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第156話 黄金チャーハンと非常識ですわ! ①

無事に食器作りも終わりひと段落ついた翌日の事。

私たち「Rosy lilies」の4人は何か依頼を受けるべくいつものように朝から冒険者ギルドに来ていた。


「オルカお姉さま!」


「はっ!? なぜここにメイワース侯爵令嬢がおられるのでしょうか?」


そう、何故か私の目の前にはアシュリー様がお供のジャスミンさんと護衛のベアトリーチェさんザッカリーさんを従えてにこやかに笑いながら立っている。

特に約束をした覚えなど無いのだけれど何故か私たちが冒険者ギルドに来るのを待っていたみたい。

護衛の為のベアトリーチェさんとザッカリーさんは前回見た時と同じく軽装鎧を装備してはいるけれど、侍女のジャスミンさんはいつものメイド服だしアシュリー様に至ってはふりふりのふんわりロングスカートに可愛らしいリボンの付いたつばのある帽子で足元は編み上げのショートブーツと言う出で立ちだった。

およそこの場にそぐわない目立つ事この上ない、どこからどう見ても、誰が見ても高貴な方だと分かってしまう。

せめて冒険者風に装うとかでもしてくれればまだしも全く隠そうともしないのだもの。

そりゃあざわつくわよね。

でも誰も好き好んでお貴族さまと関わり合いになりたいとは思わないから私たちから少し距離を置いて興味津々、何の話をするのか、一体何があったのか、そんな感じでチラチラとこちらを見ている。


「侯爵令嬢などと他人行儀ですわ。私とオルカお姉さまの仲ではございませんか、どうぞアシュリーと呼んで下さいまし。何でしたらアシュと呼んでも宜しいのですよ。」


いやいやいや、流石に愛称呼びはダメでしょう。

愛称で呼んでいいのは家族か恋人や伴侶だけで、名前で呼ぶのも仲の良い友人に限られるし、そもそも許可をしなければ名前呼びでさえ不敬に当たりますもん。

私のような平民がお貴族さまを名前呼びなんて……


「さぁ、アシュリーとお呼びになって。」


「え、でも不敬では……」


「私が許可しているのですから問題ありませんわ! さぁさぁさぁ。」


「ア……」


「ア?」


「ア アシュリー様?」


「はい!ですわ!」


早やっ。

返事めっちゃ早や。

名前を呼ばれたアシュリー様はそれはもう嬉しそうにニコニコして私の左腕に自身の右腕を絡めて柔肉をむぎゅっと押し当てて来る。

あ、柔らか。

これは非常に良いものですねぇ。

って、感触を楽しんでる場合じゃなかった。


「さぁ、行きますわよ!」


そう言って私の左側に絡みつくようにして歩き出そうとするアシュリー様。

ちょっ、ちょっとちょっと。

行きますわよって何処に行かれるんです?

私何も聞いてないんですけど。


「え、あ あの。」


「今日は特別に私がお供して差し上げますわ!」


「えええぇぇぇぇ!」


どどど どうゆう事?!

リズたち3人も吃驚してるけど、言われた当の本人の私だって当然吃驚してる。

お供を引き連れてるアシュリー様が私たちのお供をする?


はぁ?!


ちょっとどうゆう事なのか説明を求む!

側に控えるジャスミンさんたちに目を向けると申し訳なさそうに説明しだす。


「お嬢様がどうしてもご一緒したいと申されまして……」

「オルカ嬢の都合もあると申したのですが。」

「言い出したら話を聞かないお嬢様なもので……」


「な、なによ。 別に会いたくて来た訳ではありませんわ!」


「はぁ、このお嬢様は。」

「全く素直じゃありませんな。」

「でもそうゆう所もお可愛らしいですけれど。」


「なっ。主に対して何よその言い草はっ! 不敬よ不敬。」


「「「はいはい、そうですね。 お嬢様も素直になりましょうね。 会いたくて来た訳ではないのならオルカ様の邪魔になりますから帰りますよ!」」」


「べ 別に会いたくないなどと言っておりません! せっかくここまで来たのですからお供して差し上げるだけですわ!」


「「「……。」」」


お供の3人が生温かい目でにやにやしながら主人であるアシュリー様を見ている。

じゃれ合うのはいいんですけど、あの~、私たちどうすれば宜しいんでしょうか?

まさかとは思いますけど、本当にご一緒されるのでしょうか。


「大変不躾なお願いではありますが、どうか今日一日お嬢様のお相手をして頂けませんでしょうか。」


ジャスミンさんたちに頭を下げられると断るに断れないじゃない。

これって受ける選択肢しかないパターンよね。

私は心の中で小さく「はぁ」とため息を吐く。


「分かりました。」


そう言うしかないんだもん。

リズたちには少し窮屈な思いさせちゃうけどゴメンね。

一応リズたちにはアシュリー様たちが同行する了承を貰う。

普段あまり狩りとかしてないとは言え私たちも一応冒険者の端くれ、魔獣に出会えば狩りもするし普段はごく当たり前に薬草とかの採取もしてる。

けれどアシュリー様が同行するとなると極力危険は排除しないといけないので今回に限り狩りはしないと明言する。


「残念ですわ。」


ですねよ。

そう言うと思ってました。

でもこれだけは譲れない、アシュリー様を危険な目に遭わす訳にはいかないもの。

これについてはお付きの3人も当然とばかりに首を縦に振り安堵の表情を見せる。

取り合えず話はついたので、いつまでもギルドに居るとみんなの迷惑になるので早々にギルドから出る事にする。

狩りとかをしない方向で街から出て少しでも冒険者気分を味わえるとなると、やっぱりいつものアレかなぁ。

見晴らしのいい場所でテーブルを出してお茶してお昼ご飯食べながらお喋りして、くーちゃんたちが獲物を狩って来るのを待つと言ういつものスタイル。

まぁおよそ冒険者らしくないけれど安全を重視したらそれしか無いよね。

なのでアシュリー様にはそう提案し承諾を得る。


(くーちゃん、街道からちょっと離れてて見晴らしが良くて守りやすくて木陰があって出来たら川が近くにある涼しい場所ってどこかにないかな?)


(ないですね。)


0.1秒、即返事が返ってくる。

早やっ!

くーちゃんの私に対する扱いが段々雑になって来てるような気がする。


(気のせいで御座いますよ。ですが出来るだけ条件に近い場所を探してみます。)


(う うん、宜しくね。)


私たちは移動を開始したんだけどそれがまぁ目立つ事目立つ事。

どう目立つかと言うと、侯爵家の豪奢な馬車にアシュリー様とジャスミンさんとベアトリーチェが乗りザッカリーさんが馬で並走する。

その周りを私たち冒険者組が護衛するような陣形で徒歩で移動する。

何と言うか、分かりやすく言うと物々しいのひと言だね。

豪奢な馬車だけならこの世界ではワリと普通に見られる光景なんだろうけどそれに冒険者の護衛までもが付くとなると話はまた違って来る。

これは自身が大物貴族だと自ら宣伝してるようなもの。

なので人目を引きまくる。

私たちの方を見てはひそひそ話をしている市民の姿が目に入って来る。

うーん、とても居心地が悪いわね。

何も悪い事してないのにまるで罪人が市中引き回しにあっているような気分だわ。

そんなある種見世物のような中私たちは門から出て草原を目指しゆっくりと街道を進んで行く。

メイワースと言う領地はグレイソンさんが言っていたように領民の数に比して領土はとても広い。

それはつまり街と街の距離が遠く、間に広大な森と草原が横たわっているって事でもあるのよね。

なのでメイワースは冒険者にとってとても活動しやすくお金を稼ぎやすい理想的な領地とも言える。

そうゆうのもあって私は今とても安定した暮らしをしている、いやさせて貰っている。

とまぁ、そうゆうのはこっち置いといて、街道を進んでいってどこか適当な所で早く落ち着きたいわね。


(どう? くーちゃん、どこか良さげな場所ある?)


(はい、水場からは少々離れてはいますが概ね仰った条件に近いかと。)


(そっか、じゃあそこへ案内お願いね。)


くーちゃんの先導で街道を進み、途中で街道から外れ草原の中へ入ってゆく。

まず2頭立ての馬車から馬を外して馬車本体だけを私のストレージに収納する。

アシュリー様はベアトリーチェさんの後ろで馬に乗り、ジャスミンさんは馬丁のフランさんの後ろに乗る。

私たちはそのまま歩きで草原の中を歩いて行く。

暫く歩いて行くとくーちゃんの言っていた見晴らしが良くて木陰のある場所に着いた。

うん、いい場所ね。

くーちゃんありがとう、そう言うとくーちゃんは嬉しそうに耳をペタンとして尻尾をブンブン振っている。


「今日はここでみんなでお昼ご飯を食べます。」


「やったーっ!オルカのご飯だぁ。」


メロディが顔を綻ばせ喜んでくれる。

流石は残念食い気女子、相変わらずブレないね。


「オルカお姉さまお料理をなさるのですか?」


ん?

そうですけど?

私たち平民は身の回りの最低限の事くらい皆自分で出来ますからと説明する。


「すごいですわ!」


とアシュリー様が尊敬の念の籠った眼差しを向けて来る。

いや、全然すごくないですよ。

平民ならごく当たり前、そりゃあ貴族のご令嬢がお料理するってなったらすごい事なんでしょうけど私たち平民はそれが普通ですから。


「で、今日は何を作ってくれるの?」


「んーっとね、今日は黄金チャーハンと具だくさんのポトフよ。」


「「オウゴンチャーハン? 何それ。」」


リズとメロディの声が重なる。


「チャーハンってね、お米を炒めた物だよ。 香ばしくてお米はベトついてなくて1粒1粒がしっかりパラパラ、あれ美味しいんだよねー。」


ドロシーがすぐに補足してくれる。


「イタメル?」

「そんな調理法聞いた事ない。」

「でも聞いた感じ美味しそう。」


こっちの世界では調理の技法としては、煮る・焼く・茹でるしかなくて、炒める・蒸す・揚げるって言う調理法は知られていないみたいなのね。

だから今回は炒める調理法でチャーハンにしてみようと思ったって訳。


「まぁ食べたら分かるよ。楽しみにしてて。」


「はい、楽しみにしてますわ!」

「「……」」


ワクワク顔で真っ先に返事をするアシュリー様のその勢いにリズもメロディも言葉を失い苦笑いしている。

でもとても楽しそうに笑っているアシュリー様を見るとそれ以上何も言えないよね。

お付きの人たちも優しい目をして見ている、あれは保護者の目だ。


さて、大した下拵えって程の下拵えはないんだけど、それでも少しはやる事もあるしチャチャッとやっちゃいますか。

けどその前にアシュリー様を立たせたまま訳にはいかないからテーブルと椅子を出してっと。

いつものテーブルと大きい6人掛けのテーブルをドドンと取り出して、一緒に椅子も人数分取り出す。

私たちにとっては見慣れたいつもの光景だけど、アシュリー様たちは少し驚いている。

まぁ魔法鞄(マジックバッグ)って結構普通に普及してるし、少ないけどアイテムBOXのスキル持ちも居るからそこまで珍しいって事はないんだけれどね。

けど魔法鞄(マジックバッグ)って小さい容量の物でも小金貨で10枚飛んでくくらい高価で、今私が取り出したくらいの大きさの物を収納しようと思ったら小金貨50枚は下らないだろう事は間違いないとザッカリーさんが説明してくれた。

ただ私のはアイテムBOXのスキルだからそれとはちょっと違いますけどねと適当に嘘ついてお茶を濁したら、「いや、スキルならスキルでそれこそ規格外だぞ」って言われた。

リズたちはもう麻痺しちゃってるから何も思わないけど初めて見る人は吃驚するに決まってるだろとも。

そう言えば蟲騒動の時討伐したバレットアントを収納した時もみんなすっごい驚いてたっけ、つい最近あった事なのに何か懐かしい。

っと、それはこっち置いといて。

アシュリー様たちにはみんな座って貰って、お昼ごはんが出来るまでお茶でも飲んで待って頂かないと。

ジャスミンさんに尋ねたらティーセットも勿論用意してあるとの事なので、今暫くはお茶でも飲んでゆっくりして下さいと伝える。

その間に私はストレージからいつもの魔道キッチンと超大型魔道コンロを取り出す。


「非常識ですわ!」


悪意などは一切感じられない感嘆したようなアシュリー様の声が響く。

バレットアントを収納するのを見て分かってはいるけれど、それでもやはり何もない空間からいきなり大物が現れるのを見るのは驚くらしい。

そしてキラキラとした目を私に向けながら胸の前で指を組み「オルカお姉さまって何て非常識なのかしら♪」と。

あの、それ全然褒められてる気がしないんですけど。


「「「ぶふっ。」」」


それを聞いたリズたちが噴き出して笑いを堪えている。

むうう、ここにも失礼な輩が居る。


「お嬢様、それではオルカ様に対して失……ぷっ……失礼で御座いますよ。」


いや、ジャスミンさん、貴女も大概失礼っすよ。



ジャスミンさんが人数分のお茶とお茶菓子を用意してテーブルに並べてゆく。

最初自分は平民だからと馬丁のフランさんは遠慮していたけれど、「ここはお屋敷じゃないのだから気にしなくていいわ!」とプイと横を向きぶっきらぼうにそう言うアシュリー様がとても可愛いらしいなぁと思う。

これはアレよね。

ツンデレ。

しかもリアルツンデレ。

リアルお嬢様のリアルツンデレを目の前で見られるなんて何て素晴らしいのかしら。


「いやぁとても良い物を見させて頂いたわ。」

「全くお嬢様は素直じゃないですな。」


私がそう言うと眉尻を下げながら優しい目でザッカリーさんがそう言ってアシュリー様を揶揄う。


「な なによ。」


揶揄われたアシュリー様は頬を赤く染め照れ隠しにまた憎まれ口を言う。

その様子がまた可愛らしくてみなは優しく微笑むのだ。


「あーっ、もう知りません!」


そう叫びながら胸の所で腕を組むアシュリー様。

うむ、それは逆効果と言うものよ。

持ち上げられたお胸のお肉がたゆんと揺れる。

たゆんたゆんと誘うように揺れるリアルお嬢様の双丘。

恥じらうようにも、少し拗ねたようにも見えるアシュリー様のご尊顔。

嗚呼、ここは桃源郷なのね。


「「「漏れてるよっ!」」」


っと、いけないいけない。 うっかりしてるとお漏らし痴女と勘違いされちゃう。

しっかりとお口にチャックせねば!

幸いアシュリー様たちには聞こえなかったようでニコニコとこちらを見ている。


「もー、しっかりしてよね。 で、私たちは何をすればいいの?」

「お肉なら私に任せて!」

「チャーハンなら卵液要るよね? 作ろうか?」


じゃあリズとメロディにはポトフを作って貰おうかな。

材料は人参さん、玉葱さん、ジャガイモさん、それから肉汁たっぷりの大振りなソーセージ。

スープにはこの間作ったコンソメを使って貰う、あれで作るとポトフがとんでもなく美味しくなるからねー。

材料はここ置いとくよー。

ピーラーもここに置いておくから手切らないように気を付けてね。

あ、それからジャガイモの青くなったとこがあったらそれは取り除かないとダメだよ。


リズとメロディにそう注意して次はドロシーの方を向く。

ドロシーにはチャーハン用の卵液を作って貰う。

卵はたっぷり。

中鍋を出しておくからこれで卵液作っておいてくれる?

溶き卵作るのって大変だろうからハンドミキサーもここに置いておくから使って。

それが済んだら玉葱のみじん切りとベーコンも細かく刻んでおいてね。


さぁ、腕によりをかけて美味しいごはん作るからね、期待してて!





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