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第166話 キャンピングカーと謝罪

「今からお出ししますね。」


アリア様が右手をスッと上に上げてパチンと指を鳴らすと私が座っている場所の後ろ、四阿の周りの開けた一画に真っ白なキャンピングカーが現れた。


っ!!


キャンピングカー。

ルーフにはマックスファンが付いてるし太陽光発電パネルも乗っかってる。

なによりナンバーが私の車のそれが付いているんだもん間違えようもないよ。

嬉しくてちょっと間の抜けた顔をしている私を見てお二人はにこやかに笑っている。

立ち上がるとそろりそろりと近寄って行って真っ白な綺麗な車体をしげしげと見つめる。

あの時は北海道へ旅行中だったので、車体も少し汚れていたしフロントガラスには虫の死骸とかも付いていたのに目の前にある車はピッカピカに磨き上げられていた。

綺麗にして下さったんだ。


「アリア様ありがとうございます。」


心からするっと感謝の言葉が出て来てお辞儀をする。


「そんなお礼なんていいわよぉ。約束したんだものちゃんと探すわよぉ。」


頬を赤く染めてちょっと恥ずかしそうな照れたような顔をして横を向くアリア様。

照れ隠しなのかほんのりツンデレ風味なのがなお良し。


運転席を見ると、長距離を運転しても疲れないようにと交換した社外品のシートはそのまま付いていた。

勿論助手席も同じメーカーのシートを驕ってある。

ナビにETCも付いたままだ、まぁでもこれは流石に異世界では使えないわよねぇ。


「中も見てみます?」


早く中を見て欲しいとばかりにニコニコ顔で中を見るよう勧めてくる。


「ね、ほらほら。」


そう言いながらアリア様は私の横に立ちスライドドアを開けるよう促す。

なんだろう、それ程見て欲しい何かがあるのかな?

いや、違うか。もっと単純にただ見て欲しいだけのような気がする。

私は曖昧に笑いながらガラララッとスライドドアを開けるとそこは元の姿から何の変わりもないキャンピングカーの室内だった。

ただ、室内は綺麗に清掃されているし、空き缶などのゴミも綺麗さっぱり無くなって片づけられている。

私は入口から中を眺めていたんだけれどアリア様に中に入って確認するようにと言われる。

言われるままに私は靴を脱ぎ、脱いだ靴をシューズラックに入れて中に入った。

装備品はと言うと、冷蔵庫も電子レンジもFFヒーターもDVDレコーダーとそれを映すディスプレイも全部揃っている。

室内はリビングモードになっていた。

私はそっとソファに座る。

暫くぶりに座るソファは柔らかすぎず硬すぎずで程よい反発感のある私好みのソファだ。

ソファに座りながら室内をぐるっと見回すと、窓にはカーテンが纏められて端に寄せられているのが見えた。

室内天井にはLEDランプが設置されているんだけど、私は車内でPCを使いたかったのでLEDランプの数を増やして貰って明るくなるようにしてあった。

うん、特に変わりはないかな。


「ふふーん。実はね、この車にはすんごい秘密があるのよぉ。 聞きたいでしょ?」


秘密 ですか?

はぁ、まぁ聞きたいかと言われればそりゃあ聞きたいですけど。


「でしょう、やっぱり聞きたいわよねぇ。 うふふ、どうしようっかなぁ。 教えてもいいんだけど、やっぱヤメようかなぁ。」


これはアレですか、ちょっとウザいタイプですか?

教えてって言って欲しいんですよね?

意外な事にアリア様って面倒くさいタイプだったんですね。

聞いてあげた方がいいのは分かってるんだけど何かねー、アリア様のドヤッてる顔見てたら聞きたくなくなっちゃうわね。


どうしようかしら……。


私が中々聞かないもんだからしびれを切らしたアリア様は車の中に乗り込んで来て「ちょっとゴメンなさいねぇ。」と言ってドアを閉める。

ありゃ、社内に閉じ込められちゃった。

アリア様と二人っきりだね。

するとアリア様はニコッと笑ってスススーッと私に近寄って来る。

あ あの。

ちょっと近いですって。

ただでさえ車内は狭いんですからそんなに近づかなくてもいいのでは?

突然の事でドギマギしている私の横まで来て隣にストンと座った。


あ れ ?


ただ座っただけ?

ヤダもー、私ちょっとドキドキしちゃったじゃないのー。

アリア様はドアを指差しながら喋り始める。


「今からドアを開けます。 するとどうなると思いますか?」


ん?

そりゃあドアを開けたら外が見えるわよね。

普通そうだよね?

私がそう言うとアリア様は人差し指をピンと立てて「チッチッチッ、それが違うのよぉ。」と。

ちょっとイラっと来たのは内緒。


「このドアを開けると~」


アリア様がそう言いながらスライドドアをガラララーッと開けるとそこは廊下だった。


は?


廊下?

外じゃない?

は? は?


私が驚いているの見てクスクスと笑うアリア様がドアを閉めてまたすぐにドアを開ける。

すると今度は普通に外が見えた。


はあぁぁぁぁ?!


一体どうなってるの?

いや、今さっきドアの向こうはどこかの廊下だったよね?

なのに何で今また普通に外になってんの?


「どうなってんの?」


「こうなってんの。」


してやったりな顔をして笑うアリア様を見てるとまたイラっとして来ちゃいそう。

だーかーらー、それの説明を求めてるんです。

ジト目を向ける私の圧に若干たじろぐアリア様が説明を始める。


「さっきのアレはこの扉を空間拡張魔法で広げた空間に部屋を作ってそれを廊下で繋いだって訳。」


何かすごい事言ってるけどマジ?

空間拡張魔法?

そんな事可能なんですか?

物理的に無理があるように思うんですが。


「そうでもないわよぉ。ストレージだって空間魔法の一種だもの。」


私の問いに軽ーく何でもない事のように答えるアリア様。

更に追加で「部屋は全部で5部屋とお風呂とトイレも付いてるから長旅の夜も安心よ。」とはアリア様の弁。

廊下を挟んで左右に3部屋づつ並んでいてその内の1室分が浴室とトイレになっているとの事。

しかもこの拡張空間と繋いでいる時でも外からはドアは閉まったままなのだそうだ。

どうゆう原理でそうなのか分からないけれどそうゆう風に作ってあるのだとアリア様が仰ってた。

使い方は簡単で、元々のドアには付いていないレバーが付いているので、それをガッとスライドさせてドアを開けると拡張空間に繋がるしくみらしい。

うん、説明されても良く分からない。

アリア様の事駄女神様だとか言って小馬鹿にしてたけどアレは撤回するわ、やっぱり正真正銘の女神様なのね。

ちょっとでも疑ってゴメンなさい。


「今失礼な事考えてたでしょう。」


そそそ そんな滅相もなーい!

もー、イヤですわ。ほほほほ。


「まぁいいですけどね。 気を取り直して、この車にはまだまだアッと驚く秘密がありますからね! 聞きたいですよね? ね、ね?」


聞きたいですよね攻撃。

どうしても聞いて欲しいみたい。

キャンピングカーを回収して下さったんだから、まぁこれくらいはお付き合いしますけど……。


「ちょっとアリア! まさか忘れてないでしょうね! あ や ま る ん でしょ!」


「う”っ。」


「う”っ。じゃないわよ。 ほら貴女も子供じゃないんだからオルカさんにちゃんと謝りなさい。」


謝る?

アリア様が私に?

はて?

アリア様が私に謝らなきゃならないような事なんて何かあったかしら……


あっ、あれ。


間違って女の子に転生ならぬ転性させちゃったってやつですか?


「ぬ”っ。 そ それです。」


一体どこから声出してるんです?て感じで渋い顔をするアリア様。

それを横からツンツンして早く謝れと急かすミリア様に「ちょっとヤメてよ」とミリア様の手を払いのけるアリア様。


「ぐぬぬ……」


「ぐぬぬ じゃないわよ。ほら、早く!」


ミリア様に急かされ肩を落としながら私の方に向き直る。


「その……間違えちゃってゴメンなさい。」


そう言って深々と頭を下げるアリア様。

いやいやいや、女神様が人間に頭を下げるなんてダメですよ。

私ニンゲン貴女神族、そもそも存在としての格が違うんですからそんな簡単に頭を下げちゃダメですって。

私の方がいたたまれない気持ちになっちゃいますもん。

そんなのは言葉で謝罪するだけでもう十分ですから、ね。


「はい、謝罪を受け取りました。」


「え、そんな簡単に赦しちゃっていいんですか?」


いいんですよ。

当の本人が赦すって言ってるんですからいいんです。


「間違えちゃった性別は今世ではもう元には戻せなくて来世まで待たなくちゃいけないんですけど……」


「あら、まぁ。」


「あら、まぁ ってそんな軽く。」


だって間違えちゃったものはしょうがないでしょ。

誰だって間違いはあるもの。

それに今の暮らしもそんなに悪くないし、いえ、悪くないどころかかなり楽しいし寧ろウェルカムですけど。

可愛い女の子と合法的にキャッキャウフフ出来るなんて最高じゃないですか!

天国ですよ、極楽ですよ、桃源郷ですよ!

ありがとうございます。

ありがとうございます。

とーっても大事な事なので2回言いました。


「あ、でも1つだけちょっと気になる事がありまして。」


「す すみません。何かお気に障るような事がございましたか?」


いや、気に障るとかそんな仰々しいものではなくてですね、何と言いますか、あっち方面でですね……。

恥ずかしいのでアリア様の耳に顔を近づけて小声でこっそりと言う。


「どうしてちゅるちゅるで生えてないでしょうか?」


「へ?」


「いえ、下の毛っけが生えてないんですけど……あれ、何気に恥ずかしかったりするんですけど……。」


私は真っ赤になりながらも頑張って勇気を振り絞って聞いてみた。

すると、


「衛生面での問題ですね。」


それがどうした?と言う風に真顔で簡潔に返事された。

そう言えばリズたちもドロシーもそんな事を言ってたっけ。

こっちではワリと普通だよとも言ってたわね。

その時迂闊にも私は自分の考えに沈んで黙ってしまってた為に気付くのが遅れてしまった。


「だって、ほら。私も……」


そう言ってアリア様が自身のスカートを捲り上げようとしている姿に目が釘付けになる。


はいっ?


そしてミリア様に止められた。

チラッと見えたけど 白 だったわね、それも清楚系の。


「アリア貴女何やってるの!」


「何やってるって、論より証拠。見て貰えば分かるかなぁと思って。」


だからと言って女神様が自分のスカート捲るなんて前代未聞ですよ。

そんなの見た事も聞いた事もない。

論外の外ってやつですよ。


「だーかーらー、貴女のそういう所が迂闊なの!」


アリア様がミリア様にこれでもかとお説教されている。

さもありなん。

普通に考えて自分からスカート捲るなんてどうなのよ?って話だしね。

アリア様がこんこんとお説教されている間私はぬるくなったお茶をすすっていた。


あー、まだお説教続いてるぅ。


もうすぐ終わる?

キャンピングカーも返して頂いた事だし私そろそろ戻りたいんですけど?

いいですか?


え? ダメ?


理由をお聞きしても?


「もう1つお知らせしたい事があるの。」


アリア様に代わってミリア様が答える。

もう1つ?

まだ他に何かあるの?

不思議に思い小首を傾げる。

そんなに改まって言う程の何かあるのかな?

分からない。

一体なんだろう。


「これはね、本当に偶然だったのよ。」


「何か意図があってとかそんなんじゃないの。」と。

そこまでガッツリ前振りするって余程の事なのかしら?

まさか命に係わる事とか?

それは流石にヤダなぁ、転生してもうすぐ3ヶ月だけどこっちに来てまだたったそれだけだし。

出来る事なら3ヶ月かそこらでまた死ぬのだけは遠慮したいなぁ。


「ちょっと待って下さいね、今からこちらに呼びますから。」


アリア様はそう言ってからどこか遠くを見るようにして黙ってしまった。

今からここに呼ぶって言ってたよね?

呼ぶ?

誰を?

私の知ってる人?

なになになに、一体何がどうなってんの?

訳が分からなくて混乱している。

頭の中はハテナだらけだ。

アリア様を見ると何やらむにゃむにゃと言っている。




◆◇◆◇◆◇◆◇




ちょうどそのころ孤児院では。


この世界では夜は寝るもの。

平民の間では夜暗くなったら寝るのが一般的で、都市部よりも農村の方がその傾向が顕著だ。

夜を過ごす為の灯りとなる光源としては蝋燭か灯りの魔道具を使うのだが当然それには安くないコストが発生する。

現代日本のように煌々と明るい灯りを確保出来るのは裕福な商家か貴族くらいのもので、普通の一般家庭では仕事をする訳でもないのに灯りをつけっぱなしにするなんて言うのはお金の無駄としか言いようがないのだ。

普通の平民の家庭では夜は灯りをつけないか、或いは暖炉で燃える薪を光源にする。

冬場なら家族が暖炉の周りに集まって熱源と光源の両方を得るのが一般的なのだが、しかし今は夏場なので暖炉に火が入る事はない。

ならばどうするかと言うと、窓を開け月明りを光源にするのだ。

ここ孤児院も例外ではなく一般家庭と同じように過ごしている。

ただし、院長先生と、サラとパメラが相部屋で過ごす部屋だけは仕事をする事もある関係上灯りとして蝋燭を使っている。

ドロシーを含む子供たちは男女に分かれて数人づつが同じ部屋で複数部屋で寝ている。


夕方暗くなる前に夕飯を済ませた後は子供たちはそれぞれ部屋に戻り月明りを頼りに過ごす。

開け放たれた窓からは僅かな月明かりが差し込んでいて月明かりのある所だけが少しだけ明るい。

お喋りをする者、眠りにつく者さまざまだがドロシーは連日の狩りで疲れていたので早々に横になって休んでいた。

そうして夜も更けみなが寝静まった頃の事。

ドロシーは自分を呼ぶ声が聞こえたような気がして目が覚めた。

可笑しいな、気のせいだったかと思い寝ようかと思ったのだが月明かりに誘われるようにして中庭の方へと出てゆく。

折角の月明かりで外は明るいのだから少し月でも眺めようかと中庭のベンチに腰掛けてツイと顔を上げて月を見る。


(こんばんは、ドロシーさん。)


「誰っ?!」


ここは孤児院、盗みに入ろうとも金目の物はあまりない。

つまり物盗りが物陰に潜んでいるとは考えにくい。

ならば一体誰がと辺りを見回すが当然誰も居ない。


(私は女神アリア、後で説明しますからちょっとこちらへ御足労願えませんか?)


頭の中に響くように声が聞こえ更に慌てるドロシー。

キョロキョロと周りを見回したり後ろを振り返ったりしている。


(貴女の大切な(ひと)の事でお話がありまして。)


「大切な(ひと)? まさかオルカに何かしたんじゃないでしょうね!?」


(いえいえ、とんでもない。私女神ですので無辜の民に害をなす事はありませんよぉ。)


「自分で自分の事を女神って言う輩を信じろと? よりにもよってこの孤児院でアリア様の名を騙るなんてっ!!」


(いえ、ですから私本当に女神なのですが……)


「フンッ! どうだか。」


ドロシーご立腹である。

それはそうである、この孤児院では女神アリアを祀っている、それなのにその女神アリア本人から声が掛かるなど誰が思うだろうか。


(どうすればお分かり頂けますか?)


「信じるも何も早くここから出て行って!」


(分かりました。)


「最初っからそう言えばいいのよ。」


(手荒な真似はしたくは無かったのですが……えい♪)


女神アリアからが軽やかに掛け声を発するとドロシーの足元に魔法陣が浮かび上がり淡く光り出す。

突然足元に浮かび上がった魔法陣に驚き固まってしまうドロシー。

「これは拙いかも」と気付いて動こうとした時には既に遅く魔法陣は完全に起動してしまっていた。

そうなるとドロシーにはもう出来る事は何もない。

魔法陣が強く光り輝きぐにゃりと視界が歪むのを感じると同時に光に包まれた。

強烈な浮遊感の後に眩い光が薄れて視界が戻って来るとそこは素晴らしく手入れの行き届いた庭園で、どこかの貴族のお屋敷なのかと思ってしまったのも無理からぬ話だ。

ドロシーが降り立ったそこには四阿が建っており、その中に見知った顔があった。

見知った顔とは勿論オルカであり、その想い人の側に見知らぬ美しい女性が二人居るのが見える。

そして声を掛けられる。


「ようこそ、ドロシーさん。」


にっこりと微笑む女神アリアの姿がそこにあった。








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