第165話 神域にて
ここは神々やその眷属が住まう神聖な領域である。
その中のとある場所に女神アリアが居る居住空間がある。
その中でうんうんと頭を捻る女神が一柱。
「これをこうやって、ここをこれに置換すればいいのでしょうか?」
女神アリアはオルカのキャンピングカーを見つけ回収した後もまだオルカに連絡出来ないでいた。
回収したキャンピングカーが壊れていないか事細かに隅々までじっくりと自分が納得出来るまで確認しないといけない!と言う尤もらしい理由をつけては引き延ばしていたりする。
そう、ただ単にオルカに合わせる顔がないと言うそれだけで会うのを引き延ばしているにすぎないのだ。
そうやってダラダラとしている内に下界時間で2日が過ぎようとしていた。
今日こそ、明日こそと思っている内にこのざまである。
ただ無駄に悩んでいた訳ではなく、ガソリンを燃やして動く内燃機関であるエンジンはガソリンが精製されてないこちらの世界では使えないのでそれに代わる新たな原動機として魔力駆動するシステムを考案してそれに置換していたりする。
それはとんでもない画期的な発明で、本来なら女神が関与するのは良しとされない事柄なのであるがオルカに会うのを少しでも引き延ばしたい一心で開発し搭載してしまった。
地球の科学と魔法の融合した究極の工業製品である。
「他にはもっと何かないですかねぇ。」
まだもっと他に出来る事はある筈だ、もっといい案がある筈だと頭を捻る女神アリア。
「まだウジウジして悩んでるの? その探し物ってもう見つかったんでしょ? だったらすぐ渡せばいいじゃない、それでついでに謝っちゃえば済むのに。」
女神ミリアの弁である。
至極尤もな話である。
誰が聞いてもその通りだと言うだろう。
しかしまだ踏ん切りがつかない女神ミリアはこうしてあれやこれやと策を弄していると言う訳だ。
「また来たの? 姉さんヒマなの?」
「ええ、とってもヒマよ。だからこんな楽しそうな事逃す手はないわ。」
「もー、茶化すなら帰ってよぉ。私忙しいんだからぁ。」
「忙しいも何も、だったらそれすぐに渡しちゃいなさいよ。そうすればすぐにヒマになるわよ。」
そうれはそうなんだが分かってはいるんだがと思う女神アリア。
「でで でもホラ、どこか壊れてるかもしれないし。確認しないと。」
「それ一番最初に言ってた。」
「地球の技術ってこっちでは使えない物が多いから、それ使えるように何とかしないと。」
「それももう解決してるでしょ? それも見たわよ。」
「うーっ!」
女神ミリアの正論そのものである。
「まだ何か出来る事があるかも?!」
「そうやってズルズルと引き延ばすつもりなのね? いい加減覚悟決めたら?」
そんな事言われなくても分かっているのよ、そう叫びたくなるのをグッと堪える女神アリア。
そしてそこから知恵を絞りに絞り、言い訳をし、こっちの世界でもキャンピングカーが使えるようにと魔改造を繰り返した結果さらに2日が過ぎた。
流石にこれには女神ミリアも呆れてしまう。
「まさかアリアがここまで意気地なしだったとは……。」
女神らしからぬジト目で女神アリアを見つめていた。
「だってぇ。」
「だってじゃありません! んもう、しょうがない妹ねぇ。 もう十分引き延ばしたでしょ? 今から渡してしまいなさい!」
「明日……。」
「はぁ?」
「明日にする……。」
「はぁ、分かったわ。私も一緒についててあげるから明日必ず渡すのよ!いいわねっ!」
「はい。」
どこまでもヘタレな女神アリアであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
私たち「Rosy lilies」はここの所ずっと狩りをしている。
くーちゃんたちにお願いすればこれでもか!って程の魔物を狩って来てくれるんだけど、それだとダメだ、何もしないでくーちゃんたちに狩りをさせて上前だけピンハネするような真似は出来ないとリズたちが言うのでここ最近は4人でしっかりと狩りをしている。
冒険者としてはそれが当たり前っちゃ当たり前なんだけど、私はずっとソロでやって来てくーちゃんたちにおんぶにだっこだったから自分で狩りをするってのがちょっと変な感じなのよね。
ただ、みんなで一緒に狩りをする事で少なからず連携も上手くなって来たように感じる。
くーちゃんたちに頼れないから稼ぎは少なくなったけど、でもその代わり充実感と達成感は今までに増して得られるようになった。
今日も私とドロシーは慣れない剣を振り回し魔物討伐をこなす。
本当は私は近接戦闘より魔法攻撃の方が得意なんだけどそれだとダメだからと身体を張った近接戦闘を練習している。
私たちが狩りをしている間はくーちゃんたちは近くで周りを警戒しながら私たちを見守っていて、危なくなるようなら助けてくれる事になっている。
でも私たちのお守りばかりだとくーちゃんたちもストレスが溜まるだろうから、たまには思いっ切り狩りを楽しんで貰ってストレス発散させてあげないととは思っている。
そんなこんなで心地よい疲れを感じながら宿に戻る毎日を過ごしている。
うん、これはこれで充実感があっていいもんだね。
朝起きてギルドへ行ってそれからお仕事、夕方になったらお仕事終了の報告をギルドにして宿へ帰る。
これが私の日常。
今日も今日とて美味しい夕飯を頂いてお風呂に入ってスッキリさっぱり。
女の子だもん、汗臭いのはちょっとね、やっぱ気になるし。
さて、今日は久しぶりにアレしてムフフって頑張っちゃおうかなぁ。
お風呂では石鹸で体中ピッカピカに磨き上げてお風呂上がりにお気に入りのセクシーなランジェリーを着ける。
結界と消音の魔道具を起動したら、ストレージから姿見を取り出してベッドが映るようにベッドの横に設置してっと。
あんまり明るいと落ち着かないのでムードを出すために灯りの魔道具の光量を少し落としてほんの少し暗くする。
姿見に映るようベッドの端にちょこんと腰かける。
パステルカラーのパジャマを着た私が映っている。
こうやって見ると中身はオッサンでも見た目は年相応のとても可愛らしい美少女である事は疑いようもないわね。
我ながらその少女以上大人の女性未満と言うアンバランスな色気と言うか色香にクラクラしそうだ。
私はパジャマのボタンに手を掛けゆっくりと焦らすように上から1つづつ外してゆく。
1つ、また1つ、前開きのパジャマのボタンを外す毎に中の素肌がチラリと見える。
私は立ち上がるとパジャマのズボンに指を掛けするりと下ろす。
すると色白のスラリとした細すぎない程度に筋肉のついた美しい脚が見える。
姿見に映る今の私の姿は「えっちだ」のひと言に尽きる。
ズボンを脱ぎパジャマの前を開くと、そこにはシミ一つない張りのある白い肌におよそ少女が身に着けるに相応しくないないような色っぽい黒い下着の中にみっちりと詰まった豊かな双丘を持つ美少女が映っている。
大人の女性が身に着けるのならそうでもないのかも知れないけれど、私のような少女が着けるとそれは背徳的と言うか蠱惑的と言うか何とも表現し難いえっちさがある。
鏡に映る自分の顔を見ると熱に浮かされたようにトロンと蕩けた淫靡な表情をしていた。
私いますんごいエッチな顔してる。
もうダメ 早く……
そう思ってベッドに腰掛けて手を伸ばそうとした所で思わぬ邪魔が入る。
(オルカさぁん、聞こえてますかぁ?)
ビクッとなって肩がひょこっと上がる。
誰っ?!
どこから声が聞こえた?
吃驚してキョロキョロと辺りを見回すが当然誰も居ない。
「誰も居ないよね?」
ちょっと怖い、私しか居ない筈の部屋で自分以外の声が聞こえる、しかも女性の声だったし。
(もしもーし! 聞こえてたら返事して下さぁい。)
やっぱり聞こえた、間違いじゃない!
誰?
誰なの?
(あ、私です、女神アリアですぅ。)
は?
女神様 ですか?
(はい。 オルカさんに用事がありまして、ちょっとこちらまで来て欲しいのですが。)
え? 来て欲しい?
何処へ?
え? え?
(では転移させますので。 えいっ♪)
女神様の可愛らしい声が響く。
あ、ちょっと待って!
私まだズボン穿いてないぃぃぃ!
ベッドの上に置かれたままのズボンを取ろうしたけれどもう遅かった。
私の足もとに薄っすらと光を放つ魔法陣が浮かび上がっているのが見える。
その魔法陣が強く光り出すとぐにゃりと視界が歪むのを感じるや否やまばゆい光に包まれ強烈な浮遊感を感じた。
浮遊感が治まると履物を履いた足の裏にしっかりとした硬い地面の感触を感じ、眩しさにくらんだ目が落ち着くとそこは一面真っ白な世界だった。
真っ白な世界なのに何故だか分からないけれど前後や左右、上下は分かる。
その真っ白な空間にも空があり、光が差し陽の光の暖かさを感じ風がそよそよと吹いているのが分かった。
ここは……そうだ、あそこに似ているんだ。
女神様が御座すであろう神様の領域、すなわち神域なのでは?
「ようこそオルカさん、直に会うのは初めてですね。」
目の前に現れたのは輝くような白銀の髪色をした私にそっくりな女性だった。
いえ、それは流石に不敬ね。
今の私は私の肉片と女神様の身体の一部が合わさって出来ているのだから、女神様が私に似ているのではなくて私がアリア様に似ているのだと理解する。
間違いない、この御方が女神アリア様なのだわと。
およそ人ではあり得ないような神々しいまでの存在感に畏怖の念を抱かずにはいられない。
私はそのまま跪き頭を垂れる。
「楽にしていいですよ。 どうぞお立ちになって。」
いいのかしら、不敬になったりしない?
私の不安が伝わったのかアリア様は優しく微笑みながら「問題ありませんよ。」と仰って下さった。
「所で、どうしてそのような破廉恥なお姿なのでしょう?」
ぶはっ!
やややや、ヤダもー。
だって丁度これからイタそうかと思ってた時に呼ばれたもんだからズボンを履き直してるヒマがなくて……。
「アリア様の御前でお目汚し申し訳ありません!すぐに履きますので!」
そう言って慌てて替えズボンをストレージから取り出そうとするも取り出せない。
ストレージが何の反応もしない。
なんで? どうして?
それで余計にアワアワしているとアリア様が説明してくれた。
ここ神域では許可を得た者でなければ例えそれが誰であろうと一切のスキルや魔法は使えないんだとか。
だから私がスキルを使えなかったのは当然なのだと。
そ そうなんですね。
「それでは私がお持ちしましょう。 えいっ!」
アリア様はピンと人差し指を立ててそれを反時計回りにクルリと回してトンと空を叩くような仕草をすると目の前に宿の部屋で脱いだまだほのかに温かいパジャマがふわりと私の手に落ちて来た。
すごっ!
流石女神様。
「さぁ、どうぞお履きになって。それから コホン……そのたわわなお胸も仕舞って下さいね。」
恥ずかしい!
とっさにバッと前開きのパジャマを閉じる。
うー、恥ずかしさで今顔真っ赤かも。
私は手早くパパっと乱れた服装を整えた。
神域に転移して来てから多少バタついたけれどこれでようやっと落ち着いて話が出来る。
でも私に用事って一体何なんだろう?
心当たりがまるでないんだけど?
私が疑問に思っていると突如アリア様のすぐ隣にとても美しい女性が現れる。
「あらぁ、貴女がオルカさんね? こんななーんにも無い所へようこそ。」
私は呆気にとられ「あ、はい。そうです。」とその返事はどうなんだ?思わなくもない可笑しな返事をしてしまった。
「それになぁに、アリアったらお茶のひとつも出さないで話をしようとしてたの?」
「お茶は今出そうかなって思ってたの! それよりこんな所は酷くない?私たちの住んでる所って多少の違いはあっても大抵こんな物よぉ?」
気の置けない友達然とした二人の会話。
ええっとお二人はお知り合いという事で宜しいですか?
アリア様は存じ上げておりますが、そちらの方は……恐らく……いや、まぁ女神様で確定でしょうけどね……どちら方面の女神様なのでしょうか?
「紹介が遅れてごめんなさいね。私はこの子の姉で闇の女神ミリアよ。宜しくね。」
そう言って軽い感じでパチンと左目でウィンクするミリア様。
アリア様のお姉様のミリア様?
「えええぇぇぇぇぇぇっ!!」
ちょ、ちょっと待って。
今目の前には女神様が二柱もいらっしゃるって事?
ウソ、マジで?
こんな事ってある?
「あるのよ。マジもマジで私たちは姉妹なの。」
私の心を読んだのだろう、ミリア様から返事が来る。
「ちょっと姉さん、オルカさんが吃驚しちゃってるでしょう。」
「ねぇアリア、いつまでお客様を立たせておくつもり?」
ニッコリと笑うミリア様の迫力がすごい、笑っているようで目が笑ってないよ。
しかも抑えてても漏れ出て来る女神様の圧が半端ない。
「すぐ用意するわ。」
慌ててアリア様が中指と親指でパチンと音を鳴らすと一瞬で目の前にテーブルと椅子が4脚とティーセットが置かれた四阿が現れる。
そしてそれまで真っ白な世界だったのが急にまるでどこかの庭園かと思うような色鮮やかな風景に様変わりした。
「うん、こんな物ね。」と満足そうに頷くアリア様。
「さ、まずは座りましょう。」
そう言ってミリア様が椅子を勧めて下さる。
「失礼します。」と言いながら椅子を引き着席する。
えっと、そんなにジッと見られると緊張しちゃいますね。
ちょっと照れてしまう。
「それにしてもアリアとそっくりね。髪色を白銀から黒に変えるとアリアがこんな感じになるのね。」
あ、でもそれは私の身体にはアリア様の身体の一部が使われているからでって……これは言っても大丈夫なのかしら。
なんか不安なので言わないでおこう。
けれど私の心配をよそにアリア様が「大丈夫、姉さんは知ってるから」と。
そうなんですか?
なら大丈夫なのか な。
ミリア様を見ると、なるほど確かにアリア様と良く似てらっしゃる。
姉妹と言うのも頷ける。
その妖艶な美しさに見惚れてしまい「ほえー。」と気の抜けたような声が出てしまっていた。
そんな私を見てミリア様がクスリと笑う。
「オルカさんには私の身体の一部を使ってる訳ですしぃ、私たち姉妹に似て来るのもまぁそれほど不思議ではないですから。」
アリア様の言葉にミリア様も「それはそうよね。」と頷いている。
「オルカさんを大人にして色気マシマシにしたら姉さんみたいな頼れる女!になるのねぇ。」
「ミリアはオルカさんの髪色を白銀にして少し幼くした感じ?」
「いつもそうなのよね、私って年増女に見られる事が多くって。」
「私は頼りなく見られる事が多いのよぉ。」
「「「はぁぁぁ。」」」
女神様も色々とあるのね、なんだか親近感が湧いてきちゃう。
でもですね、お二人とも人間のそれは全然違って神々しいまでにとてもお美しいですよ、ホントに。
私みたいな普通の人間が直接お目にかかるのも不敬なんではと思ってしまうほどにはね。
「別に不敬ではないですよぉ。ただ滅多に人前には出ないだけですからぁ。」
「そうね、でも貴女にそう言って貰えると嬉しいわ。」
ええっと、ミリア様とアリア様にそのように見つめられて笑顔を向けられるとドギマギしてしまうんですけど。
流石にちょっと照れますね。
そう言って「えへへ」と笑う私をお二人は優しく見ていた。
「こうしてても何だから、ミリア例のアレ見つかったって教えて差し上げないと。」
例のアレ?
アレ?
なんだっけ?
あっ、もしかして。
「探しておくって約束していた車ですが見つかったので回収しておきました。」
そうなんですかっ?!
ヤッタ!
もう殆ど諦めてたので見つかるなんて思ってもみなかった。
だから車が見つかって嬉しいなぁ。
アリア様が優しく微笑んで「今から1回お出ししますね。」と右手を掲げた。