第17話 私テイマーになったよ
異世界に来て漸く仲間が!
お待たせしておりますが、初めての異世界人登場までもう少しお待ち下さい。
拠点に近づいた時私の『探知』さんに反応が出た。
感じからして少し大きい反応。
さっきのキツネや狼と似ているように思う。
私が拠点に着いたころ、その少し大きい反応が私の探知範囲の更に内へと入って近づいてくる。
ゆっくり、ゆっくりと。
なんだろう、警戒してる?
狼だったらヤバイよね。
反応は1つだけだけど相手は狼、油断していい相手ではない。
私は気を引き締め直しストレージから「ベレッタ92オルカ改」を取り出す。
スライドを操作し安全レバーのロックを外す。
遠くの方で草が揺れているのが見える。
藪の中を移動してるのか姿は確認出来ない。
……確実に近づいて来ている。
距離にして50mを切っている。
緊張が走る。
きっと来る時は近づいて一気に襲ってくるハズ。
私はもう1つベレッタを取り出し2丁拳銃に構え、撃鉄を起こしてその瞬間に備える。
緊張で喉がカラカラだ。
更にゆっくりと近づいてくる。
もう20mもない。
かなり用心深いわね。
動きが止まった……。
息を潜め様子を窺うけれどよく分からない。
普通これだけ近づけば反応ありそうなものなのだけれど、不思議な事に私の『警戒』が反応してないのよ。
どうしよう、これはどう判断したらいい?
危険はないと見ていいのかしら。
逡巡したのち私は意を決して近づく事にする。
細心の注意を払いながら、ゆっくりと、出来る限り音を立てないように忍び足で近づく。
一歩 また一歩。
近づく程に緊張感が高まっていく。
ドキドキする、心臓が早鐘を打つ。
ベレッタを握る手にも力が入る。
敵がいつ飛び掛かって来ても対処出来るように銃口を向けて準備しておく。
っ!……居た!
白い キツネだ。
さっき追われていたキツネで間違いないと思う。
怪我してるっ!
それも何か所も怪我をしていて白い被毛が所々赤く染まっている。
動かないのじゃなくて、動けないほど怪我の状態が酷いのか。
もう死んでる? まだ生きてる?
よーく見るとキツネの胸が弱々しくではあるけれど動いているのが見えた。
私はキツネの元に駆け寄る。
まずはこの怪我を何とかしなきゃ。
私はキツネに
「今治してあげるからね、もうちょっと頑張って。」
「ぐるるるる」
低い唸り声で拒否の意思を示すキツネ。
けれど身体を動かす事も出来ない程に弱っているのか抵抗はしなかった。
「治癒」
私はキツネに治癒魔法をかける。
一応念の為に重ねがけをしておく。
キツネの身体が淡い光に包まれて無数にあった怪我がみるみるうちに塞がってゆく。
これで怪我は治るはず。
良かった。
怪我が治ればキツネはどこかに去っていくだろう。
私はそれまでちょっとだけ見守っていればいいだけ。
あれ? まだ起き上がらない。
まだ怪我が治ってない?
なんで?
キツネを見ると呼吸が浅い。
「はっ はっ はっ」
胸が細かく速く上下に動いている。
これは相当に苦しそう。
見ているこっちまで苦しくなってきちゃう。
早く何とかしてあげたいけど。
とにかく情報が欲しい。
『鑑定』なら何か分かるかもしれない。
鑑定の結果、どうやらこの子は遺伝子異常の「アルビノ」ではなくて、キツネが魔物化した「白変種」のようね。
状態は……魔核損傷状態と出てる。
魔核損傷? それって魔石の事?
外傷は治ったけど魔核までは治っていなかったって事よね。
魔核ってどうすれば治せるの?
普通に治癒魔法をかけただけじゃ治せないんじゃ……。
あ、あの方法ならもしかしたら。
でも私に出来るかな?
ううん、この子を助けたいならやるしかない。
出来る出来ないの問題じゃなくて助けるんだ!
私はキツネの胸辺りにそっと手を当てる。
キツネがピクリと反応するも抗う力も残ってないようだ。
これは急がないと拙いわね。
「ごめんね、気持ち悪いかも知れないけどちょっとだけ我慢してね。」
私は出来る限り優しくキツネに語りかける。
今の私は『魔力操作』が使える。
この『魔力操作』を使い、私の魔力をキツネの体内に送って魔核に直接『治癒』を掛ける。
私の思い付きだけど、これなら魔核損傷も治せるんじゃないかしら。
薄く薄く引き伸ばした魔力をキツネの体内へと送り込む。
意識を集中させるのよ。
キツネの身体に負担にならないように、手早くそして確実に。
魔核が傷ついているせいで魔力の流れが乱れている。
私は乱れた魔力の流れを辿り魔核へと進む。
魔力の渦のような、小さな嵐のような魔力溜まりとも言うべき箇所が見つかった。
どうやらこれが魔核で、渦のようになって感じるのは魔核が傷ついて魔力が暴走しているからなのね。
この損傷を『治癒』魔法で治せればこの子も大丈夫なはず。
目的の場所が特定出来たので、その部分に私の魔力を集め始める。
キツネの魔核を優しく包み込むように私の魔力を纏わせる。
いつもの治癒よりも多めの魔力量で
「治癒」
傷ついていた魔核が、乱れていた魔力が治まってゆくのを感じる。
治癒をかけた私の魔力とキツネの魔力が混ざり合い新たな魔核が生成され、浅く速かったキツネの呼吸もゆっくりとした落ち着いたものになった。
どうやら上手くいったようね。
「ふう、良かった。」
気が抜けた私はぺたん座り、いわゆる女の子座りになって安堵の吐息をつく。
本当に良かった。
キツネはゆっくりと起き上がるとこちらをジッと見つめてきた。
特に敵意は感じない。
私の『警戒』さんも反応してないしね。
なら安心だ。
「ねぇキミ、怪我は治ったから森へお帰り。 今度は狼に襲われないように気を付けるのよ。」
私は微笑みながら優しく諭すように語りかける。
しかしキツネは私の側を離れない。
そっと近づいて来て鼻先から顔を私の身体に擦りつけて来た。
「きゅぅーん」
あれれ。 これって懐かれてる?
治療したのが私って理解してる?
恐る恐る手を伸ばしそっとキツネの横顔を撫でると、耳をペタンとし目を細めて気持ち良さそうな表情をする。
うん、間違いない。 完全に懐かれてる。
私の方をジッと見つめてくる。
まるで「助けてくれてありがとう。」そう言っているみたいだ。
なんと言うか、キツネの意識と言うか考えが分かるような気がした。
私は立ち上がって脚に付いた土をパンパンと叩いて掃う。
一度キツネを見てから拠点の方へ歩いてゆくと一緒に付いてくる。
ふふ、可愛い。
いつもの拠点に着いて適当な丸太に座ると、キツネも私のすぐ側でお座りをする。
「ね、ごはんにしよっか。」
怪我をした所は治癒魔法で治せるけど失った血液とかは戻せないからね。
食べて体力を回復しないと。
「お魚とお肉どっちがいい? え、どっちも?」
はいはい、分かりました。
今用意するからちょっと待ってて。
でもちょっと待って、確か人間の食べる味の濃い物って動物には良くないのよね?
だったら調理してない生の方がいいのかな?
いつものように土魔法で簡易竈を作ってメスティンでごはんを炊く。
メインディッシュは昨日の残りの兎のローストがまだ残ってるから私はそれを食べるとして、キツネさんには生の兎肉にしようかな。
どうせ食べるのなら同じ種類の方がいいもんね。
ごはんが炊けるまで何をして時間を潰そうかと思案する。
ふと、キツネを見るとせっかくの綺麗な被毛が血で汚れたままだった。
私は『洗浄』と『乾燥』の魔法をかけて綺麗にしてあげる。
「うん、綺麗になった。」
キツネも何処となく満足気に見える。
うんうん、余は満足じゃ。
ん? なになに。 名前を付けて欲しい?
いいの?
「私が付けちゃっていいの?」
どうも私に名前を付けて欲しいらしい。 キツネの気持ちが伝わってくる。
そっか、じゃぁ名前付けるね。
しばし考える。
キツネでしょ、真っ白でしょ。しかも住処が森だし。
だったらやっぱりアレかなぁ。
葛の葉。
なんかこれが一番しっくりくるよ。
よし、決まった。
「キミの名前は『葛の葉』よ。」
これから宜しくね、葛の葉。
そう言うと葛の葉の身体が光に包まれて変化し始めた。
「なっ! 何。」
身体が巨大化し、尻尾が2尾になった。
ルビーのような真紅の瞳、真っ白だった被毛はキラキラと輝く白銀の被毛になった。
そこらの狼よりもずっと大きい。
私は呆気に取られてただ茫然と眺めていた。
(主様、素晴らしい名前を賜りました事感謝申し上げます。)
「えっ、えっえっ!? 喋った?」
(念話で話しております。)
「念話?」
(はい。わたくしは主様の従魔にございますゆえ、主様とは念話で会話が出来ます。)
「へぇ~そうなんだ。 会話が出来るんだ、それって便利だね。」
でも今なんか引っ掛かる単語があったような……
(いま従魔って言わなかった?)
(左様でございます。 わたくしは主様に命を助けられました際に主様の従魔となった次第にございます。)
うーむ。 どうもね、葛の葉の魔核損傷を治すのに私の魔力でもって補ったのが原因みたいな?
契約とか何とかを全部すっ飛ばして、魂レベルでの結びつき?
なんかすごい事になってるんですけど?
葛の葉の尻尾がふぁっさふぁっさと左右に揺れてる。
「ねぇ、私なんかが主でいいの?」
(はい、もちろんでございます。 わたくしの主は貴女様をおいて他に居りません。)
言いきっちゃった。
尻尾が千切れんばかりに振られてるから嬉しいんだよね?
だったら、まぁいいか。
本人もそう言ってるんだし。
でもまぁ考えてみたら私ひとりぼっちだったし、これからこの世界で生きていく為にも仲間は必要だものね。
それに純粋に嬉しいし。
葛の葉のくーちゃん、これからよろしくね。