしょ。

お客だって勿論それは承知してる、そうゆう物だと思って買う訳だしね。

お若い娘さんなんかがお手頃価格でお洒落を楽しむ為の物と思えばそれもアリよね。

整然と並べられているリングやネックレスを熱心に見ているドロシー。

時折左手で髪の毛を掻きあげながら顔を近づけて吟味するように真剣に見てるね。


「ね、折角だから指輪ペアで買おうか。」


そう言うと弾けるような笑顔で「ホント?!」と返事をしてリングを選び出す。

それはもう真剣に隅から隅まで1つ1つ手に取り吟味している。

私的にはまぁ言い方は悪いけどぶっちゃけどれでもいいのよね。

ドロシーが気に入ったのがあったならそれでいいの。

私は全てドロシーにお任せ。

そうして上から下まで並んでいるリングをじっくりと検分したドロシーは「これ!」と指さす。

OK!OK!


「オジさん、この指輪2つ頂戴。 はい、これお金。」


「あいよ。毎度ありー。」


私たちが選んでいる間声を掛けて来るでもなく急かすでもなくジッと待っていてくれた優しいオジさんがニコッと笑って手渡してくれた。

ドロシーが選んだ指輪を受け取ってその内の1つを右手の親指と人差し指でちょこんと摘まむ。

少しばかり緊張しながらドロシーの左手をそっと掴んで指輪を薬指に着ける。

上手く出来るかな?

そろりと左手の薬指を指輪に通す。

ドロシーはその様子を蕩けるような瞳でうっとりと見つめていた。

指輪をきちんと着けられたのを確認して私は「ふう」とひと息。

じゃ、次は私の番。

ドロシーが私の左手を取り指輪をはめてくれる。

これ前世と今世で2回目だ。

何回やってもドキドキするね。

そして二人して左手を目の前に持って来て指輪の嵌った薬指を見つめる。

嬉しくってニヘッとだらしなく笑ってしまう。


「ペアリングだね。」

「だね。」

「成人したらきちんとしたの贈るからね。」

「うん、待ってる。」


「ふふ。」

「なーに?」


「何でもない。嬉しくて笑っただけ。」

「変なオルカ。」

「あら、ドリィは嬉しくないの?」

「は? 嬉しいに決まってるじゃない。」


そ、そうよね。

そんなストレートに言われると照れちゃうな。

ええっと、こうゆう場合は何て返したらいいの?

こんな甘酸っぱいのって何か恥ずかしいね。


「オルカ顔赤いよ、耳まで赤くして可愛いんだから。」

「そう言うドリィだって真っ赤じゃない。」


私たちがデレデレモジモジイチャイチャしてるのを道行く人がニマニマしながら見ていた。

はっ!

見られてる。

その生温い眼差しはヤメテー!

これはめっちゃ恥ずかしい。

ドロシーの手を引っ張って逃げるようにその場を後にした私たち。


「これって婚約指輪みたいなもん?」

「そうだね、ふふ。 オルカに貰っちゃった♪」


そう言って嬉しそうに笑うドロシーが可愛くて可愛くて。

思わずほっぺにキスをする。


チュッ。


吃驚した様子のドロシーだったけどすぐに茹でだこのように真っ赤になり「キ キス…」とあわあわしだす。

それからドロシーは自分の左頬にそっと手を当てて唇の当たった所を優しくなぞってだらしなく笑っていた。



リズたちが住む家の前に着く。

中に人の気配はするからリズたちは居るみたいだね。

ドロシーを見るとまだ一人ニヤニヤと笑っている。

どうやら効きすぎたみたい。

これはドロシーは使い物なりそうにないなと思い私は中に居るリズたちに声を掛ける。


「おおーい、着いたよー。」


少し大き目の声で呼びかけながら扉をトントントンと叩くと中からこっちに歩いて来る足音が聞こえて扉がギギっと開く。


「いらっしゃい。お昼さん待ってたよ。」


開いた扉からひょこっと顔を出したメロディの第一声がそれかいっ!

確かにお昼買って持ってくって言ったよ、言ったけどさ、せめてアリガトウくらい言おうよ。

そう言うと「まぁメロディだから」とドロシーが苦笑する。

そうなんだけど、いつもこうだとお母さんちょっと心配ですよ。


「えへへ、オルカお母さんいつもすいませんねぇ。」


と悪びれる事なくシレッと言うメロディを後ろからリズが「油売ってないで早く片付けしなさいよー!」と大声で言ってる。

うん、これもいつもの光景ね。

なんと言うかまぁ、これが私たちの日常だからね。

なんやかんや言って私たちはこれで上手く回ってる訳だから。


「ほらほら、中に入るからね。」


そう言いつつ扉を開けてメロディの横を通って中に入ると……唖然とした、吃驚した、そして絶望した。

何なのこの惨状は……。

一体何をどうしたらこうなる訳?

ねぇ、これどうやって収拾つけるつもり?

そもそも二人暮らしでどうしてここまで酷い事になるのか理解に苦しむわ。

その辺りもちょっと説明して貰おうかな。


「で、これは片付けてるの?散らかしてるの?」


「「ゴメン。」」


どうもリズもメロディも片付けが下手なタイプの人種だったみたい。

居るよねーそうゆう人。

前世でも片付けの下手な後輩とか居た居た。

そうゆう子って大抵デスクの上に乱雑に書類が積み上がっててさ、仕事が雑で遅いのよね。

部屋の中の様子を見て小さくため息を吐く。

これは難儀だなぁとは思うけど、こうしてたって問題は解決しないからね。

やるしかない。


「ほらほら、チャチャッとやるよ。 4人でやればすぐ終わるから。」


私は腕まくりをして「フン!」と気合を入れる。

まずは足の踏み場を確保する所からだね。

そこからっ?!な状況な訳だけども一応解決策はあるにはある。

前世の日本の時代劇で良く見られた長持ちに似た木箱がこっちの世界にある。

取り合えず何でもかんでも全部それに突っ込んじゃえだ。

今は片付ける事が最優先で、まずはここを引き払う事を考えないとね。


「それでこの荷物はどうやって運ぶつもりだったの?」


「えっ、それは荷馬車借りて来る予定だったんだけど?」


そうなの?

この荷物の量だと何回も往復しないといけないんじゃない?

お金だって無駄に掛かっちゃうよ?

勿体ないじゃない。

ドロシーはどうするんだろう、孤児院の子たち全員分だと結構な荷物になっちゃうよね。

そう思って尋ねると、


「私たちも荷馬車借りるつもりだったよ。 孤児なんて自分の持ち物って最小限しか持ってないから何回か往復すれば事足りるかなって。」


いやいやいや、リズもドロシーもそんなの勿体ないって。

そんな事しなくていいから、私が運ぶよ。

朝、ここに来て纏めておいた荷物全部私の収納スキルに入れるから。

それから孤児院に行って子供たちの荷物も私が収納して持ってくから。


「そうしましょ。」


3人とも納得はして無さそうな顔してたけど一応理解はしてくれた。

合理的に考えたらそれが一番いいんだから頷くしかないもんね。


4人で一斉に片付けをしたら思ったよりも早く終わった。

陽が少し傾き始めた頃には綺麗さっぱりと片付き残っているのは普段着のワンピースと僅かばかりの日用品くらいの物だった。

じゃ、明後日迎えに来るから。


いよいよ明日はお屋敷の引き渡しの日だ!

午前の5の鐘にギルドに集合だからね、忘れちゃダメだからね。

そう言って私とドロシーは帰路についた。





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