第150話 もうみんな纏めて使用人よ
お正月三が日は毎日更新を予定しています。
それでは皆様良いお年を!
リズたちと会話しながら孤児院へとゆっくりと歩いて向かう。
だってまだ時間的に早いんだもん、今行ったら流石に迷惑だから敢えて遠回りしてゆっくり歩く事で時間を稼いでいるって訳。
ま、それでも大分早い時間に着いちゃうのは間違いないけどね。
「所でさ、昨日オルカ孤児院の子と遊ぶって言ってたけど何して遊ぶつもりなの?」
リズが最後の一個のお肉を串から引き抜くようにして食べながら聞いて来る。
それから「さくちゃんお願い。」と言って食べ終わった後の串をさくちゃんの上にそっと乗せる。
乗せられたその串はさくちゃんの中に取り込まれてシュワシュワと溶かされてて吸収されるのを見ながらリズの質問に答える。
「二人とも焼き物って知ってる? 粘土でお皿とかカップとかを作ってそれを焼いて作る食器なんだけどね、今日はそれを孤児院の子みんなで作ろうかなって思ってる。」
「焼き物?」
「食器?」
「そう。 自分専用のカップとかあると嬉しくない? それを自分たちで手作りするってなったら楽しいし嬉しいと思うのよね。」
「それはそうだろうけど、陶器の食器って高いよね?」
「私たちみたいな平民は木で出来た食器が普通だしね。」
「そもそもそんな陶器の食器の作り方なんて知らないし。メロディ知ってる?」
「そんなの知ってる訳ないじゃない。 でも作るって言うんだからオルカは知ってるんだよね?」
「まぁね、材料とかは全部用意してあるよ。あとは着いてからのお楽しみって事で。」
私のチートさん『創造魔法』にかかれば大概の事は出来ちゃうからね。
粘土だって陶磁器を作るのに適した物を用意してくれたし、薪窯だって『創造魔法』さんが作ってくれた物だしね。
私の『創造魔法』さんは優秀なのよ、私と違って。エヘ。
お喋りしながらだとあっと言う間に孤児院に着いちゃった。
勝手知ったる何とやらで、私たちは迷う事も無く中庭の方へ向かってズンズンと歩いてゆく。
中庭には遊んでいる走り回って遊んでいる子供たちの姿が見えた。
小さい子たちが遊んでいるのを見守る年長さん、そんな微笑ましい絵図が見られる。
今日は私がここへ来るって言うのを前もって言ってあったので、普段なら冒険者の仕事に出る子供たちもみんな残っているみたい。
「やーやーやー、リズお姉さんが遊びに来てあげたよー!」
溌剌とした明るい声でリズがそう言うと不思議と恩着せがましく聞こえない。
その場の雰囲気がパッと明るくなったような感じがする。
「あー、リズさんたちだー。」
「使徒様も居るーっ!」
私たちを見つけた子供たちがワーッと歓声を上げながら駆け寄って来る。
笑顔の子供たちに囲まれてしまったわ。
んふ、カワユス。
すると私と同じくらいの年頃の女の子数人がおずおずと近づいて来るのが見えた。
ちょっと俯き加減で大人しそうな優しい雰囲気の子たちだ。
その子たちはちょっと上目遣いで懇願するように必死でお願いしますと言って来る。
「院長先生から聞きました。私たち使徒様の所で働きたいです! お願いします、一生懸命働きますから雇って下さい!」
「もうすぐここを出て行かないといけないけど……でも……下女で雇ってくれる所って大抵碌な所はないし……。」
「私もまだ奉公先も決まってなくて……このままだと……。」
そう言って深々と頭を下げる女の子たち。
その必死さに胸が苦しくなる。
なんせ孤児院出身と言うだけで扱いが途端に悪くなる。
この子たちにしてみれば商家の下女として雇い入れられれば取り合えず住む所と食事は確保出来るけど、それと引き換えに過酷なまでの労働が待っている。
朝早くから夜遅くまで、夏は暑く冬は寒い屋根裏部屋で寝泊まりし着るものと言えば着たきり雀、食べる物もお粗末な物が少しだけ。
給金は僅かでも貰えればラッキーな方で殆ど貰えない所もあると言う。
下女と言う立場は大抵最下層だ、最悪の場合同じ商家の下男に……される事だってあると聞く。
だったら冒険者になればいいじゃないって話なんだけど、荒事が得意でない子だって居る、みんながみんな冒険者に向いてる訳じゃないもの。
そうゆう子たちはこれからの事を考えて不安に押しつぶされそうになっている。
そんな時に私のお屋敷で使用人を募集していると。
「私たち冒険者希望なんですけど、ちゃんとやっていけるのか本当は不安で不安で……」
「でもリズさんたちと一緒に住めるなら冒険者の事色々教えて貰えるんじゃないかと思って。」
「冒険者をしながらお屋敷の警護とか他にも雑用とか何でもします。だから雇って貰えたらと思って。」
みんな必死だ。
そりゃそうよね、これからの自分の人生が掛かっているんだもの。
この子たちは別に楽したい訳じゃない、少しでも不安を払拭したいだけ。
だから私に出来るなら少しでも助けてあげたいと思う。
「話は分かったわ。でもちょっと待ってちょうだい。先に院長先生にご挨拶して話を聞いて来るから、ね。」
私がそう言うとリズとメロディも諭すように優しく女の子たちに語りかける。
「そうだよ、いきなりワーッと来て自分の言い分だけ言うのは良くないよ。」
「そんな心配しなくていいから。院長先生とオルカを信用しなさい。」
これから院長先生の所に行って来るから、そう言って中庭を後にして院長先生の執務室に向かった。
まさか着いて早々あそこまで必死に言い募られるとは思わなかった。
これには私もリズたちも吃驚した。
途中でドロシーと会ったのでそのまま一緒に4人で院長先生の所へ向かう。
院長先生の居る執務室の扉の前に立ち代表してリズがドアをノックする。
「院長先生、リズです。」
「どうぞ、入って。」
院長先生の返事が聞こえたのでギギっと小さく音が鳴る扉を開けて「失礼します。」とひと言声をかけて私たち4人は中へ入る。
「ようこそ使徒様、リズたちもいらっしゃい。 さ、お座りになって。」
そう言うと予め準備してあったのか院長先生手ずからお茶を淹れてくれる。
咄嗟にドロシーが立ち上がって代わろうとしたけれど院長先生は笑いながら首を横に振って手振りで座りなさいってする。
こんな所にも院長先生の人柄ってのが良く分かる、とても優しい人なんだなぁと思う。
院長先生が座り直してゆっくりと優しく話し始める。
「昨日夕飯の時に子供たちに話してみたのね、そうしたら私も私もって大変な事になっちゃって。」
頬に手を当てながら困ったわみたいな素振りで全然困ってなさそうな顔で小首を傾げる院長先生。
やっぱり。
さっき女の子たちに囲まれた事からもそんな感じはしてたけど。
ここに来た時に中庭で数人の女の子に言い募られた事を話すと院長先生は「あまり先走らないようにとは言ったのだけれど。」と言う。
それでどうだったんでしょうか。
使用人として働いてくれそうな子って何人くらい居たんでしょうか。
私がそう聞くと院長先生がちょっと困ったようなそれでいて安堵したような顔で答えてくれた。
「最初ね、使徒様が仰った通り8人くらいって言ってみたのね。そうしたら子供たちはそれだけしか雇って貰えないと勘違いしちゃったみたいで、私の言い方も良くなかったんだと思うんだけれど、ここに居る内の半分くらいの子が一斉に手を挙げて取り合いになってそれはもう大騒ぎになってしまって。」
と苦笑いしながら話してくれた。
は 半分ですか。
それは大変でしたね。
ここの孤児院って結構な人数が居たと思うんだけど、その内の半分てすごい数ですよね。
それだけ子供たちはみな不安に思ってたって事なんだろうけど。
「リズたちやアルマたちはこの孤児院の出世頭でみんなの希望なのよ。みんなリズたちのようになりたいと思ってるんだけど冒険者って危険だし全て自己責任だしやっぱり躊躇しちゃうのね。そんな時にリズたちと一緒に住めて使徒様の所で働けるってなったらそりゃみんなそこに行きたいって思うわよ。」
あ、有難うございます。
リズたちも自分たちが褒められて嬉しそうだ。
けどそれだけ沢山の子が希望してくれても流石に全員は無理なので心苦しいけれど人数を少し減らさないといけない。
その線引きをどうしようか相談しないといけないのだけれど。
そう思っていたら院長先生がそれに関しては考えてあるって。
「平民の子供ってね10歳くらいになると大抵どこかに働きに出るのね。男の子だと冒険者見習いとか荷運びとか、どこかの商家や職人に奉公に上がるとかするし、女の子はお針子とか商家の下働きだったり露店の売り子だったりとか色々ね。たまにそれより小さい子でも働いてる子も居るけどそう言う子はあまり多くなくて、小さい子で働いてるのは家業で商売をやってる子が多いの。だから一応それに合わせて10歳以下の子は除いたんだけれど、それでも女の子だけで15人にもなっちゃって。」
元世界なら10歳なんて小学生じゃないの。
まだまだ遊びたい盛りだし親に甘えたい年頃よね、それがこっちの世界では立派な労働力で実際に働きに出てる。
それが当たり前で平民には優しくない世界。
普通の家庭の子でそれなんだから孤児だとその厳しさは一体いかほどか。
それが分かってるからこそここの子たちはみな必死なのね。
で、実際に雇うのか雇わないのか?って事なんだけど。
15人か。
流石に多いなぁ。
でも選ぶ子と選ばない子ってのも何か悪い気がするし、かと言って今回手を挙げた子全員引き取る訳にもいかないし。
さぁ困った。
今だけ、今回だけってんなら15人全員雇う事は可能は可能だけど今後ずっととなるとまた話は別だし。
例えば結婚して家庭に入るから辞めるとか冒険者になって独り立ちするから辞めるとかして欠員が出れば新たに雇う事は出来るけど毎年きちんきちんと欠員が出るとも限らないし。
それでも良ければ、欠員が出た時に補充するって言う形で良ければ今回に限り全員を引き受けます。
そう言うと院長先生はとても驚いて「本当に宜しいのですか?」と聞いて来た。
「はい、大丈夫だと思います。 金銭的には何の問題もないのであとはまぁ私がしっかりするだけなので。」
「使徒様にはご無理を言いまして申し訳ありません。」
と本当に申し訳なさそうに頭を下げる院長先生。
その後さらに申し訳なさそうに「実は……」と。
「男の子は冒険者志望の子が殆どだったんですけど、使徒様の所で雇って欲しいって子が2人ほど居りまして、その子たちは穏やかで優しい子たちなんです。ここの菜園の管理をしたり壊れた所を直したりとかそう言う細々とした事をしてくれてて、調理場で料理の手伝いとかもしてたりとか。あの子たちは荒事が苦手で冒険者には向いてないと本人たちも自覚しているようで、どんな仕事でもするから雇って欲しいと。」
男の子、男の子かぁ。
そう言えばグレイソンさんも男の使用人も居た方がいいって言ってたし、院長先生も優しい子だって言うんなら大丈夫だよね?
女だけだと何かと心配だしさ、男が居るってだけで安全面の観点からも大分違うものね。
「一応念の為に女の子は全員使用人棟に住んで貰って男の子は別棟の管理棟に住んで貰うのでどうでしょうか?」
私がそう言うと
「そうね、それがいいかも知れないわね。それに管理棟に居れば敷地内の警備もしやすいでしょうしね。」
と院長先生も同意してくれた。
男女別々にするのはごくごく当たり前、普通の事だからそれは全然問題ないようだ。
「でも本当に良かったわ。あの子たちここを出た後の事を考えてとても不安がっていたから。」
心底ホッとしたようにしみじみと呟く院長先生。
血は繋がって無くともここの子たちはみんな院長先生にとってかけがえのない子供たち。
その子供たちの行く末を案ずるのは当たり前。
私がここの子を使用人として雇うのは偽善だって分かってる、今回多く雇うのは特別だって分かってる、けれどそれで院長先生の不安が少しでも解消されるならそれでいいんじゃないかと思う。
やらない偽善よりやる偽善よね。
私にも出来る事がある、だったらそれをする。
ただそれだけよね。
それに私にとっても使用人を確保出来たのは良かったからお互い様ね。
欠員が出てもすぐに補充出来る当てがあるってのもすっごく助かるし。
そんな事を思っていると院長先生が「ただね」とちょっと悲しそうに伏し目がちになる。
「エラも行きたいって言い出して……」
それは辛いですね。
今回は10歳以下の子は対象から外したってさっき仰ってましたけど、エラちゃんてどう見ても10歳以下ですよね?
それで拗ねちゃったとか?
「ええ、普段我が儘なんて言わない子なんですけど今回はどうしても我慢出来なかったみたいで。」
それで泣き出してしまったと。
「お姉ちゃんのことはエラがまもるってやくそくしたもん!」と言って聞かなかったらしい。
そう言えばアルマさんの結婚のお披露目の時にそんな事言ってたっけ。
院長先生の話だとエラちゃんは今6歳、流石にその年齢では幼過ぎて出来る事にも限りがある。
と言うか出来ない事の方が多いかもしれない。
そうするときちんと使用人として雇われた子とエラちゃんとで待遇の差が生まれてしまう。
仕事が出来なくても養って貰えると思う子も当然出て来るだろう。
エラちゃんがいいなら私だっていいはずだってね。
けどそれだと際限が無くなるから、私の為にもエラちゃんたちの為にもここはキチンと線を引かないといけない、そう思って院長先生は出来るだけ分かりやすく説明したんだそうだけど、エラちゃんは中々納得してくれなかったんだそうだ。
最終的にエラちゃんたちには10歳になるまで待ちなさいと。
それまでに沢山勉強して、私や先輩使用人たちに迷惑をかけないようになっていたら私の所で雇って貰いましょうと言って納得させたとか。
私としてもエラちゃんは可愛いし別にエラちゃん1人くらい増えたってどうって事はないけれど、問題はそこじゃないものね。
こうゆうのは公平でないといけない。
エラちゃんだけってのは依怙贔屓になっちゃうものね。
エラちゃんには悪いけれどここはちゃんとしとかないといけない所だから。
今はもう大分落ち着いていて、いつもの明るくて人見知りしないエラちゃんに戻っているとか。
子供なりに考えて理解して表面上は分かったように振舞っているんだろう。
エラちゃんてえらいなぁ。
私なんかよりずっとずっと大人かもしれないね。
「随分話し込んでしまったわね、子供たちもみな待っているでしょうからそろそろ下へ参りましょうか。」
院長先生にそう促されて私たちは立ち上がり子供たちの待つ中庭へと向かった。
さっ、これから楽しい楽しい彫塑の時間だよ。