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第158話 煮込みハンバーグと非常識ですわ!

「非常識ですわ!」


とても楽しそうにそう叫ぶアシュリー様。

何故そんなに楽しそうなんでしょうか。

その横では微妙な顔をしたザッカリーさんとベアトリーチェさんの護衛2人が呆然と立っている。

更に「ひぃぃ!」と顔を引き攣らせたジャスミンさん。

あ うん。 ゴメンよ。

これが私たちの日常なんです。

まぁいつもよりちょっと数は多いですけどね。


「なぁ、これ全部で何匹くらいいるんだ?」

「さぁ。 ひと山20匹として全部で200匹くらいですかね?」

「これ全部売ったらかなりの金額になるな。」

「なりますね、ちょっと想像もつきませんけど。」

「それにしても色んな魔獣が居るな。ボア系の魔獣に牛系の魔獣。おっ、こっちには鹿系のも居るな。」

「ザッカリーさん、こちらには蛇系のも居ますよ。グリーンにレッド、あと毒持ちのも数種類居ます。」

「ほうほう。おーっ!これ見てみろ、手長熊だぞ! こっちにゃ一角熊も居る! スゲーな、魔獣の展覧会かよ。」

「熊って確かものすごく強かったですよね?」

「単騎で狩ろうと思ったら最低でもBランク、パーティーならCランクパーティーは必要だろうな。」

「それをオルカ様の従魔は2匹だけでこの僅かな時間にこれだけの魔獣を狩って来るとは……」

「バレットアントの件でも分かってた事だがとんでもなく強いって事は確かだな。Aランク相当か或いはそれ以上か。これが嬢ちゃんの従魔でなかったらと思うとゾッとしないな。」

「はい、オルカ様の従魔で本当に良かったです。もしそうでなかったら王国騎士団が出て来る所でしょうね。」


おうふ、何かすごい話をしてる。

でも確かにそうかも、今朝見たらくーちゃんのHPが7,000の大台を超えてたもの。

こうなるともう人類でくーちゃんに対抗出来るのってほんの一握りの飛びぬけた力を持つ人間の集まり、各領地の騎士団とか王国騎士団とかになっちゃうんだろうね。

くーちゃんが本気出したらそこらの街なんかあっという間に灰燼に帰すんだろうしね。

勿論私は愛するくーちゃんたちには絶対にそんな事させたりしないけどさ。


「そう言えばいつも食べてるコカトリスも定期的にくーちゃんさんたちが狩って来てくれるんですよー。」


「いつも食べてる?」

「定期的に狩って来る?」


「そうですよぉ。無くなりそうになるといつの間にかくーちゃんさんたちがコカトリスを狩って来てくれて補充されてるんですよ。」


「狩って来てくれる? 買って来るの間違いでは?」

「補充されてる? 小麦や野菜と同じ感覚かよ。」


ザッカリーさんとベアトリーチェさんは遠い目をしてメロディの話を聞きながら「その内コカトリス狩り尽くされるんじゃねーか?」と呟いたのを私は聞き逃さなかった。

うん、有り得なくもない話だなと私も思ったのはここだけの話。


くーちゃんとさくちゃんにお礼を言って二人にごはんは食べたの?って聞いたら狩りの途中に小鬼が居たのでその近辺に居たのは狩り尽くしてついでにお昼ご飯がてら食べて来たって……。

ダメよ、小鬼は食べ物じゃないからね。

あんなモノ食べたらポンポン壊すよ。

そう言ったら「そんなヤワなお腹はしておりません。」ととっても自慢げに返事された。

さくちゃんに至っては「小鬼などそこらの草と同じで只の栄養です。」とまで言う。

そ そうなのね。

でも世のため人の為にはなってるからこれはこれでいいのか。


(そうそう、小鬼と言えば。)


くーちゃんが小山の1つに近づきズボッと顔を突っ込んだと思ったら何やらぶっとい緑色の物体を引っ張り出してくる。

おや、これは?


(小鬼の上位種のアーチャーとメイジとキングですね。 とは言っても所詮ゴブリンですが。)


「ゴブリンアーチャー? ゴブリンメイジ? ゴブリンキング? へー、スゴイ。それは初めて見るね。どれどれ?」


初めて見る魔物が興味深くてついしげしげと見る。

ほえー、アーチャーとメイジって普通の小鬼より少し大きいんだね。

くーちゃんとさくちゃんに掛かったらアーチャーだろうがメイジだろうが敵ではないんだろうけど、普通の一般的な冒険者にとっては遠距離攻撃してくるアーチャーとメイジはやりにくい相手なのよね。

更にキングに至ってはゴブリンなのにかなり手強い相手だと聞いた事がある。

ゴブリンキングの何がスゴイってその身体の大きさだと思う。

ゴブリンなのにオーガかと見まがうばかりの大柄な体躯、それに尽きる。

それとあの太い腕!

私の腰ぐらいの太さがあるっ!

こんなので殴られたら昏倒は必至、下手したらあの世行きよね。

ぶるる、私的には力いっぱい遠慮願うわ。


「お おい。 これゴブリンキングじゃねーか。 まさかこれも狩って来たのか?」

「ザッカリーさんこれ見て下さい! こっちにはアーチャーとメイジも居ますよ!」

「はぁっ?!」


「くーちゃん曰く、名前だけ大層で所詮はゴブリンだって言ってましたよ。」


「いやいやいや! アーチャーもメイジもそれなりに強いんだぞ。」

「そうですよ、キングなんかそれこそ普通のオーガより強いと言われてますし。」


うん、それは知ってる。

弱いと感じるのはくーちゃんたちにとってはってだけでね。

ちゃんとそう説明したんだけど、コイツ本当に分かってんのか?みたいな目で見られた。

何か納得いかないなー。


「流石お姉さま、非常識ですわ!」


あ はい。

もう非常識でいいです。

キラキラした目でアシュリー様にそう言われるもあまり褒められてる気はしないけれど。

くーちゃんたちが狩って来た獲物をストレージにポイっと片づけたらアシュリー様からまた「非常識ですわ!」とお褒めの言葉を頂いた。

 


明けて翌日。

私たちは今日も今日とて草原に繰り出している。

が、今日は昨日のメンバーに更にグレイソンさんが増えている。

何故に?


「ほっほっ。お嬢様の話によりますとオルカ様は大層『非常識』だったとか。あのように楽しそうに報告されますとこの老い耄れも是非に見とうなりましてな。」


アシュリー様、貴女何て事を仰るのか!

グレイソンさんたら興味津々のワクワク顔でまるで遠足前日の子供みたいになってるじゃないですか!

ものすごーく注目を浴びていて今か今かと待ちわびてる感が凄いんですけど。

ええっとですね、期待されてる所申し訳ないんですけど私至って普通の小娘ですよ?

そう言うものの「いやいや、何を仰います。」と一笑に付された。


「さて、今日のお昼ごはんは何を頂けるのですかな? この爺はそれが楽しみで楽しみで。」

「そうですわ! 今日の献立を教えて下さいまし! 私それが気になって気になって朝ごはんしか喉を通りませんでしたの!」


朝ごはん喉を通ったのならそれで充分でしょ。

しっかし、グレイソンさんたら孫(アシュリー様)を連れてやって来た親戚のお爺ちゃんみたくなってるよ。

息のぴったり合ったこの二人、平民の常識を知らないアシュリー様とやたらと押しの強いグレイソンさんって実はなかり手強い相手かもしれないわ。

リズたちを見ると「私たちに振るな」って感じでスッと視線を逸らされるし、ならばとジャスミンさんや護衛の二人に目線を向けると「俺たちには何も期待するな」みたいに首を横に振られ苦笑いされた。

マジですか、孤立無援とは正にこの事。

ソッポ向いてないでみんなも協力してよ、応援してよ。

ぐすん、いいもんいいもん。

私ひとりで頑張るもん。


こっちの世界でもお肉をミンチにして焼く料理はあるみたい、けどそれは色んな部位の余った端っこや内臓ぎわの肉なんかを集めてミンチ状にして焼いてパンに挟んだりする庶民の食べ物で裕福な平民や貴族は食べないんだとも聞いた。

今日はそのミンチを使った料理を作ろうと思うの。

でもただ作るんじゃなくて、貴族であるアシュリー様にお出し出来るような上等な物でないと駄目って事。

と言う訳で、今日は「煮込みハンバーグ」を作ります。

使うお肉は切れ端とかそんな半端な部位の寄せ集めなんかじゃなくて、メロディが大好きなオーク肉を使ったオーク肉100%のハンバーグよ。

きっとメロディ大喜びするだろうね。


「今日は煮込みハンバーグを作ります。」


「にこみはんばぁぐ?」

「聞いた事のない料理ですわ。」


では、早速!

頑張って調理するよ、リズたちも手伝って。

煮込みハンバーグと聞いてアシュリー様は???て顔してたけど出来上がりを楽しみにしてて下さいねと言ったら大人しく頷いてくれた。

ふむ、こうゆう素直な所がアシュリー様の美点ね。


「メロディはこのオーク肉の塊をミンサーでミンチにしてくれる? ミンサーの使い方はね、ここにお肉入れてハンドルぐるぐる回すとここからお肉が出て来るから、出口の所にバット置いといてね。」


「分かったー。お肉なら任せて!」


流石お肉担当のメロディ、ものすごくハキハキとした良い返事だわ。

リズには玉ねぎをみじん切りにして軽く火を通しておいて貰う。

リズとメロディが下拵えしてる間に私とドロシーはパン粉を牛乳に浸したりして出来る準備をしておく。

今日作る煮込みハンバーグはトマト風味のスープで煮たいのでトマトをジューサーにかけてトマトジュースにして、あと賽の目状に切ったダイストマトも用意する。

付け合わせでハンバーグと一緒に煮込む用にキノコとブロッコリーも用意する。

下拵えが出来た所でハンバーグを作り始める。

オーク肉100%のミンチに

玉ねぎのみじん切り

パン粉(牛乳)

塩胡椒

ナツメグ

これらを入れてよーく混ぜる。

混ぜ混ぜ混ぜ混ぜ。

混ぜ終わったら丸い小判型に成形する、この時に手と手の間でハンバーグをパンパンと行き来するようにして空気を抜いておく。

今回は普通のハンバーグとチーズ入りハンバーグの2種類を用意する。

内容は肉汁たっぷりのオークバーグととろ~りとろけるチーズのチーズインバーグの2種類ね。

普通のハンバーグでも美味しいんだけど、更にその上の美味しさのチーズインバーグを食べたらきっとみんな吃驚するだろうねー。

ふふ、驚く顔が楽しみだわ。

さて、ここからいよいよ焼きなんだけど、煮込みハンバーグなので表面がしっかりと焼けていればそれでOK。

どうせ煮込むんだから中は生焼けでも大丈夫だしね。

今日は人数が人数のとこもってきて、沢山食べる子も居るから沢山焼かないと。

お姉さん大忙しよ、なのでちゃっちゃと焼いてくよ。

焼き上がったハンバーグは中鍋へ移し替える。

そこへコンソメスープとトマトジュース、ダイスカットトマト、香草、バターを投入してコトコトと煮こんでいく。

一緒にキノコも入れて、下茹でしておいたブロッコリーを最後に入れ塩胡椒して味を調えたら出来上がり。

ね、思ったより簡単でしょ?


昨日と同じようにテーブルを2つ出して並べて配置する。

アシュリー様たちは大人しく座って待っているけれど、どことなく落ち着きなくそわそわしているようにも見える。

ワクワクを隠せないアシュリー様とその隣りでニコニコと好々爺然とした態度のグレイソンさん。

これ何処からどう見ても孫娘とそのお爺ちゃんにしか見えないわ。

とっても微笑ましい。

あんまり待たせ過ぎるのも良くないからリズたちに手伝って貰ってちゃちゃっと配膳を済ませてしまう。


「さぁ、出来ました!」


「嬢ちゃん、待ちわびたぞ。」

「ちょっと、ザッカリーさん遠慮って言葉知ってます?」

「知ってるぞ。けど今日は家に置いて来た。」

「それ駄目な大人じゃないですか! 私の不幸はこんな駄目な大人が上司って事だわ。」


やれやれみたいな恰好で笑うベアトリーチェさんと、二人のやり取りを見てみんなが笑う。


「ほっほっ、どんな料理が出て来るのか、いやはや実に楽しみですなぁ。」

「オルカお姉さまのお作りになるお料理は絶品ですのよ!食べたらグレイソンも吃驚するわよ!」

「それ程ですか。」

「それ程なのよ!」


うん、やっぱりお爺ちゃんと孫娘の会話だ。

2人を除く残り全員が微笑ましいものを見るように目尻を下げて優しい目で見ている。

両手を合わせて


「いただきます。」


私とドロシーだけが無意識でついやってしまう動作。

でもこれが自分たちが日本人だと認識できる所作で日本人で良かったと思える瞬間でもある。

まぁ、知らない人は「何やってんの?」だろうけどね。


「さぁ、食べますわよ!皆も温かい内に食べなさい。」

「お嬢様、宜しいので?」

「ここでは問題ないわ。」

「では、そのように。」


お約束のやり取りを今日はグレイソンさんとの間で行う。

問題ないと言う事を態々言葉にする事でそれを知らしめる意味合いもある。

溢れんばかりのアシュリー様の優しさに嬉しくなるね。

最初の一口はアシュリー様から。


パクッ。


「っ!!!」


目を見開いて手で口元を押さえて動かなくなった後、軽く咀嚼しゴクンと飲み込んだ後ふにゃっと蕩けたような顔になる。


「はぁぁぁぁぁぁ。」


恍惚とした表情を見せるアシュリー様。

これは白昼女の子が見せてはいけない顔だと思うわ。

何と艶めかしい事か。

アシュリー様の蕩顔なんておいそれと見られる物ではないもの。

嗚呼、今日はとっても良き日になったわ。

アシュリー様のその様子を見ていたみんながゴクリと喉を鳴らす。

そして堪らず我先にと食べ始めるととたんに「んーっ!!!!」とか「美味っ!!!!」とか、目を見開いたまま固まってる人、「ふわぁぁぁぁぁ!」と感嘆の声を上げる人などなど。


「これはっ! ついぞ食べた事ない食感ですな。しかも真に美味しい。」

「確かに! この美味さはどう表現したらいいのか分からんな。」

「これ、このオーク肉が美味し過ぎるんですよ! 肉汁の海だわ!」

「お嬢様! こちらのハンバーグにはチーズが入っております!この蕩けるチーズがまた何とも!」

「ふっふー。でしょ、オルカお姉さまの作るお料理は世界一なのですわ!」


アシュリー様お褒めの言葉を頂き有難うございます。

そこまで褒められると流石にこそばゆいんだけど、けど褒められて悪い気はしないかな。

それに概ね好評なようで安心したわ。

私も一口食べて味を確認する。

うん、安定の美味しさだね。

これは前世でもたまに作ってて作り方を知ってるから失敗せずに作れるってのが大きかったね。


「オーク肉最高っ! このハンバーグ歯が要らないくらいに柔らかくてめっちゃ美味しい! 口の中が肉汁で溢れるよー!」


オーク肉大好きっ子のメロディが興奮気味に捲し立てている。

ハンバーグをもっきゅもっきゅと食らいトマト味のスープをゴキュッゴキュッと飲み干しパンを齧る。

そして幸せそうなトロンとした顔をする。

あはは、すんごい幸せそうな顔してるー。


「このハンバーグだっけ? 普通のでもすんごい美味しいんだけど、特にこのチーズ入りのが絶品ね! オーク肉のジューシーな肉汁がドパッと口の中に溢れたと思ったら中からトローリ蕩けるチーズが出て来てそれがまた濃厚でまさに旨味の爆弾だわ。 もう口中が幸せって感じ!」


例によって例のごとく美味しい物を食べると饒舌になるリズちゃん。

今日も長々と語ってるねぇ。


「嬢ちゃん、お代わりいいか?」

「あ、なら駄目な上司の分は私が入れて来ます。 で、私もその お代わりしてもいいですか?」


勿論、どうぞお代わりして下さいな。

全く遠慮の欠片もないザッカリーさん、ってさっき「遠慮は家に置いて来た」って言ってたか、と遠慮がちに控えめにお代わりしてもいいかと尋ねて来るベアトリーチェさんが対照的ね。


「ジャスミン、私もお代わりを。 ええ、チーズ入りの方でお願い。」

「畏まりました。」

「では、私ももう1つ頂くとしますかな。」

「一緒にお持ちします。」


そう言ってテキパキと給仕をするジャスミンさん。

流石は本職、その流れるような動きに一切の無駄がない。


「お嬢様、どうぞ。 さ、グレイソンさんも。」


そう声を掛けながら音を立てないようにそっと置くジャスミンさんの技術ってすごいのね。

妙な所で感心してしまう。

リズたちは……何も言わなくても勝手にお代わりしてる、よかよか。

それにしても二人ともすごい勢いで食べてるねぇ。

柔らかい煮込みハンバーグだからなのか、まるで飲み物のように吸い込み軽く咀嚼して飲み込んでいる。

ハンバーグは飲み物、新しい言葉だわね。


ドロシーの方を見ると右のほっぺたに赤いトマトスープが付いてる。

んもー、可愛いんだから。

そう言えばルカも良く口元やほっぺたにおべんとくっ付けてたなぁ。

それを思い出してクスッと笑ってしまう。


「もー、子供じゃないんだから。 ほっぺたに付いてるよ。」


そう言いながら指先でサッと拭き取ってその指先をペロッとする。

美味し。

やっぱり煮込みハンバーグはトマト味に限るわ。


「…………っ!!」


って あれ? ドロシー真っ赤な顔してどうしたの?

リンゴみたいに真っ赤だよ?

お熱あるの?

大丈夫?

前髪を手でサッと上げておでことおでこをピタッとくっ付けて熱を測るも特に熱くもなく平熱っぽい。

すると更に真っ赤になりあわあわしだす。

そしてそのままプギューっとテーブルに突っ伏してしまった。

リズとメロディはそれはもう何か言いたげなニヨニヨした顔で私を見ていた。

ちょっとぉー、貴女たちお顔がお下品ですわよ。

するとガタンと音がしてアシュリー様が立ち上がるのが見えた、そしてつかつかとテーブルを周り込んで私の横にやって来るとひと言。


「わ わたくしもそれやって下さいまし!」


見るとほっぺたに同じようにトマトスープが控えめにチョンと付いていた、って言うかこっちに歩いて来る時に自分で付けてたよね。

ええっと、これは……。

拭けばいいんですよね?

流石に貴族のお嬢様のほっぺたに素手で触れるのはダメよね?


「お拭きすれば宜しいですか?」


「違いますわ! あちらの方と同じように指でして欲しいのです。」


ヤッバ、指でして欲しいだなんてめっちゃエロいんですけど。

これ状況抜きにして目瞑って音声だけ聞いたらとんでもなくとんでもないわよ。

とても貴族のお嬢様が発していい言葉ではないわ、それ程のインパクトね。

流石にお嬢様お付きの人たちは微妙な顔してとてもお困りの様子。

ですよねぇ。


「さぁ、早くして下さいまし!」


そんな期待に満ち満ちた顔されると断りにくいんだけど。

ニコニコしてほっぺたをこちらに向けて今か今かと待っている様子のアシュリー様を見ているとしない訳にはいかないって思ってしまう。

しょーがないよね、だって相手はお貴族さまだもん。

断るのも不敬だもんね、だからこれは不可抗力なのよ。

そう自分に言い聞かせてアシュリー様のほっぺたに付いているトマトソースを人差し指でツイっと拭き取ってパクっと咥える。

それを見たアシュリー様は満面の笑みで次は手で前髪を上げておでこを近づけて来た。

えっ、それもするんですかっ?!


「何を躊躇っているのです? これはお熱が出てないか確かめて頂くだけですわ!」


いや、絶対熱なんか出てないですよね?

めちゃ元気ですよね?

だって顔が笑ってますよ!


「あー、なんかおねつがでてるかもしれないかもしれないー。」


棒読みっすね。

ホントに仕方ないなぁ、もう。

私は苦笑しながら前髪をかき上げてアシュリー様のおでこにピトっとくっ付けて目を見ながらニコッと微笑む。

するとボンッと音がしそうな程に真っ赤になってそのままテーブルに突っ伏してくねくねと悶えるアシュリー様。

そして「くふふふ」と笑う。


あっちとこっちでテーブルに突っ伏してる美少女が二人。

いや、二人とも一緒にお風呂にまで入った仲なのにこんな事くらいで何で真っ赤になってんの?


リズにポンと肩を叩かれて「この女たらし」と。

メロディに反対の肩を叩かれて「責任取りなよ」と。


ねぇ、私の事いったい何だと思ってるのさ!






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