第171話 イチャイチャと過保護な嫁バカ
気の置けない仲間と美味しい昼食をとった後、くーちゃんたちが帰ってくるまでの間のんびりとお茶を楽しんだ。
最近はずっと狩りばっかりしてから今日はゆっくりと休む日。
たまにはこうゆう日があってもいいよね。
え? 以前はこんな日ばっかで碌に狩りもしてなかっただろって?
それは言わない約束。
って、誰と約束したんだって話だけど。
「はぁぁぁ、もうお腹いっぱい。夕飯まで何もいらないやー。」
「でも夕飯はしっかり食べるんだ。」
メロディとリズの会話を聞いて思わず「ぷっ。」と吹き出してしまう。
まぁメロディだからね。
今日も平常運転だ。
因みに玉子サンドがあまりにも美味しかったのか余ってたら晩ごはん用に欲しいと言われたので残りを全部メロディにあげた。
ドロシーには今度はBLTサンド作ってあげるよって言ったら「それなに?」とメロディに食いつかれ結局明日もお昼ごはんを作る事になってしまった。
さすが食欲担当。
暫く後くーちゃんたちが大量の魔物を狩って持ち帰って来た。
うむ、こちらも平常運転の委細問題なし。
安定の長い魔物列車がやって来る。
これは良い収入になりそうで助かる。
今後お屋敷の管理とか使用人のお給金とか食費とか兎に角諸々いーっぱいお金が掛かるようになるからね。
稼げる時にしっかりと稼いでおかないと。
そう言えばお屋敷って今絶賛リフォーム中って話だけど引き渡しはいつ頃になるんだろう?
もうそろそろだとは思うんだけど。
それと使用人用のお仕着せとか食器類、リネン類、細々とした生活用品等とかどこまで用意すればいいのかな?
或いはどこまで用意して貰えるのか。
いい加減その辺の確認もしないといけない。
今日ギルドに戻ったらギルマスから聞いておいて貰えるようお願いしなきゃ。
明けて翌日。
今日も今日とて私たち「Rosy lilies」の4人は草原で狩りと言う名のお茶会を楽しんでいた。
くーちゃんたちも昨日に引き続き鍛錬と言う名の狩りを楽しむ予定。
私たちが居る場所は昨日と同じ場所、つまりこの近辺にはもう目ぼしい魔物は居ないのでくーちゃんたちは少し遠出すると言って駆けて行ってしまった。
まだまだ狩る気マンマンだ。
私は昨日ドロシーと約束したBLTサンドをストレージから取り出してテーブルに配膳している最中だったりする。
テーブルの上では簡易魔動コンロにかけられたティーポットがしゅんしゅんと湯気を吐き出している。
今日のお昼ごはんも宿の厨房を借りて作って来た。
作り方は至って簡単。
① トマトを薄めにスライスする
② レタスは手でちぎる
③ 薄切りベーコンを片面を普通にもう片面をカリカリになるまで焼く
④ 上下半分に切ったバンズの内側を上に向けて並べて1枚の片面にマヨネーズ、もう片面に粒マスタードを塗る
⑤ ④のマヨネーズを塗った面に②③①の順で重ねて粒マスタードを塗った面で閉じて出来上がり
ね、ね、超簡単でしょ。
「ドロシーこれも好きだったでしょ、食べて。」
そう言って笑いかけるとそれはもう嬉しそうに「うん♪」と微笑む。
ドロシーが嬉しそうに笑ってくれる、それだけで幸せ。
私の幸せはここにある。
ふぁ、ドロシーの笑顔が沁みるわぁ。
「じゃ、遠慮なく!」
そう言って誰よりも素早く手を伸ばしてメロディがパッとBLTサンドを掴んだ。
「あ、ちょっ、メロディ。」
リズの制止も聞かずにそのままパクっといって「んーっ、美味しいーっ!」と声を上げる。
あれ?
ドロシーよりも先にメロディが食べてる?
あっれぇー、どうしてこうなった?
「コラッ! ダメだったら。」
リズがメロディを咎めるもどこ吹く風と言う顔をして飄々としている。
あちゃーとリズが額に手を当て天を仰いだかと思ったら私の方を見て「ほんとゴメン!」と謝って来る。
いや、大丈夫。
怒ってないから、ただちょっと面食らっただけだから。
そう言ってドロシーの方を見るとドロシーも眉尻を下げて困り顔で笑っていた。
しゃーないよ、メロディだもん。
そう思えば腹も立たないしね。
これメロディだから笑って済んでるけどメロディ以外の人だったら大喧嘩の修羅場だよ。
「ん? どったの? これ美味しいよ、食べないの?」
と来たもんだ。
これには流石に3人とも声を出して笑っちゃった。
「メーローディー! あんたオルカに感謝しなさいよ!」
「勿論だよ。いつも美味しいごはんを有難う! 感謝してます! てイタタタタタタ!」
リズにこめかみをグリグリされて痛がるメロディさん。
ぷふっ。
まったくメロディはもう。
さ さ、食べようよ。
「「いただきます。」」
私とドロシーは手を合わせてサンドイッチを手に取った。
BLTサンドを両手で大事そうに持ち前歯で啄むように齧るドロシーが懐かしい味をゆっくりしみじみと堪能している様子がみえる。
それから小さくポツリと「この味。やっぱり美味しいなぁ。」と。
そう言って口元を緩ませて笑う。
元世界の味って懐かしいよね、それは良く分かる。
私なんてこっちの世界に来てまだたったの2ヶ月ちょっとなのにもう日本食が懐かしいもん、ドロシーはどれ程か想像もつかないよ。
まだ和食は作れないけど、お米はあるし味噌や醤油なら『創造魔法』さんにお願いしたら何とかなる気がする、海の魚はまだ手に入れてないけどそれが手に入ったら和定食が出来る可能性もあるしね。
そうなったらドロシー一緒に食べよ♪
そう言ったら「楽しみにしてるよ♪」って言ってくれた。
じゃあドロシーの期待に応える為にも頑張らないと!
「はい、ドリィあーん♪」
自分の齧りあとの付いた所をドロシーの口元に向けてBLTサンドを差し出すとドロシーは「えっ? えっ?」て慌てている。
その慌てる様子のドロシーがもう可愛いくて可愛いくて。
食べちゃいたいくらい。
ドロシーは顔を赤くしながらもその可愛らしい口を控えめに開けてBLTサンドに齧りつく。
はむっ。
そして
「美味しいっ!」
と、弾けるような笑顔を見せてくれた。
「ねぇ、ちょっとイチャイチャし過ぎじゃない?」
「だねー、何があったか聞かないけどなぁーにかがあったんだよねぇ?」
「あーん♪だよあーん♪」
「見せつけてくれるねぇ。」
ニヤニヤ笑いをしながらリズとメロディが揶揄いにくる。
くっ、何気にイラっと来るわね。
「べ 別に何もないわよ。」
「「へぇぇぇぇぇぇ。 何もないんだぁ。」」
分かってます的なしたり顔をする二人。
くっ、分かっててやってるだろ!
「はぁーもう何かお腹いっぱいごちそう様って感じ。」
リズがわざとらしくお腹を撫でながらニヤリと笑いそう言うと
「私もー、もうあと2つくらいしか入んないよぉ。」
と、のたまうメロディ。
いや、貴女それ2つ目食べてるでしょ。
そこから更に2つも食べる気だったの?
「食べ過ぎだって。」
呆れるやら可笑しいやらでもう笑うしかないわ。
でもこうやって皆で食べる食事って楽しいのよね。
幸せだ。
リズやメロディが居て、何よりドロシーが側に居る。
これだけでこの世界にやって来て良かったと思えるもの。
「みんな私の宝物。」
「「ん、何か言った?」」
「なに?良く聞こえなかった。」
「ううん、何でもない。」
こんな何でもない日常がいつまでも続くといいなと思う私だった。
翌日からはまたいつもの狩りをするこれまでのお仕事に戻る。
くーちゃんに獲物を探して貰いながら常時依頼の仕事をこなす。
おっ、どうやらくーちゃんが獲物を発見したようね。
耳をピコピコさせて探り私たちを案内してくれる。
「はっ! ドリィ危ない!」
私は盾になるように前へ出てドロシーをかばう。
「いや、それただのスライム。」
ええー、リズ何言ってるの。
スライムだって魔物には違いないのよ。
まぁ油断さえしなきゃスライム程度でどうこうなるとは思わないけどさ、けど万が一があるかも知れないじゃない。
万が一が起こってからじゃ遅いのよ。
「オルカ過保護過ぎ。」
「メロディも何言ってるの、慎重過ぎて困る事は何もないのよ?」
「そりゃそうかも知れないけど」と苦笑された。
ええー、二人とも分かってないなぁ。
自分の大切な人が怪我するかも知れないって思ったら何とかしてそれを回避したいと思うじゃない。
そうでしょ?
リズだってメロディに危険が及ぶかもしれないってなったら何とかしようって思うでしょ、それと一緒よ。
「それにしたってスライムは無いよー。」
「だよねぇ。」
「そんな事ない、スライムだって立派な脅威になり得るもん!」
「そう言われればそうだけど……」とやれやれみたいな顔をする二人と苦笑いするドロシーが居た。
ううむ、どうも私の気持ちが上手く伝わっていないみたい。
どうすれば上手く伝わるのかしら。
そのまままたくーちゃんについて暫く歩いて行くとお目当ての兎が居た。
リズたちが私が支給したベレッタ改2を素早く手に持って構え始めているのが見えた。
ドロシーはこれからベレッタ改2を構えようとしている所だった。
「ドリィ危ないから私の後ろに下がって!」
そう言って左手で私の後ろへ回るよう合図すると一瞬ポカンとした顔で「へ?」と言うドロシー。
「オルカまたぁ? 兎だよ、う さ ぎ 。」
「そうだよ、兎くらい今までだって散々狩って来たじゃない。」
「え、なに言ってるの。あれは兎は兎でも角兎じゃないの。角兎だって立派な魔物よ、あの角見た?運が悪いと当たり所によっては大怪我するかもしれないじゃない。」
「いやいやいや、それは子供とかの場合でしょ? 大人なら油断しててもそう大した事にはならないって!」
「そうだよー、兎は食べる物であって恐れるものではないよー。」
いやいやそんな事ない、慎重さを欠いては一人前の冒険者にはなれないんだよ?
私がさもそれが正解だと言わんばかりにそう言うと、
「兎如きに手古摺るようならそもそも論として冒険者に向いてないって話だよ。」
とはリズの弁。
それは、確かにそうだけど。
「そうだよー、リズの言う通り。 兎程度に苦戦するようなら冒険者云々以前の話だよぉ。」
くっ、リズとメロディの正論攻撃に反論出来ない。
これじゃあまるで私が駄々っ子みたいじゃない。
「ねぇオルカ、気持ちは嬉しいんだけどさ、流石に私でも兎如きにはやられたりしないよ?」
ドロシーまで!
なんて事なの、私のこの誠意が伝わらないなんて!
「私はね、ドリィに怪我して欲しくないの! 危険な目に遭わせたくないの!」
「オルカ……」
「ドリィ……」
ドロシーが潤んだ瞳で私を見つめる。
その瞳に応えるように私も気持ちを込めて見つめ返す。
「あー、なんか盛り上がってる所あれだけど、そもそも私たちオルカがくれた結界の魔道具身に付けてるから危険なんてこれっぽっちも無い筈なんだよね。」
「だよねー。オルカの作った結界の魔道具って確かバレットアントの攻撃も防げるんだよね? だったら中位の魔物の攻撃くらい余裕で防げる筈だし。」
「いや、それでも心配は心配だし……万が一があったらイヤだし。」
「「どんだけ過保護なのよっ!」」
えぇぇぇーっ!だって心配じゃない。
「こりゃダメだぁ。」
「うん、異議なし。」
「ドロシー愛が重い子だとは知ってたけど、まさかここまで拗らせてるとは思ってもみなかったよ。」
「オルカって親バカならぬ、嫁バカだ。」
二人とも酷い言い草だわ。
私はただドロシーが心配なだけなのに。
「嫁バカって……まだ結婚……。」
「なんで結婚しないの?」
「ドロシーが可哀想だよー。」
「え? だって私もドロシーも女の子だし。」
「関係ないよ。私たちも女の子同士だけど二人だけで一応それらしい事はしたよ?」
「んだんだ。」
はぁ?
こっちってそれOKなの?
マジ?
リズたちの話によると、どうやらこの国では女の子同士のそうゆうのはワリとよくある話なんだって。
初耳だ。
けどすごいわね。
進んでる?いや違うか寛容なのか。
元世界ではやっと認められ始めたばかりだってのにこっちでは普通によくある話とは。
ただ元世界とこっちの世界で違うのは、こっちの世界では法的には認められていないけれど世間的には容認されているって事ね。
なので女の子同士の家庭ってのもそこそこあるのだとか。
なるへそ、なら私とドロシーも夫婦になれるって事よね。
「ドリィ。」
「うん。」
「あのね。」
「うん。」
「えっとね…」
「うん。」
「私と…私と…」
「うん…うん。」
「やっぱダメ。」
「……。」
「「ヘタレ」」
「う 五月蠅い。」
私だって緊張するのよ!
大体貴女たちが見てるのにそんな恥ずかしい事出来る訳ないでしょ!
「ねぇ、オルカ。」
顔を赤くして熱に浮かされたように潤んだ瞳で私を見つめるドロシー。
ゴク。
ドロシーのあまりの色香に思わず生唾を飲み込む。
「な なぁに?」
やばっ、声が上ずっちゃった。
気付かれちゃったかな?
ドロシーが期待のこもった瞳で私を見てる。
うっ。
恥ずかしい。
い 言わなきゃ。
デキル女はここはここでバシッと言うものなんだから。
「あ ああ あのね…」
「うん。」
「今度ちゃんと言うから……」
「……。」
「「……。」」
((……。))
「な なによぉ。」
みんなして無言の圧力かけないでよ。
結局この日もまともに仕事にならなかったのでくーちゃんたちに狩りに行って貰った。
これで3日連続でくーちゃんたちのお世話になってしまっている。
今私のストレージの中にはくーちゃんたちが狩って来た魔物がわんさかと入っていると言う状況である。
つまりこれらを買い取りに出すとちょっと普通でない額のお金が転がり込んで来る事になる。
うん、正直いってマジで吃驚したわよ、ホント。