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第161話 愉快な監視員とログハウス作り

「グレイソンさんに怒られるよな?」

「当たり前ですよー!」


「ふむふむ、貴方がたの上司はグレイソンさんと。」


「「あ……。」」


「ほらまたぁ、マイキーさんが余計な事言うからー。」

「なんでだよ、お前だって言ってただろーが。そもそも最初に名前言ったのはお前だぞ。」

「部下の責任は上司の責任、これは世の摂理です。だから諦めて下さい。」

「あ、汚ねーな。こんな時だけ部下ヅラしやがって。」

「え、だって私正真正銘マイキーさんの部下ですもん!」

「くっ、そのドヤッてる顔をひっぱたきてぇ。」

「可愛い部下を叩くなんて怖ーい。暴力はんたーい!」

「しねーよ! 大体そんな事したことねーだろーが。」


くすくすくす。

ホントに仲が良いんだなぁ、見ていてほっこりするよ。

上司と部下って言うより年の離れた仲のいい兄妹って感じね。


「ほら見ろ、笑われちまったじゃねーか。」

「それはマイキーさんのせいでしょ。」

「ちげーよ!」


2人ともですよ、お二人さん。

監視員の2人と話していると私の左横にスッとくーちゃんたちがやって来た。

するとくーちゃんたちを見て目の前の2人がビクリと固まる。

戦々恐々、おっかなびっくりそんな様子、くーちゃんたちを窺うようにこわごわと見ていた。

くーちゃんたちこの2人に一体何をやったのかしら?


(いえ、何も。 何もせずただジッと見ていただけで御座いますが。)

(見ていただけですー。)


まるで私の考えを呼んだかのようにくーちゃんたちから念話が届いた。

ホントかな?

それだけでここまで怖がるものかしら。


(考えすぎで御座いますよ。)

(そうなのです。)


息ぴったりなとこが益々怪しい。

ジーっと見るも涼しい顔したくーちゃんたち。

人間じゃないので顔色までは分からないんだけどね。

まぁいいわ。


「だ 大丈夫だよな?」

「暴れたりとか しませんよね?」


「えっと、この子たちですか? そんな事しませんよ。」


なに、この怖がり様。

どゆこと?


(ねぇ、くーちゃん貴女ホントに何もしてないの?)


(しておりませんよ。そもそもわたくしが何かしたら人間なぞ生きてこの場に居ませんよ。)


確かに。

くーちゃんがちょいちょいっと前足で薙ぎ払っただけで人間なんてひとたまりもないものね。


「大丈夫ですよ、この子たちはとても大人しくて優しい子ですから。」


「優しい のか?」

「でも、むやみやたらと襲ったりはしませんでしたよ。」


そりゃそうよ、くーちゃんたちは出来る子だもの。

基本的に優しくて大人しい子たちなのよ。


「ただ、私に危害を加えようとだけはしないで下さいね。そうなるとこの子たちが黙ってないので命の保証は致しかねますから。」


「お おう。」

「はい……。」


そんなにビクビクしなくても大丈夫ですよ。

普通にさえしてくれれば何の問題もないですから。

私はニコニコと朗らかにそう言うが逆にそれがいけなかったようで2人は顔を引き攣らせながら頷いた。

何ででしょう、私には分からないわ。

不思議ね。


「あ、あの。1つ質問してもいいですか?」


マイキーさんでしたか、何故に丁寧語なのでしょう?

もっと普通に接して下さってもいいですよ?

えっ、それは怖い?

別に私は怖くなんてないですよ、どこにでも居る普通の町娘ですから!

そう言ったのだけれどマイキーさんたちの返事は私の予想に反した物だった。


「普通の町娘? 誰が?」

「ですよね、普通の町娘は従魔を従えたりしませんもん。」

「だよな、しかも恐ろしく強いし。」


「どうも私と貴方たちとで理解の齟齬があるようね。」


「「……。」」


ねぇ、そこで黙んないでくれます?


「ま、まぁそれは置いといてだ。」


置いとかないでよ。

差し戻すよ?


「俺たちの事はいつから気付いてたんだ?」


いつから、と聞かれたら答えは1つよね。

最初からだし。


「ええっとですね、領主様のお屋敷で晩餐をご馳走になった次の日からだったかしら。」


私はそのまま正直に答えるとマイキーさんは唖然とした表情で暫く固まったあとポツリと呟いた。


「それ最初からじゃねーか。」

「つまり私たちのは全て分かってたって事ですか?」


「ええ、まぁ。そうなりますね。」


額に手を当て「何てこった。」と天を見上げながらマイキーさんが嘆いている。

隣りにいるイルゼさんも眉を八の字にして「これはどうしたらいいの?」みたいな困り顔でマイキーさんを見てる。


「じゃあ今までのは全て分かっててずっと気付いてないフリをしてくれてたって訳なんだな?」


はい。


「そっか……。しかしこれ報告していいと思うか?」

「していいかじゃなくて、きちんと報告しないと駄目でしょう!」

「スープと軽食を貰った事もか?」

「それはどっちでもいいと思いますけど、知られてたってのは絶対ですよ。」

「……やっぱりそうだよな。」

「分かってるんならちゃんと上に報告しましょ!ねっ!」

「じゃあ、スマンが報告はお前がやっといてくれ。」

「はぁ?! 何言ってんですか! マイキーさんは私の上司ですよね? だったら上司であるマイキーさんが報告するのが筋でしょう!」

「ぐぬぬ、こんな時だけ正論ブチかましやがって。」

「ブチかましやがってじゃないですぅ!それが上司たる者の責務です!」

「お前いつからそんなに口が達者になったんだ? 前のお前はもっとこう可愛らしかったぞ?」

「今もこーんなに可愛いじゃないですかぁ。」

「可愛いって言うんならこっちの嬢ちゃんの方が……」

「奥さんに言いつけますよ?」

「スマン、今のは聞かなかった事にしてくれ。」

「いいですか? ちゃんと包み隠さず報告して下さいね! 私言いましたよ。」


2人のやり取りを聞いててやっぱり思うのは、この2人は仲が良いなぁってのと年の離れた兄妹みたいだなぁって事。

なんやかんや言ってるけどお互いにきちんと信頼関係出来てるってのが見てて分かるもの。


「グレイソンさんとは懇意にさせて頂いてますけど、あの方は優しいですからこれくらいで怒ったりしないと思いますよ?」


「優しい? グレイソンさんが?」

「他の誰かと勘違いしてるとか?」


あれ?

この人たち何言ってるんだろう、グレイソンさんてあのグレイソンさんよね。

アシュリー様を孫でも見るかのように優しそうに見つめていたあのグレイソンさんよね?

だったら優しいと思うんだけど。

違うの?

もしかして私の知ってるグレイソンさんとはまた別のグレイソンさんが居るとか?


「グレイソンさんて2人居るとか?」


「いや。この場合のグレイソンさんは1人だけだ。」


「にこやかで物静かで慇懃な態度のとても紳士的な老執事のあのグレイソンさんですよね?」


「笑っているように見えて目が笑ってなくて冷静沈着で何よりも規律を重んじる自称老人のあのグレイソンさんだな。」


何か微妙に認識がズレてるわね。


「成る程、外から見るグレイソンさんと内から見るグレイソンさんでこれ程までに見え方が違うとは……。」


いや、イルゼさんもそんなとこで感心しないでよ。

兎に角私はこれまで同様気付いてないものとして行動しますから、お二人は見たままを報告して下されば結構ですよ。

これからも監視と護衛をお願いしますと言い残して私たちはその場を後にした。

残された2人は一瞬戸惑っていたものの、すぐに再起動して私の後を追いかけ始めた。

職務に忠実な2人だ事、感心感心。



その後私は買い出しをして宿屋に戻った。

雨も降ってるしいつまでも雨の中彷徨ってるのもアレだしね。

宿には早々に戻ったので今日のお昼は宿で頂く。

いつもならお昼は宿が用意してくれた軽食を食べる事が多いんだけど、今日は生憎の雨でほとんどの冒険者が休息日に当てている関係上沢山の冒険者が食堂に集まっていた。

あら、なんか夕食時みたいに混みあってるわね。

なので今日のお昼はいつもの軽食ではなくて特別にちゃんとしたごはんが提供されるようになった。

ラッキー。

無ければ無かったで自分で作ればいいだけなんだけど、用意してくれるならその方が楽だし有難いもんね。


顔馴染みのみんなとお昼を頂いたら私は部屋に戻って作業をする事にする。

これまでコツコツと素材や材料を集めて暇のある時にチマチマと加工しておいた資材が今私のストレージの中に大量に眠っている。

そしてその資材を元にして組み上げる為の設計図も作成済み。

ただこの設計図を作るのがとにかく大変だったのよ。

いくら元世界の知識が多少あると言ってもきちんとした建築の知識がある訳じゃないからね、だからまずここで盛大に躓いたの。

何度も何度も、いえ何十回も書いては直し書いては直し。

知らない事でも『創造魔法』さんに掛かれば何とかなるけど、何とかなるのと引き換えに魔力をバカ食いするのよね。

これがものすごく魔力効率が悪くってここで滅茶苦茶時間が掛かっちゃったの。

そうやって地道に準備を重ねた結果、ようやく完成の目途がついたって訳。

ウーズの街の近くの森に居る頃からコツコツと準備して来たのが今ここでやっと花開く。

私が欲してやまなかったログハウス。

そのログハウスがついに私の手に!


木材を加工したり窓ガラスを作ったり。

セメントの材料を集めてセメントを作って、それに更に他の材料を加えてコンクリを作ったりとか。

パッキンや断熱材、接合金物なんかは魔力によるごり押し作製を敢行。

これは1つ作る度にごっそりと魔力を削られてヘロヘロになって大変だったっけ。

建物全体には防水・防腐効果のある樹液を塗って、粘土を採取して瓦を作ったりもした。

魔動キッチンに魔動水洗トイレ、灯りの魔道具に魔動空調機、それからリビングには大きな魔石をセットしてこのログハウスの魔力供給を一元管理するコントロールパネル、言ってみれば元世界のブレーカーみたいな基盤を設置する。


基礎はベタ基礎で、少し高めにしてあって玄関まで階段を付けて登るようにした。

建材は太い太い無垢の角材を用意。

この為にウーズの森では木を伐採しまくったんだっけ。

今から思うと勝手に切っちゃったけど大丈夫なのかな?と今さらながら心配になったりして。

ログハウスはおよそ100坪あまりの2階建て。

間取りはと言うと、1Fはリビングとリビング内にキッチン、浴室、トイレ、客室3、物置。

2Fは主寝室(キングサイズ、室内にトイレあり)のみ。

玄関で靴を脱いで家の中に入って室内では裸足で過ごす日本式を採用。

テーブルや椅子、デスク等の家具なんかもチマチマと作ったのをストレージに収納して保管してある。

ベッドやふかふかのお布団、カーテンなんかも作った。


後は『創造魔法』さんにお願いして組み上げるだけなんだけど、問題はこの雨で外で作業が出来ないって事かな。

なのでストレージ内で全ての作業を行う事とする。

今日は基礎部分を作ってお終いにして、翌日建物全体を組み上げるスケジュールにする。

ベッドに横になりながら目を閉じてストレージ内で魔法を展開、そして構築。

傍目にはただ寝てるようにしか見えないだろうけど実際は魔法を行使している。

結局次の日は一歩も外に出る事もなく部屋でログハウスを作って過ごした。

こんな時でもないと中々ゆっくり作業出来ないからこの雨は私にとっては恵みの雨だったね。

今までは日帰りのお仕事ばかり選んでやってたけど、ログハウスが完成したから今度からはそうゆうのも気にせず泊りがけで依頼を受けられるようになるのが嬉しいね。

これまでだったら夜はテントを張って野宿だったのがちゃんとした家の中でお布団に入ってゆっくりと寝られるようになる。

野宿とちゃんとしっかりベッドで寝るのとでは疲れの取れ具合が全然違うもの。

睡眠は大事。

翌日に疲れを残さないっては冒険者にとってはとても重要だから。

早く出来上がりを確認したい所なんだけど、それは雨が上がってからみんなで出かけた時にルームツアーがてらお披露目してその時にすればいいかなと。

今から楽しみだよ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



オルカが部屋に引き籠ってログハウス作りに勤しんでいた頃、領主邸ではグレイソンとマイキーたちが向かい合っていた。


「さて、言い訳を聞くとしましょうか。」


何かつい最近も聞いたような台詞だなーと思いつつもそれについてはおくびにも出さず神妙な顔つきで頷くマイキー。

イルゼは「この人また変な事言ってグレイソンさん怒らせるんじゃないか」と思いながら心配そうに隣りに立つマイキーを見ている。

マイキーはイルゼの視線を感じ軽く頷く。

当のマイキーは「俺に任せておけ!」のつもりだったのだがどうやら上手く伝わってはいないようだった。


「分かりやすく言いますと、バレてました。以上!」


「それだけでは何も分かりませんよ、もっと詳しく説明して下さい。」


端的すぎるマイキーの言い訳に少しイラっと来たグレイソンではあるが、それは顔には出さず努めて穏やかに続きを促す。

事の顛末を最初から抜かりなく丁寧に事細かに客観的に説明してくださいと言われ顔を顰めるマイキー。


「顔に出過ぎです、もう少し感情を抑えるように。」


「いや、グレイソンさんこそ注文多過ぎです。」


「侯爵家の監視がついている事が一体いつからバレていたのやら。まずはそこからでしょうか。それについては何か言ってませんでしたか?」


「それでしたら、晩餐のあった翌日から分かっていたとあの嬢ちゃんは言ってました。」


「最初から ですか?」


「ええ、最初からです。」


「分かった上でこちらの意を汲んで泳がされていたと?」


「そうなりますね。」


ふうむ。と髭を撫でながら上を見上げるグレイソン。

室内は何とも言えない緊張感をはらんだ空気が支配する。

そしてしばし思案した後おもむろに口を開く。


「では今後も監視を続けるかどうかの是非についてはどう思いますか?」


そうなのだ、知られている状態で対象の監視は必要なのかと言う問題が出て来る。

オルカについては監視ではなくて懐柔すべきなのでは?

敵にまわすのではなく仲間に引き入れる方向で動かないと拙いだろうと。

なので監視と言う意味では監視であるが、その中身はオルカが他からのちょっかいに対して防衛すると言う意味での監視になる。

もっと言うと護衛とも言える。


「監視はまぁ必要っちゃあ必要でしょ、外敵から守る意味でですが。」


「やはりそうなりますか。」


「ですね、他所の貴族にちょっかい出されるのが一番困りますから。」


「あれ以降はどうです? 新参の冒険者とか商人の動きは?」


「あの二人以降はまだ見てませんが監視員が戻って来ないってなると次の間者が来るのは間違いないでしょう。次はもう少し手練れの者が来る可能性もありますし気は抜けませんね。」


「成る程、分かりました。ではそのまま()()を続けて下さい。」


「分かりました、では失礼します。」


良かった、怒られずに済んだと胸を撫でおろし安堵するマイキー。

軽く一礼し退出しようとした所で「そうそう。」とグレイソンに呼び止められた。


「所でスープと軽食は美味しかったですか?」


グレイソンの問いに


「ええ、雨が降って少し肌寒かったので温かいスープはすごく美味かったですね。」


明るく笑顔で答えるマイキーとイルゼだが、2人を見てやっぱり反省してないなと思うグレイソンだった。







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