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第162話 魔動洗濯機と兎狩り

2日間続いた雨もくーちゃんの予想通り3日目の朝にはカラリと上がった。

さっすが私のくーちゃん、まるで現代日本の天気予報並みね。

朝食堂に行くと今朝は沢山のお姉さん方が楽しそうにお喋りしながら朝食を摂っていた。

2日間も雨が続いてその間仕事が出来なかったからね、今日はその休んだ分を取り返す日にするべくみな気合が入っている。

しっかりガッツリと朝ごはんを食べて今日は休んだ分は稼がないとね。


「おはよー!」

「おはようございます。」


いつもの面々に朝の挨拶をして私も席につく。

するとタイミングを計ったように給仕の女の子が朝食を持って来てくれる。

ほんと気の利く子ね。


「おはようございます。朝食をお持ちしました。」


「おはよう。 ありがとうね。」


目を細めて笑いながら私がそう言うとポッと頬を染める給仕の女の子。

んふっ。

可愛いんだから。

朝から可愛い女の子の笑顔って最高のご馳走よね。

心が豊かになる、満たされるわ。

さぁ、今日も1日頑張るぞーっ!



気合も十分、ヤル気に満ち満ちて冒険者ギルドへ向かう。

私の方がリズたちよりもギルドに近い分先に着くのは大抵私の方だ。

ギルドに着いて辺りを見回すもまだ誰も来ていないのでギルド入り口前で待っていると通りを歩いて来る3つの影が見える。

あ、来た来た。

見知った顔が3つ近づいて来るのを確認する。


「おおーい、おはよー!」


「あ、オルカだ。もう来てる。」

「「「おはよーっ!」」」


3人が笑顔で手を振りながらこちらへ歩いて来る。

んふー、可愛いなぁ。


「私の可愛い構成員ちゃん、よく来たわね。」


「いや、何それ。」

「オルカ朝から頭腐ってる?」

「893みたいだからヤダ。」


何よノリ悪いわね。

ほんの冗談じゃないの。

ちょっとは付き合いなさいよ。


「そんなのはいいから。」

「そうそう、今日の仕事はどうする?」

「あ、私は今日はヤメとこうかなって。子供たちの洗濯物が溜まってるからそれ片づけようと思って。」


えーっ、ちょっとは私に付き合ってよー。

みんな真面目ちゃん?


「ドロシーはダメかぁ、だったら私も孤児院行って手伝うよ。」

「じゃあ私もリズに同じ。お洗濯手伝うよ、あれ重労働だもんね。」

「そう? 2人ともありがとう。」


あ あれ?

何か私抜きで話が進んでない?

ね、私は?

私ここに居るよ?

ほら、ほら。

一応これでもパーティーリーダーだし、お肉なら今もいっぱい持ってるし、ね。


「「「じゃあ私たち孤児院に行くねー。」」」


えっ。


ちょっと。


マジで?


私置いていかれちゃう?


「ちょっと待ってよー! 置いてかないでってばーっ!」


「「「ぷ。」」」

「もー、泣くほどの事じゃないじゃない。」

「よちよち、メロディお姉さんが慰めてあげよう。」

「これに懲りたら変な事言っちゃダメだからね。」


ちくせう。

まるで私が駄目な子みたいじゃないの。

そんな訳で私も一緒に孤児院に行く事になった。



孤児院に着くとすぐにお手伝い開始。

私はまずは厨房へ行ってお肉を置いて来る。

なんたって食べ盛り育ち盛りの子供たちが沢山居るからね、子供たちの成長の為にもたんぱく源の確保はとても重要。

お腹いっぱいお肉を食べて欲しいからね。

さて、これで私のやるべき事は1つ片付いた。

次はリズたちの所に行ってお手伝いだね。


子供たちはみんなで役割分担して教会の掃除組、孤児院の掃除組、庭の掃除組、洗濯組とそれぞれが忙しく動いている。

リズたちが手伝っている洗濯組に参加すべくそこへ向かう。

あ、居た居た。

数人の女の子たちと一緒にリズたち洗濯に勤しんでいるが見える。

良く見ると結構な量の洗濯物だわね。

真夏と言う事もあって汗をかく、その汗を吸った衣類が山と積まれるとさすがに臭いがすごいね。

孤児院だとお風呂なんて物はないからせいぜいが水で身体を拭くくらいしか出来ない。

着ている服も替えないといけない、下着も替えないといけない。

それが孤児院の子供の数だけ。

うん、そりゃ大量の洗濯物が出る訳だよ。

前世でルカと二人で生活してたけど、たった二人ですら油断するとすぐに洗濯物がいっぱいになったものだもん。

2日も雨が続けばこうなる訳だよね。

リズたちがテキパキと指示を出して子供たちに仕事を割り振っている。

今ここに居るのは全員女の子ばかり。

理由は簡単、女の子の方が仕事が丁寧だから。

男の子にやらせると雑に力任せにゴシゴシやって数少ない大事な衣類を痛めてしまうから。

最悪破れていまう事もあるって言う。

そこへ行くと女の子は衣類の状態を見て適切な力加減で洗うので衣類の持ちが長くなる。


「あんまり強くゴシゴシやっちゃダメだよー。」

「そうだよー、水で洗って落ちなかったらこの石鹸を使うのよ。」

「洗い終わったらこっち持って来てそこに置いておいてね。」


リズが、メロディが、ドロシーが指示を出している。

でも見てるだけでも大変だってのが分かる。

これは今日1日では終わりそうにないな、そう思ったので私も参加する。

子供たちとお喋りをしながら結局殆ど1日洗濯だけで終わった。

まぁ洗濯だけしてた訳じゃなくて、厨房へ行ったり院長先生へ挨拶したりしてたんだけど。

思ったのはやはり手で洗濯って大変だって事。

昔の人は良くこんな辛い作業をしてたもんだなって感心する。

けれどこっちの世界ではそれが普通、当たり前。

平民はみなお洗濯って言えば手でゴシゴシと洗う物と相場が決まっている。

聞くと洗濯の魔道具と言う物があるらしい。

ちょっと深めの盥型で水を張って洗濯物入れて後は中で洗濯物がグルグルと回るだけって言う魔道具。

汚れ落ちはまぁそんなもの……らしい。

それでも手でやるよりは遥かにマシだし早いし特に冬場は冷たい水に手を入れなくていいだけでも助かるのだとか。


「あー、洗濯の魔道具ね、あるのは知ってるけど見た事はないかな。ここにはないよ勿論。あったらわざわざ手で洗ってないでとっくにそれ使ってるって。そんな高価な物、裕福な商家か貴族のお屋敷にしかないんじゃない?」


リズが一生懸命手を動かしながらそう言う。

じゃあ洗濯機作ったら子供たち喜んでくれるかな?


「じゃあ洗濯の魔道具作って来るよ。作ったら子供たちも少しは楽出来るよね。」


「はぁ? まぁオルカだしね。なーんかやらかしそうではあるね。」

「どうせまたやり過ぎちゃった♪とか言うんでしょ。」

「「「有り得るー。」」」

「けどまぁ、作ってくれるんだったらそりゃ子供たちは助かると思うよ。」


だよね、今は夏だから逆に水が冷たくて気持ちイイかもしれないけど、これが冬になると肌に突き刺すような冷たい水で洗濯物を洗わないといけないとか考えただけでも大変だよ。

それが洗濯機があれば冬に冷たい水に手を入れなくても済むだろうし、洗濯を機械がやってくれればその空いた時間を別の事にも使えるしね。

腕力のない子供でも洗濯が出来れば大きい子たちが街の雑役仕事をしてお金を稼いで来るとかも出来るし。

洗濯の魔道具があるだけでこれまでの生活と比べて随分と変わると思うの。

だったら作らない手はないよね?

なのでこの日は宿に帰ってすぐに洗濯の魔道具を作る事にした。

仕様は元世界の縦型洗濯機みたいな感じなのを作る事にした。

ちょっと大き目の、元世界なら縦型12kgタイプとか言われるタイプのだけど、孤児院には沢山の子供たちが暮らしてるからね、12kgタイプよりも更に大きいのを作る事にした。

動力は魔石に溜めた魔力。

この世界の人間はみんな魔力を持っているのでそれを動力源とする。

毎日子供たちが洗濯機に手を当てて魔力を補充すれば使えるようにする。

本当は魔動乾燥機も作ってあげたいんだけど、魔道具って大きくなればなるほど必要とされる魔力が増えるんだよね。

魔法が使えない人の魔力はとても少ないって言われてるから洗濯機と乾燥機の2つもあると子供たちだけじゃ魔力供給出来ないんじゃないと思って。

だから当面は魔動洗濯機だけで様子を見る、それで大丈夫そうなら乾燥機はその時にまた考えればいいんだしね。

ついでと言っては何だけど、今度頂く事になるお屋敷には孤児院の子たちを大勢雇用する予定だしそうすると洗い物も沢山出るよね?

なのでお屋敷で使う用にもっと大きな魔動洗濯機を作っちゃおうかなと。

使用人として働いてくれる子たちが少しでも楽に快適に仕事が出来るようにしてあげたいし。

容量は大体50kgくらい?の業務用の全自動洗濯機みたいな感じの特大のを考えてる。

これには主に屋敷内のタオルやシーツと言ったリネン類を洗う。

それとは別に孤児院にプレゼントするのと同じのを2つと乾燥機を2つも作る予定。

この内洗濯機と乾燥機を1つづつ使用人用として提供しようかと思う。

と言う訳で早速作りましたよ。

私は魔力ならいっぱいあるからね、難しい機械部分とかモーターとか知らなくても『創造魔法』さんにかかれば魔道具作製なんてお茶の子さいさいよ。

自分家で使うのは人間魔力庫の私が居るから大きい魔石バッテリーを搭載しても安心。

翌日私は魔動乾燥機をストレージにしまって意気揚々と孤児院へと向かった。



「「すごーい!」」

「これなに?これなに?」

「私知ってるよー、これは魔道具って言うんだよ。」

「そんなの見れば分かる!だからこれは何の魔道具なんだよ?」

「知らない。」

「お姉ちゃん、これなぁに?」


おお、子供たちがすごい食いつきだね。

ふっふー、聞いて驚くのだよ。


「これはお洗濯用の魔道具です!」


どや、エッヘン。


「そうなんだ。」

「なんだ、洗濯か。もっとカッコイイの期待したのに、期待して損した。」


あれ?

何か反応がイマイチじゃない?

お洗濯が楽になる機械よ?

これあったらもう手でゴシゴシしないでいいのよ?

冬も冷たい水で手がかじかむ事もないのよ?

ね、すっごい便利でしょ?

便利ですよ。便利だよね?

子供たちは興味が薄れたのか蜘蛛の子を散らしたようにサーッと離れて行った。



……。



「「「ドンマイ。」」」


リズたちに肩をポンポンと叩かれる。


ありがと。

でも慰めは不要だよ。

何か余計虚しいから。




あの後院長先生にはとてもとても感謝された。

それはもうこっちが申し訳なくなるくらいに感謝されてちょっと戸惑う。

良かれと思って私が勝手にやってる事だからお気になさらずと言うものの尊敬のまなざしで見られて困っちんぐ。

そして翌日私は森の中に居る。

パーティーで森の中を散策、ではなくて一応ちゃんとしたお仕事です。

常設依頼の兎肉の納品てやつね。

兎にもいくつか種類が居て、この辺でよく見かけるのは角兎、爪兎、跳び兎の3種類。

これらを狩って持って行くと値段は安いけど買い取ってくれる。

兎はお肉は勿論美味しい食材だけど毛皮も需要がある為安定した買取りが期待出来る。

先日みんなに配った制式武器の拳銃で兎を狩る練習がてら依頼をこなそうと思う。

みんな腰に安全装置をONにした拳銃を下げている。

弾倉に弾が入っているのもちゃんと確認済み。

木漏れ日が差し込む森の小路をくーちゃんを先頭に歩く私たち。

少し明るい森の小路は、真夏だと言うのに涼しくてとても快適。

こちらの夏は地球の夏よりも涼しいのであの灼熱の猛暑日を知っている身からすると天国のような過ごしやすさだ。


そんな中マイナスイオンを浴びながら歩いているとどうやらくーちゃんが今回の獲物を見つけたようだ。

おあつらえ向きに角兎がちょうど3匹いるとの事なので私を除く3人にやって貰う事にする。

何事も経験、初めての拳銃による実践。

みんな頑張ってね。

くーちゃんの案内で風下からゆっくりゆっくりと近づいて茂みに身を潜める。

戦法は至ってシンプルに茂みに隠れたまま狙撃するだけ。

ただ撃つ時に以前教えた通りに出来るかどうかが肝心だけど。

万が一外しても発砲と同時にくーちゃんが飛び出し威嚇して角兎の行動を止めるから慌てないで確実に仕留めればOK。

では、初めての実践開始。


距離は少し遠いけど慎重に狙えば当たる可能性は十分。

拳銃を握り右手を包むようにそっと下から左手を添える。

撃鉄をガチリと起こしそっと人差し指を引き金にかける。

「フーッ」と息をはき余分な力を抜く、照準を合わせる3人。

リズがチラリとくーちゃんと私を見て合図を送る。

くーちゃんは準備OK、いつでもいけるよ。

あとはリズたちが撃つだけ。

私はゆっくりと腕を上げ、1 2 の 3 で腕を振り下ろすのを合図に3人は発砲する。


パパパン!


子気味良い音が辺りに響く。

すると3匹の内の左の1匹の頭部が跳ねるようにずれてそのまま横に倒れる。

残りの2匹は発砲音に驚き咄嗟に逃げようとするが時すでに遅し。

発砲音がしたと思ったその瞬間にはもうくーちゃんの姿は無く、一瞬で兎のすぐ近くまで移動していて「威圧」を放っていた。


「ガァ!!!!!!!」


くーちゃんが発する威圧で動きが止まった2匹を難なく仕留めて狩りは無事に終わる。

最初の発砲で一番左の兎を仕留めたのはメロディ。

メロディって癒し枠と言うかほのぼの要員て感じだから1発で仕留めたのは正直意外だった。

リズは真ん中の兎を狙ったけど外れて弾はあっちの方へ飛んで行くし、ドロシーは右の兎を狙って当りはしたものの仕留めるまでには至らなかった。

けどその後のくーちゃんの発した威圧で動きの止まった兎をリズとドロシーは落ち着いて狙って確実に仕留める。

メロディは1発で仕留めたのを鼻高々に自慢しているのを少々悔しそうに見ているリズとドロシー。

リズは完全に外しちゃったから余程悔しかったんだろう、くーちゃんに次の獲物を探して欲しいってお願いしてる。

リズって見た目と違って意外と負けず嫌いなのね、新たな発見だわ。

それから次に見つかった兎は1匹だったのでリズが仕留める事に。

これは上手く当たって行動不能になった所をなるべく苦しませないように手早く処理した。

次はまた3匹だったのでそれぞれが1匹づつ担当してくーちゃんの手助けもあって順調に狩ってゆく。

さすがは私のくーちゃん、仕事の出来る女ね。

そう褒めてあげると尻尾をばっさばっさと振ってそれはもう大層な喜びようだったわ。

その後もくーちゃんの類稀な広範囲の探知で兎を探し出しては狩ってゆくと言うのを繰り返す。

時々私も練習がてら参加したけど全て1発でヘッドショットを決めた。

まぁ私は狙撃スキルLV7だからね、そうそう外さないよね。

でもそれを見た3人がヤル気をだしてしまう。

結局3人合わせて30羽近くの兎を狩った。

ちょっとやり過ぎじゃない?って言ったら魔物を狩ってるだけだから問題ないよと返される。

それもそっか。

見た目は兎さんで可愛いく見えても魔獣は魔獣だもんね。

放置しておくと際限なく増えちゃうんだから出来るだけ狩らないと駄目なんだって。

成る程、納得。


結果、今日の稼ぎは一生懸命頑張ったリズたち3人で山分けする事にした。

私はいいの、おかげさまでお肉もお金も困ってないから。

だから私の事は大丈夫よ、気にしないで。


なんか今日は久しぶりに冒険者らしい事が出来たので私たちは満足のいく1日になった。





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